埼玉県八潮市 パキスタン料理「カラチの空」
サラームアリクム。
おかげさまで大好評の、肉料理に特化したエスニック料理食べ歩き企画「東京エス肉めぐり」、第二回は埼玉県八潮市にあるパキスタン料理店「カラチの空」へYALLAH!!(アラビア語でレッツゴーの意味)。
パキスタンは、イスラーム教国のため、ヒンドゥー教による菜食主義が強いインドと比べると、肉料理のバリエーションが圧倒的に豊富。
羊、山羊、牛、鶏など、ハラール・ミートであれば、マサラ(カレー)のスパイスに漬け込んで、炒めたり、煮たり、炭火で焼いたりして食べてしまう。
「カラチの空」では、カレーやケバブ以外の日本ではまったく知られていない伝統的な肉料理が楽しめると聞いて、僕と同じく“エス肉”好きの中年男性三名を連れ、すっ飛んできました~!
八潮って、成田空港に行く時に通る首都高速三郷料金支払所の手前でしょ? 車で行くの? いやいや、TXが通ってまんがな? TXって何? つくばエクスプレスですよ! というワケで僕は今回初めてTXに乗りました。
北千住からたった三駅ながら、八潮の駅を降りると目の前に広がるやけに高い空。
おお、ここは既に武蔵野の大地!
駅前のロータリーでは「カラチの空」のオーナー、ザヒッド・ジャヴェイドさんがワンボックスワゴンに乗って僕たちを待ち受けています。
(サラーム)「サラームアリクム。今日はよろしくお願いします」
(ザヒッドさん)「アリクムサラーム。昨日はお店が夜中まで盛り上がっちゃって、全然寝てないんですよ」と日本語ペラペラのザヒッドさん。
関東内陸部や北陸には多くの在日パキスタン人が中古車のディーラーを営んでいる。
カラチの空はそんな彼らの交流の場から始まり、日本人に媚びない味が口コミやネットを通じて広がり、今ではお客の2/3以上は日本人。
(ザヒッドさん)「しかも地元だけでなく、全国から来てくれるお客さんも多いんですよ!」
駅から車で西に進むと、五分も行かないうちにいかにもパキスタン料理店らしい赤いド派手な看板が見えてきた。
「さあ、着きましたよ~!」
引き戸を開け中に入ると、店内は日本の地方都市にある昔ながらの定食屋のような佇まい。
4人がけの四角いテーブルがそっけなく並び、大型の灯油ストーブが真ん中に置かれている。
入り口付近のカーテンで区切られたファミリーテーブルに腰を下ろすと、ザヒッドさんが「はい、今日のメニューです!」と大きなホワイトボードを差し出してきた。
ガーン! 英語とウルドゥー語表記のみだ。
実は僕はウルドゥー/アラビア文字も少々読めるのだが、読んだところで、聞いたことのない名前の料理ばかりだよ〜! どうすりゃいいの?
こんな時に心強いのが同行した「東京エス肉兄弟団」のM氏。なんとパキスタン西部の都市クエッタにあるバローチスターン大学に留学していたウルドゥー語話者なのだ。
なお、東京エス肉兄弟団は団員随時募集中。入団希望者は英文の職務経歴書を僕にメール(salamuna@chez-salam.com)して下さい。お待ちしてます。
「パーヤとハリーム、チキン・ローストとチキン・ビリヤニ。そして、マトン・カラーヒーを1kg下さい」とメニューをやすやすと解読して、オーダーしてくれた。
写真入りの日本語メニューがあったと気づいたのは後になってのことだ。
骨付き肉がゴロゴロ!
パーヤ? ハリーム?
インドを毎年訪れている僕でも初めて聞く料理ばかりである。
パーヤとハリームは温めてあったらしく、すぐに運ばれてきた。
パーヤは薄い黄色のスープの中に骨付き肉というか、肉付きの骨がゴロゴロと転がっている。
牛や羊、山羊の足を皮や骨の付いたままたっぷりのお湯と少々のスパイスでグツグツ、トロトロと長時間煮込んだ料理らしい。
スプーンでスープをすくっていただくと、博多ラーメンの豚骨スープの豚骨を牛骨に換えて、少々マサラ味を足したような滋味あふれるスープである。
骨の周りに付いたゼラチン質もトロトロ。
「う~ん、コラーゲンたっぷり~!」と、連載二回目にしてありがちな台詞を吐いてしまってスミマセ~ン。
ハリームも想定外の肉料理だった!
牛のスネ肉などの脂の多い部分を三種類の豆とスパイスとともにやはり時間をかけて煮こみ、ドロドロネバネバのトロロ状にしたもの。
ブラジルのソウルフードであるフェイジョアーダに似ているが、肉も豆も完全に煮溶かしてしまっている。
長時間煮こむためパキスタンでは家庭のごちそうとのことだが、これはお腹にたまるし、精力が付きすぎて困りそうだ。
続いて、まるごと一羽の鶏を使ったチキン・ロースト。
薄い黄色のタンドーリ・チキンに似ているが、このお店ではパキスタン西部のバローチスターン風とのこと。
胴体をナイフで切り分けると、シンプルな味付けのためか、野郎四人であっという間にたいらげてしまった。
炊き込みご飯ビリヤニは近頃、都内のインド料理店でも週末の特別メニューなどで目にする事が増えた。
カレーにご飯を混ぜ、油で炒めるだけという炒飯風のいい加減な作り方をする店も多いが、このお店はムスリム流の本格スタイル。
大鍋の底にスパイスやヨーグルトに漬け込んだ鶏肉を並べ、その上に半茹でにした長粒米バスマティ・ライスや揚げ玉ねぎなどを何層にも重ね、しっかりふたをして炊きあげている。
鶏肉とスパイスの出汁が染みこんだバスマティ・ライスは食べても食べてもまだ食い足りない!
いかんいかん、まだメインディッシュが来ていないのだ!
いよいよメインディッシュ!骨の髄まで味わいます!
そして、お待ちかねメインディッシュのマトン・カラーヒー。
カラーヒーとは両側に取っ手の付いた鉄鍋の名称であり、その鍋で作った料理も指す。底の浅い鍋のため、肉の塊をたっぷりのスパイスと油、トマト、青唐辛子、しょうがなどを入れ、肉と野菜の水分と油だけで炒め煮にする。
そのため通常のカレーと比べると、より一層濃厚な味わいなのだ。
カレーを味噌汁とするならば、カラーヒーは佃煮くらいの感じ。
「カラチの空」では骨付きマトン肉1kgを使ったカラーヒーが3000円という格安価格で食べられる!
1kgで足りなければ、もちろん2kgでも3kgでも頼めるので大食漢はご安心を。
油っぽいカラーヒーにはご飯やナーンではなく、無発酵の薄焼きパンであるロティーが合う。
ロティーを一切れちぎり、それをスプーン代わりにして鍋の中で肉をつかみ、口に運ぶ。
美~味~い~!
ぶつ切りの骨からは骨髄をほじくり出すのも忘れずに。
さらに上にふりかけた針しょうがと薄切りの青唐辛子、トマトが油っぽさを和らげてくれる。
カメラなんて、あとで掃除すればいい!
ここまで僕はカメラで撮影するため、両手を汚さないようにとナイフとフォークを使って食べてきたが、この野趣溢れるカラーヒーだけは我慢できませ~ん!
食欲に身を任せ、骨を両手でつかんでガツガツと食べねば!
カメラなど後で掃除すればいいのだ!
1kgのマトン肉も四名の猛者にかかると、やはりあっという間に空になっていた。
パキスタンの肉料理五品、思う存分食べました! 腹一杯!
食後は人参入りの甘すぎないライスプディングとマサラチャーイをいただき、会計するとなんと、これだけ食べて合計11,000円、一人あたり約2700円と超リーズナブル。
これは遠くから訪れるリピート客が多いというのも納得だ。
北千住から、わずか3駅ですよ、みなさん!
ふ~、イイ午後だ。
こんな食肉の桃源郷が北千住からたった三駅の所にあるなんて、一体どれだけ多くの東京都民が知っていよう?
いや、それを知らしめるのがオレの仕事よ~!
肉をまとめて摂取した効果か、オレの血潮が無為に熱くたぎってきたぁ~!
ザヒッドさんは帰り道も駅まで車で見送ると言いだしたが、歩いても20分ほどの距離、ほてった身体を鎮めるため歩いて帰ります~。
プロフィール
サラーム海上 Salam Unagami
音楽評論家/DJ/中東料理研究家。肉食。中東やインドを定期的に旅し、現地の音楽と料理シーンをフィールドワークし続けている。活動は原稿執筆のほか、ラジオやクラブのDJ、オープンカレッジや大学での講義、中東料理ワークショップ等、多岐にわたる。著書に『おいしい中東 オリエントグルメ旅』(双葉文庫)、『21世紀中東音楽ジャーナル』(アルテスパブリッシング)ほか。朝日カルチャーセンター新宿にて「ワールド音楽入門」講座講師、NHK-FM『音楽遊覧飛行エキゾチッククルーズ』のDJを担当。中東や東欧の最新音楽をノンストップDJ MixしたCD「Cafe Bohemia~Shisha Mix」(LD&K)も発売中。www.chez-salam.com