地方発 ドキュメンタリー「ツルとともに生きる」 2015.03.10


(鳴き声)北海道の大空を優雅に舞う鳥。
国の特別天然記念物として大切に守られてきました。
かつて開拓により絶滅の危機にひんしたタンチョウ。
救ったのは人によるえさやりです。
僅か十数羽だったタンチョウは今や1,500羽に増えました。
しかし新たな問題が生まれています。
手厚い保護を受けた事で人を警戒しなくなったのです。
そのため事故で死ぬタンチョウが増えました。
牧場にも現れ牛のえさを横取りします。
こうしたタンチョウの変化を30年間見つめ続けてきた研究者がいます。
(百瀬)ツルに対して左右にもうちょっと間隔空けて展開して下さい。
本来の姿から変わりゆくタンチョウを救いたい。
今保護の在り方を見直そうとしています。
人が守る事で生まれた矛盾。
共に生きるために模索が続くタンチョウ保護。
その現場を見つめます。
北海道東部にある釧路湿原。
日本で一番大きな湿原です。
この湿原の中を蛇行する大小いくつもの川。
この川がタンチョウの暮らしを支えています。
氷点下20度まで冷え込む厳しい冬。
タンチョウは川をねぐらに暮らしています。
豊富な湧き水により冬でも凍る事なく寒さをしのげるのです。
名前の由来はこの赤い頭。
こちらの茶色い体はまだ1歳に満たないヒナです。
初夏に湿地で生まれたヒナは冬を越すまで両親に守られながら育ちます。
タンチョウたちの冬を支えるものがあります。
釧路地方に5か所あるタンチョウのためのえさやり場給場です。
大地が雪と氷に覆われる冬。
食べ物が満足に取れず人が与えるトウモロコシで飢えをしのぎます。
日本にいるタンチョウの実に6割ほどが釧路湿原周辺に集まっているのです。
(鳴き声)今タンチョウの数はおよそ1,500羽。
もともと江戸時代まで東日本のあちらこちらで見られました。
めでたい鳥として愛されてきたのです。
しかし明治時代に入ると開拓や乱獲でその数は激減。
絶滅したと考えられていました。
ところが大正13年釧路湿原で十数羽のタンチョウが確認されます。
この希少な鳥を守ろうと地元の農家の人たちが立ち上がりました。
始まったのは人による冬場のえさやりです。
初めは警戒心が強くなかなかえさを食べなかったタンチョウ。
次第にタンチョウは人になれえさをついばむようになります。
こうして徐々にその数を増やしていったのです。
・「ヤーレンソーランソーラン」昭和30年代から先頭に立ってタンチョウ保護に取り組んだ男がいます。
男はツルと話をする事ができる。
歌を歌うとツルが踊りだす
・「北海名物アドウシタドウシタ」釧路市丹頂鶴自然公園で園長を務めた高橋良治さんです。
タンチョウを一羽でも増やそうと高橋さんは人工ふ化に取り組みました。
ピーコ。
ピーコ。
ピーちゃん行くど。
危ないな。
え〜。
ちょっともう一回頑張ってごらん。
おおこわそうだな。
ピーちゃん!
(鳴き声)
(鳴き声)世界で初めてタンチョウの親が放棄した卵をふ化させたのです。
分かる?分かんねえべ。
親の代わりとなってヒナ一羽一羽に飛び方も教えます。
はあ…やっぱりピーコ速えな。
こうして数多くのタンチョウのヒナを野生に返してきました。
よしよし。
第一線から退いて20年。
80歳になった高橋さんは今でもよくタンチョウに会いにやって来ます。
いかな〜い!そんな言葉分かんねえわな。
タンチョウを増やす事に打ち込んできた高橋さん。
今タンチョウが人になれ事故で死んでいく現状を知り後悔しています。
そう思いますね。
今タンチョウの保護は次の世代に引き継がれています。
(取材者)百瀬さん帽子が…タンチョウですかそれ?はい。
これ知り合いの人が作ってくれたんです。
オリジナルで。
タンチョウを研究して30年になる…世界でも数少ないタンチョウ専門の生態学者です。
この日百瀬さんはタンチョウが集まる給場にやって来ました。
網でタンチョウを捕まえるのだといいます。
捕まえたタンチョウにGPSをつけ生息地や行動を調べるためです。
(取材者)百瀬さんどうですか?うまくいきそうですか?はい。
これであとはツルが来てくれれば。
その範囲ぐらいまでで今まいたこれを食べる態勢に入ってくれれば捕れると思いますので。
国から捕獲を許されているのは百瀬さんら数人のみ。
実はタンチョウの生態はよく分かっていません。
僅かずつでもその行動を明らかにする事で本当に必要な保護を見極めようというのです。
待つ事2時間。
この日の捕獲は失敗に終わってしまいました。
タンチョウの研究は試行錯誤の連続です。
百瀬さんのタンチョウ保護の原点は長野で過ごした子ども時代。
鳥が大好きでいつも庭のスズメを観察していたといいます。
大学卒業後鳥類の研究機関でトキなど希少な鳥の調査をしてきました。
人間のせいで行き場を失った鳥を助けたいという強い思いからです。
絶滅の危機にあるタンチョウを救いたい。
百瀬さんは30年前タンチョウの調査に参加します。
そして10年前現場での研究に専念するため釧路に移り住みました。
自分がいろいろできる事はまだこれから多々あるなと。
むしろやらなければいけないと。
関わる事の必然性というか使命感というかそっちの方が強いですね。
この日百瀬さんは調査に向かいました。
タンチョウが死体で見つかったという情報が入ってきたのです。
やって来たのは牧場のすぐそば。
写真を手がかりに死んでいた現場を探していきます。
サイロがあそこに見えてますので今こっちから見るとこのセンターラインの向こう側です。
道路で血を流して死んでいたタンチョウを農家の人が見つけました。
死んだ原因を調べます。
上の電線か下の電線か…。
現場の状況から電線にぶつかったあとに車にひかれた事が死因だと考えました。
調査中事故現場のすぐ近くの農家にタンチョウが現れました。
ヒナ連れだ。
人がいても気にするそぶりはありません。
百瀬さんは人や車への警戒心が薄れている事が問題だと考えています。
ツルが人間なり道路や車に近くなってる事に対してかなりなれてきてしまっていると。
ツルの方もツルの方でもそれになれてきてしまっているのがやっぱりベースのところの原因にはなってるのだろうなという気はします。
車や電線との衝突事故は年々増え続けています。
事故に遭ったタンチョウが収容される施設です。
年間およそ30羽が運び込まれます。
冷凍庫の中には山積みの袋。
300羽近くのタンチョウの死体です。
特別天然記念物のため処分できず保管しています。
電線衝突で死んだ個体です。
ここには一命を取り留めたタンチョウもいます。
電線にぶつかって片足を失ったタンチョウ。
生活できるよう義足がつけられています。
ちょっとハンモックっぽいものの中に入れて…。
車にひかれて下半身が動かなくなったタンチョウもいます。
たとえ死を免れても再び野生に帰る事はほとんどありません。
タンチョウも頑張ってると思うので。
生きるために必死でなんとかして生き延びようとして人里に下りてきてるんだと思うので…。
できるだけの事はしてあげなきゃなとは思いますけど。
タンチョウは今ますます人里に現れるようになってきています。
毎日のように牧場に出没しているというのです。
百瀬さんは牧場を一軒一軒回り聞き取り調査をしています。
いつも何時ごろ来るんですか?午後?いや一日中いるっていうか…。
今いてもおかしくない時間なんですか?そうですね。
ちょっと風が強いから来てないのかな。
大体その辺ですか?まああと牛舎の方に。
牛舎の方に。
目当ては農家が牛のために牧草に交ぜたトウモロコシです。
牧場を縄張りにし一日中居つくタンチョウも出てきました。
背丈が1メートルを超えるタンチョウ。
牛を驚かせそのストレスで取れる牛乳が減るという被害も出ています。
お宅でも?うんある。
タンチョウによる被害と保護のはざまに立つ地元の農家たち。
この地で親の代から酪農を営む森田康夫さんです。
カメラ嫌いなんだ。
ここでえさをやるから…。
森田さんの牧場では10年前からタンチョウが牛の小屋に入ってくるようになったといいます。
今日は来てるかな。
足跡があるんで。
常に。
しかし長年にわたり農家の人たちが大切に守ってきたタンチョウ。
追い払う気持ちにはなれません。
一番邪魔にならんような所へこうやって。
森田さんは敷地の外にトウモロコシをまく事でタンチョウが牛の小屋に近づかないよう折り合いをつけてきました。
(森田)…ってまいとくんですよ。
ほれ。
あいつらそうです。
ほら来た。
ほらあいつらそうです。
うちに来てるツルです。
間違いなくツルですよほれ。
今4時になったらえさやるからツルは分かっていてあそこにまず下りるんです。
釧路川ですからすぐそば。
森田さんの牧場では牛への被害はなくなりました。
しかし毎年同じタンチョウがやって来るようになったのです。
百瀬さんは森田さんの牧場にタンチョウが定着している事を知り訪ねます。
これ以上人里に近づかせないようタンチョウを追い払ってもらうためです。
ちょっとツルの事で話をお聞きしたいんですけど。
昨日今日来てますか?来てますかやっぱり。
追っ払って下さい。
もし追っ払えたら追っ払っちゃって下さい。
それで?「追っ払って下さい」って追っ払ってよくないっしょ。
そんな事言ったらどうすんのこの辺の人たち。
えっ?そんな事言ったらどうなるの。
みんなあれですか。
来るの喜んでらっしゃいます?何をまたばかな事言って。
どっからそんな話聞いてんの?誰も喜んでいないって。
そうですよね。
だからって追う事にはならないでしょ。
まあそうなんですけどね。
牛と共に暮らしてきた森田さん。
命あるものをむげには追い払えません。
生き物を扱ってる人間だからそんな簡単に感情は前に進まんよ。
牛だって感情あって育てる人いるかもしれん。
けど俺らは生かさせてもらってるし。
そういう気持ちが持ってればツルが来たから追っ払えばいいっていうそんな簡単な事にはならないの。
百瀬さんも森田さんたち農家が抱える複雑な気持ちは理解しています。
それでもタンチョウのためには人への恐れを植え付ける事が必要だと考えています。
だから今はもう私は共生というところは通り過ぎてると思って人間が過度に影響を与えてしまってると思いますね。
やっぱりこのままではツルのためにもよくないというのが日々大きくなっていってますから…。
それがなんとかしないといけないというふうに今はかなり痛切に思ってますけど。
子どもたちもタンチョウを大切にしてきました。
おはようございます。
おはようございます。
湿原に程近い村の小学校です。
60年余り前に始まったえさやり。
タンチョウが活動を始める前毎朝校庭にトウモロコシをまきます。
まける?まけない。
寒い。
手が出せない。
保護を目的に先輩から後輩へ受け継がれてきた活動です。
(取材者)タンチョウ来るかな?多分昼くらいに来ると思います。
やって来ました。
タンチョウは日々の暮らしに溶け込んでいます。
この日子どもたちはタンチョウが収容される施設を訪ねました。
見学するのは初めてです。
けがをした野生動物とかが収容され…入院してる施設です。
目にしたのはタンチョウが置かれた現実。
背骨が折れてここから下が動かない。
うまく歩けないの。
(タンチョウの鳴き声)え〜っとはい。
ちょっと開けます。
ここに山と積まさってんのが全部タンチョウです。
2000年よりちょっと前から多分あるので…。
タンチョウと生きる地域の未来を担う子どもたち。
どう受け止めたんだろう。
広大な釧路湿原。
初夏タンチョウは湿原で子育てをします。
湿地に囲まれた茂みはキツネなどの天敵からヒナを守る格好の環境です。
この時期百瀬さんたちが続けてきた事があります。
タンチョウに足輪をつけて行動を把握する調査です。
追跡する事でどの個体が人里に出てくるのか分かります。
広大な湿地の中でタンチョウを探します。
狙うのはまだ飛べないヒナ。
高田さんもし回り込めたらこっち来て下さい。
百瀬さんは仲間に指示を出し取り囲んでいきます。
親が離れた隙にヒナを追いかけます。
捕獲!半日かけてようやく1羽。
まずヒナの健康状態を調べます。
よしと。
4.8?番号のついた足輪をつけます。
これまで足輪をつけたヒナは200羽余り。
調査を通して分かった事があります。
30年前と比べ湿原内でのタンチョウの密度はおよそ2倍になりました。
湿原に巣を作れないつがいが人里にあふれ出てきているのです。
(牛の鳴き声)タンチョウの多くが子育てをするのは牧場の周辺。
えさを食べに来るだけではなくそこで卵を産みヒナを育てるのです。
道路渡る。
ツルが道路渡る。
突っ込んで。
突っ込んで。
(タンチョウの鳴き声)今釧路湿原周辺にいるタンチョウのおよそ半数が牧場の近くで繁殖しています。
(鳴き声)数が増えたのと裏腹に生息できる湿地は年々狭くなっているのです。
百瀬さんはタンチョウが人里に出てこなくて済むようある計画を立てています。
1/3超えますね。
釧路湿原とその流入河川。
地図で緑に塗ったのはタンチョウが密集している地域。
ピンクはタンチョウが暮らすのに適した湿地です。
道央から道南の方も十分距離的な視野には入ると思いますね。
開発を免れた湿地にタンチョウを移住させようというのです。
タンチョウが移住できるよう百瀬さんが数年前から始めた事があります。
釧路湿原から離れた地域に新たなえさ場を作るのです。
去年の秋にこしらえたのは釧路から100キロほど離れた土地。
人里に寄り付かないよう使われなくなった畑に作ります。
大体均一にいくように。
トウモロコシの茎で雪よけを作ります。
ここに数組のタンチョウの親子が一冬越せるだけのえさを用意します。
百瀬さんが改良を重ねてきた仕掛けです。
そこの底の所に少しスリット状に穴を開けましてツルがこうつつくと食べた分だけ落っこってくると。
まあツルがもうちょっとなれてくれると恐らく頭のいい鳥ですからここを直接つつくとこう落ちてくると。
えさが少ない冬にこの地で過ごしてくれる事が移住への第一歩となるのです。
冬釧路湿原を流れる川。
いつもの年と変わらぬタンチョウたちの姿がありました。
百瀬さんは秋に作ったえさ場に向かいました。
あ〜ここ掘らなきゃ。
埋まっちゃってますから。
えさは減っているか。
どうやらえさが食べられていたようです。
これツルですね。
こっちにもある。
来てますね。
タンチョウの足跡がありました。
一緒に調査に来た一人が空を見上げると…。
あっ今こっち…。
来てますか?見えます?雪の中で…。
あっ今来ました。
つがいのタンチョウです。
飛んでる?はい。
ここに来てるやつだきっと。
これはもうこんなに少なくなってる。
これはつついてる。
今これを食べに来てたんでしょうね。
(取材者)それってさっきの2羽…?あの2羽がここに来てたのにはほぼ間違いないと思いますね。
つがいが冬を越せるようにえさを補給します。
ちょうどいいタイミングで補給に来れて。
うれしいもんですよね。
素朴にうれしいですよね。
早速関係者に連絡します。
ありがとうございます。
(取材者)定着すればいいですね。
そうですね。
来年はもう一つ作ってもいいのかもしれないですね。
どうも。
じゃあ。
でも各地にタンチョウが移住するにはもう少し時間がかかりそう。
ここに来てやっと始まったというのでもうちょっと頑張らないとその先が見えないなとは思ってますけど。
(取材者)どうしてタンチョウのために簡単には諦めないんですか?諦めたら先がないじゃないですか。
ある意味自分の人生諦める事とつながっちゃうのでまあ諦めたくても諦められないっていうところもあります。
(取材者)まだまだじゃあ続きますね。
そうですね。
(鳴き声)春が近づくこの時期タンチョウの子どもたちに旅立ちの季節がやって来ます。
親が子どもをしきりに追いかけます。
子別れという行動です。
これからは自力で生きていかなくてはなりません。
命つなぐために。
タンチョウはどこに飛び立とうとしているのでしょうか。
2015/03/10(火) 00:40〜01:25
NHK総合1・神戸
地方発 ドキュメンタリー「ツルとともに生きる」[字]

国の特別天然記念物タンチョウ。給餌などの保護活動によって守られてきたが、いま、その多くが人里に出没。交通事故死が多発している。模索する保護の現場を見つめる。

詳細情報
番組内容
国の特別天然記念物タンチョウ。開拓や乱獲で一時は絶滅の危機にひんしたが、給餌などの保護活動によっておよそ1500羽にまで回復した。しかし、近年、数が増えすぎたことで人里に出没するタンチョウが増加。農作物を食い荒らしたり、車に衝突して命を落とす事故が多発している。人間とタンチョウはどのように関わっていけばよいのか、模索する保護の現場を見つめる。
出演者
【語り】南沢奈央

ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – 社会・時事

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音声 : 2/0モード(ステレオ)
サンプリングレート : 48kHz

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