栃木県の総合内科医のブログ

栃木県内の総合病院内科の日々のカンファレンス内容や論文抄読会の内容をお届けします。内容については、できる限り吟味しますが、間違いなどありましたら是非ご指摘ください。また、内容の二次利用については自己責任でお願いします。

論文:急性大動脈解離のレビュー

急性大動脈解離のレビュー
Management of acute aortic dissection*1
Lancet 2015; 385: 800–11

 

■導入 Introduction
 ○疫学の変化に伴い大動脈疾患の罹患率も大きく変化している。
 ○現在、大動脈疾患は大動脈センターで扱うべき専門的疾患となっている。
 ○今回のSeminarは2008年のLancetのreviewのUpdate版である。

■疫学 Epidemiology
 ○急性大動脈解離の頻度は症候性大動脈瘤の約半分。
 ・入院患者対象の疫学研究では、3/10万人年
 ・Swedenの住民対象の疫学研究では、3.4/10万人年
 ・US・ハンガリーの疫学研究では、2.9-3.5/10万人年
 ○International Registry of Acute Aortic Dissection(IRAD) 国際的な大規模レジストリ
 ・平均年齢 63歳で男性が65%、男性では16/10万人年と報告。
 ・女性は頻度は少ない(7.9/10万人年)が、非典型例が多く予後不良
 ○過去の疫学研究よりIRADの方が頻度が高い
 ・入院前死亡が含まれていたり、画像診断が進歩したりしたためと推察。

■病態生理 Pathophysiology
 ○病態生理は多彩で「組織病理」と「遺伝」が影響する
 ○大半の症例で大動脈瘤を伴わずに以下の様に進展する
 ・内膜変性か内膜壊死が先行
 ・内膜が裂ける
 ・裂けた部位から前向性や逆行性に進展
 ・炎症が持続すると偽腔内が血栓
 
■病歴・身体所見 History and presentation
 ○高血圧と結合組織疾患が頻度の多いリスク因子
 ○心筋梗塞を伴わない突然の重度胸痛か背部痛が多い
  例)過激な運動や違法薬物摂取後
 ○人生最大の痛みだったり疼痛部位の移動も多くみられる
 ○一過性ないし持続性の神経症状を伴う事もある
 ○解離が近位方向へ進めば弁膜症や心筋虚血を合併する

■素因 Predisposition
 ○高血圧が最も多いリスク因子
 ・急性大動脈解離の75%に高血圧が存在
 ・コントロール不良の高血圧が最も重要
 ○その他のリスクとしては喫煙・外傷
 ○季節内・日内変動が知られ、「冬の朝」が最も多い

■遺伝的リスク Genetic risk
 ○急性大動脈解離の約20%が遺伝子疾患関連
 ・Marfan症候群とLoeys-Dietz's症候群が多い
 ・Marfan症候群の原因遺伝子はFBN1。Loeys-Dietz's症候群ではTGFBR2。
 ・非症候性遺伝子変異で最も多いのはACTA2

■分類システム Classification systems
 ○過去には、「時間」と「部位」による分類が行われてきた。「時間」は発症2週間以内が急性、2週間以降は慢性。
 ※ただし、これは1950年頃の生存率に基づいた分類。
 ○「時間」については、その後、発症2週間以降も合併症を起こす方が多いことが知られ、分類が以下に変更
 ・超急性(24時間以内)、急性(2-7日)、亜急性(8-30日)、慢性(30日以降)
 ○「部位」については、裂けた血管内膜の位置で分類されている。
 ・厳密には、上行大動脈は腕頭動脈より近位、下行大動脈は左鎖骨下動脈より遠位、その間は大動脈弓
 ○有名な分類に、Debakey分類とStanford分類
 ・Stanford B型での合併症予測にPENN ABC分類がある

f:id:tyabu7973:20150308183222j:plain

(本文より引用)
 ○血管内治療と共に開発されたのがDISSECTシステム
 ・D(Duration of dissection:発症からの時間
 ・I(Initial tear location):裂けた内膜の位置
 ・S(Size of aorta):大動脈の大きさ
 ・SE(Segmental Extent):病変の広がり
 ・C(Clinical complications):合併症の有無
 ・T(Thrombosis):偽腔の血栓
 ○一見煩雑だが、全ての予後因子を含んだシステム

■画像診断 Diagnostic imaging
 ○診断・分類の上で画像検査は重要。一般的には、CT・超音波・MRIが用いられる。
 ○メインは造影CT
 ○診断精度のメタ解析では、陽性尤度比はMRIがCTや経食道超音波に勝る。ただ、3つの検査共に感度98-100%、特異度95-98%と非常に有用

■救急外来での早期画像 Early imaging in emergency departments
 ○ERではCT検査室が初療室の近くにあるのが望ましい。
 ○放射線読影医も常時いるのが好ましい。
 ○造影CTの撮影方法はプロトコール化し、triple rule-out protocolを用いるべし。
 ○最大の悩みは上行大動脈のmotion artifactである。

■予後規定因子 Predictors of outcome
 ○症状:IRADデータ解析による大動脈解離の死亡リスクを算出すると、
 ・再発性の疼痛や難治性高血圧 OR 3.3
 ・70歳以上 OR 5.1
 ・入院時胸痛なし OR 3.5
 ○部位:上記同様にIRADデータから
 ・大動脈径が5.5cm以上で4倍以上の院内死亡リスク
 ・初回CT検査での偽腔≧22mmは瘤形成を予測
 ○偽腔の状態も重要で完全血栓化は予後が良い

■生物学的マーカー Biomarkers
 ○大動脈解離は血管内膜の疾患。
 ・血管平滑筋:smooth muscle myosin
 ・血管間質:calponin
 ・弾性板:solubleelastin fragments
 ・血液への非血管内膜表面露出:D-dimer 臨床的に有用なのはこれのみ
 ○D-dimerは大動脈解離や肺血栓塞栓症でのカットオフを0.5μg/mlに設定
 ○急性大動脈解離への感度 97%、特異度 47%
 ○D-dimerが偽陰性になりやすい要因として、偽腔血栓化、発症初期、若年者がある。

■管理と予後 Management and outcomes
 ○Stanford Aは基本的に開胸手術
 ○Stanford Bは、合併症が無ければ保存的加療
 ※合併症とは、臓器・四肢の虚血、解離進行や偽腔拡大、破裂ないし切迫破裂、難治性疼痛や難治性高血圧
 ○発症48時間以内が最も死亡率が高い。一方、発症24時間以内に診断されているのが39%。見落としが多い。
 ○診断の遅れに関連する因子は以下
 ・女性 HR 1.73
 ・転院 HR 3.3
 ・発熱 HR 5.1
 ・血圧正常 HR 2.45
 ○初期治療は血圧管理と血圧変動安定化。
 ○第一選択はβ遮断薬の静注。labetarolは高圧・血圧変動安定化に有用。
 ○交感神経刺激回避の為にオピオイドで疼痛管理
 ○目標血圧はsBP 100-120、HR 60-80。このためには複数薬剤が必要。
 ○病変の進行がないか適宜画像検査フォロー
 ○Stanford Aは無治療だと、初日は1時間毎に1-2%ずつ死亡率が上昇。1週間後までに50%が死亡。
 ○Stanford Aの術後死亡率は、30日死亡率9%、1年後死亡率 26%、5年後死亡率 37%
 ○1999年にStanford Bに対してIVRが導入され、開胸術に代わって行われるようになった。
 ・院内死亡率の比較で、開胸術17%、IVR 9%であり、合併症ありのStanford Bの治療第一選択になっている。
 ○慢性のStanford B型大動脈解離にも血管内治療の適応あり。
 ・適応は、難治性疼痛・虚血、年に1cm以上拡大、5.5cm以上

■長期予後やフォローアップ Long-term follow-up and outlook
 ○10年生存率は30-60%
 ○遅発性の合併症リスクは、高血圧・高齢・大動脈径・開存偽腔
 ○進行抑制の為に、anti-impulseなβ遮断薬が有効
 ○定期的な大動脈評価も重要

■結論 Conclusion
 ○リスク因子の理解が進み将来予測可能になるかも
 ○従来の単純な分類から個別化した分類へ
 ○biomarkerは現時点ではD-dimerのみ
 ○Stanford Bでは血管内治療は確立された治療
 ○臨床的にsilentなStanford Bにも血管内治療が有用かも

✓ 大動脈解離について総まとめしておこう