【日本研究第一人者に聞く】沖縄の声に平和のビジョン 米覇権構造の問い直しを ジョン・ダワー氏
| インタビューを受けるマサチューセッツ工科大のジョン・ダワー名誉教授(共同) |
―なぜ沖縄の新基地建設反対の声明に署名を?
「沖縄が日米両政府に利用され、犠牲にされてきたという思いからだ。そして沖縄は『米国の覇権』、すなわち米国主導の平和(パクス・アメリカーナ)という巨大な問題の一部との認識からだ」
―まず犠牲について。
「沖縄は戦争末期、大日本帝国の犠牲になった。1945年2月、近衛文麿らは『勝ち目はない』と昭和天皇に戦争終結を提言した。しかし帝国政府は、徹底抗戦し本土侵攻を諦めさせようと拒否した」
「沖縄は51年のサンフランシスコ講和条約でも犠牲にされ、日本の主権回復の代償に基地の島となった。ドイツ、朝鮮半島、ベトナムは分断国家と呼ばれたが、日本もある意味で分断国家だ。72年の復帰後も他の日本と異なる扱いをされ、沖縄の人々は二級市民として扱われてきた。講和条約から63年もたった。沖縄の人々は自分の声を持つ権利がある。だが、日本政府はその声を聞きたがらない」
―米国の覇権とは?
「冷戦期、沖縄の米軍基地は中国封じ込めや朝鮮、ベトナムでの軍事行動に使われた。米国人や日本人の多くは覚えていないが、米軍は朝鮮戦争で太平洋戦争中に日本に投下したより多くの爆弾を村々に落とし、残酷で犯罪的な空爆で100万人以上の人々が殺された。現在の北朝鮮は恐ろしい国家だが、彼らには、われわれが忘れ去った米軍によるこの巨大な破壊の記憶が残っていることも知っておくべきだ」
「沖縄はベトナム空爆の主要基地にもされた。この空爆では推定200万~300万人が殺された。米国は世界中に基地を張り巡らす基地帝国主義国家だ。犯罪、退廃、環境破壊の元凶である『基地の帝国』、沖縄はこの帝国の一部だ」
「この帝国は国家安全保障国家とも呼べる。国防エリートと、金をもうける企業や御用学者らが支えている。最近は監視国家にもなった。すべて極秘で、どこで何をやっているのか分からない。オバマ政権は地上軍の投入には消極的だが、世界中で特殊部隊が活動している。特殊部隊国家でもある」
「米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)と、新基地建設が進められようとしている辺野古(名護市)の問題は沖縄だけの問題ではなく基地帝国全体にかかわる。米の覇権の構造全体が問い直されなければならない」
「中国は警戒すべきだが、日米両政府が『防衛』と呼ぶものが挑発的で脅威に映ることもある。朝鮮戦争からアフガニスタンとイラクでの戦争まで、米国の政策が無鉄砲で無責任だったことも念頭に置く必要がある」
―安倍晋三政権について。
「ナショナリズムをあおりいっそうの緊張をもたらしている。ただ、中国にも責任がある。中国のナショナリズムもすさまじい。国内問題から目をそらせるため利用している。悪循環だ。現代は偽善と愛国主義的な正義にあふれる危険な世界だ。ロシアはウクライナのクリミア自治共和国に侵攻した。ナショナリズムほど潜在的に危険なものはない。日中両国もこれを抑制し、非軍事的な解決を探るべきだ」
「戦争ではひどいことが起きる。米国は日本とドイツの都市を空爆、広島と長崎に原爆を落とした。日本人もアジアでひどいことをした。日本に誰かが来て『朝鮮人の名前に変えろ』と命じたと想像してみるといい」
「日中戦争によって中国で何人犠牲になったか長い時間をかけて調べた。1千万から1300万人という結論だった。中国はいま2千万人とか3千万人とか数をふくらませているが、いずれにしても、犠牲者のほとんどは中国人だった」
「日中戦争を始めた時、日本のある将軍は昭和天皇に『3カ月で終わる』と告げた。イラク侵攻の際の米軍のようだ。日本人もあの戦争全体で民間人約100万人を含む約300万人が亡くなった。愚かな戦争だった。日本軍国主義の犠牲者は中国人や他のアジア人だけではなく日本人自身でもある。戦争指導者がこの大量の死をもたらしたのだ」
「日本の右派の有力政治家が歴史を美化しようとするたびに、韓国や中国、そして世界中で日本への不信が生み出されている。愛国を語って日本の国益を損じている。そんなことを言わなくても日本を愛する理由はたくさんある。彼らには他国の愛国心への理解がない。なぜこんなことをするのかわたしには理解できない。安倍政権は中国の右派への贈り物だ」
―戦争責任や謝罪については?
「日本政府は謝罪してきた。昭和天皇には相当の戦争責任があったと思うが、今上天皇は沖縄や中国に正直に向き合い、悔恨を表明しようとし、平和のため純粋に努力している。興味深い方で、私は尊敬している」
―日本のナショナリストが批判する東京裁判にあなたも批判的な理由は?
「勝者による二重基準の裁判だったからだ。日本人による戦争犯罪を裁いたが、米国など戦勝国は自分の戦争犯罪を認めない。だが東京裁判の理想主義は支持している。戦争責任、人道に対する罪、平和に対する罪など国際法の新しい体系をつくろうとした努力は正しかった。米国が後に否定した理想主義はあった」
―日本外交の問題の根源はどこにあるのか。
「私は日本に希望を持っていた。素晴らしい経済手腕、平和国家としての独自の立場、広島と長崎からの視点…。しかし日本は平和の伝道者にはならず、対米関係に縛られ自分の声をなくした。安倍首相は靖国神社に参拝しナショナリストとして米国からの自立性を誇示しようとするが、それは間違った種類のものだ。日米は安全保障関係を維持するだろうが、イラクに米軍が侵攻したとき、『愚かだ』と直言したドイツと米国のような関係になる必要がある」
―あらためて沖縄の人々への言葉を。
「米国は沖縄にひどいことをしてきた。軍事基地に反対する声を聞くべきだ。その声は悲劇の経験から来る。戦争がどんなものか知っている沖縄の人々の声には、平和へのビジョンがある」
ジョン・ダワー氏略歴
JOHN DOWER 1938年生まれ。61~62年空軍勤務、62~65年金沢、東京で教員・編集者、72年ハーバード大で歴史学、東アジア言語の博士号。 91~2010年までマサチューセッツ工科大教授。現在は名誉教授。 著書に「容赦なき戦争―太平洋戦争における人種差別」「忘却のしかた、記憶のしかた」など。
(共同通信)