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 (司会)それでは会場の皆さんからご質問を受け付けたいと思います、ご質問は簡潔に。それでは最前列の方お願いします。

 ――本日はすてきな講演をありがとうございました。メルケル首相は大学時代、物理を学んでいらしたということですが、日本では理系、特に物理方面に進む女性は少なく男性がほとんどです。メルケル首相は東京電力福島第一原発(事故の)直後、原発全廃の決定を下しましたが、原発に携わるのもおのずと男性が多かったのではないかと思います。また、日本では女性の政治家が少なく、女性の職業としての政治家は大変だという印象を持っています。以上を踏まえた上で、今までの政治家人生で大変だったこと、とりわけ原発廃止を決定した際のことを聞かせて下さい。

 「ドイツでも、いまだに女性、あるいは若い女性が数学やエンジニアリング、自然科学、理工系の勉強をするのは少ないというのが現状です。私たちは、もう何年もこの分野における女性の数を増やそうと努めています。それは、学校か、もっと小さいころから、技術に対する楽しさを教えなければならないのではないかと思います。大学も、教授陣の顔ぶれを見ると、やはり男性が多く、両国間ですごく大きな違いがあるとは思えません」

 「私たちがなさねばならないのは、自然科学系でも家庭と仕事の両立ができるようにすることです。この分野では研究の進み方が速いので、家庭に長くとどまることが難しい。キャリアが途絶えぬよう、いつも最新の研究に接していなければならないという状況になりやすい。この点については、ドイツではここ数年、かなりの改善が見られるようになりました。それでも、まだ構造的な問題が残っており、教授のようなレベルではまだまだ女性が足りないと思います」

 「次に政治と女性の問題です。例えば、脱原発の決定という場合には、男性か女性かという違いは関係ないと思います。私は長年、核の平和利用には賛成してきました。これに反対する男性はたくさんいました。そうした男性たちは今日では、私の決定が遅すぎたと言っています」

 「私の考えを変えたのは、やはり福島の原発事故でした。この事故が、日本という高度な技術水準を持つ国で起きたからです。そんな国でも、リスクがあり、事故は起きるのだということを如実に示しました。このため、本当に予測不能なリスクというものがあり、私たちが現実に起こりうるとは思えないと考えていたリスクがあることが分かりました。だからこそ、私は当時政権にいた多くの男性の同僚とともに脱原発の決定をくだしたのです。ドイツの最後の原発は2022年に停止し、核の平和的利用の時代が終わって、私たちは別のエネルギー制度を築き上げるのだという決定です」

 「ですから、男性だから、女性だからという決定ではありません。あくまでも政治的な決断であり、私という一人の人間が、長らく核の平和利用をうたっていた人間が決定したことなのです」

 「政治の世界での女性ということで、私も含めてもう少し全体的に見れば、私はたくさんの方に支えられてきました。一方で、最初は私への疑念もいろいろとありました。最初の選挙が一番大変でしたが、一回踏み出して女性でもうまくいくと分かると、それがだんだんと当たり前のことになるのですね。やはり前例をつくることが大事でしょう。前例ができれば、それがいつか当然のことになります」

 ――社会格差の問題が、移民と結びつき、欧州での一連のテロ事件の背景になっています。ドイツにはトルコをはじめ古くからの移民に加え、今では東欧などの移民が増えています。移民の増加は、国内の経済格差、教育格差につながり、社会的弱者を生み出しています。ひいては若者のテロ参加、移民排斥運動に大きな影響があります。経済や教育の格差が過激派につながる懸念が広がる中で、ドイツ政府はどういう対策をとる方針でしょうか。

 「確かに、ドイツはここ数年間、あるいは数十年間、今からいえば移民に対してより開かれている社会になってきました。そういう姿勢を学んだといってもいいと思います」

 「ドイツでよく忘れがちなこととしては、第2次世界大戦後に、以前はドイツ領だった東ヨーロッパの故郷を追われてきたドイツ人の存在があります。1200万人以上にものぼる人たちで、破壊しつくされた当時のドイツにとって、その受け入れは大変な問題でした。しかし、この人たちは、政治的に極端な傾向を持つこともなく、飢えと貧しさの中で社会的に統合され、ドイツの復興に尽くしてくれました」

 「また1960年代初めになり、ドイツの奇跡の経済成長で労働者が不足するようになりました。このため、『ガストアルバイター』と呼ばれる一時的な安い労働力を外国から招きました。イタリアやスペイン、もっと安価なトルコから労働力を受け入れることになり、トルコの中でも最も貧しい地域から人々は来ました。今では300万人のトルコ系移民社会があり、3世、4世の世代になっています。その中で、非常に高い教育を受けた人もいて、トルコに行って仕事をしている人もいます」

 「一方で、移民社会の構造的問題としては、平均的な教育水準が低く、学校の成績もどうしても上がらないということがあります。最初にドイツに来た世代の平均的な教育水準があまり高くなかったということもあります。このため、私たちはその社会的統合に尽力しました。まずドイツ語を学んでもらい、統合に努めました。また、ドイツには、かなり多くのイスラム教徒のマイノリティーもいるし、いろいろな宗教の存在が新たな課題をもたらしています」

 「同時に28カ国が加盟する欧州連合(EU)の場合はどこで働いても、どこで生活してもいいという移動の自由があります。現在は、EU域内の東欧、南欧、たとえばスペインの人々がドイツに来て仕事をするようになっています。このような人々は社会統合という意味では大きな問題にはならない人々です」

 「大きな課題は、北アフリカやシリア、イラク、アフガニスタンなどからの難民です。一部には、バルカン諸国からも来ています。昨年は20万人の難民申請があり、今年はさらに多くなるかもしれません。これが私たちの直面している一番大きな課題と言えるでしょう。ただし、ドイツ人の間では、これまでになかったような移民受け入れに肯定的な姿勢も出てきています。ドイツの労働市場は非常にいい状態で、この何十年と比べて失業率が低いこととも関連しているでしょう」