NHK短歌 題「日本」 2015.03.08


ご機嫌いかがでしょうか?「NHK短歌」司会の濱中博久です。
第二週の選者斉藤斎藤さんです。
今日もどうぞよろしくお願い致します。
今日は冒頭の歌は?これは実は後ほどの選者の話で悪い例として非常に自分で反省している歌なので…。
ご自作の悪い例?どこが悪いかご説明致します。
楽しみです。
今日はよろしくお願い致します。
さあそれではお迎えしたゲストをご紹介致します。
歌人の岡野弘彦さんでございます。
ようこそお越し下さいました。
よろしくどうぞ。
岡野さんは長年にわたる創作活動に対して2013年文化功労者に選ばれていらっしゃいますが現在御年90歳でいらっしゃるという事ですがお元気でいらっしゃいますね。
ありがとうございます。
最近も連句の会などにお出かけになった。
ちょうど昨日も2人の友人と半日かかって半歌仙十八句並べてきました。
半日何時間もですね。
6〜7時間かかるわけですか?共同制作ですからね楽しいですなぁ。
さあ斉藤斎藤さんは是非岡野さんをお迎えしたいという事でございましたが。
今日の歌の題が「日本」という事もあってですね真っ先に思い浮かんだのが岡野さんだったんですよね。
お話伺いたいですね。
さて岡野さんゲストにお迎えした方に短歌のイメージを短い言葉で頂戴しておりますが岡野さんはどういうお言葉になりますでしょうか?短歌とは?ちょっと書いてみましたけどもねこんなふうに…。
ひと言で言えばこういう事だと思いますね。
そのお話も後ほど詳しく伺いたいと思います。
どうぞよろしくお願い致します。
さあそれでは入選歌のご紹介です。
題が「日本」または自由でございました。
斉藤斎藤選入選九首です。
一首目。
「日本」という題でここまでネガティブな歌を送って頂くとちょっとびっくりしたんですけれども下の句の「川に溺れて流れ行くよう」というのが歌うような…例えば船頭さんが歌うような感じのなだらかなリズムで。
リズム感がね。
日本と川という組み合わせで緑の中を流れていくような景色が広がるようなところもあって面白い歌でしたね。
では二首目です。
岡野さん伺いましょう。
こういう日本の捉え方といいましょうか日本の実感のしかたというのが上の句で「地球儀の日本を家族で眺めてる」。
下の句が「細い!」「バラバラ!」「漂っている!」。
恐らく家族の中の子供さんの感想それから親の感想というのが組み込まれているわけですね。
我々地球儀の日本というのは私ども戦争の中で育った者は赤い色で塗ってありましてね日本が。
しかもなかなか範囲が大きかったんですね。
それがね敗戦後非常に小さくなってしまった。
しかし赤い色で塗ってあるのはあまり変わりがないようなんですね今でもね。
その日本への愛しさというふうなものがこういう所にも現代なんだけども出てる感じが致しますね。
赤の面積が広かったんですね。
この歌は下の句がね「細い!」「バラバラ!」「漂っている!」というこれがとても新鮮で子供の目でお子さんが初めて地球儀を見たような新鮮な感想で面白かったですね。
では三首目にまいりましょう。
例えばガラ携ガラパゴス携帯なんて言葉もありますけれども日本国内独自の技術であったり規格っていうものに対する何ていうんですかねちょっと自虐的なようなでもちょっとそこに愛着を感じる誇らしいようなその「ガラパゴス」という言葉への両方のイメージがうまく歌われていると思いますね。
続いて四首目です。
これは岡野さんいかがでしょう?こういう今あれほど水洗式のトイレが普及しているんだけれども和式トイレをなお使ってられる人がいてしかも「潔癖症の人らも使う」というこの下の句が特色があっていいですね。
世界中考えてみるといろんなトイレの形が今でも残っていると思うんですけれどその中でこういう視点が短歌に表現されているっていうのはなかなか面白いと思いますね。
日本のトイレがほとんど洋式西洋化した中で和式トイレが潔癖症の人用になっちゃってるっていうねじれた日本みたいなところがトイレでうまく歌われていますね。
次が五首目です。
よく広さの例えで東京ドーム何個分って言いますけど日本を全部東京ドームで例えちゃうっていうこのダイナミックな発想ですね。
下の句の「そっと」が面白くて東京ドームの屋根って実際は普通に歩けると思うんですけれども何かこうふわふわしてそうなそこを巨人が歩いてる恐る恐る歩くんじゃないかなみたいなその「そっと」がね。
屋根を踏み抜かないように何かそっと…。
恐る恐る。
そんな感じがちょっとしますね。
なるほど面白いですね。
では次六首目です。
ボルトが落ちてるだけで日本を心配しちゃうっていうものすごいダイナミックな心配性の方なんですけどただ今ね高度成長期に建てられたような道路とか建物がちょっと老朽化して大丈夫なのか?っていうその状況を「六角ボルト」っていう小さなもの一つでスパッと批評されていて鋭いところを感じますね。
次七首目です。
これ岡野さん伺いましょう。
恐らく今度の被害をお受けになった切実な作品だろうと思いますけれども非常に丹念に捉えていられる。
この歌自体が丹念な感じがしますね。
「一枚いちまいの瓦拭へり」というこの下の句のおさえ方がこの歌を重くしていると思いますね。
「日本人ならではの除染」ってとても重いですよね。
除染自体そんなに何か国もした事ないだろうという感じもするんですけれどもそこに「日本人ならでは」を持ってこられるこの批評性に打たれましたね。
では次が八首目です。
これもやわらかい言葉で歌われてるんですけど非常に鋭いと思いました。
そもそも戦争をするしないという議論が起こっている前提に日本という国がやっぱり人口も減ってくるし経済もあまりよくないという事でちょっと自信を失っている。
取り柄って何だろうっていうところの不安みたいなものが背景にあるんじゃないかという事ですね。
下の句の「戦争をしないこと、それくらい」というこの言いさしのような読者に判断を委ねるような表現もとても効いていると思いましたね。
では次九首目です。
これも日本だなっていう感じですね。
地下鉄でもとても丁寧だけれどもちょっと押しつけがましいようなアナウンスがひっきりなしに流れる中「くつそろう」がよくてですね黙ってずっと羊のように運ばれていく人々。
これから日本はどこに行くんだろうかという感じですよね。
「くつそろう」がとてもうまいです。
確かに地下鉄丁寧すぎるほどのアナウンスがある事感じる事がございますよね。
そういう歌ですね。
以上入選九首でした。
ではこの中から斉藤斎藤さんの選んだ特選三首の発表です。
まず三席からです。
新村ルミ子さんの歌です。
では二席の発表です。
北城椿貴さんの歌です。
では一席です。
鈴木美佐子さんの歌です。
恐らく被害に遭われた当事者の方ではないかと思うんですが今まで日本が何をしてきたんだろうっていう嘆きであったりでもそれでもやはり帰りたいという丹念な思いですよね。
とても胸を打たれる歌でした。
今日ご紹介しました入選歌とその他の佳作の作品はこちら「NHK短歌」テキストにも掲載されます。
是非テキストもご覧下さい。
ここで今年度の斉藤斎藤さんの一席の中から選ばれました一首年間大賞の作品を発表致します。
では斉藤さんお願いします。
松田憲一郎さんの作品です。
恐らく重い病気を告知された時の心の非常事態ですよね。
「浮かれた蝉はひっくり返る」というその覚悟の表現とても下の句が胸に迫るものがありました。
松田さん年間大賞おめでとうございました。
さあそれでは「うた人のことば」をご覧頂きます。
多摩川が昔は暴れ川で国分寺崖線と多摩丘陵との間をあっち行ったりこっち行ったりね。
1,000年単位1万年単位で動いていた事が空から見るとよく分かります。
川は生きている。
のたうち回っていると。
そういう事を歌った歌です。
短歌はアニミズムが基板にある詩だというふうに考えています。
命とかあるいは魂とかそういう意味です。
日本では古くから那智の滝のように滝を拝んだりあるいは三輪山のように山そのものをね信仰したりという事が古くからなされてきました。
恐らく短歌という詩ができたのはそういうアニミズムと非常に深く関係しているんではないかとそのように思います。
これもアニミズムを意識した歌です。
甘樫丘に登ってそして飛鳥の地をずっと広く見渡すとですね古代の人たちがどんな祈りどんな思いどんな魂を言葉に込めようとしたかそういう夢が感じられると。
そういったような意味なんですね。
「うた人のことば」ご覧頂きました。
では続いて投稿のご案内を致しましょう。
では斉藤斎藤さんの選者のお話「初心者になるための短歌入門」。
最終回です。
今日は「迷ったら事実」その2回目です。
悪い例という事なんですけどねこの歌今から振り返るとやっぱりちょっとこう頭で作ったというか悪い意味でのフィクションの歌だと思ってしまうんですね。
先々月いいフィクションいい虚構の歌の例として塚本邦雄の歌を挙げたんですが「すこしづつ液化してゆくピアノ」。
ピアノが液体になっていくっていう歌なんですよね。
この歌は「ピアノが液化してゆく」というフィクションによってピアノに固体液体気体という普通当てないような物差しを当てて独自の角度でピアノを見ているいいフィクションなんです。
でも私の歌っていうのは「漫画ゴラク」っていうちょっと俗っぽい漫画雑誌に雨を降らせたら面白いんじゃないかなみたいなちょっと手すきが透けて見えるようなところがあると。
普通短歌で雨を降らせるものといったら自然の草花であったりというところに人工のものをぶつけてみたりあるいは何か高尚な美しいものに普通雨を降らせるところを俗っぽいものに雨を降らせてみましたよというようなそういうフィクションなんですね。
気をつけて頂きたいのはプラスのものにマイナスのものをぶつけてしまうと必ず間に「ふつう」というのが入ってしまってふつうの物差しになってしまうんですね。
プラスとマイナスの間をふつうを通る物差しになってしまうのでせっかくフィクションを作ったのに物差しはふつう。
物の見方はふつうになってしまう。
だからフィクションの効果が薄い悪い虚構になってしまうんですね。
なのでせっかくフィクションを作るんだったら普通当てない物差しを当てるようにしましょうと。
プラスにマイナスをぶつけないようにして下さいねっていうのが今日のお話でした。
10年前の作品とおっしゃいましたが今そういうふうにお考えになるんですね。
ちょっとねやっちゃいましたね。
歌人の方もやはり昔の作品にそんな思いを抱かれる事もあるわけですね。
選者のお話でございました。
それではゲストにお迎えしている岡野弘彦さんにいろいろお話を伺ってまいりましょう。
まずは先ほどのキーワードでございますね。
「短歌とは何か?」岡野さんのお考えの言葉は「日本人のたましひ」という事でございましたがさあどういう事でございましょう。
先ほども佐佐木幸綱さんのお話がほぼ同じような事を言ってられたと思うんですけどね。
日本人の一番こう…思いの丈といいましょうか凝縮した心それが言葉とつながって流れるように出てくるというふうな時にいい歌が出来るんだろうと思うんですね。
だから「短歌は日本人のたましひ」だというひと言に凝縮させてみたわけですけどね。
佐佐木さんはアニミズムだとおっしゃって自然万物森羅万象にさまざまな心が宿っているという事でそれに通じるものがあるという事でございますね。
最近の岡野さんの歌集はこちらでございますが2012年に刊行されました「美しく愛しき日本」というタイトルでございますがこれに込められましたのはこれは3.11の震災が深くテーマになっているという事ですね。
この事をやはり歌に歌わなければ歌人の務めは果たせないという思いがありましてね。
一生懸命凝縮させてみたわけなんですね。
この歌を斉藤斎藤さんお読みになって歌集をですね深く心を打たれたとおっしゃっていましたがどういう事でしょうか?今日例えば二首ご紹介したいんですけれども…。
この歌集震災が大きなテーマになっているんですけれども震災だけが直接歌われるんではなくて戦争から戦後を生きてこられた岡野さんご自身の体験であったりあるいはそれだけではなくて日本人のいろいろな人々の群像が立ち上がってくると。
そして日本人の怒りであったり嘆きであったり祈りのようなものがグワッと立体的に立ち上がってくるんですよね。
今ご紹介した歌の特にこの歌集句読点とか一字空けが多いんですけれども「いくさの後易きに付きて」って「いくさの後」のあとの一字空けにぐっと籠もるような息遣いですね。
自分たちのその…今まで何をしてきたのだろうという自分たちに対する怒りもありながらでもそれを今言わなければいけないという思いもありながらこのぐっと踏みとどまるところ一字空けにものすごく深いものを感じましたね。
岡野さん斉藤さんがこの二首を挙げられました。
斉藤さんが非常に私の思いの程を深くおっしゃって下すったので私はもうあまり言わなくてもいいなという思いが致しておりますけれども。
一首目は原爆という事で広島長崎に落ちた原爆ですね。
やっぱりねああいう原爆二度も落とされてそのあとの日本人自らの身の律し方といいましょうかねそれがなんと易きに付いてしまっていたなという思いがこの二番目の歌でしてね。
これは我々にこれから後ずっと心に付きまとってくる思いだと思いますがね。
「易きに付きて生きにけり」というとこですね。
この海山を再び清らかにするのにはどれほどの努力がと思いますが…。
震災が起きたという大災害の事を抽象的なテーマになさりながらやはり戦争を体験した岡野さんご自身の世代的なテーマみたいな事が深く出ているわけですね。
戦中派には戦中派の思いがありましてね。
斉藤さん。
そうですねやっぱり先ほどの地球儀の赤のお話もちょっとびっくりしたんですがもちろん知識としては知ってるわけですけれどもその赤に昔からの流れで見られているんだなという。
今日の日本人ならではの除染の歌もそうですけれども深くそこら辺も日本人というのをちょっと感じますね。
ほんとにそうですね。
今そういう問題がまたいろんな形で世界中で厳しい形で起こり始めていますからね特にそういう思いが切実ですね。
そうした思いが込められた歌集でございますが今日は岡野さんに今お考えの事も少し伺う事ができました。
本当に貴重なお話ありがとうございました。
歌人の岡野弘彦さんをお迎えしてお話を伺いました。
さてご案内しましたように斉藤斎藤さんは2年間の選者をお務めで今日が最終回です。
皆様にご挨拶をお願い致します。
2年間ありがとうございました。
番組で放送できなかった歌もたくさんいい歌がありましてやっぱり短歌ってすごいなって思いましたね。
技術を超えたものお一人お一人の生きてこられた歌を通してですけれどもその重みというものを受け止めさせて頂いてとても勉強になりました。
ありがとうございました。
どうもありがとうございました。
斉藤斎藤さんの斬新な歌に本当に驚かされました。
ありがとうございました。
ありがとうございました。
ではまた次回お目にかかります。
ごきげんよう。
2015/03/08(日) 06:00〜06:25
NHKEテレ1大阪
NHK短歌 題「日本」[字]

選者は斉藤斎藤さん。ゲストは歌人の岡野弘彦さん。斉藤さんは 2012年に刊行された岡野さんの歌集「美しく愛しき日本」に感銘を受けたという。司会 濱中博久アナ

詳細情報
番組内容
選者は斉藤斎藤さん。ゲストは歌人の岡野弘彦さん。斉藤さんは 2012年に刊行された岡野さんの歌集「美しく愛しき日本」に感銘を受けたという。【司会】濱中博久アナウンサー
出演者
【出演】岡野弘彦,斉藤斎藤,【司会】濱中博久

ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – 文学・文芸
趣味/教育 – 生涯教育・資格

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