飯舘村写真展:原発事故前に撮影…「奪われたもの伝える」

毎日新聞 2015年03月06日 11時39分(最終更新 03月06日 12時13分)

2011年1月に撮影した写真。村の女性たちは自慢の大根を持って笑顔を見せていた=前橋市の「ギャラリー門倉」で2015年3月5日、尾崎修二撮影
2011年1月に撮影した写真。村の女性たちは自慢の大根を持って笑顔を見せていた=前橋市の「ギャラリー門倉」で2015年3月5日、尾崎修二撮影

 東京電力福島第1原発事故で全村避難を強いられた福島県飯舘村で、事故直前の時期に人々の飾らない生活を記録していたアマチュア写真家がいる。同県浪江町で看護師をしていた管野(かんの)千代子さん(68)。原発事故から間もなく4年。教訓の風化が懸念される中、「日本の原風景」と「故郷の豊かな暮らしの営み」を紹介することで、事故がどれだけ大切なものを奪ったかを伝えようと、各地で写真展を開いている。

 管野さんは事故前の2010年夏〜11年冬、飯舘村に通って村の人の暮らしを撮り続けた。自然を生かした村づくりに励んできた村民は、カメラを向けても嫌な顔をする人が誰もいなかったという。「皆が笑顔で応じてくれ、撮影が終わるとお土産に野菜をどっさりくれた」。村の写真で個展を開きたい−−。その矢先に原発事故は起きた。

 事故前の写真は、自慢の大根を持って笑顔を見せる農家の女性たち、ヤギと散歩する高齢女性、川遊びに夢中になる子どもたちなどの生き生きした表情を捉えている。

 管野さんは事故後、栃木県内に避難したが、時間を見つけては福島に戻って仮設住宅を回り、村民らの話し相手になりながら写真を撮り続けている。県外の住宅街で避難生活を送る女性は、ヤギを手放していた。別の女性は避難先の気候の違いから、「凍(し)み大根」(干し大根)づくりを断念していた。事故直後にマスク姿の女子中学生2人を撮った写真は、大人に何かを問いかけるような視線が印象的だ。

 作品は札幌市や神戸市など各地で展示されてきた。各会場で管野さんはギャラリートークを開き、村民らの現状を訴えている。6日からは、前橋市日吉町2の「ギャラリー門倉」で13回目の写真展が始まった。管野さんは「人前に出るのは恥ずかしいけれど、土地を追われた苦労や事故の恐ろしさを伝えていきたい」と話している。前橋市での展示は12日まで。入場無料。【尾崎修二】

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