2015年3月9日
理化学研究所
(株)ジーテック
食品の非破壊放射能測定を実現する低コスト測定器の開発
― 食品出荷時の簡便な全品放射能検査実現に向けて ―
報道発表資料
LANFOSを使った農産物の放射能測定試験(福島県南相馬市で2014年11月1~2日に行なわれたJAまつりにて)
2011年3月に起きた東京電力福島第一原子力発電所の事故により、大量の放射性物質が環境に放出されました。4年を経た現在でも事故の影響は残り、とくに福島県では、県産の食料品が「放射能に汚染されているのではないか」との風評被害に悩まされています。風評被害を減らしていく1つの手段として有効なのは、農産物や魚介類、それらを使用した加工食品などの放射能を測定し、安全性を確認して市場に出すことです。ただ、現在使用している測定器は、放射線(ガンマ線)を感知して、その強さに応じて発光する部分(シンチレータ)が底面にあるため、食品の形によっては正確な測定が難しいという問題がありました。そのため、食品を細かく砕いて測定精度を高めていました。そこで、理研の研究者らを中心とした研究チームは、食品を破壊せずに測定できる放射能測定器の開発に取り組みました。
研究チームは、食品をそのまま入れても正確な測定ができるように、食品全体を包み込むようにシンチレータを配置する設計を検討しました。また、低コストで成形が比較的簡単なプラスチックシンチレータの採用を試みました。しかし、プラスチックシンチレータはエネルギー分解能が低く、天然由来の放射性カリウムと原発事故に由来する放射性セシウムの区別が困難でした。厚生労働省が定める放射能レベルの基準では、放射性セシウムの基準が天然由来の放射性カリウムと同程度に設定されています。両者を区別して測定できなければ、放射性セシウムをほとんど含まない食料品でも基準値を超えてしまうという、誤った結果を導く可能性があります。研究チームは、プラスチックシンチレータが放射線を感知したときの発光シグナルの数(光子数)の分布を調べてみました。その結果、放射性のカリウムとセシウムでは、ガンマ線のエネルギーの差によって光子数の分布に有意な差があることが分かりました。そこで、測定された光子数分布の形から、放射性カリウムとセシウムの割合を算出する手法を開発しました。
円筒形のプラスチックシンチレータを配置した検出器を試作し、開発した手法を適用して放射能測定テストを行ったところ、さまざまな種類の果物や野菜をそのまま測定でき、放射能が基準値を上回っているかどうかを簡単・便利に確認できることが分かりました。研究チームは、この放射能測定器を「LANFOS」と名付けました。LANFOSを用いることで、さまざまな形や大きさの検出器の開発が可能になります。試験操業が始まった小名浜港(福島県いわき市)の本格操業に合わせ、箱詰めされた魚介類を測定できる大型放射能測定器の開発に着手する予定です。