シンガポールのレストラン「ドローン・ウェイターはじめました」仕掛け人ジョンヤン・ウォンの挑戦【連載:高須正和】
2015/03/11公開
人口が300万人あまり(永住移民を入れて500万人あまり)と少ないシンガポールでは、列車の自動運転を行うなど、オートメーション化が進んでいます。新しもの好き・テクノロジー好きの国民性もあって、ついにドローン(自律型マルチコプター)が食事を運んでくるレストランが実現しそうです。
下の画像は、レストランでテスト中のドローンです。「はじめました」とタイトルに書きましたが、実はまだ実証実験中です。でも、けっこうスムーズにドリンクを運んでいます。
個別のドローンでなく、「ドローンたち」をビジネスにする
このレストランで給仕するドローン・ウェイターを開発しているのは、Infinium Robotics。2013年に起業したばかりの会社で、社長のJunyang Woon(以下ウォン)も、これが初めてのビジネスだと言います。
開発中のドローンを持つウォン社長。後ろにもテスト中のドローン編隊が並ぶ
ロンドンの大学と、アメリカのスタンフォードでエンジニアリングを学んだ後、シンガポール海軍での経験を経て起業したウォン社長は、自分たちの強みをこう語ります。
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ドローンやマルチコプターはここ数年ですごく普及した。マルチコプターがカメラを吊り下げて撮影するのはもう珍しくないし、自律飛行を行うドローンが仕事で使われるニュースもよく見るようになった。そんな中、僕らの強みは「複数のドローン」を「同時に使う」システムだ。
複数のドローンを同時に使うというのは、まだビジネスではそんなに行われていないし、開発にある程度大きなチームが必要になるから参入障壁も高い。僕らは15人の会社なんだけど、一番多いのが飛行制御のシステムを作るソフトウエアのエンジニアで、他も航空工学とかロボティクスのエンジニアでチームを構成している。
Infinium Roboticsはロボティクス工学の集団なんだ。
最初の仕事は、海軍の時に行った、10kmもあるパイプラインの目視調査だった。わざわざ人間が撮影するんじゃなくて、ドローンにやらせる仕事だったんだ。その時から、ドローンをグループで使う仕事には可能性を感じていた。
次に始めたのは、花火のように空にドローンで絵を書くプロジェクトだった。
シンガポールの空に浮かぶドローン(多重露光撮影。提供:Infinium Robotics)
これは、1機だけのドローンを特定の目標に向かって飛ばすより、高度な技術が必要になる。綺麗に絵を描くためには、それぞれのドローンが、風の影響や他のドローンの位置も考えながら自機の位置を決めなければならないし、役目が終わったら自分がどこにいようとも元の場所に帰ってこなければならない。
最近「ドローン宅配便」などで見られる自動飛行に比べると、だいぶ難しいんだ。GPSやジャイロだけではなくて、ドローンたちに反射材を付けて画像認識で位置を特定するなど、複数の技術を組み合わせる必要がある。
オフィスで働くロボティクス工学のエンジニアたち。飛ばすドローンも自分たちで作っている
また、どういう風な図を描くかを、クライアント側で作れるようなソフトも開発した。エンジニアがいなくても、クライアントだけでドローンを設置して、思うような図を空に描くことができる。
そういうことの積み重ねが、僕らの強みになっている
「そのうち人間より安定的なサービスが提供できるようになる」
筆者がこの会社を知ったのは、シンガポールの新聞で「ドローンが給仕をするレストラン」という記事を読んだ時でした。見てすぐそのレストランを見に行って、テスト中のエンジニアから名刺をもらい、オフィスを見に行きたいとメールしました。
シンガポール大学などがある、ハイテクタウンJurongの倉庫ビルにInfinium Roboticsのオフィスはある。倉庫街にある理由は「ドローンを飛ばすから天井の高いオフィスが必要だった」とのこと
そこで会ってくれたウォン社長は、レストランでの取り組みについてこう語ってくれました。
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今のところ、ドローン同士はお互いを自動で避けるようにできて、700グラムぐらいの飲食物を運ぶことができるようになった。ビールのジョッキぐらいなら安定的に運べるね。
「お客さんがテーブルでiPadか何かの端末で注文したら、そこまでドローンが届けてくれるようなレストランは実現できるはず」と考えて、お店でのテストを始めたんだ。
開店前のレストランで飛行テストを繰り返す。使用しているドローンは、ローターガードだけじゃなく、上下に金網の付いた特別仕様
もちろん、実際のレストランで使うとなると、安全性などの課題も多いから、9月ぐらいまではテストや調整が続くと思っている。最初は「ドローンが珍しいから人が来る」のかもしれない。シンガポール人は新しいモノが好きだし、そういう人は多少失敗してもひどく怒ったりしない。
でもそのうち、人間より安定的なサービスが提供できて、物忘れやオーダーの間違いも少ないドローンは、もっと一般的なものになるんじゃないかと思っている。
僕らは、会社案内にも書いているように、ロボットはもっともっと世の中で大きな役割を果たすようになっていくと思っている。スマートになっていくロボットは、ベーシックな仕事を人間の代わりにやっていくようになるだろう。
僕らはもっとロボットをスマートにすることで、これまでできなかったことをロボットにさせられるようになりたいんだ。
スマートシティを目指すシンガポール
Infinium RoboticsのWebサイトには、シンガポール首相のリー・シェンロンに、ビジネスイベントでプレゼンした時の動画が誇らしく掲げられています。
シンガポールは人口の少ない国で、マンパワーについてはいつも課題を掲げています。自動レジの導入など、店舗効率化については国民の関心が高く、政府の助成金などの仕組みも充実しています。
例えば、「iPadで注文するシステム」などのパッケージソリューションを店舗で導入する場合、70%または2000シンガポールドルまで政府の補助が受けられ、知人が働いている飲食店では、実際によく新しいシステムの導入が行われています。
それだけ国民の関心も高くなるし、世界中で開発されている最新のシステムが投入されやすくなり、地元企業からの開発も進む(そして世界に出て行きやすくなる)良いやり方だと思います。
シンガポールでの実績を武器に、日本でもドローンのレストランが進出するといいですね。
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