CEOの巨額の報酬に正当性はあるか(その2)

「タレント・エコノミー」の光と影

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タレントへの報酬は多すぎるのではないだろうか、こうした状況はこれまでいわれてきたように純粋によいことなのだろうか。我々が、今日の億万長者に対して抱く不満の根源は、彼らが価値を生み出しても、そのごくわずかしか滴り落ちて(トリクル・ダウン)こないことにある。

 

高額報酬の負の側面

 我々が、今日の億万長者に対して抱く不満の根源は、彼らが価値を生み出しても、そのごくわずかしか滴り落ちて(トリクル・ダウン)こないことにある。アメリカの生産労働者および非管理職について見ると、62%の人の実質賃金が1970年代半ばから下がり続けている。また、億万長者は投資家にも気前よく分け前を与えていない。

 経済全体を見ると、投資資金に対する利回りは1979年までの10年間は5%程度で安定していたが、1979年にピークを迎えると、その後は一貫して下がり続けている。現在の利回りは2%を切り、まだ下落を続けている状態だ。その理由は、企業幹部やファンド・マネジャーといった投資資金の世話人が、サービスの対価としてますます多くのカネをむしり取っているからだ。

 その結果、1980年代半ばから現在まで急速に格差が広がった。過去30年間にわたり、所得ランキングの上位1%にある人たちがGDP増加分の80%を手にしている(この推定値は調査によって異なる)。ただし、急拡大する格差は深刻とはいえ、現状で最も問題含みというわけではない。何がいちばんの問題かと言えば、才能に報いるための仕組みが、社会全体の価値を引き上げるよう機能しないばかりか、経済をより不安定にしてしまうことである。ごく少数の幸運な人たちを除き、その他すべての生活を現状維持あるいは悪化させるからだ。

「フォーブス400」(『フォーブス』誌の長者番付)の構成比の変化に、その証拠が見て取れる。過去13年間で目覚ましい急成長を遂げているカテゴリーは「ヘッジ・ファンド・マネジャー」であり、番付入りした人数は4人から31人へと急増している。アメリカで最大級の資産家を抱えるカテゴリーであり、これを上回るのは「コンピュータ・ハードおよびソフトの起業家」(39人)だけである。

 仮に「LBOファンド・マネジャー」も同じカテゴリーに含めるとすると、現在のアメリカで裕福になる最適な方法は、他人のカネを管理して「2と20」の手数料を課すことであるのは明白だ。シカゴ大学のスティーブン・カプランとスタンフォード大学のジョシュア・ラオが最近の論文で指摘したように、2010年の上位25人のヘッジ・ファンド・マネジャーの報酬は、「フォーチュン500」に掲載されている企業の全CEOの収入合計と比べて、実に4倍である。

 この25人は、どんな仕事をしているのか。一言で言えば、ヘッジ・ファンドの仕事は売りと買い(トレーディング)である。たとえば、大手ヘッジ・ファンドのルネッサンス・テクノロジー創業者であるジェームズ・シモンズは、『インスティテューショナル・インベスターズ・アルファ』誌によるヘッジ・ファンド運用者報酬番付(2013年)の第4位であり、その報酬額は11億ドルであった(注1)。彼は高度なアルゴリズムとニューヨーク証券取引所に直結したサーバーを使い、わずかな価格差が生じた機会でだれよりも素早く売り買いすることで、常にこのレベルの稼ぎを得ている。ルネッサンスにとって、1株を5分間保有することは長期保有なのである。

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