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 東日本大震災の発生から、11日で4年。12万人が避難を続ける福島県では、生活を取り戻す努力が続いています。同県いわき市出身の社会学者・開沼博さん(30)に、現状をどう見ているかを聞きました。

 震災から4年が経つのにまだ、「復興が遅れている」「震災が風化した」という紋切り型の見方が多いことに違和感を覚えます。

 県外の講演ではいつも「福島の人はどのくらい、震災によって県外で暮らしていると思うか」と問いかけています。実際には人口の2.3%が県外に避難しているにもかかわらず、「2割、3割」というのが世間のイメージ。正確な現状認識がないままの「分かったつもり」では、そもそもどういう課題があるのかも見えてこないのではないでしょうか。

 例えば福島の農業を語るとき、「除染がされていないから農業が再開できない」というシンプルなストーリーがある。しかし実際は多くの農家が再開し、コメの作付面積と収穫量はどちらも震災前の8割程度になっているのが分かります。また、流通が戻っても価格が上がらないという問題も、数字を追うと見えてきます。4年間でこの部分が進みこの部分が遅れているという切り分けが、福島の今後を考えていく上で重要なプロセスです。

■「数字と言葉の往復」必要

 先日、浪江町と富岡町では住民の1割しか「帰る」といっていないというアンケート結果が報道されました。しかし、残り9割がみんな「帰らない」と決めたかというとそうではない。富岡町の隣の楢葉町では数割が、帰還への話を進めています。両町の間にはどんな違いがあるのか、もう一歩先の分析が必要なはずです。

 実際に福島で話を聞くと、昨日帰りたいと言っていた人が今日は帰りたくないと迷っている場合も少なくない。私は「数字と言葉の往復」と言っていますが、数字には表れないあいまいな立場・言葉を拾い上げて、課題を掘り下げる作業も求められています。

■実りある「復興バブル」に

 震災後の福島県は予算が約2倍になり、公共事業も増加するなど雇用のマーケットが変化しました。もともと人手不足だった医療・福祉などの分野に加え、除染や土木工事といった仕事が震災後に急増し「復興バブル」と呼ばれています。しかし、復興のために急増した分野の雇用が後に何も残さないかというと、私はそうでもないと思う。

 地元の土建業の社長さんと話していると「若いのは、道路の石の積み方一つ知らないんだよ」と言います。地方分権化を進める流れなどの中で、日本ではここ何年も土木建設業に公共投資を行って来なかったので、今、急ピッチで人材育成をしている状況です。この先には東京オリンピックがあり、他地域では防災の需要も高まっている。今の雇用が打ち上げ花火ではないという視点を持てる人が出てくると、「復興バブル」も実りあるものになるでしょう。

 避難指示が出された地域の、今後のまちづくりにも同じことが言えます。12年3月末に避難指示が解除された広野町には、戻ってきた住民を上回る数の復興作業員が住んでいます。元からの住民ではないですが、過疎が進む日本で若年労働層が流入している地域はなかなかない。

 原発作業員も、半分程度は地元の人と言われています。避難指示区域に家がある人も多く、「仕事に便利だから今後は広野町に住む」ということは十分にありうる。双葉町も最近出した復興計画に復興作業などで集まる「新住民」のことを記述しています。

■コミュニティーの視点忘れずに

 まちの再生にはコミュニティーの視点も欠かせません。震災から4年が経ち、元のコミュニティーを奪われ避難生活を続ける人たちのストレスは、非常に大きくなっています。災害公営住宅は、所得が少ない人に入居が限定されることで、高齢者がまとまって住む形になりがちです。

 阪神大震災を経験した神戸では、公営住宅に学生を住まわせ、高齢者の孤独死を防ごうと取り組む人もいます。自治会活動に参加することを条件に、学生は低家賃で入居できる。学生と高齢者が共に暮らす中で、新しい日本の福祉体制や共助のあり方が見えてくるかもしれません。

 「復興」という言葉はあまりに漠然としていますが、個別の課題に分けて考えることで道筋が見えてくるはずです。地震・津波や放射線の影響といった課題にめどがたっていく5年目以降の福島では、高齢化や過疎化など全国の地方が抱える普遍的な問題が中心となるでしょう。

 震災により、日本の未来を先取りしたとも言われる被災地で、普遍的課題をどう扱っていくか。復興を雰囲気でとらえるのでなく、データを通した目標設定と検証を繰り返し進むことで、日本全体にも役立つ「復興」になるはずです。

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 〈かいぬま・ひろし〉 福島県いわき市出身。東大大学院博士課程(社会学)在籍。12年から福島大うつくしまふくしま未来支援センター特任研究員。誤解やデマを生みやすい震災後の福島の状況をデータを通して解説する「はじめての福島学」を15年2月末に出版した。