水素爆発

 2001年11月7日、静岡県浜岡町の中部電力浜岡原発1号機で、非常用冷却系の蒸気配管に事故が発生した。

 事故が起きたのは、非常用炉心冷却系の高圧注入系(HPCI)で、非常時に炉心を冷やす安全システムの一部である。作動するかを見極める「作動確認試験」の真っ最中に、蒸気が通る配管の一部が引きちぎられる様に破断した。原因は,聞き慣れない「水素爆発」で世界でも例を見ない事故である。

 保安院の判定では、今回の事故の大きさは国際評価尺度(INES)の8段階の下から2番目「レベル1」(暫定)とされたが、世界の原子力関係者にとっては極めて衝撃的な出来事だった。沸騰水型原子炉が世界で初めて商業運転を開始して以来、41年余の積算運転経験を積んだが、今回、全く例を見ない爆発事故が起きたのである。(日経メカニカル2002年2月号より)

 事故の原因について、原子力安全委員会、原子力事故・故障調査専門部会の報告「中部電力株式会社浜岡原子力発電所1号機における事故・故障に関する調査報告書」平成14年5月によれば、配管破断の原因は、原子炉内で炉水の放射線分解により生じた高濃度の水素と酸素が、主蒸気とともに当該配管に運ばれ配管頂部に蓄積。それに、配管内面に付着していた貴金属の触媒作用の助けもあって着火した可能性が高い。着火の要因については完全に特定されるには至っていないが、他の説明可能な原因が見出されないので、保安院の推定は妥当なものである。とある。

 同保安院によれば、同じ沸騰水型軽水炉は29基(電力6社)あり、報告書が指定する「水素がたまりやすい構造」の配管は5電力20基で32カ所確認された。

●周辺自治体からの廃炉要求
 一方、周辺の自治体は気が気ではない。中部電力浜岡原発2号機(静岡県浜岡町)で5月に起きた冷却水漏れ事故を機に、廃炉を求める意見書や申し入れが周辺自治体の議会で相次ぎ、既に4市町に上っている。老朽化などを理由に反原発派住民らが起こした廃炉の仮処分申請に加え、議会の異例の“廃炉コール”は、地域住民の不信の根深さを示している。

 2号機の事故は、1号機の配管破断・炉水漏れ事故(昨年11月)後、半年ぶりに安全宣言して運転を再開した直後に起きた。沼津市議会は今月6日、「事態は深刻」と2号機の廃炉を求め、改善策を中電に申し入れた。浜岡町の隣の小笠町議会が中電の安全確保の姿勢を批判、再点検で老朽化が認められれば1、2号機を廃止するよう要求書を中電に出した。吉田町議会やその隣の榛原(はいばら)町議会も、経済産業省や県に1、2号機の廃炉指導を求めた。このほか、浜岡町を含む5町の浜岡原発安全等対策協議会(会長・本間義明浜岡町長)は原因の徹底調査を中電と国に申し入れ、「調査結果を待って対応を決める」という。

 経産省の原子力防災課長は「廃炉は事業者の判断であり、国に権限はない。徹底した原因究明と安全対策措置をとっていきたい」と話した。(毎日新聞2002年6月20日より)

 経済産業省のこの答えは何だろう?電気事業者の問題とでも言いたげだが、保安院の「原因はよく解らないが同じ構造を取りあえず修正しました」という回答と共に、非常に無責任である。電気事業者側もまた、これで報告は出たし「国は推進だから」と運転を始めるのだろうか。




<参考>
日経メカニカル2002年2月号 ■事故は語る「引きちぎられた浜岡原発の配管」
http://dm.nikkeibp.co.jp/free/nmc/kiji/h569/j569.html
「中部電力株式会社浜岡原子力発電所1号機における事故・故障に関する調査報告書」
http://kokai-gen.org/information/7_032-hamaoka.html#hazime
原子力資料情報室より 「浜岡原発1号炉で連続する重大な事故」
http://www.cnic.or.jp/news/topics/hamaoka/
電気事業連合会・トラブル事例解説「余熱除去系の配管破断に伴う原子炉手動停止」
http://www.fepc.or.jp/shikihou/shikihou20/p6.html
(情報広報委員会)

かんくま通信43号(2003/06/18)に掲載

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