(角田)あぁもうまったく。
この車いつもここ止まってますね。
(消防車のサイレン)火事ですね。
この風じゃやばいな。
うん。
(悲鳴)火事よ火事。
(咳き込む声)
(消防車のサイレン)
(菜穂子)すみません六本木までお願いします。
お父ちゃんお父ちゃん行ってくるからね。
千夏ちょっとな今夜なちょっと出かけるから。
な?風邪治ってないのにまたすみれ行くの!?甘いもんとお酒はダメってお医者様に言われてるでしょ!うるさいなほんとにもう。
さっさと行けよもう。
ごちゃごちゃ口うるさいのは死んだお母ちゃんそっくりじゃないかお前。
行けよ。
風邪ひいてんだから寝なさいよ。
(義三)気をつけろよ車。
あ〜あ。
「まだキミに」「愛しちゃったのよララランラン愛しちゃったのよララランラン」世田谷区世田谷6丁目の本郷丈太郎さん宅の火災から2週間が経ちました。
焼死したレストランメゾン・ホンゴウのオーナー本郷丈太郎さん72歳に対する放火殺人の疑いで逮捕されたのはレストランメゾン・ホンゴウの人気シェフで被害者の妻でもある本郷菜穂子容疑者でした。
菜穂子容疑者はなぜ愛する夫を焼死させた疑いが持たれているのか果たして彼女は本当に放火したのか今日に至るまで…。
あ〜あ。
何ため息ついてんの。
レストランメゾン・ホンゴウ一度行ってみたかったなぁ。
これ今日本でいちばん予約のとれない店の人気シェフですよ。
へぇ〜そんな有名なんだ。
えっ澤さん知らないんですか!?うん。
セレブ御用達の高級レストラン。
いちばん安いコースでも3万円。
ワインなんか飲んだ日には軽く5万円の店ですよ。
予約とれたって私たちに行けるわけないじゃないの。
仕事仕事。
ただいま。
(マミ)おかえりなさい。
ただいま。
あっ澤さんあちらに。
ご苦労さん。
大ちゃん!一課の大地係長。
例の放火殺人?マスコミの大騒ぎしてる?状況証拠は真っ黒。
動機はあるし現場から逃げ去るのも目撃されている。
火をつけたとみられるライターも見つかってる。
ただ本人が否認してる失火だと言い張ってる。
失火だというけど現場の証拠では放火なんでしょ?最近の検察は慎重でね否認のままではちょっと…。
そうよねこのまんまじゃ。
警視庁だってメンツは丸潰れだし。
で…なんとか自供をとりたいんですがねこれがなかなか手ごわい。
ここは落としの鬼と言われた澤さんに取り調べを引き受けてもらいたいんですよ。
ここの署長の了解はもう得てますのでよろしくお願いします。
えっ大丈夫ですか?ここの筋が…。
きますね。
昨日くらいからじゃないかな。
当たってます!大ちゃんの頼みなら。
それでは引き受けてもらえますか?澤千夏本件の取り調べ受けさせていただきます!〜
(那須)大地係長何考えてるんですかね?うちにはれっきとした落としの達人中山さんがいるってのに。
でも取り調べの鬼って呼ばれてるんでしょ。
どんな人か楽しみ!取り調べの鬼がなんで交通課なんですか?上に逆らって勝手なことばかりしてたそうだ。
へぇ〜。
私ちょっと様子見てきます。
え〜紹介します。
澤千夏巡査部長です。
今日から本郷菜穂子の取り調べに当たってもらいます。
再勾留も残すところ1週間。
被疑者は依然否認のまま状況証拠を積み重ねた今の状況で送致するのは甚だ遺憾です。
なんとしても自供をとり万全の状態で起訴に持ち込めるよう皆さん澤さんに協力よろしくお願いします。
では澤さん。
澤千夏ですよろしくお願いします。
では事件の概要と被疑者逮捕に至った経緯取り調べの状況をご説明します。
(麻紀)焼死した被害者本郷丈太郎72歳は青山六本木丸の内など都内の一等地に高級レストランメゾン・ホンゴウを3店舗経営する実業家でその資産は数十億と言われています。
被疑者本郷菜穂子との再婚は3年前本郷菜穂子は大変な野心家で一流シェフになるためには手段を選ばずのし上がってきたと噂される女性ですが本郷丈太郎との結婚を機に念願だった超一流といわれるレストランメゾン・ホンゴウのシェフとなり今やマスコミでもてはやされる人気シェフとして活躍中でした。
本郷丈太郎とは30歳の年の差で結婚当初はシェフの座とカネ目当てだと陰口をたたかれたそうだがシェフとしての腕は誰もが認めるところで先日フランスの権威あるエルドール賞を日本人として初めて受賞近々授賞式に出席するためフランスへ行く予定だった矢先に起きた事件だ。
本件は当初失火と思われたが現場検証の結果失火にしては一瞬にして火が回った形跡が認められ放火の疑いが浮上。
事件当夜の状況及び被害者について徹底的に調べ直したところ本郷丈太郎を狙った放火の線が濃厚となった。
被害者を恨んでいる者遺産を狙っている者など動機のある者は4名あがった。
まず被害者本郷丈太郎の一人息子本郷武史39歳はレストランメゾン・ホンゴウで専務として経理を任されていたがカネの使い込みが発覚。
本郷の逆鱗に触れ相続から外される危機にあった。
次に本郷の愛人川中ユカ26歳は最近別に男ができたんではないかと本郷から疑われ愛人としての立場が危うくなっておりしかも大変な浪費家でカネのことでも本郷ともめていた。
篠山玲二46歳はレストランメゾン・ホンゴウの元シェフ。
本郷が菜穂子と再婚したためシェフを解雇されて恨んでいた。
だがいちばん疑わしいのは妻の本郷菜穂子42歳だ。
ふだんから夫婦仲が悪く争いが絶えなかったが事件当夜もパーティーに出席する予定だった本郷丈太郎が体調がすぐれず予定を急遽変更して帰宅した際激しくやり合っていたと通いの家政婦が供述してる。
本郷:遺言状は明日書き直すと決めた。
(菜穂子)ひどいなんでそんな。
ひどい?勝手なことばっかりやって今更なんだ!勝手なことしてるのあなたじゃないですか。
浮気してるのわかってるんですよ。
うるさい!もう寝る。
お前はさっさと俺の代わりにパーティー行け
(中山)遺言状の件は顧問弁護士の話によると…。
本郷さんから遺言状を書き換えてほしいと相談されて火事のあった翌日に新しい遺言状を作る手はずになってました。
まぁ詳しくはお話できませんが奥様の菜穂子さんにとっては不利な内容でした逮捕した決め手は何だったんですか?決定的な目撃者が出た!
(中山)隣のご主人に見られてたんだ。
当初本人は否定していた。
見間違いです。
じゃああんた火の手が上がった8時ごろどこにいたんだ?ご主人に代わってパーティーに出席しなきゃならなかったのにパーティーには終了間際の9時半ごろようやく顔を出したっていうじゃないか!パーティー会場へ行く途中で気分が悪くなって公園のベンチで休んでました
(中山)しかしその後火災現場近くの大通りで彼女を乗せたタクシーの運転手が見つかると平然と前言をひるがえした。
実はあの夜新作料理を作っているとき突然本郷が帰宅して代わりにパーティーに顔を出せと。
慌てて着替えて飛び出したんですがガスをつけっぱなしだったことを思い出して引き返したんです。
でも間に合わなくて…。
私の火の不始末で大変なことになったと怖くなってその場から逃げ出してしまいました。
申し訳ありませんでした殊勝に供述しているように見せかけてるが家の中に夫がいるのを知ってて現場から逃げ出してるのが何よりの証拠だ。
しかも平然とパーティーに顔を出してる。
それに決定的な決め手となったのはこれだ!菜穂子らしい長い毛皮のコートを着た女が何かを投げ捨てていたとコンビニ帰りの学生が目撃してた。
捜索したところこのライターを発見した。
加えて火元が邸内だったのは内部の者の仕業であること。
しかも被害者が事件当夜在宅し睡眠導入剤で寝入っていたのを知っていたのは本郷菜穂子だけだったことなどから逮捕に踏み切った。
それでも本郷菜穂子は失火失火って言い張ってんですよね?ああ。
失火でうまく切り抜けられると思ったんだろうがそうは問屋がおろさなかった。
R.K…。
本郷はH。
菜穂子はN。
本郷菜穂子はN.H。
R.K…。
誰だろう?ご苦労なこった。
まぁ気のすむまで調べりゃいいがさっさと自供をとってくれよな。
時間がないんだ。
時間がないんで静かにしてください。
あの何かお手伝いすることがあれば…。
うん…。
私取調官になりたいんです。
そう…。
大学では心理学を専攻していたので活かせればと思っています。
無理かな。
えっ?今のまんまじゃ難しいかも。
そうですか。
どっから見ても状況証拠は真っ黒だもんなぁ。
ハハハハ。
澤さんはね資料を読み出すと他は何も聞こえていない。
大好きな肉まんですよ。
あっそれ半月前フランスのエルドール賞に最終ノミネートされたときのインタビュー記事ですよ。
料理のノーベル賞と言われるほどすごい名誉のある賞なんです。
あっそれと日本人初ですから。
まぁ受賞が決まったまさにその夜火災が起きたもんですから翌日の新聞は大変な騒ぎで。
人間いつ何が起きるかわからない。
まさに天国と地獄。
頂上から奈落だ。
よりによって同じ日。
「私は過去は振り返りません。
前だけを向いて生きていきたいんです」。
が口癖だそうですよ。
「私は過去は振り返りません。
前だけを向いて生きていきたいんです」。
それと鬼だそうです。
鬼?本郷菜穂子も…。
〜今日から取り調べをさせていただきます澤千夏です。
よろしくお願いします。
あなた鬼って言われてるんですって?料理のことになると鬼のように厳しくて料理の鬼と言われてる。
料理人として当然のことをしているだけですがそれが何か?私も。
あなたも?落としの鬼と呼ばれてるの。
取調官としては当然のことですけどね。
だったら…あなたなら私の申し上げてることわかってくださいますよね?本郷は事故死です。
放火じゃない。
あれは火の不始末です。
つまり失火ってことね?ええ。
あの夜パーティーに行くはずだった本郷が突然帰宅して体調が悪い代わりに顔を出してくれって言ったんです。
私はちょうど新作料理を作っているところでしたが慌てて着替えて飛び出したのでガスを止めるのを忘れてしまいました。
火の不始末は私のミスですからどんな罰を受けてでも償うつもりです。
でも私は火をつけたりなんかしてません。
まして本郷を殺すなんて。
最近本郷とケンカが絶えなかったことは事実です。
仕事上のことで意見が食い違うことが多くいい争いはしました。
本郷の浮気のことでももめてました。
でもそれは今に始まったことじゃありません。
それに今の私があるのは本郷のおかげです。
感謝してます。
感謝だけ?もちろん愛してました。
周りは私たち夫婦のことを勝手に離婚秒読みなんてマスコミはおもしろおかしく書きたてましたけど。
人は好き勝手言うからね。
本郷の浮気は病気みたいなもので…。
気にしないと言うとウソになりますが私にとっては二の次でした。
私は料理が何よりも大切です。
本郷が私を料理人として認めてくれたことが愛情の証しでした。
あなたやっぱり料理の鬼ね。
本郷にとっても私の存在は何にも代え難いものだったと自負してます。
そりゃそうよ。
私たち夫婦はお互いに支え合ってたんです。
ですから私が故意に本郷を殺すなんてありえません。
放火なんてするはずありません。
よくわかる。
わかってくださいましたか?うん。
よくわかる。
よくわかった。
でもそのあたりのところなのよね。
よかった。
澤さんっておっしゃいましたね?あなたに取調官代わっていただいてほんとによかった!え〜とどこだっけな?どこだっけどこだっけ?あったあったあった!これか。
これだ。
フランスのエルドール賞受賞したんですって?ええ。
日本人で初めてなんてすばらしいじゃない。
ありがとうございます。
でもどうしてもわかんないんだよね。
そんなすごい賞を受賞しためでたい日にあなたが旦那さんを殺して家に放火するなんて。
いくら遺産相続でもめてたにしたってさカーッとしたって妙じゃないの?そのとおりです。
ですからあれは火の不始末だと何度も申し上げてます。
うんわかってる。
でも現場検証の結果はあれ放火なんだよね。
放火じゃありません!じゃあどうしてこれ捨てた?私こんなもの捨ててません。
あなた捨てるところ見られてるのよ。
タバコ吸わないのにどうしてライター持ってたの?ですから私じゃないと。
R.KあなたのものならN.H。
R.Kって誰かな?知りません。
放火じゃありません。
あれは火を消し忘れたんです。
ウソはダメよ。
どうでした?取り調べは。
何か進展あったか?まったくありません。
じゃあ自供は無理?自供どころか被疑者が言うことにわかったわよくわかったわって。
何だよそれ。
私だってガッカリよ。
落としの鬼のかけらもなし。
でその鬼は?それがもう一度関係者調べたいって。
今更なに調べるんだ!自分たちが調べたことじゃ不満だってことですか!そんな…私に言われても。
なんで失火失火って言い張るんだろう。
放火殺人は大罪。
なんとかして罪を逃れようとしてるんじゃないですかね?放火じゃありません。
あれは火を消し忘れたんですどうも気になるな。
気になりますね。
気になる。
すみません。
(美咲)準備できました。
そろそろお昼に。
お仕事中すみません。
警察の者なんですが本郷武史さんいらっしゃいますか?先ほどちょっと出てくるって。
でもすぐに戻るって言ってましたので。
うわ〜おいしそうですね。
これ私が作った賄い飯なんですけどたくさん作ったのでよろしかったらどうぞ。
いえいえでも…。
どうぞどうぞ。
そうですか?
(美咲)ぜひぜひ。
棚からボタ餅。
結局遺産独り占めか。
あんたには関係ない。
武史君あんたさ今までさんざん店のカネくすねてきた。
俺がひと言チクったら立派な横領罪だ。
何?そんな怒るなって。
口止めしたきゃさっさとカネ用意しろ。
お前捕まったら数十億の遺産パーになるぞ。
わかったよちょっと待っててくれ。
早くしてくださいね。
おいしい。
うまい。
さすがシェフを目指す人の料理ですね。
お父ちゃんに食べさせてあげたい。
おいしいんだもん。
でも企業秘密?いえ合わせ酢にシェリー酢を混ぜてるからだと思います。
(2人)シェリー酢!ああはい。
結構酸味が強いお酢なんですけれどもふだんは洋風のお料理に使うんですが今回は…。
あの女がやったんでしょう。
だったらもう。
まだ不明な点がいくつかありまして。
じゃあ手短にお願いします。
明日から店を開くんで準備で忙しいんですよ。
お店を?そりゃあよかった。
親父の意志を継げるのは私だけですから。
そうよね。
あなたしかいなくなっちゃったから。
何ですか?それ。
まさか私を疑ってるんじゃないでしょうね。
遺産相続の権利取られちゃうところだったんですよね。
誰がそんなことを?冗談じゃない。
あの女があることないこと親父に吹き込んだんだ。
遺産を独り占めしようとして。
やっぱり遺産のことでもめてたんですね。
とにかく警察もあの女にたぶらかされないように気をつけたほうがいい。
ご忠告は肝に銘じます。
看板シェフいらっしゃらなくなって大変じゃないですか?
(武史)ああ新しいシェフに来てもらうことになってます。
かえってよかったんですよ。
よかった?
(武史)あの女はね鬼ですよ鬼。
あんまり厳しいんで従業員がみんな辞めていく。
さっきいた美咲なんかかわいそうなほどしごかれてた。
やり直し修業ってそういうものでしょ。
あれはいじめ。
美咲への嫉妬だって噂でした。
ほう嫉妬ですか。
美咲の作る賄い飯がうまいんですよ。
美咲ちゃんの裏メニュー頼むなんて贔屓の客も結構いたりして。
若い才能に嫉妬して潰そうとしてるんじゃないかって。
そろそろいいですか?明日の用意があるんで。
(ドアの開閉音)公園で待ってろって言っただろ。
あまりにも遅いからさ。
何?へえ〜店始めるのか。
シェフ必要だろ?戻ってやるよ。
チェッしけてんな!ゴミはくずかご!うるせえな関係ねえだろ。
この店の元シェフ篠山玲二さんでしたね。
さっきのお金はどういった?支度金。
シェフに戻ってくれって頼まれちゃってよ。
ハハハハウソだね。
なんだよ。
疑うなら武史さんに話を聞いてくれよ。
あんたクビにされたことで亡くなった本郷丈太郎さんのことを恨んでたそうだね。
ああ。
あの店は俺のこの腕であそこまでにしたんだよ。
それを再婚した途端お払い箱。
あの女にいいように丸め込まれたんだよ。
本郷さんが焼死した夜のことですがあんた部屋で酒を飲んでいた一人で。
いいかげんにしてくれよ俺は関係ない。
あの女がやったに決まってるだろ。
だいたい俺はもうオーナーのことは恨んでない。
本当に恨んでない?何!俺を信用できないのか!そんなむきにならなくたって。
もう一度調べ直してるだけなんだからね。
だからだったら俺じゃなくているだろ。
(篠山)もう一人怪しい女が。
死んだ本郷の愛人川中ユカ。
カネのためなら放火でもなんでもやりかねない女だ。
何よまだ何か用?篠山でしょ?あいついいかげんなこと言いふらして。
シェフに戻りたい。
口添えしてくれって泣きついてきたのよ。
断ったもんだからあることないこと。
私に別の男ができたって噂流したのもあいつよ。
あの噂デマだって言うんですか?当たり前じゃない。
私モデルとして絶対にもう一度輝きたいの。
パパは大事なパトロンよ。
裏切るなんてありえない。
そんな大事なパパが死んだのにダイヤの指輪ですか。
悲しいのとこれは別。
事件の夜は部屋で一人でいらして証明してくれる人はいない…でしたね?しつこいわね。
私じゃないって言ったでしょ!パパは私を愛してくれてた。
その証拠に私のために遺言状書き換えてくれることになってたんだから。
ねぇこういう場合遺言ってどうなるの?いつまで同じ資料ほじくり返せば気がすむのかね〜。
(ドアが開く音)お疲れさまです。
やっぱり無駄足でしたか。
だいたい事件の夜本郷丈太郎はパーティーに出席する予定を急遽変更して帰宅したんだ。
家のことを知ってたのは本郷菜穂子だけだからな〜。
本郷が睡眠導入剤を飲んで寝ていたことも本郷菜穂子以外誰も知りませんからね。
さっさと自供に追い込んでもらいたいっすよ。
あっそれ黄金のレシピですよ。
黄金のレシピ?何それ。
料理の極意が書かれたノート。
虎の巻です。
本郷菜穂子が絶対に誰にも見せずに大事にしているレシピ集なので黄金のレシピって言われてるんです。
え〜と確かこれも…。
あっありました。
これこれ。
ここです。
「あのレシピ集は私の命です。
絶対に誰にも見せるわけにはいきません」。
へぇ〜。
ずいぶん年季入ってるね〜。
何?これ。
あっあとそれと…。
「本行寺…」これお寺さんからですよね?「前略先日ご連絡いただきました神林家の十七回忌法要の件でお電話差し上げましたが通じません。
至急ご連絡いただきたくよろしくお願いいたします」。
法要は無理ですよね?そうよね。
(君代)おかえり千夏ちゃん。
ただいまおばちゃん。
義三さん留守?ここんとこよく飲み行ってんのよ。
それなんだけどさあんたの耳にちょっと入れておこうと思ってね。
すみれじゃないかと思ってんの。
すみれのママとよっちゃんが…。
えっ!?何だよまったくほんとにさぁ。
父ちゃん。
ほんとに!再婚だなんて。
買ってくるんじゃなかったもう。
(柱時計の音)
(戸が開く音)遅くなっちゃったな。
(鼻歌)お父ちゃんせっかく奮発したのにさウナギ。
いただきますよ。
かわいい娘が奮発してくれたウナギだもんな。
あ〜寒かった。
あっその前になちょいと相談があるんだよ。
いいから先食べてよ。
いやいやそう言わずにさお前。
聞いたよ隣のおばちゃんからすみれの女将さんだって。
さすがばあさんだな。
あ〜やっぱりそうなんだ。
えっ?いやあのなすみれの女将さんになひと目惚れなんだよな。
すみれの女将さんのほうがさ今ひとつハッキリしねえんだよ。
こういう時どうすりゃいいんだよこういう場合は。
いいよお茶入れてくるからさ。
えっ?他ならぬ山さんのためだからと思ってどうすりゃいいんだ…。
えっ父ちゃん!えっ?ヤマゲンって八百屋の山源?父ちゃんじゃないの?当たりめえだよ。
なんだ私てっきり父ちゃんのことかと思っちゃってさ。
バカ野郎!はははは。
ったくもう相手間違えるのもほどほどにしろよ。
何考えてんだまったく。
だって隣のおばちゃんがさ相手間違えて…。
もしかして…。
えっ?だから犯人の狙いを私たちが間違えてたとしたらそこんとこ見直してほしいんですよ。
犯人の狙いは本郷丈太郎さんじゃなくて菜穂子さんだったら?ちょっと待てよ。
澤さんあんた我々が誤認逮捕したというのか!?いえ本郷丈太郎さんはパーティーを出るために屋敷にはいなかった。
そしたら菜穂子さんを狙うしかないでしょ。
菜穂子さんは屋敷にいたんですから。
何矛盾したこと言ってるんだ?本郷菜穂子は自分を殺そうとしたやつをかばってるというのか?自分が出した失火だと言い張ってるのはどう説明するんだあぁ!?説明できなかったらもう一度見直したらどうですか?わからない人だなぁ。
何?その口の利き方は何だ。
まぁまぁまぁ。
調べ直して誤認逮捕ではなかったとわかればありがたいことじゃないですか。
堂々と検察庁に送れます。
頼みます。
もう一度徹底的に調べ直してください。
行くぞ!はい。
大ちゃんごめんねまた頭下げさせちゃって。
いえこんな頭なんか。
ありがとう。
どんな些細なことでも曖昧にしていれば冤罪の温床となる。
無駄を積み重ねてようやく真実にたどり着くのが捜査だ!これ新人のころに澤さんに耳がタコほど言われました。
それが今じゃ警視庁の係長だもんね〜。
すばらしい。
ありがとう。
いやとんでもありません。
初心忘るべからずです!頑張ります!はい!いってきます。
お願いします。
はい。
(ドアが開く音)菜穂子さんあなた恨んでる人結構いたんでしょ?誰か思い当たる人いないかなぁ?何ですか?もしも…。
もしもよ今度の放火でご主人の本郷丈太郎さんを狙ったんじゃなくて菜穂子さんを狙ったんだとしたらどう思う?事件大きく変わるよね?そんなおかしい?えぇ。
だって犯人の狙いが私だとしたら私は犯人じゃないことになります。
警察の誤認逮捕今すぐ釈放してくださるんでしょ?もちろん。
だったらどんなにいいか。
エルドール賞の授賞式にも出席できます。
でももう私にその資格はありません。
私の火の不始末で人一人死んでるんですから…。
悔しいでしょ。
夢が叶うはずだった。
これ黄金のレシピって言うんでしょ。
ずいぶん古いもんよね〜。
誰にもらった?大切に扱ってください大事なものなんです。
ごめんなさい。
誰にも見せたくないくらい大切なものだったわね。
こういうのってさ師匠から代々受け継がれるものなんでしょ?どうした?菜穂子さん。
いえ…。
(パトカーのサイレン)ご苦労さまです。
やっぱり本郷武史怪しいですね。
自分の使い込みを棚に上げて菜穂子が父親に告げ口をしたと逆恨みをしていたようですし相続は菜穂子のせいで極端に減らされたと憎んでた。
菜穂子がいなくなれば遺産はすべて自分のものだ。
川中ユカは?それが本郷さんにバレたという例の別の男思いがけない男でした。
顧問弁護士の沢村という男です。
以前同じマンションの住人に見られてます。
川中ユカと沢村弁護士…。
面目ない!ユカにまんまと利用されました。
あいつは遺言状を有利に書き換えさせるためにすり寄ってきたのにあっけなく引っかかってしまった。
したたかな女でしてね〜。
本郷さんも一度は愛人契約解消と息巻いてたのにまたコロっと丸め込まれて…。
でも罰が当たったんですよ。
遺言状を書き換えるよう画策したのに直前で本郷さんが亡くなってしまいましたから。
沢村弁護士と川中ユカが一緒に財産狙ってたとしたら?2人とも今のとこグレーってとこですか。
篠山玲二はどうなんでしょう。
まだ連絡は入ってませんね。
ええこの人ですよ。
かっこいい外車に乗ってえらい横柄だったんでよく覚えてますよ。
時間間違いない?間違いないっす。
満タンにして本郷さんの屋敷のほうに行ってあれから10分ほどしてあの火事騒ぎでしたから。
どうも。
あっどうも。
篠山のやつ現場にいたってことですかね。
はいどうぞ。
ありがとう。
はいどうぞ。
ありがとう。
あっお疲れさん。
で篠山は?アパートにいなかったんで馴染みの飲み屋片っ端からあたってみたんですけど…。
まさか逃亡とか?いや…やつの愛車はアパートの駐車場にあったからどっかでまた飲んだくれてんだろ。
じゃあ朝一番でよろしくお願いします。
わかってます!あす朝イチで篠山引っ張ってきます!
(篠山)お〜い。
はい。
おかわり!お客さん飲み過ぎよ。
大丈夫だって…。
体によくないって言ってんの。
初めて入った店だけどなかなかいいね。
あらありがとう。
ほら見て。
持ってんだよ。
あららら。
あ〜。
お〜。
ちょくちょく寄らせてもらうからさ。
あらよろしくね。
ん〜!あ…何時だ?今。
えっ?よう。
(消防車のサイレン)火が!どうしたの?静かにしなさい。
(那須)おはようございます!ああ!またうなされてたらしいっすよ。
ゆうべも火事の悪夢らしいって。
やっぱり犯人は本郷菜穂子で決まりっすかね。
今更何言ってんだ。
行くぞ。
はい。
篠山は帰ってますかね。
ああいい。
はい捜査本部中山。
えっ篠山が!?わかりました!どうしたんですか?ご苦労さまです。
世田谷中央署の中山です。
同じく那須です。
お世話になります。
こちらへどうぞ。
どんな様子ですか?
(中山)ガイシャは相当酔ってたようで事故と事件両面から捜査してます。
ただケータイ見当たらないし近くの飲み屋で飲んでて時間を気にしてたそうですから誰かと会う約束をしていたのかもしれません。
金払いもえらくよかったそうで…。
ひょっとして誰かを強請ってたのか?放火事件と関連して強請ってたってことですか?そんなことはまだわからん。
本郷武史は店のカネの使い込みの件で篠山にカネをせびられてましたね。
もう1回調べてみますか。
篠山…放火事件の犯人を目撃してたのかもしれませんね。
「オー・シャンゼリゼオー・シャンゼリゼ…」この間はごちそうさまでした。
ああどうも。
本郷さんいらっしゃいますか?あっはい。
あなたずいぶん古い歌知ってるのね。
「オー・シャンゼリゼオー・シャンゼリゼ…」ねえ美咲さん。
はい。
菜穂子シェフは厳しかった?つらかった?あ…はい。
でも私シェフに憧れてこの店で勤めてるんです。
シェフを超えるのが私の夢でしたから。
頑張ってね。
あの…。
シェフはどうなさってますか?元気よ。
戻ってこられますか?それはどうかな…。
篠山が死んだ!?ほんとですか?私じゃない。
昨夜は友人と一緒に部屋で飲んでた。
ご友人の名前教えていただけますか?前田加奈さんですが。
恋人ですか?恋人じゃ証人にならないんですか。
いやそうじゃありません。
あなた篠山さんにカネを巻き上げられてた。
脅されていたんでしょう?ああ…。
あれならケリをつけました。
ほぉ…ケリを。
違いますよ。
六本木の店のシェフを任せることで話をつけたんです。
昨夜篠山さん時間を気にしていた。
誰かと会う約束があったようなんですがね。
だから私じゃないって言ってるじゃないか。
本郷武史のアリバイは一応立証されましたが恋人なら口裏を合わせるってこともありますからね。
うん…。
大地係長。
はい。
お客様です。
誰?あ〜よかった。
お会いできて。
いらっしゃらなかったら出直そうと思ってたんですよ。
ちょっとお話が…。
実は菜穂子さん。
早急に大金を必要としてたんですよ。
3,000万です。
3,000万!ええ。
そのことで生前本郷さん大変怒ってたものですから。
菜穂子のやつ勝手なことをして困ったもんだ。
無断で新しい店の手付けを打っといて3,000万用立ててくれって泣きついてきた。
はい。
冗談じゃないよ。
誰がカネなんか出すもんか新しいお店を?ええ。
菜穂子さんなんとしてもその店を手に入れたかったようなんですが本郷さんから銀行融資の保証人も拒絶されて…。
それどころか主な銀行には融資をするなと手を回して…。
菜穂子さん相当せっぱ詰まってたようなんです。
つまり先生は放火はやっぱり菜穂子さんがやったとお考えなんですね?ええまぁ…。
一応知ってる情報はお知らせしておかなきゃと思いまして。
じゃあ私これで…どうも。
新しく店を勝手にってどういうことよ?どういうことって…。
本郷に相談したら反対されるに決まってましたから。
だから先に300万の手付けを打ったんです。
本郷は結局お金を出してくれませんでしたけど。
どうして本郷さんそんなに反対したんだろう?私が勝手に話を進めたことが気に入らなかったんだと思います。
あなた本郷さんの性格よく知ってるわよね?それなのに勝手に手付けを打った?ええ。
場所蒲田でしたよね?メゾン・ホンゴウの支店…。
蒲田にはちょっと場違いじゃないかな…。
たまたま通りかかって気に入ったものですから。
洋服買うみたいにお店買っちゃうの?いいかげんにしてください!あなたにとやかく言われる筋合いありません。
すみません…。
うちは日本一予約が取れない店といわれてます。
でも私は安くておいしい店でたくさんの人に召し上がっていただきたい…。
料理人としての夢なんです。
夢…夢いいね。
ゆうべ篠山さん須賀神社の裏の階段から転落して死んだ。
篠山さんが死んだ?うん。
篠山さん放火事件の現場にいたってことがわかったから話聞こうと思ってたのよ。
あなたが事件の夜に屋敷に戻った時間とちょうど同じごろ篠山さんも放火現場にいたの。
知りません。
見なかった?知らないって言ってるじゃないですか。
あなた毎晩うなされてるんだって?看守から報告があった。
火事のことでうなされてるのかな?あなた火事のこと何か隠してるでしょ?妙な言いがかりやめてください。
(ノック)はい。
よろしいですか?これね気になって調べてもらったの。
焼け焦げの跡ですって。
それも今度の火事ではなく相当古いもの。
あなた…。
知りません。
ほんと?知りません。
レシピが!何ですか?至急話したいことって。
お手数おかけして申し訳ありませんでした。
私です。
私が火をつけて夫を…。
本郷丈太郎を殺しました。
(玄関チャイム)
(菜穂子)あの夜突然帰宅した本郷から明日沢村弁護士が来て遺言状を書き換えると言われました。
思い直すように頼みましたが聞く耳持たずしかたなくいったんパーティー会場へ向かいました。
でも途中で引き返したんです。
今夜中になんとかしなければ間に合わなくなる。
戻って必死に頼みました。
それでも頑として書き換えると言い張る本郷にせめて蒲田に出すお店のお金をとすがりました。
でもびた一文出すものかと口汚くののしられてカッとなってとっさに無我夢中で…。
今夜しかないと…。
火をつけました。
火をつけたのはこのライター。
ええ。
誰の?わかりません。
お客様が忘れていかれたものですから。
ほんと?結局本郷菜穂子の犯行だったじゃないですか。
いったい何だったんですかね?澤さんが来てからの騒ぎは。
勾留を明日1日残して自供したんだ。
解決すればそれでいい。
でも澤さんはまだ納得してなかったみたいですけど。
まだ納得してない?はい。
篠山が死んだことを話したとき様子がおかしかったしライターのことも曖昧。
あまりに突然自供したのも気になるみたいです。
さすが落としの鬼粘りますね。
はいどうぞ。
(咳払い)で鬼はどこ行った?さあどうしても気になるところがあるとか。
熱い!ここですか?意外でしたか?新しく店を開くと聞いていたものですから。
ここも開店当時はビストロ風の店だったんですけどねそのあといろんな店に変わりまして。
どうぞ。
レストランなら他にも手ごろな物件があったんですけどねどうしてもこの店をということでした。
なんでそんなに気に入ったんですかね?以前この店をえらく気に入ってぜひ買いたいという人がいたんです。
その人と知り合いだって言ってました。
知り合い?ええ。
その人の名前わかりますか?もう15〜16年前の話ですからね。
確か横浜の港近くでフランス料理の店をやってる人でした。
結局その人は買わなかった?それがとんでもない災難で。
災難?ええ。
その契約する直前にその人の店が火事になって焼け死んだんです。
(田島)お待たせしました。
おそらくこれでしょう。
16年前に横浜市中区みなと大通りでフランス料理店が全焼してます。
隣の店から火が出て類焼ですがビストロ・KANBAYASHIという店ですね。
ビストロ・KANBAYASHI。
事件性はなく失火でしたがオーナーシェフの神林龍平さんが逃げ遅れて亡くなってます。
神林龍平。
あのライター。
R・Kのイニシャルは…神林龍平。
例のハガキも?その火事では従業員の橘菜穂子さんは軽症で助かってますね。
本郷菜穂子ね。
当時のビストロ・KANBAYASHIのお話を伺いたいんですがどなたかいらっしゃいませんか?さあ。
所有者が土地を売って跡地は確か雑居ビルが建ってるはずですが。
16年前は間違いなく失火だったようですが似てますね。
火事で一人焼死。
これ偶然でしょうか?気になるね。
はい。
(消防車のサイレン)火が…。
あったまるわよ飲んで。
家からいれてきたの。
いただきます。
はい。
おいしいです。
よかった。
あのお店はどうなってますか?武史さんが中心になって営業を始めた。
従業員はみんな?みんな頑張ってる。
そうですか。
よかった。
何か心配事?いえ…。
このライター誰のかわかりました。
私放火したこと認めました。
すべてお話ししました。
取り調べはもう終わりですよね。
神林龍平さんって方のライターでした。
お客様の忘れ物だと申し上げたはずです。
蒲田行って見てきました。
16年前神林龍平さんが買おうとしてた店。
横浜で神林龍平さんはビストロ・KANBAYASHIをやっていた。
そこであなたが働いていたこともわかった。
16年前の火事で全焼して神林龍平さんは亡くなったこともわかった。
このレシピ集は師匠の神林さんから受け継いだものよね?16年前の火災のときのこれ焼け焦げの跡。
どうしてそんなこと隠すの?今度のこととは関係ないからです。
あなたゆうべもうなされてたって?普通自供すると楽になってうなされなくなるもんなんだけど。
あなたは今回の火災でなくて16年前の火災でうなされてるんじゃないの?違います。
どうしてもわかんないのよ。
あなたのインタビュー記事を読んでいると「私は過去は振り返りません。
前だけを向いて生きていきます」。
そのあなたが過去につながる神林さんの黄金のレシピとか蒲田の店にこだわってる。
どうしてかしら?今回の事件とは何の関係もありません。
関係あるのよ。
だから調べてるの。
事件はもう片づいています。
取り調べは終わりにしてください。
まだ片づいてないの。
取り調べは取り調べる私が納得するまで続けます。
でしたら…。
でしたら私は黙秘します。
ご苦労さん。
黙秘です。
黙秘!?冗談じゃ…。
澤さんあんた大丈夫なのか?勾留は今日が最終日だ。
あと13時間しかないんだぞ!私黙秘してくれてよかったと思ってます。
負け惜しみを言うな。
何かあります。
何かある?じゃあ何かって何だよ!まあまあ中山さん。
誰かかばってるんですね。
この期に及んで何言ってるんだ。
本郷菜穂子にかばうような相手がいるか?それを今日中に確認するんです。
ようやくゲットしました。
あっ!それ本郷菜穂子の逮捕直前のインタビュー記事が載ってるやつでしょ。
えぇさすが人気者。
あっという間に完売でしたよ。
これこれえっと…。
「本郷菜穂子容疑者逮捕直前独占インタビュー」と。
ちょっと俺まだ読んでないのに。
「世間で黄金のレシピと言われているこのレシピ集は修業先のシェフから受け継いだ命よりも大切なものです。
このレシピ集を手にしたとき私は決意しました。
必ず立派なシェフになる。
私も必ずこのレシピを次に引き継いでいく」。
へぇ〜珍しいですね。
自分で過去を語るなんて。
「私も必ずこのレシピを次に引き継いでいく」。
あのお店どうなってますか?あのとき急に自分から切り出したのも…。
おい時間ないんだぞ。
どこ行くんだ!私もちょっと。
逮捕される直前この雑誌のインタビュー菜穂子さん受けてるの。
珍しく過去を語ってんのよね。
何か思い当たることない?あの女に何があろうと知ったことじゃありませんよ。
でもね菜穂子さんこのお店のことものすごく心配してんのよ。
みんな頑張ってやってってくれるかなって。
何を今更…あんな女に心配なんかされたくない。
お昼の準備できました。
あぁおいしそう。
この前いただいたシェリー酢の五目ずし。
はい。
放火したのはあの女なんでしょ。
一応自供はしています。
シェフ自供したんですか?自供はしたんだけどなんかお店のことで心配なことあるみたいで。
なんか心当たりないかな?エルドール賞のことですよ。
さっき取り消しの連絡が来たからあの女に伝えてください。
取り消し?当然ですよ。
よくも親父を殺したあとで得意になって。
胸くそ悪い。
こんなものとっとと捨ててくれ。
ちょっとごめんなさい電話。
すみませんね。
はいもしもし?お待たせしました澤です。
昨日はどうもすみませんでした横浜の田島さん。
えっ!見つかった?ビストロ・KANBAYASHIのことを知ってる人ですか?すぐまいります。
(田中)ビストロ・KANBAYASHIは親父に連れられて昔よく食べにいってました。
神林シェフと親父が親しくて。
お父さんは?亡くなりました去年。
そうですかそれはどうも。
当時のことで何か覚えていらっしゃることありませんか?どんな些細なことでもいいんです。
親父ならいろいろ話せたんだろうけど僕まだ子供でしたからこれといって。
神林シェフってどんな方ですか?陽気で楽しいおじさんで大好きでした。
小さい店だけど腕は一流だって親父もよく褒めてました。
その店で働いてた橘菜穂子さん覚えてませんか?あぁ…覚えてますよ。
ナオちゃんって呼ばれてた人でしょ。
神林シェフ料理のことになると人が変わったように厳しくてしょっちゅう人が変わってたけどナオちゃんだけはずっと続いてたんで。
そういえばどうしてるかなぁ千晶ちゃん。
千晶さん?娘さんですよ神林シェフの。
神林シェフにお嬢さんいらしたんですか?えぇ。
火事のあと親戚にもらわれていったって聞きましたけど。
どうもお手数でした。
ありがとうございました。
はい澤です。
家出した?じゃあ今は?無駄でもいいから捜してください。
親戚をたらい回し!?とにかくね神林千晶の行方急いで捜しなさい。
時間がないんだ。
はい澤です。
えっ?あぁ空振り。
はいはいありがとう。
はい大地です。
あぁどうもご苦労さまです。
そうですかはい。
ありがとうございました。
はい澤です。
あっ田中さん。
先ほどどんな些細なことでもって言ってたんで。
神林シェフが千晶ちゃんと僕によくごちそうしてくれた特製の五目ずしうまかったの思い出して。
五目ずし?あのちょっとひと味違うおしゃれな味の五目ずしで。
シェリー酢?そうですシェリー酢です。
千晶ちゃんと僕シェフが作ってくれるのをいつもワクワクしながら見てました。
「オー・シャンゼリゼオー・シャンゼリゼ」って口ずさみながら。
(神林)「オー・シャンゼリゼオー・シャンゼリゼ」「いつも何かすてきなことがあなたを待つよシャンゼリゼ」「オー・シャンゼリゼオー・シャンゼリゼ」「いつも何かすてきなことがあなたを待つよシャンゼリゼ」「オー・シャンゼリゼオー・シャンゼリゼ」「いつも何かすてきなことが」「あなたを待つよシャンゼリゼ」えっ!?永井美咲は神林の娘の千晶ですか?そうよ。
澤さんは菜穂子の取り調べをお願いします。
私は永井美咲を。
〜すみません。
わかっちゃいました。
菜穂子さんあなた美咲さんかばってるんでしょ?あなたがお店を気にしていたのは美咲さんを心配してたから。
永井美咲は神林千晶だった。
そのことがわかって謎が解けた。
16年前火災で父親を亡くした美咲さんはあなたを恨んでた。
あなただけが生き残ってなぜ父親を助けられなかったのか?神林千晶は永井美咲と名前を偽ってあなたのもとで働き出した。
あの放火はあなたを狙ったもんだったの。
あなた全部わかってたんでしょ?どうしてかばうの?あなたを狙った美咲さんをどうしてかばうの?
(玄関チャイム)
(玄関チャイム)管理人さんに連絡して。
はい。
〜警部。
ん?
(那須)世間で黄金のレシピと言われているこのレシピ集は修業先のシェフから受け継いだ命よりも大切なものです。
このレシピ集を手にしたとき私は決意しました。
必ず立派なシェフになる。
私も必ずこのレシピを次に引き継いでいく。
はい。
(麻紀)失礼します。
(ノック)美咲さんがいなくなりました。
えっ?犯行を自供した手紙が残されていました。
遺書だと思われます。
(美咲の声)本郷邸の放火は私がやりました。
申し訳ありませんでした。
美咲さんどこに行ってるか心当たりない?間に合わないのよ。
あなたそれでいいの?美咲さん死ぬつもりなの。
助けてください。
美咲さん助けてください。
おそらく本行寺だと思います。
今日は神林シェフの17回忌です。
(美咲の声)あの日エルドール賞受賞の知らせを受け菜穂子さんはインタビューに応じて言いました。
私は過去は振り返りません。
過去を引きずっていては未来も成功も叶いません
(美咲の声)許せなかった。
火事のとき父を見殺しにしたうえにレシピ集を横取りし父を踏み台にして勝ち取った栄光で得意満面な菜穂子さんが許せなかったんです。
私が名前を偽って菜穂子さんのもとで修業したのはいつか菜穂子さんを超えるシェフになって見返してやるつもりだったからです。
それが父のことを過去として葬った菜穂子さんへのいちばんの復讐だと信じて。
でもあの夜私はどうしても自分をおさえられず夢中で本郷邸へ向かいました。
父の形見のライターを持って。
神林の娘だと名乗って菜穂子さんにせめて亡き父に詫びてもらうつもりでした。
チャイムを鳴らしても応答はなくしかたなく裏口へ回りました。
菜穂子さんはいるはずでしたから。
裏口の鍵の隠し場所は以前食材を運ぶのを手伝ったときに見て知っていました。
私は過去は振り返りません。
過去は振り返りません《許せない絶対に許せない》
(美咲の声)絶対に許せなかった。
〜
(美咲の声)殺すつもりはありませんでした。
炎に巻かれて死んでいった父の苦しみをせめて菜穂子さんには忘れないでいてほしかった。
でも家にいたのは菜穂子さんじゃなかった。
まさかオーナーが…。
本郷丈太郎さんが眠っていたなんて思いもしなくて翌日のニュースで知って取り返しのつかないことをしてしまったと…。
あの夜料理の途中で本郷の代わりに急にパーティーに行かねばならなくなって。
(菜穂子)ガスの火を止めてパーティー会場へ向かいました。
でも途中でふと気になりました。
本郷が睡眠導入剤を飲んだあとお酒を飲もうとしていたことを思い出したんです。
慌てて引き返したらすでに家は燃えていました。
(菜穂子)そのとき見たんです。
美咲さんの仕業だと確信しました。
美咲さんの狙いが私だということも…。
うわぁ
(咳き込む声)
(菜穂子)嫌な予感がしました。
美咲さんが強請られるのではないかと。
だから…篠山さんが死んだときとっさに美咲さんの仕業だと思いました。
それで急に私がやったと自供したのね。
篠山さんが放火事件絡みで殺されたとわかって美咲さんに捜査が及んではならないと必死でした。
(美咲の声)篠山さんを殺したのも私です。
篠山:よう。
これで最後にしてください。
もう無理なんです。
じゃあ本郷邸燃やしたことバラしちまうぞ。
よく考えな〜
(美咲の声)私は2人も人を殺めてしまいました。
とんでもないことをしてしまいました。
でもどうして?どうしてここまでして美咲さんをかばうの?神林シェフは私のせいで死んだからです。
16年前火災が起きて神林シェフと店の外へ逃げました。
レシピが…レシピが中に!無理だ諦めろ!取ってきます!ああわかった!俺が行く!シェフは命をかけてあのレシピを守ってくれました。
それなのに私はシェフを助けられなかった。
私がレシピにこだわったから。
私のせいで神林シェフは死んでしまったんです。
(菜穂子)あのとき誓いました。
神林シェフの味を継いで必ず一流のシェフになる。
そしてこの神林シェフが命をかけて守ってくれたレシピと一緒に神林シェフの味を千晶ちゃんに引き継ぐ。
必死で修業しました。
世間から何を言われようと平気でした。
ようやくレストランメゾン・ホンゴウのシェフとして世間から認められるようになったとき美咲さんが修業したいとやってきました。
いつ千晶さんだって気づいたの?
(菜穂子)あの五目ずし。
作ってきたの?はい。
あの今日は多めに作ってきちゃいました。
味見だけでも…ひと口食べてもしやと思いました。
うんおいしいそして美咲さんが店に入って3日目。
「オー・シャンゼリゼ」確信しました…。
千晶ちゃんだ。
名前を変えているのは何か理由があるはずです。
自分から名乗ってくれるのを待とうと思いました。
それで美咲さんに厳しく接した。
1日も早く立派なシェフになってほしかった。
蒲田の店はビストロ・KANBAYASHIとして美咲さんに任せるつもりでした。
でも美咲さんが…。
いえ千晶ちゃんが火をつけたと知ったときわかったんです。
私の罪は決して許されないと。
大好きなお父さんを…。
たった一人の大切なお父さんを幼い千晶ちゃんから奪うことになったんですから。
千晶ちゃんを犯人にしたくなかった。
犯人にしたくなかった…。
あのレシピ集を千晶ちゃんに返してあげてください。
あれは千晶ちゃんのものです。
よろしくお願いします。
お父さん。
ごめんね。
お父さんみたいなシェフになる約束。
守れなかった。
(美咲の声)菜穂子さんごめんなさい。
私誤解してました。
雑誌の記事であなたの気持ち知りました。
「世間で…」。
(菜穂子の声)世間で黄金レシピと言われているこのレシピ集は修業先のシェフから受け継いだ命よりも大切なものです。
このレシピ集を手にしたとき私は決意しました。
必ず立派なシェフになる。
私も必ずこのレシピを次に引き継いでいく。
(美咲の声)あれは…。
あれは私へのメッセージだったんですね。
警部補!10区画77番です!わかった!こっちです!〜こっちだ!はい。
じゃあそっち行け。
はい。
(すすり泣く声)
(美咲の声)あなたは父のことを忘れていなかった。
父の味もレシピも。
ずっと守り続けてくださった。
それなのに私はとんでもないことをして迷惑をかけてしまいました。
ここです!いました!あっ!やりやがった!おい。
こっちです!もしもし救急車1台お願いします。
しっかりしろ!大丈夫だ!永井美咲さん女性です24歳。
おい!はい。
(ノック)失礼します。
はい。
うんうんうん。
ありがとう。
神林千晶さん身柄確保。
命に別状はありません。
ありがとうございました…。
千晶さんからの伝言です。
菜穂子さん。
お父さんの味を守ってってください。
よろしくお願いします。
このレシピはあなたに持っていてほしいそうです。
あぁ…千晶ちゃんが…。
そんなことを?千晶さんといつか菜穂子さんと2人でビストロ・KANBAYASHI開店できたらいいですね。
私たちにも行ける安くておいしいお店楽しみに待ってますよ。
はい。
いつか来ます。
そんな日が必ず来ます。
例の放火殺人真犯人逮捕でマスコミ大騒ぎですよ。
はい次行きます。
俺も刑事になってマスコミが騒ぐような事件やってみたいな。
そんなこと言ってたらとんでもない事件に巻き込まれるよ。
うまそう。
うん?澤さん。
あれ指名手配犯?父ちゃん…。
エヘヘヘ。
父ちゃん。
はいよ。
何?何じゃないでしょ。
どうした?お医者様に甘いものは止められてるはずじゃないか。
いやこれはあれだよ?これはな千夏がさ疲れて帰ってくると思っての親心。
ね?お前の好物じゃない。
食べなよ1個。
ほら。
父ちゃん嬉しい。
いいね1個食べな1個。
いいいい1個じゃない。
こっちもらっていくから。
どうして?ね署に持って帰る。
みんなでいただく。
それは困るんだよ。
いや困んないでしょ。
いや困るんだよ。
1個で十分!はいありがとうはい。
2015/03/07(土) 15:24〜17:15
テレビ大阪1
土曜サスペンスドラマ「特命!落としの鬼 刑事 澤千夏2」[字][解]
高級レストランのオーナーが自宅で焼死し、その後店のシェフである妻が逮捕された。かつて「落としの鬼」と呼ばれた名刑事・澤千夏が真実を暴く!
詳細情報
番組内容
杉並南署の交通課に勤務する澤千夏は、かつて「落としの鬼」と呼ばれた名刑事。そんな千夏に、警視庁の大地警部からある放火殺人事件の取調官の依頼が来る。高級レストランのオーナー本郷丈太郎が自宅で焼死し、妻でシェフの菜穂子が逮捕されるが菜穂子は失火だと言い張り犯行を否認していた。早速菜穂子の事情聴取をした千夏は、不審な点に目を留め事件の洗い直しを決めるが…。
出演者
澤千夏…泉ピン子
大地六輔…田山涼成
澤義三…北村総一朗
本郷菜穂子…とよた真帆
永井美咲…佐藤めぐみ
中山隆三…松澤一之
安原麻紀…黒坂真美
篠山玲二…デビット伊東
本郷武史…斉藤陽一郎
本郷丈太郎…浜田晃 ほか
原作脚本
【脚本】洞澤美恵子
監督・演出
【監督】吉川一義
ジャンル :
ドラマ – 国内ドラマ
映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
サンプリングレート : 48kHz
2/0モード(ステレオ)
解説放送あり
サンプリングレート : 48kHz
OriginalNetworkID:32118(0x7D76)
TransportStreamID:32118(0x7D76)
ServiceID:41008(0xA030)
EventID:34927(0x886F)