国際ペン・日本ペンクラブ共同談話            「後藤健二氏の残酷な殺害は世界中の現場にいるジャーナリストや作家が直面している危険を示している」

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(画像は国際ペンホームページより。禁転載)

 国際ペンは、日本のジャーナリスト、後藤健二氏(42)が、「イラクとシリアのイスラム国」(ISIS)と称する反乱グループによって殺害されたことに衝撃を受けている。グループは、経験豊かな戦場ジャーナリストで作家の後藤氏を斬首するビデオを公開した。後藤氏は、ISISに捕えられていた治安コンサルタントの湯川春菜氏の安全と解放を求めて、シリアに向かい2014年10月に捕えられていた。
 ここ数カ月間でも、ISISによってイラクのジャーナリスト、モハナド・アル・アキジ氏、2名の米国ジャーナリスト、ジェームス・フォレイ、ステファン・ソトロフ両氏ら、何人かのジャーナリストが殺害されている。 
 ジョン・ラルストン・サウル国際ペン会長は「後藤健二氏の残酷な殺害は、表現の自由という基本的な権利を実践したばかりに、命の危険にさらされている世界中のジャーナリストや他の人々の、もう一つの悲劇的な記憶となる。悲しいことに後藤氏の殺害は例外的ではなく、ジャーナリスト達が、世界の大部分で表現の自由が抑圧されているなかで活動を続けていることを示している」と語った。
 浅田次郎日本ペンクラブ会長は「日本ペンクラブは後藤健二氏の残虐な殺害を最も厳しい言葉で非難する。私たちは後藤健二氏のご家族に深い同情とお悔みの言葉を送らせていただくとともに、このような難しい状況においても、紛争解決のための平和的対話を求める」と述べた。
 堀武昭国際ペン専務理事(日本ペンクラブ常務理事)は「どのような状況であれ、ジャーナリストの安全は尊重されるべきで、ジャーナリストの活動を危険に陥れるどのような行為も全く許容できないものである。日本ペンは後藤健二氏の殺害に責任のある人々が正義の裁きを直ちにうけるよう求める」と述べた。

 国際ペンは世界に140のセンター(支部)があり、20000人以上の職業作家、ジャーナリストらが所属する国際市民団体です。

(2015年2月3日)
*英語版はロンドンで2日付で発表しました。
英語版はこちらから→国際ペンホームページ

日本ペンクラブ声明「フランスにおけるメディアへのテロ攻撃に強く抗議する」

 フランスのパリで1月7日におこった雑誌社とジャーナリストに対するテロ攻撃に対し、日本ペンクラブは、強く抗議し、犠牲となった方々に哀悼の意を表明する。
 世界各地で、様々な理由でジャーナリストが脅迫され、生命の危機に晒されており、日本も例外ではない。民主主義国家の根幹となる表現の自由を脅かすテロ行為は、いかなる思想信条に基づくものであれ、許されない。
 今回の事件に対し、言葉が憎悪を生み出し、さらに憎悪が憎悪の連鎖を生まないことを強く願うとともに、全ての人々が萎縮することなく自由にものを言える社会が守られることを求める。
 
2015年1月8日
一般社団法人日本ペンクラブ
会長 浅田次郎

日本ペンクラブ声明【太平洋戦争開戦の日に当たって】

 いま、近年のこの国の様子を静かに顧みるとき、世の中がぐらりと傾いてくるような気分に襲われることはないだろうか。この重苦しい気配はどこから生じているのか。

 一九四一(昭和十六)年十二月八日、七十三年前のこの日、日本は太平洋戦争に突入した。その十年前からつづく日中間の戦争が泥沼化するなか、国際的孤立は深まり、景気は冷え込み、民心も鬱屈した。そのあげくの開戦はつかの間、閉塞感を打ち破るかのような幻想をあたえたが、それこそ近隣諸国の人々をも不幸に陥れて突き進んだ大破局への道であった。
 あの時代、政治権力と軍部は一体化し、経済界もアカデミズムもマスメディアも翼賛体制の下に組み敷かれた。日本ペンクラブも、その間、いっさいの自由な言論・表現活動を封じられ、文筆家としての生命を奪われた歴史を持つ。

 権力の野放図な振る舞いに歯止めをかける仕組みを、社会の土台に据えなければならない(主権在民・立憲主義・三権分立)。
 戦争は絶対にしてはいけない(平和主義)。
 一人ひとりの尊厳と人権は十分に尊重されるべきだ(基本的人権)。
 私たちの戦後は、こうした基本的原則に基づいて始まったはずであった。

 しかし、惨憺たる歴史の反省から再出発した日本は、近年、大きく変質しようとしている。
 政府は、特定秘密保護法によって、軍事・諜報情報も不都合な情報も恣意的に隠しおおせるようになった。集団的自衛権の発動によって、世界のどこででも武力の行使と戦争を行える態勢を整えようとしている。また、あの過酷な原発事故にも関わらず、原発推進を再び国策として掲げ、再稼働を急いでいる。
 これらが、かつての強権的な国家、絶対の国策の再来でないとしたら、いったい何だというのか。この先に目指されているのは、日本国憲法の根幹にある主権在民・平和主義・基本的人権等の精神の簒奪と否定であろう。それは、この社会を、国家を前面に押し立て、個々人の生命の安全や人権を二の次にし、戦争も辞さない世の中につくり替えていくことに他ならない。
 これら差し迫った事態が、日本の現在に重苦しさをもたらしている。

 これまで長い間、戦争の記憶は終戦記念日と結びつけられ、語られてきた。玉砕・空襲・原爆・飢餓・抑留等々の悲惨な戦争体験から学ぶことは、いまも少なくない。だが、今日の事態はそれにもまして、こうした悲惨さをもたらした元凶にまで遡り、現在の動きと重ね合わせて見ることを私たちに促している。
 私たちは十二月八日を忘れない。その失敗から得た痛切な教訓こそ、日本の現在を歴史のながれのなかで見定め、未来を見通す決定的な手がかりとなる、と信ずるからである。

               二〇一四年十二月八日
                                   一般社団法人日本ペンクラブ     
会長           浅田 次郎  
副会長         下重  暁子  
                                                                                            中西 進    
西木 正明 
専務理事      吉岡 忍      
常務理事    高橋 千剱破
野上   暁    
   堀     武昭   
                                                                                                                   松本 侑子   

言論への暴力は絶対に許さない。

 いま、表現行為を抑え込もうとする事態が相次いでいる。
 記事を理由とする、朝日新聞元記者や関係者に対する脅迫行為、また、広島大学教員の講義や各地のイベント開催における、当事者及び関係機関を脅す行為などである。
 私たち日本ペンクラブは、ペンの力を信じる者の集まりとして、たとえその主義主張が自分に合わないとしても、言論や学問の自由を暴力によって封じようとする行動は断じて許されないと考える。しかも自らの身は隠し、陰から表現者を蔑め貶め、社会的あるいは物理的に抹殺しようとする行為は極めて卑劣である。
 言論には言論で対抗する、この当たり前の基本ルールをもう一度社会全体で確認し守っていきたい。

                                                                                  2014年10月15日          
一般社団法人日本ペンクラブ     
会長             浅田次郎
言論表現委員会委員長 山田健太

特定秘密保護法施行の閣議決定に対する談話

 いつ、どこであれ、言論・表現の活動は多かれ少なかれ国家や権力との緊張関係のもとで行われる。こうした活動に携わる私たちはいかなる事実、いかなる情報であれ、さまざまに工夫を凝らして探り当て、それを公表し、論評する自由を確保してきた。この自由は、特定秘密保護法なるものが施行されたところで、いささかも揺らぐものではない。
 もし万が一、この法律を根拠に、こうした自由を少しでも制約しようとする動きがあれば、私たち日本ペンクラブはけっして見逃さず、毅然としてたたかう覚悟であることを、ここに表明しておくものである。
       
                             2014年10月14日
                                  一般社団法人日本ペンクラブ
                                                                                                 会長               浅田次郎
言論表現委員長   山田健太

「特定秘密の保護に関する法律施行令(案)」に対する意見

2014年8月21日
一般社団法人日本ペンクラブ

 はじめに基本的な考え方を確認しておきたい。
 われわれは、立法過程において示された「国の安全保障は常に知る権利に優先する」との考え方は誤っている、と考える。両者はバランスに配慮しつつ、具体的情勢と個別事項ごとに判断されるべきものである。
 このことは主権在民を根幹とする日本国憲法の趣旨に沿うものであるとともに、秘密保全法制度を有する米国や英国などにおいても確認されている基本的な考え方となっている。しかも日本はすでに情報公開法を有し、政府が保有するすべての情報は国民のものであるという原則にのっとり、特定の例外事項を除き行政情報はすべて開示されるべきであることを宣言している。
 これは、政府が国家安全保障上の理由からある情報を例外的に不開示にする場合は、国民に対してその理由をきちんと説明する義務を負うということである。この開示原則と不開示の場合の説明責任は、特定秘密保護法にかかわる法制度においても等しく適用されるものでなくてはならない。

 この基本原則にのっとり、われわれは取材・報道・表現活動に従事する者として、以下の修正を求める。

1.素案Ⅰ3(3)は、取材を受けた公務員等が、その旨を上司に通報することを義務付ける規定である。このような外部からの正当な取材活動を逐一報告させ、厳しく管理する制度を導入することは、公務員等が取材を受けること自体を忌避させるに十分であり、取材・報道の自由を大きく制約することにつながりかねない。したがって、当該規定は削除すべきである。

2.素案Ⅰ2(1)ウは、法に規定された取材・報道行為に対する配慮条項を再度確認している。その詳細は素案では示されなかったものの、逐条解説に「許される取材行為(正当な業務による行為)」の具体例が例示されている。
 しかし、そもそも取材は状況や内容に応じ、類型化が困難な活動である。逐条解説に書かれていないグレーゾーンの諸活動については、恣意的な判断によって違法行為とされ、取り締まりの対象にされるとすれば、これもまた取材・報道の自由を大きく阻害することになりかねない。したがって、素案(運用基準)では、取り締まりの際の「著しく不当な行為」とは何かを具体的に例示すべきである。
 なお、立法過程において、「社会的通念に反する」とは、過去の裁判例から「良識」で判断すると説明された。表現規制が遵守すべき規準は本来きわめて例外的であるべきだが、取り締まり当局(行政)の「良識」によって違法か否かを判断するなどということが、この例外性に反することは明らかである。われわれは、少なくとも取り締まり対象をこうした曖昧な判断に任せるのではなく、明らかに違法な取材行為に限定するよう運用基準を改めるべきだと考える。

3.政府の不正や違法や過誤を暴き、広く知らせることは、取材・報道・表現活動に従事する者の重要な使命のひとつである。そして、内部情報のリークがしばしばそのきっかけとなって、民主主義の健全性が回復されてきたことは歴史が証明している。秘密保護法制においても、違法・不当な政府活動を正すための内部通報者保護の制度は必要不可欠と言わなければならない。ここで重要なことは、リーク先の取材者やメディア機関が十分に機能することと同時に、通報者がのちに不利益な人事等の報復を受けることのない保証の仕組みである。
 しかし、素案で示された制度には、こうした民主主義を健全に成熟させるための配慮をした形跡がまったくうかがえないどころか、あらかじめ機能しないように設計したとしか思えない内容になっている。将来に禍根を残さないために、ここも早急に改善されるべきである。

4.通常、われわれが政府活動の取材をする場合、一般の行政文書であれ、秘密指定文書であれ、適正に保管されていることを前提とする。やみくもに形式的な秘密指定なされていたり、重要資料がぞんざいな扱いをされ、行方がわからなかったり、破棄されてしまったのでは、取材の糸口さえつかめず、重要な問題を追及する術を失うからである。
 こうした観点からすると、文書の適正な管理を目指して「重層的な組織」の設置が決められたこと自体は一定の前進ではある。しかし、現在示されている内容では、その組織が秘密の指定と解除の適正な監視をする機能を持ち合わせているとは到底思われない。これについても抜本的な改善が必要である。
 その際、この組織には「独立性」「拘束性」「網羅性」を持たせることが是非とも必要である。
 具体的には、人的独立性を担保するために、出向人事は禁止すべきであり、そのためにすべての職員を移籍することと、アーカイブの専門知識を有する専門職員としなければならない。さらに制度的な独立性を確保するために、この組織を国立公文書館の管轄にするなどの工夫が求められる。
 また、この組織に他の政府機関に対する拘束力を持たせるために、その調査権限に強い強制力があることは必須であり、そこにはあらゆる秘密指定文書を網羅的に閲覧できる機能が含まれていなければならない。
 これらの機能を欠いた組織は、単に現場の文書管理を追認することしかできず、せっかく設置した組織全体が何の役にも立たないだけでなく、行政コストの無駄を指摘されるだけに終わりかねない。

5.今回の素案には、政府によっていったん秘密指定された情報の解除の仕組みが欠落している。たとえ取材・報道活動によってその指定が不当・違法である疑いが濃厚になった場合でも、秘密指定をした行政機関はその情報の存否も含め、すべての説明責任を免れる仕組みになっている。素案が言うのは、要は秘密指定をした行政機関がいずれみずから解除するのを待て、ということである。
 われわれはこのような無責任で、かつ民主主義の原則から大きく逸脱した制度を認めることは到底できない。

以上

日本ペンクラブ声明 「集団的自衛権に関わる政府基本方針の決め方は許されない」

 安倍首相の政治手法はあまりに乱暴ではないか。
 国会の議論も閣議決定もしないまま個人的に集めた「諮問機関」なるものの報告を受けて、憲法の解釈とこの国のあり方の根本を一方的に変更しようとしている。
 しかも、今回の決定の基礎となる「諮問機関」や閣僚懇談会の議事内容はほとんど何も公開されていない。
 これら民主的な手順をまったく踏まない首相の政治手法は非常識であり、私たちはとうてい認めることはできない。

2014年5月15日
 一般社団法人日本ペンクラブ
 会長 浅田 次郎

日本ペンクラブ声明「児童ポルノ禁止法改正を名目とした言論表現規制に反対します」

 私たち日本ペンクラブは、児童ポルノ禁止法改正を名目とした言論表現規制に反対します。
 政府は今回の改正に伴い、広範に漫画やアニメ全般を取り締まりの対象とする方針ですが、それは本来守られるべき表現の自由を著しく侵害し、ひいては表現行為やその内容の多様性を失わせるものであります。また、「単純所持」の禁止、販売や流通の関係者にまで及ぶ罰則規定とその厳罰化等は、近年の社会に不穏な影を落としている報道・出版への圧迫を尚一層加速させるものとして、表現活動に携わる私たちに強い危機感を抱かせます。 
 従来のルールを逸脱した表現物から子どもたちを守ることは、現行法制度によって可能であり、出版業界も自主規制のための取り組みを続けています。肝心の規制基準が曖昧なまま規制対象を一挙に拡大する今回の法改正によって、親が子どもの入浴写真を成長の記録として所持することすらも法に触れかねない社会へと転ずることが、果たして子どもたちに良い影響をもたらすのでしょうか。
 自由に開かれているべき子どもたちの未来が言論表現規制によって不条理に抑圧されることがないよう、国会での冷静な議論と、見識ある結論を望みます。

                                2014年3月17日
                         一般社団法人日本ペンクラブ
                         会長           浅田次郎
                         言論表現委員長   山田健太
                         「子どもの本」委員長 森絵都  

日本ペンクラブ声明「ウクライナにおける平和的話し合い、クリミア・タタール人の安全と言語権の尊重を求める」

  日本ペンクラブは国際ペンのウラル・アルタイ・ペン連帯ネットワークの一員として、20126月ウクライナのクリミア半島を訪れ、クリミア・タタールの作家と交流した。

 クリミア・タタール人は第二次世界大戦中に、ふるさとであるクリミア半島をスターリンにより追われ、苦難の旅の後、ウズベキスタンに定住した。ソ連の崩壊後、クリミア半島への合法的帰還を果たし、同地で少数民族として暮らしている。彼らは帰国後も困難な状況にあり、自らの文化・言語の権利の保障と拡大を求めている。

 ウクライナ情勢の緊迫化のなかで、クリミア・タタール人はウクライナのみならず、ウクライナ内のクリミア自治共和国の少数民族としても、再び将来が見えない立場に追い込まれている。

 日本ペンクラブは、外部からの軍事的介入・圧力に強く反対し、クリミア・タタール人を含むウクライナ国民自らが、流血ではなく平和的話し合いを行い、多民族の共生をはかるよう切に希望するとともに、クリミア・タタール人の安全と文化・言語権の尊重を強く求める。

 

2014317

 

一般社団法人日本ペンクラブ

   国際委員長 佐藤アヤ子

日本ペンクラブ声明 「イリハム・トフティ氏の逮捕・起訴に抗議し、即時釈放を求める」

 日本ペンクラブは、中国のウイグル族の研究者で、ウイグル・ペンのメンバーでもあるイリハム・トフティ氏が当局により拘束され、2014225日、国家の分裂活動に従事したとして起訴されたことに驚きを禁じえない。

 イリハム・トフティ氏は、ウイグル族の人権擁護に取り組んできたが、独立国家樹立を唱えたことも、暴力やテロに賛同したこともない。

 イルハム・トフティ氏の即時釈放と起訴の取り消しを求めるとともに、中国政府自らが署名している国際人権規約や自国の憲法に精神に立ち、表現の自由を尊重することを要望する。

2014317

一般社団法人日本ペンクラブ

獄中作家委員長 西木正明

2014
2013
2012

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