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【社会】

松谷みよ子さん死去 児童文学に人生の息吹

絵本を手にする松谷みよ子さん=2010年10月

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 「この子の魂の成長を残したかった」。二月二十八日に八十九歳で死去した児童文学作家の松谷(まつたに)みよ子(本名・美代子(みよこ))さんは八年前の取材で、母娘の日常をほのぼのとつづったロングセラー「ちいさいモモちゃん」シリーズを書き始めた理由をこう語っていた。モデルは二人の娘たち。託児所に預けて働く母親がまだ珍しかった時代、四歳の長女に「小さいころのお話をして」と言われたのがきっかけだった。

 幼い子にもわかる易しい言葉。思わず声に出して読みたくなるリズミカルな語り口。赤裸々な子育て話から、松谷さんの魔法で人間愛あふれるファンタジーが生まれた。当時、童話にはタブーとされていた離婚や親の死も織り込み、三十年かけて六話を完結させた。

 十七歳のとき、鈴木三重吉の童話集に感動して童話を書き始めた。二十二歳で児童文学作家の坪田譲治から「人生を、本当のことをかきなさい」と言われ、座右の銘に。結婚後、信州に伝わる民話を基に一九六〇年に出版した「龍の子太郎」で、講談社児童文学新人賞、国際アンデルセン賞優良賞などを受賞。「左手で長女に乳を含ませながら、空いている右手で書いた」と当時を振り返った。

 戦争にも真正面から向き合った。広島の原爆を題材にした「ふたりのイーダ」を発表したほか、「原爆の図」の画家、丸木位里(いり)さんとともに絵本を出版するなど反戦平和を訴えた。

 七二年、自宅の庭につくった私設文庫「本と人形の家」には全国からファンが訪れた。子どもを連れて通ったという近所の小学校の図書館員(54)は「おちゃめでかわいい先生だが、真剣に戦争の話をしてくれ、厳しい時代を生き抜いた体験を伝えようとしている」と感じたという。

 妹がいじめを苦に自殺した女性から届いた手紙をもとに創作した絵本「わたしのいもうと」は、道徳の授業の教材にもなった。かつて自身もいじめで「地獄の底をはうようなつらさを味わった」と松谷さん。「自分より弱い者をいじめるという差別は戦争にもつながる。傍観者も同罪」。生き抜くつらさと喜び楽しみを教えてくれた人だった。 (井上圭子)

     ◇

 葬儀・告別式は近親者で済ませた。お別れの会は四月四日午前十一時から東京都港区南青山二の三三の二〇、青山葬儀所で。遺族代表は長女瀬川(せがわ)たくみさん。

 

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