福島第一原発の事故で大量に放出された放射性物質。
その正体を明らかにしようと研究者たちはミクロの世界で闘い続けています。
新たに発見されたのはまるでボールのように丸いセシウムを含む粒子。
分析すると想定されていた粒子とは全く違うものでした。
ほとんど水に溶けないガラス状の物質だったのです。
その結果環境や人の健康への影響についても見直しが必要な点が出てきています。
謎の放射性粒子研究の最前線に迫ります。
原発事故から3年半がたちましたけどまだ分かっていない事や新しい発見があるんですね。
へえ〜。
これまではこのような形のものではないかと考えられていたんです。
あっこれこの間の雲の話の時に出てきましたよね?そうなんです。
大気中に浮遊している硫酸塩ですとか鉱物などの粒子エアロゾルですね。
そうエアロゾルでしたね。
これまでは放射性物質の中で多く放出されたセシウムは原子炉がメルトダウンした時などの高熱によって…そうなんですね。
そこで専門家たちは…エアロゾルについて運ばれたって考えられてたけどそうではなかったという事ですか?へえ〜。
どのようにして発見されたのか。
そこには顕微鏡の達人のど根性がありました。
茨城県つくば市にある…空気を吸引してエアロゾルを採取する調査を40年以上前から続けています。
ここにフィルターがありまして…未使用のフィルターと比べると確かにエアロゾルが付着して色が変わっている事が分かります。
原発事故が起きていたさなかも観測を続けていた五十嵐さんたち。
これですね。
事故から3日後にエアロゾルを採取したフィルターがこのケースに入っています。
放射線の測定器を近づけてみると…。
(検知音)今でも強い放射線を出し続けていました。
そういう濃度になったと。
これはフィルターの表面を電子顕微鏡で観察したものです。
白く見える点の一つ一つがエアロゾルです。
直径3.6センチのフィルターに…この中に必ずセシウムを含むものがあるはずですが突き止められませんでした。
この難題に挑んだのが…原発事故が起きた時はアメリカの大学で電子顕微鏡を使ったエアロゾルの研究を行っていました。
気象研究所が電子顕微鏡分析の専門家を探している事を知り事故から半年後に帰国。
大気中を浮遊していた放射性物質の解明に取り組んできました。
解明の手がかりは…放射線を検出する板です。
エアロゾルを採取したフィルターにIPを載せて放射線がどこから出ているかを記録させます。
1時間後。
IPを読み取り機にかけると…モニター上に黒い斑点が現れました。
一つ一つの点が放射性物質を含む粒子がある事を示しています。
ここからがセシウム粒子探しの始まりです。
まずIP画像とフィルターとを見比べ点がある部分を小さく切り出します。
切り出したフィルターをスライドガラスに貼った黒いテープに少しずつ分散するようにつけていきます。
この状態で再びIPを使って放射性粒子がどこにあるかを確認。
小さく切り出してはIPで確認する。
この作業を10回ほど繰り返し放射性粒子の位置を絞り込んでいきます。
肉眼での作業が難しくなったら今度はマイクロマニピュレーターを使って顕微鏡の画像を見ながら更に小さく分けていきます。
ここが顕微鏡のスペシャリストならではの腕の見せどころ。
こうして気の遠くなるような地道な作業を重ねる事で目では見えないサイズにまで分割します。
そしていよいよ電子顕微鏡での観察です。
小さく小さく分割しても試料にはまだたくさんの粒子が含まれています。
一つ一つセシウムが含まれていないかどうか電子顕微鏡の元素分析機能を使って確認します。
研究を開始してからおよそ4か月後直径2.6マイクロメートルの丸い粒子が見つかりました。
成分分析をしてみると…。
セシウムが検出されました。
セシウム137とセシウム134がそれぞれおよそ3ベクレル。
粒子の重量の5.5%がセシウムである事が分かりました。
本当にランダムにというか…うわ〜まさにど根性でしたね。
ですね。
ものすごく地道な作業を繰り返して繰り返してようやく本当の姿が見えてきたんですね。
ここからは粒子を発見したセシウムなどの環境動態の研究グループのアドバイザーを務めていらっしゃいます東京大学の森口祐一さんと一緒に見ていきます。
森口さんもあんな丸い形で見つかるとは思ってなかったんですか?最初の頃からセシウムがどんな形をしてるのかとかどんな物質にくっついているのかすごく知りたかったんですね。
知った時に「え?あっこんな形のものもあったのか!」。
やっぱり私も驚きました。
へえ〜。
こちら気象研究所が見つけたセシウムを含む微粒子ですね。
本当にほかのも丸いですね。
(森口)発見した研究グループはセシウムボールっていうそういう名前を付けてるんですね。
確かにボールみたいですね。
セシウムボールの発見を受けて筑波大学の末木教授の研究室では福島県内で採取した土壌にもセシウムボールが含まれていないかどうか分析を始めています。
これまでの分析で福島県浪江町の土からセシウムボールとほぼ同じ成分の粒子が4個見つかりました。
粒子の大きさは3マイクロメートルから7マイクロメートルとさまざま。
7マイクロメートルの粒子ではセシウム137は66ベクレルでした。
気象研究所が発見した粒子のおよそ20倍です。
セシウムボールほかの場所でも発見されたんですね。
はい。
これまではつくばの気象研究所でだけ見つかっていたのでたまたまつくばにそのタイミングで飛んできたものにだけ含まれてる特殊なものかなというそういう考え方もあったんですけれどもほかの地域でも発見されたのでこういうものがそれなりにあるんじゃないかな。
だからいろんな場所でこういうものがあるのかないのかきちんと調べていく事が必要だと思います。
セシウムボールの性質はどのようなものなのか。
気象研究所の足立さんは発見したセシウムボールを水に溶かしてみる事にしました。
従来想定されていた硫酸塩のエアロゾルの場合です。
主成分である硫酸アンモニウムは水をたらすとすぐに溶けてしまいます。
しかしセシウムボールは水をたらして1時間たってもほとんど変化しませんでした。
水に溶けない非水溶性である事が分かったのです。
更にセシウムボールの成分を調べるため強い酸で溶かそうとした時の事です。
フィルターごと濃硝酸の中に浸し…ところがそれでもセシウムボールはあまり溶けませんでした。
なぜこれほど溶けにくいのか?セシウムボールの正体を探る実験が兵庫県にあるSPring−8で行われました。
分析を行ったのは東京理科大学の中井研究室です。
SPring−8では極めて強いX線を利用して物質を詳細に分析する事ができます。
実験ではセシウムボールの化学的な状態を探るために成分として多く含まれている鉄に注目。
X線を照射し…これは鉄を含むさまざまな物質の測定データです。
金属の鉄ケイ酸鉄など元素の組み合わせによってそれぞれ特有の波形を示す事が分かっています。
セシウムボールから得られた波形はこの形。
比べてみると鉄を添加したガラスとほぼ一致する事が分かりました。
セシウムがガラス玉に入って飛んでいったという事ですか?そういうふうに考えられているようです。
いろいろな元素というのを見ていきたいと思います。
多く含まれているのがケイ素鉄亜鉛。
原子炉の構造物ですとか冷却水に含まれている元素です。
続いて量は少ないんですけれども核燃料そのものであるウラン。
そのウランが核分裂した時に出来るセシウムをはじめとするさまざまな元素も見つかったんですね。
原発事故によって放出された放射性物質というのは大半がセシウムボールつまり水に溶けない状態だったと考えていいんですか?それはとても大事なところでセシウムボールが見つかったのは…これを分析すると…ところがもう一度20日から21日にかけてつくばにも飛んできてるんですね。
その時のフィルターを分析すると…へえ〜。
ですからこの事故何度にもわたってセシウム環境中に放出されているので…そこから何が分かるんですか?今回の事故では複数の原子炉で事故が起きてますね。
ですからどの炉からいつ出たかという事で…見ていきたいと思います。
福島第一原発から放出された水に溶けない微粒子がどのようにどこまで飛んでいったと考えられているのか。
気象研究所が地表付近での濃度を試算しました。
福島第一原発から放出された水に溶けない微粒子は茨城千葉東京神奈川静岡まで南下。
その後太平洋へ抜けていった可能性が高い事が分かったんです。
静岡までって結構遠い所まで飛んでいった可能性があるんですね。
ここからはセシウムボールが健康にどのように影響するか見ていきたいと思います。
放射線被ばくには大きく分けて外部被ばくと内部被ばくがあるんですがこちらで説明しましょう。
ああ外から放射線を受ける。
一方内部被ばくは例えば食べ物を通じて放射性物質が体の中に入る。
胃に入ってそこで被ばくする。
あるいは空気中にある放射性物質を吸い込んでそれが肺の中に入ってそこで被ばくするといったパターンなんですよ。
体の中に放射性物質があるという事ですね?そうですね。
それでは内部被ばくした時にセシウムを含む粒子が水に溶けるか溶けないかでどれぐらい影響が違ってくるのか見ていきましょう。
水溶性のセシウム粒子の場合胃や腸に入ると…また呼吸によって肺に入った場合も体液に溶けます。
いずれの場合も全身に運ばれますがその後代謝活動によって…成人の場合…これに対し水に溶けないセシウム粒子の場合は胃や腸に入っても…体内に滞留する時間が短く…ところが呼吸によって肺に入った場合は状況が一変します。
肺の一番奥突き当たりにある肺胞の中に非水溶性のセシウム粒子が付着すると溶けないため…一部は体内にとどまり続けると考えられています。
その結果同じ量のセシウム137が肺に入ったとしても水溶性の粒子と比べて肺の被ばく量は大人ではおよそ70倍。
影響を受けやすい幼児ではおよそ180倍多くなります。
セシウム粒子が水に溶けるか溶けないかだけでも被ばく量がこんなに大きく違うんですね。
そういう事なんですね。
これまで分析された中でセシウムの量が最も多い66ベクレルの粒子が1個肺に入った場合その時の被ばく量を国際的な基準に従って試算したのがこちらです。
1個吸い込んだ時の肺の被ばく量は計算上最も被ばく量が多くなる新生児でトータル0.031ミリシーベルトです。
一方普通の生活をしていてもふだんから浴びている自然放射線ラドンというガスによる肺の被ばく量は日本人の平均で…そうですね。
その数字を聞くと個人的にはそんなに影響がないような気はするんですよ。
ただそうなるとじゃあいくつ吸い込んだのかが問題なので例えば100個200個となってくると話は変わってきますよね?そうですね。
セシウムなどの放射性物質が体の中にどれだけあるのかを調べる方法としてホールボディーカウンターっていうのがあるんですね。
性能がよいものは検出限界が150ベクレルぐらいですので今計算に使った粒子これだとまあ3個以上吸い込んだら検出されると思います。
ただ66ベクレルは…今7ミクロンでしたっけねさっきのね。
まあいろんな条件考えなければいけませんけども。
それから大きな粒子になるとその中心部から出る放射性物質が外へ出るまでに…放射線医学総合研究所によるホールボディーカウンターの調査では今のところ水に溶けない粒子を吸い込んだと見られる人は見つかっていないという事なんです。
そうなんですね。
一方で水に溶けないセシウム粒子による内部被ばくはこれまで考えられてきたものよりもっと大きな影響が出る可能性があると指摘する研究者もいるんです。
放射線による生物への影響について研究を行っている…高辻さんは粒子のように局所的に放射性物質が集まった場合より大きな健康影響を与える可能性があると心配しています。
注目したのはセシウムが放出するベータ線と呼ばれる放射線です。
ベータ線は透過力が弱く体内では5ミリ程度で止まります。
ここで同じ量のセシウムが肺全体に分散している場合と1か所に集中している場合を比較します。
分散している場合それぞれの粒子の周りが少しずつ被ばくする事になります。
一方1つの粒子となっている場合その粒子の周りが集中的に高い線量で被ばくする事になります。
これは放射線量と染色体異常の発生数の関係を人の細胞を使って調べた実験の結果です。
高い線量になると染色体異常の発生数が急激に増加する事が分かっています。
ただし実際にどれだけがんの発生率が増加するかは実験で確かめられていないため分かっていません。
う〜ん確かに勝手なイメージですけど粒子状にまとまってた方が影響が大きそうな感じはしますよね。
高辻さんはそのように指摘しているという事なんです。
これに対してICRP国際放射線防護委員会の日本国内の委員は…一方UNSCEAR国連科学委員会は2008年のリポートに…実験とかで確かめる事ってできないんですかね?そうですねこのセシウムボールのようなそういう粒子自身を実験のために作れるかという事とかですね。
今すぐにというのは難しいとかいろいろあると思いますけどもある程度の時間をかければ不可能ではないと思います。
もちろんこの福島の事故の影響そのものも…解明ですね。
これも大事なんですけども世界中で今も原発が利用されてる訳ですから…セシウム粒子が今も飛んでいるという心配はないんですか?そこも重要だと思います。
実際去年の夏ですけども廃炉作業の中で原発の敷地からセシウムが結構遠い所まで飛んでしまったという事がありました。
その中にじゃあこのセシウムボールみたいなセシウムが含まれていたのかどうかですね。
これもやはり調べていかなきゃいけないしこれからまだ廃炉の作業って長く続く訳ですね。
ですから万一そういうものが飛ぶ事がないのかどうか…それから健康への影響はあるんじゃないかと心配される方もあると思いますので…森口さんどうもありがとうございました。
それでは「サイエンスZERO」。
次回もお楽しみに!2015/03/07(土) 12:30〜13:00
NHKEテレ1大阪
サイエンスZERO シリーズ 原発事故(13)「謎の放射性粒子を追え!」[字][再]
12月21日放送分のアンコール。原発事故で大量に放出されたセシウム。電子顕微鏡を用いた詳細調査で水に不溶性の球形粒子も多いことが明らかになった。健康への影響は?
詳細情報
番組内容
12月21日放送分のアンコール。福島第一原発の事故で大量に放出された放射性物質・セシウム。放射線量などをもとにその汚染状況が調査されてきたが、実際の化学的形態はよく分かっていなかった。しかし、電子顕微鏡を用いた巧みな調査で、不溶性の球形粒子として存在するものも多いことが明らかになった。従来想定されていた水溶性粒子とは体内や環境中でのふるまいが異なるため、健康影響の推定などにも違う考え方が必要だ。
出演者
【ゲスト】東京大学教授…森口祐一,【司会】竹内薫,南沢奈央,【キャスター】江崎史恵,【語り】中山準之助
ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – 自然・動物・環境
ドキュメンタリー/教養 – 宇宙・科学・医学
ドキュメンタリー/教養 – 社会・時事
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