当のコンビニ業界では、飽きられないための企業努力は並大抵のものではない。セブン&アイHD社員が言う。
「社内には『おいしいものほど飽きられる』という言葉が浸透していて、飽きられる前に少しでも味を変えて飽きられない工夫を徹底している。たとえば冷やし中華。実は夏には少し酸味を強くし、秋口になると少し甘くするなど季節ごとに味を変えています。
商品ばかりではなく、店の照明も昼は夜より明るくして、商品を見えやすくしている。全国一律の大型商品ばかりでは物足りない消費者も多いので、最近では地域に合わせて出す商品を変えており、地域限定商品もどんどん増やしている」
総合スーパー・イオンが苦境に陥っているのは、こうしたコンビニ業界の細かい商品戦略とは対照的に、低価格を売りに勝負を仕掛けるデフレ型モデルから脱しきれなかったことに原因がある。
「総合スーパーは規模の経済を追って、量販品を大量により安く売るビジネスモデルですが、これでは『ボリュームゾーン不況』の罠にはまってしまう。しかも、消費者はスピード重視で新商品を次々に入れ替えるコンビニに慣れているから、なおのことスーパーのスピードの遅さが際立って、モノを買わなくなってしまう」(前出・並木氏)
より速く、より多くのヒット商品を生み続けることでしか生き残れない厳しい時代が幕を開けた。しかも、「『ボリュームゾーン不況』はまだ始まったばかり。これからますます深刻になっていく」とエコノミストの吉本佳生氏は指摘する。
「ボリュームゾーン不況がどんどん広がっていく中で、企業間の競争はますます熾烈になっていきます。これからは体力を奪われた企業から順に新しい商品を作る力がなくなっていくでしょう。
そうなると、消費者からすれば、いまはたくさんの選択肢から商品を選べる状況にありますが、その選択肢が減っていくことになる。結果として、魅力的な商品が減ることになるので、消費者はますますモノを買わなくなる。そしてそれが経済全体を冷え込ませ、ますます企業は体力を奪われるという出口のない負の連鎖に入って行くわけです。企業にとっても、消費者にとっても、日本経済全体にとってもマイナスのことですが、もうその連鎖は始まってしまっている」
商品の寿命が短くなるにつれ、企業の寿命もどんどん短くなっていく。ひいてはそれが、日本経済全体の寿命を蝕んでいく。突然巻き起こった市場の激変は、いま日本経済の根本を大きく揺さぶろうとしている。
「週刊現代」2015年3月14日号より
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