危機だと思われた朝日新聞より読売新聞の方が部数減らしてた
2月10日に発表された新聞のABC部数調査(2014年6〜12月)が業界を震撼させている。全国紙5紙すべての平均販売部数が前年同期比で減少していたこともさることながら、一番の驚きは読売新聞のダウン幅である。なんと60万4530部減(6.13%減)。
これは朝日新聞の44万2107部減(5.87%減)を大幅に上回る。ちなみに毎日新聞は5万1587部減(1.54%減)、日経新聞2万5585部減(0.92%減)、産経新聞は2316部減(0.14%減)だ。読売の社員がうなだれる。
「慰安婦報道と東京電力福島第一原発の吉田調書報道という2つの大誤報で朝日が部数を落とすことは確実だった。そのためウチ(読売)は朝日の読者を奪う販促活動に動き、我々の間では『A紙プロジェクト』と呼ばれていた。しかし、それが功を奏するどころか、朝日以上の危機に見舞われるとは……」
「A紙」が朝日を指すことはいうまでもない。読売は「朝日叩き」のために手を尽くしていた。紙面で朝日の誤報を追及するのみならず、昨年秋には「朝日『慰安婦報道』は何が問題なのか」という小冊子や、「慰安婦報道検証 読売新聞はどう伝えたか」というビラなどを都内の販売店を通じ配ったと報じられた。
また、「読売おためし新聞」(1週間無料)に申し込むと、グループ傘下の出版社が発刊する中公新書ラクレ『徹底検証 朝日「慰安婦」報道』をプレゼントするキャンペーンまで行なった。
白石興二郎・読売新聞グループ本社社長は「読売の販売現場の一部で、行き過ぎた販売活動による迷惑をかけたとすればお詫びしたい」と謝罪した。一連のキャンペーンが“現場の暴走”だったかはともかく、その現場では早くからこれはチャンスどころか「新聞の危機」という実感があったようだ。別の若手読売社員がいう。
「もともと現場の士気は低かった。“朝日の読者が購読を止めたからといって、読売にすぐさま乗り換えるなんて甘い話はない”という意見が大勢でした」
読売新聞は部数減について、「消費増税やスマホ・ネットの普及による活字離れなど複合的な要因が重なったため」(グループ本社広報部)としたうえで、「朝日誤報問題をパンフレット、書籍等で積極的に報じてきたのは広く問題の重要性を伝えるためです。(A紙プロジェクトという名の)計画を立てて販促活動を行なった事実はない」(同)と説明した。
東京大学新聞研究所教授、立正大学文学部教授などを歴任したマスコミ研究者の桂敬一氏が指摘する。
「読売のネガティブキャンペーンは、朝日のみならず、新聞業界全体への不信感を煽る逆効果になってしまった。またABC部数は販売店に届けた部数の調査であり実売数ではないので、朝日も読売も実際はもっと深刻なダメージを受けているはず。信頼回復にはこつこつとジャーナリズムの本道を進むしかない」
ジャーナリズムの世界に甘い近道などないのだ。
※週刊ポスト2015年3月20日号