入所制限:400人待ち…避難家族悲痛「ベッドあるのに」
毎日新聞 2015年03月08日 09時05分(最終更新 03月08日 10時55分)
東日本大震災と東京電力福島第1原発事故で被災した福島県の市町村で、職員不足により約4分の1の高齢者介護施設が入所者の受け入れを制限していることが明らかになった。ベッドが空いているのに入所できない現状に、被災者からは「避難生活で疲れ果てているうえに、施設があっても人手不足で介護サービスを受けられないなんてひどい」と切実な声が上がる。【高橋隆輔】
原発事故のため原発20キロ圏の福島県南相馬市小高区から市内の仮設住宅に避難した鎌田文子さん(59)は、日常生活に全面的な介助が必要な要介護4の義母マサさん(87)と夫の3人で暮らす。マサさんは仮設入居後しばらくして、慣れない室内で布団から起き上がろうとして転倒。自力で歩けなくなった。「ばあちゃん、そろそろトイレ行こうか」。文子さんは1時間おきに声をかけるなど付きっきりの介護を続ける。
「仮設暮らしの疲労も重なり、介護中に動悸(どうき)も感じる。このままでは私も倒れて母の面倒を見られなくなる」と文子さん。市内の特別養護老人ホーム2施設にマサさんの入居を申し込んだが、どちらも400人待ちと言われた。「施設には空いたベッドが幾つもある。でも介護職員が足りないので受け入れられないと説明された」とやつれた表情で語った。
同市の特別養護老人ホーム「福寿園」では入所待機者が震災前の250人から480人に膨れ上がった。一方で、原発事故に伴う避難の影響などで職員は74人から56人に減少。100床のベッドのうち10床は稼働させていない。現在新規に入居を受け入れるのは、避難者で認知症があるケースなどに事実上限られている。
福寿園の大内敏文施設長(58)は「遠方に避難した家族から『南相馬で施設が見つからないと戻れない』という申し込みを多数受けている」と明かす。避難が人手不足を生み、施設の運営難が介護の必要な高齢者を抱える家族の避難の長期化を生む悪循環が生じている。
仮設住宅や復興住宅が多く建設されたいわき市でも、避難者を含む高齢者の増加に伴い特別養護老人ホームの入所待機者が増えている。
同市の男性(85)には認知症で要介護4の妻(78)がいる。今は介護老人保健施設に入っているが、在宅復帰を目的とするためいつまでもいられないと言われた。男性は「私もがんを患い介護する体力がなく、妻の落ち着き先が決まらないとどうにもならない」と話した。