2015年3月10日00時18分
【ウクライナとアジア情勢】
しかし、この世界秩序は当たり前のものではありません。むしろ危機にさらされていると言えましょう。国際法に反してクリミア半島を併合し、ウクライナ東部での分離主義者を支持することによって、ロシアは、94年の「ブダペスト覚書」で明確に認めた領土の一体性を守るという義務をないがしろにしました。ウクライナは、他の国々と同様、完全な主権に基づいて自らの道を決定する権利を持っているのです。私は日本政府が同じ立場を共有し、必然的な回答として経済制裁をともに科していることに感謝しています。しかし、私たちはともに外交的な解決策をも模索しています。だからこそ私はフランスのオランド大統領やヨーロッパと環大西洋のパートナーとともに、そしてもちろん日本とともに、数週間前にミンスクでまとまったウクライナ危機を乗り越えるための合意が実際に実行されることに力を注いでいるのです。ウクライナ東部での自由な地方選挙とどこにも妨げられることのない自国の国境管理は、ウクライナが領土の一体性を取り戻すのを助けるのみならず、ロシアとのパートナーシップに対しても新たなはずみを与えることになります。また、クリミア半島も、未解決のままにしておくことは許されません。
日本とドイツは、国際法の力を守るということに関しては共通の関心があります。それはそのほかの地域の安定にも関連しています。たとえば東シナ海、南シナ海における海上通商路です。その安全は海洋領有権を巡る紛争によって脅かされていると、私たちはみています。これらの航路は、ヨーロッパとこの地域を結ぶものであります。したがってその安全は、私たちヨーロッパにもかかわってきます。しっかりとした解決策を見いだすためには、二国間の努力のほかに、東南アジア諸国連合(ASEAN)のような地域フォーラムを活用し、国際海洋法にも基づいて相違点を克服することが重要だと考えます。小国であろうが大国であろうが、多国間プロセスに加わり、可能な合意を基礎にした国際的に認められる解決が見いだされなければなりません。それが透明性と予測可能性につながります。透明性と予測可能性こそ誤解や先入観を回避し、危機が生まれることを防ぐ前提なのです。
【テロとの戦い】
ただし、私たちは今、そうした対話の可能性が明らかに限界に達しているという状況にも直面しています。基本的な価値と人権が極めて残酷な形でないがしろにされているからです。とりわけ、シリア、イラク、リビアとナイジェリアの幅広い地域で荒れ狂う国際テロが私たちの前に立ちはだかっています。「イスラム国」(IS)、ボコ・ハラムは、自分たちが信奉する狂気じみた支配欲を満たそうとしないあらゆる人、あらゆるものを破壊しようとしています。ISによる日本人人質2人への残虐な殺害行為、フランスの週刊新聞シャルリー・エブドの風刺画家と記者への暗殺事件、それに続くパリのユダヤ系スーパーの客たちへの襲撃事件。こうした野蛮な出来事は、自由と開かれた世界のために断固としてみんなで手を取り合って立ち向かわねばならないという信念を、かつてないほど固くさせるものです。そして、この点において、ドイツと日本は手を携えて立ち向かっており、憎しみや人間性を無視する行為に対する闘いの中で、私たちはさらに強く結びついていくのです。
私たちは、ドイツが議長国を務める今年のG7(主要7カ国首脳会議)でも、国際テロへの資金の流れ、人の流れを一つずつ断っていくことに力を注ぎます。これには、各国の財務大臣が取り組むことになります。そして、私たちは、現地でISのテロに立ち向かうすべての人々に対し、政治的、軍事的な支援を惜しみません。とくに、イラクの新政府とクルド地域政府がその対象となります。その他にも、私たちは日本とともに、ISのテロが生み出した難民の苦しみを軽減するための支援をしていきます。これは、私たちの人道的な責務であり、私たちの安全保障上の利害とも強く結びついています。
この二つの要素は、ドイツと日本がアフガニスタンで展開してきた積極的な活動についてもいえることです。両国で一緒にこの国の治安部隊をつくり上げ、支援してきました。教育制度と保健制度を設け、新しい道路を造りました。その結果、01年以降、アフガニスタンの人々の生活はずいぶんと改善されています。日常的な治安は必ずしも十分ではないとはいえ、この国から国際テロの脅威を発生させないという最も重要な目標は達成されています。
【核不拡散の努力】
さらに、日本とドイツは、核兵器による脅威を抑え込む点で協力することでも一致しています。15年は、広島と長崎に原爆が投下されて70年になります。その記憶からは、未来への責任が生まれます。このようなことは二度と起きてはなりません。だから、日独両国は常に全力で軍縮と軍備管理に取り組んでいます。
その一環として、イランの核武装をくい止めるという共通の目標を追求しています。平和利用に疑念が生じるような核の利用はいっさいあってはなりません。そのための協議は今、重要な段階にさしかかっています。
私たちが目指しているのは、単に地域紛争の火種を消すことではありません。軍拡と核拡散を阻止するという、より高次の課題があるのです。その意味で、北朝鮮の名前もあげないわけにはいきません。
【国連安保理の改革】
こうした根本的な問題が示しているのは、国際協力と国際的な組織が持つ信頼性と解決能力がいかに重要かということです。だから、日独両国は、ブラジル、インドとともに国連の強化と安全保障理事会の改革に尽力しています。その歩みは非常にゆっくりとしか前には進んでいませんが、世界の平和、安定の機会を逃さないためには、世界のすべての地域が、現実にふさわしいあり方で安保理の重要な決定に参画せねばならないと確信しています。
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