●男子は何もわかっていない
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“好奇心、勇気、そしてカモフラージュ:10代女子のゲーム習慣をあらわに”
(Curiosity, Courage and Camouflage: Revealing the Gaming Habits of Teen Girls)
このセッションのタイトルを見て、「えっ、10代女子って習慣というほどゲームをするの?」と考えた男の子は、きっとそれほど間違っていない。実際、記者もそう思って興味を惹かれ、セッションに参加したからだ。結論から言うと、男の子はそれくらい何もわかっていないボンクラだということを思い知らされた。
ロザリンド・ワイズマン(下の写真左)という著名な教育学者・作家と、ゲームなどで声優を務めるアシュリー・バーチ(同右)がタッグを組んで披露した、データから見るアメリカ10代ゲーム女子の実態リポート。日本のボンクラたちにもぜひ見てみてほしい。
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●男の子は女の子とゲームがいっしょにしたいのか
ロザリンド・ワイズマンは、教育学者ながらNYタイムズにも連載するベストセラー作家。10代の女の子の学校でのスクールカーストに迫った『Queen Bees & Wannabes』(邦題:『女の子って、どうして傷つけあうの? ―娘を守るために親ができること』)や、同様に男の子に迫った『Masterminds & Wingmen』などの著書で若者を取り上げている。
その取材過程で男の子たちと接したとき、ゲームが必然的にトピックとして上がって来たという。2014年のGDCでは、男の子のゲーム社会のカーストについて語ったが、ふたりの興味はそれで収まらず、つぎに「“女の子がゲームすること”に対して男の子はどのように思ってるか」にテーマを移したのだ。
「本当に、女の子はソーシャルゲームや『マインクラフト』しかやらず、みんなキム・カーダシアン(アメリカの人気モデル・女優)のアプリがスマホに必ず入ってるかというと、私はまったくそうは思いません」とアシュリー。男の子は女の子とゲームがいっしょにしたいのか、隣に女の子にいてもらってゲームをしたいのか、また女性主人公のことをどう思っているのか、そういう実情に迫ろうとするセッションが始まった。
●女の子がソーシャルゲームしかしない、カジュアルゲームしかしない、というのは事実なのか?
それも思い込み? もしそうであればどこからその思い込みは来るのか?
今回の講演を前に、ふたりはミドルスクールとハイスクール(以降は便宜的に中学、高校と記載)でデータを収集。回答者の内訳は以下のようになる。
<性別は?> 男性50% 女性46% 無回答4%
<住まいは?> 郊外59% 都心22% 地方19%
<学校は?> 公立58% 私立38% 個人授業3%
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写真は女の子たちに聞いたプレイしているゲームジャンルの内訳だ。
プレイしない子は約2割。残りの8割はなんと何かしらで遊んでおり、パズル・アドベンチャーゲームなどが5割近くあるのを筆頭に、RPG、ソーシャルと続く。
その一方で、FPS26%、MOBA15%、RTS16%など、一般的にコアと考えられているジャンルを楽しんでいる子も少なからずいることに驚きだ(その“一般的な考え”というのがボンクラの誤認なのだが)。
今度は男の子に調査。「もっと女の子にゲームをしてほしいと思うか」という質問だ。
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▲能天気に8割がYESと回答。中学のほうが、高校に比べ女の子にゲームプレイを望んでいない。 |
そして、そう能天気に答えたシャイな彼らが、女の子が何で遊んでいるのかを想像したところ……、手当たり次第に回答するボンクラっぷり。男の子は女の子が何で遊んでいるのかまったくわからないというわけだ。
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▲FPSが66%、MOBAが51%ってお前ら……。 |
話題は性差にスポットを当てながら続く。
「主人公の性別は気にしますか?」という質問にはどちらも「いいえ」が7割以上(「気にしない」が男子78%、女子70%、「いいえ」が男子20%、女子28%)。
そこでどちらの性でプレイしたいか尋ねると、
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男の子は性別をまったく気にしていないが、女の子は年齢が上がるにつれ、同性の主人公を好む傾向があることがわかる。「これは女の子が、若いほど同性を嫌い、きびしく扱う傾向があるところにも起因しているのではないか」とかつての研究結果からロザリンドは語った。
●あなたはゲーマーですか?
「女性は性の対象として扱われている頻度が多い?」という質問に対しては、男女で明確に差が現れた。
顕著なのが、“中学では極端な差はないが、それでも女の子の「強くそう思う」の比率は高い”、“高校に至ると「そう思わない」、「絶対にそう思わない」、「どちらでもない」と回答した女の子は極端に減り、そのぶんすべて「強くそう思う」が増えている”という2点。
男の子にしても「そう思う」の比率が中高通じて高く、男の子も気付かないのではなく、「ちょっとこれは性的だぞ」と気付きながらプレイしていることがわかる。
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続いて女の子の実態。
興味深いことに、「あなたはゲーマーですか?」という質問に対して65%の子が「いいえ」と答えているが、彼女たちがゲームをまったくしていないのかというとそうでもないことが回答からもわかるのだ。
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具体的には、自分が非ゲーマーであると答えた女の子のうち、
・43%が10段階のうち5以上の興味をゲームに示している
・23%が先週に4時間以上ゲームで遊んでいる
・38%が1時間から3時間ゲームを遊んでいる
これはゲーマーとは言えないのか?
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そこで自分がゲーマーと思っていない女の子たちと、ゲーマーと思っている女の子たちに、どんなゲームキャラクターが好きかを聞いてみたという。以下に羅列するが、どれが自分がゲーマーだと思っている子の意見で、どれが思っていない子の意見かわかるだろうか?
◆『バイオショック インフィニット』のルーテス兄妹。男女の双子だけど、女の子のほうが戦略的で賢く描かれているから。男の子が彼女より上とかじゃなく、同じように扱われているのが好き。適当に女の子のキャラクターを入れないといけないから入れているのではないのがいい。
◆『WoW』のシルヴァナス・ウィンドランナー。生死を分ける戦いに勇敢に立ち向かい、群集を率いた女性です。軍の策士なのもいい。それから『Portal』のグラドスが好き。彼女は性の対象とならない扱いだし、ウィットに富んだジョークを言ったり、同情心を持っていない性格が好き。
◆『Portal』のグラドス。理由は頭がよく、ウィットに富み、笑うにはちょうどいいくらいの悪意を持っているので。
◆『HARVEST MOON: Island of Happiness』(邦題:『牧場物語 キミと育つ島』)のナタリーとジュリアが好き。ふたりとも意志の強さや自信があるのに、女の子らしく、頭もいいし、かわいい。(でも現実では、これらをすべて満たすのはムリだよね、とときどき思います)
◆『コール オブ デューティ モダン・ウォーフェア2』のゴースト。彼はこの世でもっともスキルがある兵士で、バーチャルだけど彼の下で働けたことに感謝しています。どうか安らかにお休みください……。
◆『Portal』のグラドスです。彼女はみんなを殺したがっているけど、同時にまだみんなを愛しているところですかね。
1、3、4番目が非ゲーマーであると宣言している女の子の言葉。ゲーマーも非ゲーマーも自称でしかなく、共通して言えるのは、ふつうにゲームを楽しんでいるということだ。それにしてもグラドスの人気たるや。記者は女性(タイプ)であることなど気にもしていなかった。
●主人公の性別なんてどうでもいい
女の子への質問が続いたので、男の子の回答も参考までに挙げておこう。
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<あなたはゲーマーですか?> はい69% いいえ31%
<もっと女の子がゲームをしているのを見たい?> はい86% いいえ14%
<もっと女性のヒーローが見たいと思う?> 思う55% どちらでもいい37% 思わない9%
<女性がゲーム内で性的に扱われていると思う?> 思う56% どちらでもない25% 思わない19%
これらのデータを見ると、作り手が売れると思っているものと、子どもたちが求めているものがマッチしているかもわからなくなる。
子どもは主人公の性別なんてどうでもよく、男の子なんて本当にどうでもいいと思ってる。だが(北米の)作り手は女の子のキャラクターを入れるとゲームが売れないと思い込んでるから、マーケティングにお金をかけず、女の子を入れないし、女の子に向けたものもそう作られない。その結果、ゲームが売れなくなるという。「作り手が時間、情熱、エネルギーをかけて開発したものが売れないなんて恐ろしすぎる」(アシュリー)。
●女の子はゲームを買いたがっている
だらだらと並べてきたが、要約すると、
・女の子はいろいろなゲームで遊んでいる
・男の子は女の子がゲームで遊ぶことを知っている
・男の子は女の子がどんなゲームで遊んでいるかは知らない
・男の子はもっと女の子にゲームで遊んでほしいと思っている
・男の子は男の主人公じゃなくてもいい
・女の子は女の主人公のほうがいいと思っている
・女の子はゲームの中で描かれる女性像がアホみたいだと思っている
ということがわかる。
「女の子はゲームを買いたがっています。皆さんもその購入力に頼ってみたらいかがでしょうか?」というふたりから作り手へのメッセージは、そのまま日本にも当てはまるところがあるのかもしれない。