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黒い職場の事件簿~タテマエばかりの人外魔境で生き残れるか? 吉田典史

「負け組酒場」に集う高学歴ダメ社員の
屈折した自尊心(上)

吉田典史 [ジャーナリスト]
【第6回】 2015年3月10日
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 会社員と学歴――。これはビジネスパーソンにとって、採用試験から退職に至るまでの間、良くも悪くも不即不離の関係にある。今回は少し趣向を変え、高学歴ではあるものの会社員人生に行き詰まるお客と、彼らをターゲットに荒稼ぎをするやり手のスナックとの関係性を観察することで、ホンネとタテマエの狭間で苦しむビジネスパーソンの屈折した自尊心に迫りたい。

 残念なことに、この「負け組御用達スナック」は最近、閉店した。筆者がこの店に通った十数年の間に見た人間模様が、今回のエピソードのベースとなっている。


高学歴ダメ社員ばかりが
集まる「負け組酒場」の風景

高学歴なのに会社で浮かばれない――。そんな社員たちは夜な夜な「負け組酒場」に集まり、うさを晴らす
Photo:jedi-master-Fotolia.com

 太い声と乾いた笑い声が響く。

 「どこの大学出身? A大学? ああ……。あそこでは、大企業で役員になるのは難しいよね。せいぜい部長どまり。しかも部下は数人。A大学で偏差値の下のほうの学部を卒業しても、部長にもなれないだろう。A大学じゃなあ……」

 「はははは……(笑)」

 「バカ言っちゃいけませんよ。お客さんが卒業したB大学法学部は、ほんの一時期は東大並みだったんですから……。今は、C大学やD大学と変わんないけど。このレベルではなあ……」

 「ははははは……(笑)」

 「E大学の外国語? 49歳? お客さんが受験した頃だよね。A大学の政経、F大学の経済、E大学の外国語が御三家になったのは? まぁ、数十年後の今、そのほとんどが部長にもなれないけどね」 

 「ははははは……(笑)」

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吉田典史 [ジャーナリスト]

1967年、岐阜県大垣市生まれ。2006 年からフリー。主に人事・労務分野で取材・執筆・編集を続ける。著書に『あの日、負け組社員になった・・・』『震災死 生き証人たちの真実の告白』(共にダイヤモンド社)や、『封印された震災死』(世界文化社)など。ウェブサイトでは、ダイヤモンド社や日経BP社、プレジデント社、小学館などで執筆。


黒い職場の事件簿~タテマエばかりの人外魔境で生き残れるか? 吉田典史

 ここ10数年の間に社会環境が大きく変わり、人々のホンネとタテマエに対する価値観が揺らぎ始めている。それを具現化しているのが、今の企業の職場ではないだろうか。これまでは、ホンネとタテマエが絶妙にバランスしながら、人間関係が維持されてきた。しかし、企業社会において生き残り競争が激化し、「他人より自分」と考えるビジネスパーソンが増えるにつれ、タテマエを駆使して周囲を蹴落とそうとする社員が増えている。

 誰もが周囲を慮らなくなり、悪質なタテマエに満ち溢れた職場の行きつく先は、まさしく人外魔境。そこで働く社員たちは、原因不明の閉塞感や違和感、やるせなさに苛まれながら、迷える仔羊さながらに、次第に身心を蝕まれて行く。この連載では、そうした職場を「黒い職場」と位置づけ、筆者がここ数年間にわたって数々のビジネスパーソンを取材し、知り得たエピソードを基に教訓を問いかけたい。

「黒い職場の事件簿~タテマエばかりの人外魔境で生き残れるか? 吉田典史」

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