昔むかし1人の旅芸人が山道にさしかかったときのこと。
思いのほか登りに手間取り峠についた頃には日がどっぷり暮れていた。
そこで峠の茶屋で提灯を借り明かりを頼りに山を下り始めた。
〜ところがどうしたものかいくら歩いても山道を抜け出すことができない。
ん?さっきと同じとこじゃねえか。
狐にでも化かされたか?こっちか?あっ!ええいチクショウ!はぁはぁはぁ…。
やれやれ。
ここで夜明かしするしかねえか。
(鳥の鳴き声)気味の悪いところだぜ。
ん?しめた!家だ!お頼み申します。
はいはいどなたですか?こんな夜更けにどうなすった?へえ恥ずかしながら道に迷いまして。
そりゃお気の毒に。
お入りなさい。
ありがとう存じます。
お茶でもいれてきましょうかの。
申し訳ございません。
はぁ…やれやれ。
ハハハ。
あっ!ひぃ…。
あ…あぁ…。
開かねえ…クソ!う〜ん!バタバタせずに座っておいで。
ひぃ…。
お茶が入ったよ。
あ…。
さあ座っておいで。
へ…へい。
さあ。
山の中の1人暮らし寂しゅうて何をするにも力の入らんとこじゃった。
お前さん芸人さんじゃろ?何か見せてくださらんか。
えっへえ…。
慰みに何か見せてくだされ。
そそれでは…。
おお〜!ハハッ。
よっ!ふっ!ううっ…うっ!ハハハ。
ひぃ〜。
ふっほい!さあお次はおなじみどじょうすくい。
あそれ!それ!よっよっ!えいっ。
ん〜。
んっん〜!ハハ!あそれあそれ!
(2人)あそれ!あそれそれそれ!よっ!あそれそれそ〜れ!あそれ。
それ!よっ!あそれそれそ〜れ!んんっん〜!んっん〜!よっ!そ〜れやっ!あ?あれ?何やってんだ?はぁ〜。
いろいろ見せてもらってありがとよ。
さあこっちへおいで。
ん?心配はいらん。
さあそのまんま歩いていくんじゃ。
この道をまっすぐ行けば人里じゃ。
達者でな〜。
助かった。
その夜宿に着いた旅芸人は前の晩の出来事を話して聞かせた。
すると誰もが芸は身を助くとはこのことじゃと大笑いをしたそうな。
(笑い声)昔むかし修業のため諸国を旅するお坊さんがいました。
宿に泊まるお金もなくお寺に泊めてもらうか野宿をするのを常としていました。
これはいい。
ひと晩ここに泊めさせてもらうとするか。
〜
(鳥の鳴き声)うん?う〜ん…。
(金属音)うん?これは…小判。
せん…とく?お坊さんはこの小判は何か特別な意味があってここにあるのだろうと思い元に戻すことにしました。
(徳三)へっへっへっ…なむ…。
へっへっへっへっへっ…。
《あのおじいさんがせんとくさんだろうか…》コラッカゴを返せ!お坊さんは足場の悪い山道をのぼりおりして歩き続けました。
日も暮れてもう歩けないと思い始めた頃家の明かりを見つけました。
あっ…。
お坊さんは家の人にひと晩泊めてもらえないだろうかとお願いすると快く迎え入れてくれました。
あっ昼間のお坊さんでねえか。
あれから今まで山のなかを歩いてきなすったか。
はい。
山にのぼらず沢伝いの道に出ればここまですぐじゃったのに。
これも御仏のお導きです。
くたびれたじゃろうたいしたごちそうはできんが腹ごしらえしなせえ。
こちらへどうぞ。
すぐにでも生まれそうですね。
せがれの嫁でな。
亭主は町へ年季奉公に出とります。
そうですか。
子供が生まれるまでに帰ってこられるかどうか。
(戸を叩く音)あっ…。
おっ…。
なんだアンタか。
ご挨拶だな。
これを持ってきてやったのに。
これは…。
こんなもんぶら下げて飛んでおったから狙いがつけやすかったわい。
アハハハッ!《小判も戻ってきたのか。
不思議なこともあるものだ》おっかさん!
(お千)いよいよか。
いよいよだいよいよだ!おぎゃ〜っ!おやすみのところすみません。
生まれましたか。
へい。
おぎゃ〜っ!おぎゃ〜っ!元気な泣き声だ。
へい。
丈夫な子になりそうですな。
ありがとうございます。
いい名前をつけておあげなさい。
せがれに私ら夫婦から取った名前をつけてくれと言われております。
女房がお千でわしが徳三です。
この子の名前はせんとく。
せんとく?お坊さんはカゴの中の小判のことをおじいさんに話しました。
これは一度は鷹が持ち去り縁があってこちらに戻ってきた小判です。
御仏のおぼしめしに違いない。
いいや。
これはお坊さんが見つけたのじゃからお坊さんのものじゃ。
とんでもない。
御仏がせんとくの金として授けたに違いないのです。
それは困る!拙僧は旅を急いでおります。
世話になりました。
ではせめて握り飯だけでも用意させてくだせぇ。
それはありがたい。
これはすまぬ。
本当に世話になりました。
あ〜っ!大丈夫ですか?ありがとうお坊さん。
昨日からろくに飯を食ってねえもんで力が出ねえんだ。
ならばこれを持っていきなさい。
握り飯です。
ありがたく頂戴します。
お坊さんも道中達者で!あ〜っ!若者はせんとくと名付けられた赤ん坊の父親でした。
お千と徳三はお坊さんの握り飯の包みにそっと小判を忍ばせていたのです。
その小判が戻ってきたのを見てお坊さんの言葉を信じないわけにはいきませんでした。
こうして小判は御仏に定められたところに行き着いたのです。
(お腹が鳴る音)昔むかし海にはたくさんの魚がすんでいました。
その中でひときわ個性的な姿をしたオコゼがおりました。
なぁヒラメ実はのう…。
私はカレイ!はっ!?えっと左に目があるのがヒラメか。
すまんすまん。
なぁヒラメ。
何じゃ?俺はいつになったら嫁御さもらえるかの?たとえどがん器量悪しでもいいから嫁を迎えたいもんじゃ。
オメエ自分の顔見たこと…。
ああみなまで言うな。
お前を俺の親友と見込んで相談してるんでねえか。
そりゃ俺はこんな見てくれだ。
顔なんてブツブツだし気分よく笑顔のときにも怒ってるの?って聞かれるしこの前なんか暗がりで母ちゃんに会ったら…。
はっ!?あ〜っ鬼!だってよ。
実の息子を鬼呼ばわり。
自分だっておんなじ顔してるくせによ。
オコゼよそんなに悲観することはなか。
どんな鍋にもふたは必ずあるもんじゃ。
お前の顔は正直言って二目とは見られん顔じゃが似合いのものが必ずどこかにいるもんじゃ。
気をしっかり持て!おおっ!ヒラメよう言ってくれた!俺の気持もすっとしてなんだか元気が出てきた!ひゃ〜っ!実はな俺は今まで自分の胸の内だけで悩んでいたことがあるんじゃが。
思いきってお前に打ち明けてみようかと思う。
なんじゃ言うてみい。
な〜にお前のブツブツの顔以上に不幸なことはなかよ。
ヒッヒッヒッヒッヒッ!それが言いにくいことでのういざとなると友達のお前にだって恥ずかしくて…。
遠慮せんと恥ずかしがるな。
きっと笑いだすから。
もう笑わん。
冗談は顔だけにしておけ。
ムッ…実はな俺はボラのあの子が好きなんじゃ。
あの子のことを考えると夜もろくに眠れない。
ボラの美しい背中。
あのヒラヒラとかわいらしい泳ぎ。
ほっそりとした体つき。
海は広しと言えどもあの娘ほど美しかもんはおらんよ。
俺はボラといつでも一緒にいたいんじゃ。
お前があのボラと…。
こりゃ傑作じゃ!できんと思うか!?いやできんというわけじゃない。
旅の恥はかきすてと言うじゃろ。
当たって砕けろ。
俺は旅などしとらん!でも当たって砕けろか。
話してみんことにはわからんかもな。
あっ!そうじゃ!お前がボラにそっと伝えてくれんか?頼むよ。
直接言うとフラれたときの俺の顔がない。
なぁ頼むよ!それはできん。
そればかりは他の者が仲立ちしてはダメだ。
両の目に真心を込めてぶつかってこそものになる。
世の中で真心ほど強いものはなか。
それにしてもこの顔じゃ言い寄れん。
顔じゃない真心だ。
多少強引に言い寄るんじゃ。
おなごは強引に押せば…。
落ちるものなんじゃ。
あ…。
そうかそうか!そんなら思いきって当たってみるか。
その意気じゃ。
そうじゃわしがボラの役をするから当たってみろ。
ボボラさん。
あらオコゼさんどうしたの?そんな鬼みたいな顔をして。
あの子はそんなこと言わん。
すまんつい…。
うっうぅ…ボボラさん。
私トドよ。
トドはボラの出世魚じゃろ!ふぅもう一度。
ボボラさん!ちょっと待った!そんなトゲを立てないでもっと丸く優しい顔できないもんか?オコゼとヒラメは何度も告白の練習をしました。
好きだ!もっと心を込めて。
好きだ〜!それからしばらく経ったある日。
ハァハァあっ!オコゼはついにボラに気持を伝える覚悟を決めたのでした。
ニッ!フフムフ!どうぞ!よし!いくぞ〜!大丈夫じゃお前には誰にも負けない真心がある《そうじゃ男は見た目じゃないんだ。
大事なのはこの思いなんじゃ》ふぅ〜。
ボラさん!え?うわぁ〜!鬼!驚かせてすまない。
今日はボラさんにどうしても伝えたいことがあるんじゃ。
ななんですか?う〜っ!一生のお願いだ。
私は生まれつきこのようなまずい顔つきです。
しかし心は清水のようにきれいなものです。
私は死ぬ思いで申し上げます。
どうか私のお嫁さんになってくださらんか?お願いです。
まあ〜!オコゼの嫁になるくらいなら刺身になって死んだほうがましよ!うわぁ〜ん!ま待ってくれ〜!うわ〜っ!来ないで〜!待って〜!オコゼは去りゆくボラの背中をぼんやり眺めていましたが…。
俺は顔は悪いが心はきれいだ!ハラワタを食うてみてくれろ!うわ〜ん!とどのつまりオコゼのハラワタがうまいのはこうしたことがあったからです。
おいしいね。
うん。
2015/03/08(日) 09:00〜09:30
テレビ大阪1
ふるさと再生 日本の昔ばなし[字][デ]
「山姥と旅芸人」
「せんとくの金」
「おこぜの恋」
の3本です。みんな見てね!!
詳細情報
番組内容
私たちの現在ある生活・文化は、昔から代々人々が築き上げてきたものの進化の上にあります。日本・ふるさと再生へ私たちが一歩を踏みだそうというこの時にこそ、日本を築いた原点に一度立ち返ってみることは、日本再生への新たなヒントになるのではないでしょうか。
この番組は、日本各地に伝わる民話、祭事の由来や、神話・伝説など、庶民の文化を底辺で支えてきたお話を楽しく伝えます。
語り手
柄本明
松金よね子
テーマ曲
『一人のキミが生まれたとさ』
作詞・作曲:大倉智之(INSPi)
編曲:吉田圭介(INSPi)、貞国公洋
歌:中川翔子
コーラス:INSPi(Sony Music Records)
監督・演出
【企画】沼田かずみ
【監修】中田実紀雄
【監督】鈴木卓夫
制作
【アニメーション制作】トマソン
ホームページ
http://ani.tv/mukashibanashi
ジャンル :
アニメ/特撮 – 国内アニメ
映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
サンプリングレート : 48kHz
OriginalNetworkID:32118(0x7D76)
TransportStreamID:32118(0x7D76)
ServiceID:41008(0xA030)
EventID:34962(0x8892)