ビッグデータとプライバシー保護、微妙な成り行きの米EU、そして〝仲間外れ〟の日本

コメントする

03/09/2015 by kaztaira

ビッグデータ時代のプライバシー保護に向けた動きが、米国、EUで慌ただしくなっている。

米オバマ政権は「消費者プラバシー権利章典法」の草案を公開したものの、産業界、消費者団体の双方から批判が噴出。

さらに相前後して、検討が続くEUの「個人データ保護規則」の修正案、とされる文書が流出。当初案から後退した、とこちらも批判の矢面に。

By vintagedept under Creative Commons license (CC BY 2.0)

By vintagedept under Creative Commons license (CC BY 2.0)

プラバシー保護では〝仲間外れ〟と言われる日本も、個人情報保護法を全面施行から10年ぶりに改正すべく、今国会提出に向けて法案とりまとめが続く。

ただ、一体何が変わるのか、門外漢にはかなりわかりにくい内容のようだ。〝仲間外れ〟解消への道は、まだ遠そうだ。

●「プライバシー権利章典」

ホワイトハウスが「消費者プライバシー権利章典法」の草案を公開したのは2月27日だ。

privacy1

オバマ政権は2012年2月23日に、デジタル時代の消費者プライバシー保護政策として、「権利章典」の概要を打ち出しており、2年がかりでとりまとめたものが今回の草案だ。

privacy2

(1)透明性(2)個人のコントロール(3)文脈(目的)の尊重(4)収集制限と責任ある利用(5)セキュリティ(6)アクセス権と正確性(7)説明責任、という「権利章典」の基本方針は、概要の段階からほぼ踏襲。

これらに違反した場合には、連邦取引委員会(FTC)による制裁、もしくは州検事総長による民事訴訟の対象となる、という構成になっている。

罰金の総額は2500万ドル(約30億円)以下、とされている。

●産業界と消費者団体

タイトルにも「討議草案(ディスカッション・ドラフト)」と表記してあるが、早速、産業界、消費者団体、さらには連邦取引委員会などからも、批判の声が上がっているようだ。

まずは消費者団体や人権団体。

消費者同盟(CU)電子フロンティア財団(EFF)民主主義・テクノロジーセンター(CDT)などの14団体は、3月3日、オバマ大統領宛ての書簡を公開。

privacy3

「『権利章典』は消費者のプライバシー保護について、企業に幅広い抜け道を認めている」などと草案の問題点を指摘している。

一方の産業界。

2000社が加盟する米家電協会(CEA)は、「この提案は米国のイノベーションを阻害し、有益なサービスや製品の可能性をつぶしてしまいかねない」と懸念を表明

privacy4

グーグル、フェイスブック、アマゾン、ヤフー、ツイッターなど41社が加盟するインターネット協会(IA)も、「協会のメンバーは、ネット上のユーザー保護について、いずれも先進的な取り組みを行っている。(中略)今、提示されている広範な法案は、不必要で曖昧な規制の網をかけるものだ」などと批判の声明を出した

privacy5

さらに、クリスチャン・サイエンス・モニターによると、連邦取引委員会のコミッショナー、ジュリー・ブリルさんは、今の草案では、データブローカーなどの業者への抜け穴があるとし、「消費者プライバシー権利章典の中に、消費者保護をきちんと位置づける必要がある」と述べたという。

●EU規則案の流出

米消費者団体などがオバマ大統領への書簡を公表したのと同じ3月3日、EUでも動きがあった

やはり2012年1月に欧州委員会が提案、プライバシー法制の改正となる「個人データ保護規則」制定に向けた審議内容とされるものが、ネットで暴露されたのだ

privacy7

EUのプライバシー保護の枠組みとしては、1995年制定の「個人データ保護指令」がある。これは、EUの加盟各国が、この指令に基づいて法整備を行うというガイドラインのようなものだ。

これに対して「個人データ保護規則」は、ビッグデータ時代に対応する、EUの統一法として審議が続いてきた。

2014年3月には欧州議会本会議で可決。現在は、閣僚理事会での承認に向けた作業が行われている。

その審議過程の修正案を、ネットの人権擁護団体の欧州デジタルライツ(EDRi)アクセスプライバシー・インターナショナルパノプティコン財団が共同で暴露。「規則案が〝抜け殻〟にされている」と糾弾したのだ。

privacy6

EDRiなどによれば、閣僚理事会での修正案では、「企業が〝正当な権利〟の範囲内と判断すれば、データ利用が可能になってしまう」と言う。

つまり、個人データを集める際の、目的の範囲内に利用を制限するという、プライバシー保護の大原則が骨抜きになっている、と指摘。

さらに、個人(データ主体)による、自分に関するデータへのアクセス権とデータの透明性を規定した条文が、修正案では丸ごと削除されている、などと指摘している

ウォールストリート・ジャーナルによると、規制緩和に向けて、ドイツの企業などがロビー活動に動いているようだ。

●日本の位置

日本はどうか。

2013年9月から1年以上にわたり、IT総合戦略本部の有識者会議「パーソナルデータに関する検討会」で、現行の個人情報保護法の改正を議論してきて、昨年6月に改正大綱12月に改正案骨子を提示。

今国会への改正案提出に向けて、作業は続いているようだ

12月の骨子では、改正の目玉と見られた保護範囲の拡大について、「指紋データ、顔認識データ」「携帯電話番号、旅券番号、運転免許証番号」なども「個人情報であることを明確化」するとうたっていたが、これは見送られるらしい。

一方で、ホームページなどで告知し、本人が事後的に利用拒否をできる(オプトアウト)の手段を用意すれば、本人同意なしに利用目的を変更できる、として議論を呼んでいた「利用目的の制限の緩和」も、見送られそうだという。

結局、いわゆる「税と社会保障の共通番号(マイナンバー)」の監督機関である三条委員会、特定個人情報保護委員会を改組し、日本版プライバシー・コミッショナーである「個人情報保護委員会」を設立すること以外、何がどう変わるのか、変わらないのか、門外漢にはさっぱりわからない。

●ガラパゴスとプライバシー

スノーデン事件以降、ごたついているように見えるEUと米国だが、個人データの移転を認める「セーフハーバー協定」の枠組みが壊れたわけではない

米国の「消費者プライバシー権利章典」やEUの「個人データ保護規則」に異論が出ているといっても、「プライバシー外交」(堀部政男・一橋大名誉教授)から〝仲間外れ〟の状態にある日本とは、別次元の話だろう。

この先、プライバシー外交の〝仲間外れ〟から、さらにプライバシー政策の〝ガラパゴス〟へと、独自進化の隘路に入り込まないといいのだが。

———————————–

※このブログは「ハフィントン・ポスト」にも転載されています。

Twitter:@kaztaira

『朝日新聞記者のネット情報活用術』

電子書籍版がキンドルiブックストア楽天koboなどで配信中

cover3

About these ads

コメントを残す

以下に詳細を記入するか、アイコンをクリックしてログインしてください。

WordPress.com ロゴ

WordPress.com アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Twitter 画像

Twitter アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Facebook の写真

Facebook アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Google+ フォト

Google+ アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

%s と連携中

フォロー

新しい投稿をメールで受信しましょう。

現在53人フォロワーがいます。

%d人のブロガーが「いいね」をつけました。