被災地の現状:福島県 避難者12万人、除染処理急務

2015年03月08日

 福島県は、東日本大震災の揺れと津波に加え、東京電力福島第1原発事故にも見舞われた。一部地区で避難指示が解除されるなど住民の帰還に向けた動きは始まった。しかし、避難者は2月現在も県内7万1774人、県外4万7219人の計11万8993人に上る。避難生活の長期化などによる震災関連死は3月6日現在、1884人で、津波などによる直接死(行方不明者含む)の1831人を上回る。除染で出た汚染土などを保管する中間貯蔵施設の整備の遅れや、災害公営住宅(復興住宅)建設の遅れなど課題も多く、復興への道のりはなお険しい。

 ◆住まい

 ◇復興住宅、4市町で完成未定

 県と市町村が計画する復興住宅は7592戸。しかし2016年度中に完成予定だった原発事故による避難者向けの4890戸のうち、1000戸超は1年先延ばしに。また、いわき、福島、会津若松、広野の4市町の計520戸は用地交渉段階で、完成時期すら未定だ。

 ◆インフラ

 ◇東北中央道、全区間で着工

 「復興支援道路」では、福島市と相馬市を結ぶ「東北中央自動車道」(国道115号)が全区間で着工した。中通りと浜通りを結ぶ国道・県道計8路線から成る「ふくしま復興再生道路」は29工区のうち5工区が完了(3月予定含む)し、22年までの全区間完成を目指す。常磐自動車道は3月1日、全面開通した。

 鉄道は、JR常磐線の広野−竜田間が昨年6月に再開し、相馬−浜吉田間も17年春に再開予定。今年1月には竜田−原ノ町間で代行バス運行が始まった。

 ◆まちづくり

 ◇集団移転事業、21地区未完了

 避難区域の存在などがネックとなり、まちづくりは遅れている。七つの土地区画整理事業で完了はゼロ。59地区の防災集団移転促進事業も3割以上の21地区が未完了だ。

 避難指示が解除された2地区は、田村市都路(みやこじ)地区で食料品などを扱う共同施設が開設され、小中学校、幼・保の両機能を持つ「こども園」が再開。川内村でも民間企業誘致などが徐々に進む。

 ◆産業復興

 ◇漁業経営の再開、2割どまり

 第1次産業は依然、風評被害に苦しむ。対10年比で、農業算出額(13年)87.9%、営農再開可能面積(14年6月)29.9%。漁業は試験操業が開始されているが、原発の汚染水問題や風評被害などで、本格操業のめどは立っていない。漁業経営の再開(14年3月)は被害にあった740経営体のうち24.5%の181にとどまる。一方、県は福島第1原発を抱える浜通りで「福島・国際研究産業都市(イノベーション・コースト)構想」を推進している。廃炉に携わるロボットなど新産業を核とし、研究者や移住者と帰還住民による新たなまちづくりを見据える。

 ◇観光きっかけに活性化図る 内堀雅雄・福島県知事

内堀雅雄知事=横田香奈撮影
内堀雅雄知事=横田香奈撮影

 福島第1原発事故の収束はまだまだ見通せず、約12万人が避難生活を続けている。除染で出た汚染土の処理、根強い風評被害など、落とした影は大きい。一方、明るい兆しも出てきた。昨年は4月に田村市都路地区、10月に川内村の一部で避難指示が解除され、12月には特定避難勧奨地点の指定がすべて解除された。福島県は、着実に復興に向けた歩みを進めている。

 ただ、災害公営住宅(復興住宅)の整備は当初計画より遅れ、県の役割を十分に果たせていないと自責の念を持っている。避難者が一日も早く安心した生活を送れるよう、発注方法や工法を工夫して工期を短縮したい。

 避難地域の産業を再生するには、既存産業を元の状況に戻す努力と合わせ、廃炉関連やロボット、再生可能エネルギーといった新産業も作る努力をしないといけない。住民の帰還に向け除染を着実に進めるよう国に求め、住む場所や働く場所、医療・福祉施設や買い物環境の整備などを進めていく。

 県全体の活性化には、観光が重要なきっかけになる。中でも重要なのは震災後に落ち込んだままの(修学旅行などの)教育旅行で、来てくれる学校には財政的に支援する。

 復興の大前提は、原発廃炉に向けた取り組みが安全かつ着実に進むこと。汚染水が外洋に流れ、しかも東京電力が速やかに情報を公表しなかったことは極めて遺憾。東電は情報開示を徹底し、国もしっかりと指導・監督すべきだ。

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