2015.3.10 05:00

【甘口辛口】まさかの二歩決着 コンピューター将棋にはない“人間らしい”珍事

■3月10日

 素人将棋では禁じ手の「二歩」はよくある事だが、プロの、しかもNHK杯準決勝という大舞台でその珍事が起きた。8日に放送された行方尚史八段-橋本崇載(たかのり)八段戦。持ち時間を使い果たし1分将棋に入った橋本八段が既に6筋に歩があることをうっかりし、6三歩と打って反則負けとなった。

 素人なら終わってから気が付き笑い話になることも多いが、高段棋士同士すぐに気付いてその場が凍りついたとか。棋士らしからぬ「ホスト風」とささやかれる茶髪、個性的な服装、さらにユニークな言動で知られる橋本八段だが、さすがに1カ月前の収録後は相当落ち込んでいたという。

 北島三郎の「歩」の歌詞のように「歩のない将棋は負け将棋」。素人は粗末にしがちな歩も「駒の数が多く成れば金という強力な駒になる。プロにとっては大事で歩をうまく使えるのは強い人」とある高段棋士。しかし、同じ筋に既にある歩を成り捨ててから打つべきところを読み過ぎて一手抜いてしまい、二歩になるケースもあるらしい。

 プロでは一生縁がないのが普通なのに、淡路仁茂八段のように二歩4回、相手が指す前に指す二手指し2回などで「永世反則王」の異名を持つ人もいる。別の棋士は駒台から桂馬と間違えて歩をつまみ、なんと自分の歩の頭に打った。「ごめん間違えた」では済まず歴史的な反則負けになった。

 二歩ではないが、糸谷哲郎新竜王は奨励会時代、形勢不利で「誰もやったことのない反則を」と取った駒を相手の駒台に「どうぞ」と置いた逸話もある。最近人間を凌駕するコンピューター将棋は二歩は絶対指さないだろう。人間だからこその愛すべき反則、ではないか。 (今村忠)

(紙面から)