もう20分も過ぎてるし。
初対面の相手を待たせるなんてどういう神経なのよ…。
いいからこっちへ来なさい!放してくださいよ!ちょっと待ってください!暴れるんじゃない!暴れてないじゃないですか。
おとなしくしなさい!ちょっと待ってください!暴れるんじゃない!ちょっとやめて!やめてください!あ〜!ちょっと待ってくださいよ。
盗撮の常習犯だろ!ちょっとやめて…。
いいからカメラを見せてみなさい。
やめてください!ちょっと待ってください!誤解です!話を聞いてください!盗撮?やだ〜。
変態…。
プロのカメラマンなんですよ。
あのねここでね小西さんという方と待ち合わせしてるんですよ!えっ!?話はゆっくり事務所で聞くから。
話はわかった。
話は事務所で聞くから…。
ああ!あ危ないですよ!拾うの大変だな…あれ。
ああ…。
ああじゃないですよ!いやいや亜ですよ。
亜です亜です。
すみません!何なんだあなた。
週刊エブリの
.@
といいます。
あああなたが!僕今日一緒に仕事をさせていただきます亜です。
亜愛一郎です。
(2人)ああ?なんだって?亜というのが名字で愛一郎というのが名前です。
亜という字は悪人の悪の下から心を取った亜を書きます。
何言ってんのこの人。
自分の名前を説明したみたいです。
ずいぶんと早く着いてしまったのでどうしようかと歩き回ってたら迷っちゃいました…。
ちょっと何撮ってるの?誰か!盗撮!盗撮よ!違います!僕はフリーのカメラマンなんですよ!そりゃ怒られますよ。
無断でモデルを写真に撮るなんて。
すみません。
それにその格好…。
変ですか?いや被写体に敬意を払ってるつもりなんですけど…。
敬意ねぇ…。
あっもう始まっちゃう!行きますよ。
はい。
こちらは花をモチーフにした女性らしいデザイン。
天然ダイヤモンドとアコヤ真珠をあしらっておりキュートながらもエレガントな女性にぴったりです。
続きましてより大人な女性のためのシンプルながらも首元を美しく見せてくれるひと品。
ダイヤモンドに白蝶真珠をあしらいました。
お待たせいたしました。
いよいよ鳳陽司渾身の一作です。
1年近くかけて完成したネックレス。
モデルは柚木ルカさんです!
(歓声)最高級の天然ダイヤモンドを贅沢に使いました。
土台はプラチナ1,000にこだわりダイヤのカットは最高クラスエクセレントカットを施しております。
より力強い輝きを放っていますね。
ああきれい…。
何億年もの眠りから目覚めて光の粒となったダイヤモンド。
その美しさはどんな女性をも虜にしてしまうでしょう。
ああ!何してるんですか。
ちょっと…。
えっ?光…反射…違うな…。
光…反射…違う…。
光…反射…。
違う…。
亜さんどうしたんですか?あっ!えっ!な…何なんですか!何か…わかりました。
はぁ?あれは…。
えぇ!あれが偽物のダイヤ!?
(ざわめき)え〜皆様ご静粛に。
出ますよ。
鳳陽司の新作コレクションはまだまだ続きます…。
え〜本日ご覧いただきましたジュエリーは…。
偽物…。
ちぎれるちぎれる。
痛い痛い痛い…。
痛い目に遭ったのはこっちです!あんな恥ずかしい思いしたの生まれて初めてですよ!ショーをぶち壊しにするつもりですか!それはこっちのセリフだよ。
鳳さん!?説明してくれないか。
どういうつもりで僕の作品を偽物呼ばわりしたのか。
私じゃないですよ。
ここの人が…。
あ…この人が。
ほぅ。
聞かせてもらおうか。
僕は宝石のことはわからないんですが。
あの首飾りを…。
あ〜。
ネックレス。
あのネックレスを見てるうちに他とは何かが違うとか…感じたんです。
ちょっと〜。
いいかげんなこと言わないでくださいよ!あっこれを見ていただければ…。
はぁ?これが何?見比べてみてください。
同じダイヤでも他の作品とあのネックレスのダイヤとではライトを受けたときの輝きが違うんです。
そうかなぁ…。
それにですね…。
何これ。
これショーに関係ないじゃないですか。
ああの…それよりもこの2つを見比べてみてください。
右が例のネックレスを見ているとき。
そして左がその直前の他の作品を見ているとき。
どうですか。
お客さんの顔が違うと思いませんか?どこが?ほら客席を…前から後ろへ見ていってください。
鳴り物入りで紹介されたネックレスなのに他のときのほうがほとんど全員の顔が輝いてるでしょ?感動の伝わり方が違うんです!それほとんどこじつけでしょ!?すみません鳳さん。
いや…彼の言うことは正しい。
は?ハハハハ…いやまいったな。
あなたの見抜いたとおりだ。
ルカがつけていたのはレプリカ。
石は偽物だ。
まあ作ったのは一流の職人だけどね。
実は手違いで本物はすでにドニエプル王国に送ってしまってね。
だから急きょレプリカで対応せざるをえなくて。
ウソ…。
ああ確かに違うな。
伝わり方が。
人間の顔というものは思ってるよりずっと正直でいろいろなことを表現してくれます。
なるほど。
おもしろい。
ふざけないでよ!ルカ。
ちょっと待てって。
もう離してよ。
落ち着けよ。
どいて。
私にレプリカをつけさせるなんて!こんなもの!ああもったいない…。
絶対に許さないから!はぁ…小西さん。
ルカの取材はまた今度ってことで。
あぁ…はい。
ああ…あ〜行っちゃった。
そうだあの…名刺もらえませんかね?あ…はい。
喜んで。
ありがとう。
あぁ僕が個人的に撮ってる写真は顔がテーマでして。
顔のカメラマンか…。
はい。
あっそうだ。
1枚撮らせていただいていいですか?おはようございます。
あ小西ちょっとおいで。
はい。
これね一から書き直しだ。
えっ?えっ?じゃないでしょ。
ルカの事務所との契約忘れたのか?お前が柚木ルカの密着取材をしたのは何のためだ?読者の皆さんにルカの美しさも生き方もすてきですよお手本になりますよって教えるためです。
それが何だこれは?こんなイメージダウンの記事使い物にならんだろ。
でもこれが事実です。
事実だけ書いても商売にならないの。
もう一度パズル雑誌に戻るか?はい…。
佐々木!はい。
お前もこれ何だ?これだから新入りは困るんだよな。
はぁ…。
おはようございます。
おはようございます。
おいおはよう!レプリカのネックレスお前が見抜いたんだって?たまたまです。
相変わらずいい目してるね。
優秀なカメラマンというのはいいものだけが持ってる何かを見抜くものだ。
本当にあの人一流なんですか?とてもそんなふうには…。
見えない?そりゃお前がまだ一流じゃないってこと。
はい。
編集長大変です!小西向こう。
早く早く。
繰り返します。
今日午前8時頃世田谷区の公園で女性の刺殺死体が発見され警察が身元を調べていましたが被害者はファッションモデルの柚木ルカさんであることがわかりました。
柚木さんは初のヌード写真集の出版を来月に控え撮影した写真家粥谷東巨氏と本日会見を行う予定でした。
小西柚木ルカの事務所に行ってこい。
あっはい。
亜も一緒にな。
あ?はい…。
ったく私一人でいいのに。
ルカさんの事務所は今結構バタバタしてると思うんですよね。
だから…。
ですから柚木ルカに関しましてはこちらも確認中でして。
どうぞ。
すみませんね騒がしくて。
いいえこちらこそすみません。
こんな時に押しかけてしまって。
いえ…これからって時だったのにまだ信じられませんよ。
えぇ。
全然回収できてませんからねルカにかけた先行投資。
どうぞ。
あどうも。
週刊エブリの
!=5の9fで|!ルカさんの追悼特集を組みたいと考えておりまして。
そらそうでしょ。
まだ密着取材の途中だったしさ。
はい。
それでルカさんの人となりをお聞きしたくて。
人となりね…。
まぁご存じのとおり気性は激しかったですね。
当然ルカをよく思わない人間も多かった。
僕も含めて。
ルカは自分のことしか興味がなかった。
一度こうと決めたら誰の意見も耳を貸さない。
まぁそうでなきゃトップモデルなんかなれませんけどね。
そういうもの…ですか。
すみません!ちょっと何やってるんですか!?いやあのこの本がちょっと気になったもんで。
枠の外の真実?あぁそれ粥谷東巨先生の最新の写真集ですよ。
ルカが撮影してもらってたときにいただいたんです。
そうですか。
これが東巨さんのね…。
失礼します。
社長警察の方がお見えです。
世田谷中央署の中垣内です。
あの倉本さん。
倉本さんは…。
あちらです。
世田谷中央署の中垣内です。
西條です。
倉本さんにお聞きしたいことがありまして。
西條?あれ?おいどうした?いえ何でも…。
亜さん行きますよ。
あはい。
おじゃましました。
枠の外枠の外ね…。
署に戻るぞ。
はい。
先輩すみません電話を一本だけ。
あ?お久しぶりです茜先輩。
元気そうじゃない西條。
え?お二人はどういう…。
自己紹介したら西條。
元カレです。
ち違うでしょ!ただの高校の後輩。
ったく…。
ちょっと聞きたいことがあるの。
ダメです。
まだ何も聞いてないでしょ。
事件の概要は正式な発表を聞いてください。
死亡推定時刻と凶器くらいいいでしょ。
私待ってられないの。
もうしかたないな。
貸しですよ。
死亡推定時刻は今日の午前7時前後。
凶器は大量生産された刃渡り16センチのナイフです。
あっ…以上です。
えっちょっと待って!倉本社長には何を聞いたの?これ以上何も言えません。
じゃあ容疑者はもういるっていうこと?言えません。
いいの?あんたが私に書いたラブレターネットで公開するよ。
えっ!?言えません。
初めて会ったときから茜先輩のことが好きでした。
考えるだけで…ちょっともう!何やってんだ西條!行くぞ!早く来いバカ野郎!はい!はいはい!早く来い。
どうして別れちゃったんですか?つきあってません。
いや〜刑事さんから情報を得るなんてすごいですね。
いやたいしたことないですよ。
じゃあまた頼むね。
よろしく。
おい小西おいで。
編集長新情報手に入れました。
警察は鳳陽司に目をつけてるぞ。
今夜にでも任意同行しそうな勢いだ。
鳳さんが?柚木ルカの通話記録を調べたら犯行時刻の30分前鳳から電話があって。
編集長その情報どこから?いや東都新聞の社会部にねマージャン仲間がいてそいつにちょっとした貸しがあるんだ。
すごい。
でそっちの情報は?いえ何でもないです。
おまけに鳳は昨夜ルカのマンションにも行ってる。
オートロックの外からさんざん呼び出したあげく結局入れてもらえずすごすご帰った。
その一部始終を防犯カメラがばっちり映してた。
鳳さんがルカさんを付け狙ってたってことですか?さあね。
ただねあの2人半年前密会写真撮られてるだろ。
あぁそうでしたね。
鳳さんは女性関係が派手だって噂だしつまり警察は痴情のもつれで鳳さんがやったと?そう考えてるのかもしれんね。
まだそう決めつけるのは…。
わかりました。
早速裏とってきます。
違うよ。
お前はルカの周辺を調べて知られざるエピソードを掘り起こすんだよ。
読者が喜ぶ泣けるネタだよ。
それを間違えるな。
はい。
いってきま〜す。
だから仕事上の用件ですって。
午後11時ですよ。
仕事の話をするには遅すぎやしませんか?普通の会社員ならそうでしょうが僕らは違う。
なるほど。
では今朝犯行時刻の30分前に柚木さんに電話をかけた用件は?同じですよ。
仕事の依頼をしたんです。
昨日会えなかったから。
電話をしたのが午前6時30分。
これまたずいぶん早い時間ですね。
早く用件を伝えたかっただけですよ。
それに今朝はずっと仕事場にいたって言ってるでしょ。
ですがそれを証明することはできない。
(玄関チャイム)週刊エブリの
.@
と?=します。
それでこちらがカメラマンの…。
亜愛一郎です。
粥谷東巨のチーフアシスタントをしております黒瀬です。
ご無理を言って押しかけて申し訳ありません。
いえ少しお待ちいただけますか?今撮影中なので。
えっ!この中にスタジオがあるんですか?どうぞ。
こちらでお待ちください。
125の8です。
うんもう少しひねろうか。
詩織ちゃんもうちょっと商品右回り。
これくらいですか?うんうん。
メインちょっと上げて。
はい。
8半です。
お願いします。
うん。
(シャッター音)詩織ちゃん次箱入りパターンで。
このたびは大変なことが起きた直後なのに取材をお受けくださってありがとうございます。
実は柚木ルカさんの追悼記事を企画しましてぜひ先生にもお話をお伺いしたくて…。
ああでは写真も失礼いたします。
失礼します。
今回の写真集についてお聞かせください。
先生がヌード写真集をお撮りになるというのは驚きのニュースでしたけれど今まで一度もグラビアのお仕事はされてらっしゃいませんよね。
何か心境の変化でもあられたんですか?そんなものはない。
ずっと以前からルカさんが要望してたんです。
それでお互い初めてのことに挑戦するのもいいということになりました。
あのその作品を見せていただいてもよろしいですか?ダメだまだ完成していない。
そうですか撮影はもう終わられてるんですよね?まだ仕上がってないんです。
今回はすべてモノクロフィルムで撮影したので東巨自身が現像までやります。
現像の仕方で全然違う写真になるんですよ。
ああちらの方ならよくおわかりでしょうけど。
何やってるんですか東巨さん撮ってくださいよ。
すみません。
亜さんですよね?はい。
気に入りました?ええこれ枠の外の真実ですよね?ええ東巨にとって特別に思い入れのある作品で…。
私1人がつきっきりでアシストしました。
失礼します。
どうぞ。
先生ところで撮影中はルカさんとプライベートなお話をされたりはしましたか?なぜかね?それはそのもし印象的なエピソードがあればいろいろお聞きしたいなと思いまして。
個人的な話か?写真のことではなく。
ああできれば…。
興味本位の取材ならお断りだ。
引き取ってくれ。
お気に障ったんだったら謝りますでも…。
引き取ってくれ。
あ…。
あはい。
いや今名前呼びましたよね?えっ?えっ?ああ亜さんの亜じゃなくてリアクションのあです。
なんだ紛らわしいですね。
どっちが。
ずいぶんドライなんですねマスコミの方は。
あまりに突然のことで東巨は気持の整理がついてないんです。
わかっていただけますか?ああおじゃましました。
失礼しました。
怒らせちゃいましたね。
ああの…。
今日の仕事はもう終わりです。
あとはお好きにどうぞ。
あっすみませんすみません。
あいやちょっとすみません。
はいもしもし。
こちら亜ですけど。
はぁ?はぁ…。
おいお前ら鳳陽司についてはアリバイが浮上した。
ガイシャの仕事関係交友関係から新たな被疑者が浮かばないかもう一度洗い直すぞ。
(一同)はい。
ほら行きやがれ食ってねえで。
(一同)はい!鳳じゃなかったなんて…。
すごいなぁ…。
はいはい。
ちょっと変な人が来てるんですよねはい。
すみませんお待たせしちゃって。
あっ。
大丈夫ですか?あはい。
気をつけて。
はいすみません。
どうぞこちらへ。
はい。
突然呼び出したりして悪かったね。
あの鳳さん警察で取り調べられてるって聞いたんですが。
はぁ参ったな。
もうそんな話伝わってるんだ。
疑い晴れたんですか?ああ。
犯行時刻にオフィスにいたことをあそこにいる牧村さんが証言してくれたんだよ。
失礼します。
(一同)こんにちは。
こんにちは。
ああの今日はどういったご用件で…。
うんいや来月ねロンドンで新作発表会があるんだよ。
まぁそこに何人かモデル連れて行こうと思ってて。
最終候補に残ったのが彼女たち。
どの子がいいかアドバイスしてほしいんだ。
えっ僕が?あなたには人を見る目があると思ってね。
ほう…この写真変わったプロフィール写真ですね。
僕が撮ったんだよ。
まぁ堅苦しいプロフィール写真より自分でラフに撮ったほうが覚えやすいんでね。
撮らせてもらってるんだ。
ルカも候補だったんだけどね。
何か…。
えっ?愛一郎さんどうかしたの?あっいやあすみません。
ハハハおもしろいなぁ愛一郎さん。
そうだよかったらこれ持って帰ってじっくり選んで。
じゃあ悪いけどよろしく頼むよ。
はいあのお役に立てるかどうかわかりませんが。
失礼します。
あっ!何?よかったら工房の写真を撮らせてもらえますか?ああどうぞ。
ありがとうございます。
(シャッター音)あすすみません。
(シャッター音)あ失礼しました。
また来てください。
はい。
小西お疲れ。
あお疲れさまです。
お疲れさまです。
亜どうした?ああ鳳さんから頼まれてモデル選び手伝ってたんですよ。
えっお鳳さん?話が見えないんですけど。
鳳は警察だろ?いやそれがねアリバイがあったみたいなんですよ。
これこの牧村っていう職人さんが証言したみたいで。
じゃあ鳳はシロ?でもアリバイってほんとなんですかね?アリバイがウソだってことなの?可能性はありませんか?この牧村さんにとって鳳さんは雇い主です。
逮捕されたら仕事を失うかもしれないしそれに鳳さんとルカさんが別れ話でもめて…。
それは違うと思います。
理由は?僕には鳳さんとルカさんとが男女の関係だったとは思えないんですよ。
どういうことですか?距離感です。
距離感?えっちょっ何ですか?いきなり。
(シャッター音)すみません…ちょっと。
あのねえ!
(シャッター音)ちょっと。
注意し…。
ちょっと。
いいですか?一見同じサイズに見える顔の写真でもまぁ使用するレンズの画角によって距離感が違います。
画角?ええ。
つまり広角レンズで近距離から撮った写真と望遠レンズで離れた場所から撮った写真とでは同じアップの写真でも写り方には違いが出てくるっていうことです。
確かにこっちの近い距離から広角で撮った写真は小西の顔がずいぶん膨らんで見えるな。
それどういう意味ですか?まぁ小西さんの顔はともかくちょっとこっち来てください。
鳳さんのオフィスに貼ってあった写真です。
まぁ確かにこの中の何人かと鳳さんは特別な関係にあったようです。
でもルカさんは違います。
何言ってるんですか!?写真でそんなことがわかるはずがないじゃないですか!んなバカな…。
いやちょ…よく見てください。
ルカさん以外のモデルさんたちはこんなに近距離から広角で撮っている写真なのに表情がどれも自然でしょ。
確かに肩の力抜けてるね。
それに比べてルカさんは離れた場所からズームで寄って撮られた写真です。
つまりこれは鳳さんとルカさんとの距離です。
他のモデルさんたちと比べて2人の関係が遠いのは明らかです。
確かにそう見えますね。
鳳はプロのカメラマンじゃない。
だから余計被写体との関係の違いが強く出たってわけだ。
そうそのとおり。
特にこういうふうに1人でいろいろな相手のアップを撮った写真を比べてみるとよく見えてきます。
お前にしちゃとてもわかりやすい説明だ。
なるほど。
だがねそれが正しかったとしてもイコール鳳が犯人じゃないっていう証拠にはならないよ。
えっ!?そうですよ。
一方通行つまり鳳さんのルカさんへの片思いが暴走しての殺人かもしれませんよ。
あぁそっか…。
モテ男の鳳さんもルカさんだけは落ちなかった。
プライドを傷つけられて逆上してルカさんを…って。
ルカの気高いイメージそのままだ。
読者も納得するよ。
じゃあ私は行かせてもらうよ。
お疲れさまでした。
お疲れ。
あ〜っ!どうしたの?これ。
あ〜っ!誰?これ。
東巨さんのアシスタントの美也子さんです。
どういうこと?明日東巨さんの所に行くの私だけでいいですよ。
どうしてですか!?写真必要ありませんから。
東巨さんの所には一緒に行きたいです。
ダメですか?そんなことないですけど…。
あ〜っそこで結構です。
送っていただいてありがとうございました。
ウソこんなとこ住んでんの?いやあの…。
ほんと変わってる。
〜ただ今帰りました。
これ…今月分の家賃です。
あぁ。
ではおやすみなさい。
おやすみ。
〜コントラスト…すごい…。
変化…。
枠の外…。
何か気になりましたか?あぁ。
中垣内さん?昨日はすみませんでした。
無神経なことをお聞きして。
今日は改めて撮影中のエピソードなどを伺いたくて。
どうぞ。
こちらも多少落ち着きましたので。
ありがとうございます。
早速ですが先生撮影の際ルカさんとはどのようなやりとりがあったんでしょうか?何もない。
え?でも先生が撮影されたのはヌードですよね?勝手な想像ですけどそういう時は独特な信頼関係みたいなのが生まれたりするもんじゃないんでしょうか?ちょっとそのへんをですね詳しく…。
彼女がなぜヌードになったのかわかるかね?想像ですけどいちばんきれいな時期を残したかったからとかあとはお金とかですかね。
どちらも否定できない。
だが何より彼女を駆り立てていたものは恐れだ。
恐れ?美しさが失われる恐怖人々から忘れられる恐怖。
彼女は常に恐怖と闘っていた。
私にはそれが痛いほど伝わってきた。
失われる…恐怖。
私は彼女の美しさをできるだけ残そうと努力した。
恐怖を少しでもやわらげてやりたくてね。
今となっては虚しいことだが…。
あの…実はこちらに美也…。
お話し中に失礼します。
先生急ぎでチェックしていただきたいんですけど。
〜焦点…違う。
また?もう静かに!あっ…すみません。
いいよ。
あとはキミの選択に任せる。
はい。
ありがとうございます。
あの実はここに…。
(玄関チャイム)誰かしら?詩織ちゃんいいわ私が出る。
記事確認できませんでしたね。
どちら様でしょうか?お忙しいところ申し訳ありません。
世田谷中央署の中垣内といいます。
粥谷東巨先生にお聞きしたいことがありまして。
先生警察の方がお見えになりました。
先生実は伺いたいことがありまして。
柚木ルカさんが殺害されたおとといの朝7時どちらにいらっしゃいましたか?一緒に散歩をしていました。
それが毎朝の習慣なんです。
奥さんではなく先生に聞いてるんですが。
中垣内さん奥さんじゃありません。
事実婚ってやつだろう。
昔で言えば内縁の妻だ。
それが何か?近親者の証言は公的には認められていないんですよ。
身内をかばいたくなるのが人の常ですからね。
あっ証拠ならあります。
上にどうぞ。
これです。
おととい東巨が撮ったものです。
その気になれば日付は操作できるんじゃないですか。
あの…ちょっといいですか?何出しゃばってるんですか?何だね?先生。
先生は毎日この風景を撮られてますか?毎日?ええ。
カメラマンには定点観測で撮影される方が多いんですよ。
例えば毎朝必ず鏡に映った自分の顔を撮ったり…。
本当ですか?彼の言うとおりだ。
私は散歩をするたびに同じ場所の写真を撮っている。
ちょっといいですか。
どの写真も太陽の高さと位置が確かにこの季節この時刻のものです。
う〜ん。
またか。
見てください。
美しい高積雲です。
高積雲?僕もおとといの朝の高積雲のことよく覚えてます。
気象庁の記録と照らし合わせたらこの日付にウソがないことがわかると思います。
なるほど!バカ野郎!簡単に納得するな。
はい。
すぐに気象庁に確認を。
バカ野郎あとにしろ。
はい。
先生の行動については概ね了解しました。
しかし黒瀬さんがここに一緒にいたという証拠にはならない。
それはどういう意味でしょうか?私は事実を申し上げただけです。
では。
中垣内だ。
なに!?どうしました?中垣内さん。
警察が黒瀬美也子を疑ってる?はい早速美也子さんの周辺を調べてみます。
あのな小西。
はい?今お前がやってることは柚木ルカの追悼記事の取材だ。
見失ってないか?わかってますよ。
ルカの気高いイメージを守りながら読者に知られざるエピソードを紹介して彼女の死を悼むですよね。
そう。
犯人捜しはあくまでも追悼記事のための手段ですから。
大丈夫です。
ならいいが締め切りまで3日だぞ。
大丈夫です。
これゴミよろしくお願いします。
いってきます!あ…亜はどこ行ったんだ?よく見つけたもんだ。
でこの写真が撮られたときのことが知りたいと?はい。
なぜこんな場所に美也子さんがいるのか?でもどうして僕に?美也子さんに聞けばいいでしょ?ちょっと聞きそびれてしまって。
なるほど。
これは鳳さんが美也子さんとルカを引き合わせたときの写真なんですよ。
えっ?美也子さんは東巨先生のアシスタントになる前広告代理店に勤めてて。
そのときにまだ頭角を現す前の鳳さんと知り合ったんです。
ルカはそのことを知って東巨先生に写真集を撮ってほしいから紹介してくれるよう鳳さんに頼み込んだんですよ。
じゃあ東巨先生がルカさんを撮るようになったのは。
鳳さんの仲立ちのおかげです。
美也子さんも東巨先生を説得してくれました。
はぁ…本当は3人で会ってたんですね。
そろそろいいですか?僕ものんびりしてられないんで。
あ…すみません。
はい。
あぁ…お疲れさまです。
ちょっと…。
はい…。
えっ?お願いしますね。
粥谷先生。
キミか。
ここの景色が見たくて来ちゃいました。
もしかしたらあの日先生はお一人でここにいらっしゃったんじゃないですか?警察の方とここの写真を何枚も見せていただいたとき僕にはあの写真の枠の外が見えたんです。
枠の外?ええ。
これが先生がいつもお撮りになってらっしゃる構図。
そしてこちらがあの日の構図。
おとといの朝の高積雲のことはよく覚えてますこの手前の手すりの位置関係が違いますよね。
いつもは美也子さんが先生のお隣にいらっしゃいます。
今の僕のように。
でも事件の日の朝はいらっしゃらなかった。
だからほんの少しだけお写真をお撮りになる位置が左に寄ったのではないかと。
キミはすばらしい感性をしてるな。
確かにキミの言うとおりあの朝だけは私1人だけで散歩をした。
美也子さんにはお聞きになったんですか?どこにいたのか?なぜ…。
美也子が何も言わないときは私が知る必要がないときだ。
今もそう思っている。
(ため息)そうだったんですか。
美也子さんがあの朝いなかったなんて…。
まさかルカさんを…。
まだ犯人だと決まったわけではありません。
明日美也子さんに確認しに行きましょう。
(玄関チャイム)キャーッ!!えっ!?どうしました?美也子さん!?あぁ…。
あ…愛一郎さん!愛一郎さんしっかりしてください!あ〜!東巨さん今からいくつか質問させていただきますので答えていただいてよろしいでしょうか?気がつきましたか?やっとお目覚めか。
何しにここに来たんだ?美也子さんは?自殺のようだ。
朝起きると美也子の姿がどこにもなくて…。
美也子?おい美也子。
美也子〜っ!!なんで!なぜ…美也子!私が出勤してきたときにはもう。
中垣内さんこれを見てください。
「死んで償います」か。
先生この文字に見覚えは?うん…。
間違いありません。
美也子さんの字です。
あっはい。
今から戻ります。
あのちょっといいですか?すみません今急いでるんで。
警察は本当に美也子さんがルカさんを殺害したと考えてるんですか?ねぇ。
何か証拠でもあるの?お願い!これで最後だから西條。
柚木ルカが殺された日犯行時刻の1時間前に鳳の工房の近くで美也子の車が目撃されてたんです。
これ以上何も言いません。
美也子さんと鳳さんがルカさん事件の共犯?そんなまさか。
柚木ルカが殺害された日の黒瀬美也子のアリバイについて粥谷東巨に再度確認をとったところ先日の証言は虚偽であったと供述しました。
その日の朝の美也子の行動は不明だということです。
次伊藤!はい。
事件当日の目撃者探しは現在も継続中です。
よし次吉田。
はい。
同日午前7時鳳陽司のアリバイを証言した牧村健介ですがふだん出勤する時刻が午前9時頃であることがわかりました。
こちらも虚偽のアリバイ証言をしている可能性があります。
牧村の近辺の聞き込みを強化します。
聞き込みの結果を待つ余裕はない。
柚木ルカ殺害は黒瀬美也子と鳳の共犯である可能性が極めて高い。
逃亡される前に即刻任意同行で鳳の身柄を押さえる!
(一同)はい!よし行くぞ!
(一同)はい!すみません鳳さんいらっしゃいますか?今日は見ていませんね。
そうですか。
よしオフィスへ行くぞ!はい。
警察です。
鳳陽司さんいらっしゃいますか。
もう一度署でお話を。
僕たちも連絡がとれないんですよ。
えっ!しまった!わかったありがとう。
鳳が失踪した。
やっぱり。
鳳さんと美也子さんは特別な関係だった。
2人の関係をかぎつけたルカさんが東巨先生にバラすぞと脅した。
だから口封じのために2人で犯行を計画した。
確かにその線がしっくりくるな。
でも共犯がいるのになぜ美也子さんが一人で自殺なんてしたんでしょうか?ああの…その前にひとつ不思議なことがあるんです。
(2人)不思議なこと?ええ。
粥谷先生の作風の変化なんです。
ちょっといいですかちょっと。
先生の作品を古いほうから年代順に並べてみたんですがいかがですか?古いほうは色や光のコントラストが強めだね。
こっちに迫ってくるようだ。
最近はモノクロの作品が多いのかね。
確か柚木ルカの写真集も全部モノクロで撮ったんだったね。
はい。
それのどこが不思議なんですか?プロのカメラマンだって途中で作風が変わるなんてことはいくらだってあるでしょう。
もちろんですでも…。
何?何か見つけた?いやそういうわけでは。
行き詰まったかな。
おい小西。
はい。
俺の大学時代の同級生にジュエリー関係の会社に勤めてるやつがいてなそいつに鳳んとこの牧村って職人の名前を言ったら知ってたんだよ。
はあ?牧村について情報を仕入れたから教えてやるって言ってんだよ!この鈍感野郎が!あありがとうございます!失礼します。
失礼します。
鳳社長ならいないぞ。
ええ。
実は牧村さんにお話ししたいことがあって。
何だ?話って。
牧村さんは以前デザイナーとして作品を発表していたんだそうですね。
それが7年前鳳さんと一緒に働くようになってからは職人の仕事しかしていない。
引退したんだ。
でも牧村さんのデザインは業界でもずいぶん評価が高かったそうですね。
それがなぜ…。
お前たちには関係ない!なんかありますよね。
ですがそれが何かわかりません。
それに今回の事件に関係してるかどうかも。
そうですよね…。
(お腹が鳴る音)もうやだ…。
そうだサザを食べながら考えませんか?サザ?うわ〜っ!ここの何階に住んでるんですか?いやあのこっちです。
やっぱ地下駐系ですか?いやそういうわけではないんですけど。
えへへ。
あの…地下駐じゃないんですか?あっ月がきれいですよ。
はあ…。
さあ着きました。
えっここ!?あのホテルじゃなくて?ええ。
車だとあそこで降ろしてもらうしか。
ご覧のとおり道幅が狭いから。
さあどうぞ。
な〜んだ。
ただ今帰りました。
大家さんです。
おじゃまします。
今晩はサザなんですがご一緒にいかがですか?サザ。
サザ。
どうぞ。
な…何なんですかこれ!さあどこでも好きなとこどうぞ。
顔ばっかり。
顔は顔はその人間の自叙伝だ。
はい?わかるかね?はあ…。
わかるようなわからないような。
あいつがまだ駆け出しの頃口酸っぱく教えてやったもんだ。
近頃ようやく理解し始めたようだな。
あの…大家さんはいったい?ん?これは?これがサザ。
とうもろこしの粉で作ったジンバブエの主食です。
今日はチキンと合わせてみました。
一緒にどうぞ。
ジンバブエ?10年ほど前向こうで教わったんです。
向こうで教わった?ええ熱いんで気をつけて。
(一同)いただきます。
案外いける。
よかった。
ああ懐かしいなサザ。
あっいらっしゃいました。
俺にも食わせろ。
編集長!?〜
(玄関チャイム)夜分にすみません。
東巨先生にお会いしたいのですが。
失礼します。
先生は今休まれています。
そうですか。
じゃあ伝言をお願いします。
東巨先生が抱えている秘密についてルカに代わり倉本がお話ししに来たと。
失礼します。
はいありがとう。
一ノ瀬さんと僕とは大学の同じ写真部出身なんですよ。
OBの俺がちょくちょく顔を出しててね。
そうなんですか。
それ以来今もお世話になりっぱなしでいつも仕事をくださるんです。
こいつは世界中の人間の顔を撮るのがやめられないから…。
あ〜汚れますって!ちょっと稼いじゃフラッと海外に行く。
そのせいで年中金欠でひいこら言ってるわけだ。
なぁ?おっしゃるとおりです。
へぇ〜。
さてと小西君。
はい。
この取材柚木ルカの追悼記事になるような方向に全然進んでないぞ。
それどころかルカのイメージダウンにつながりそうなネタばかりだ。
ルカの事務所もファンもこれじゃあ納得しないぞ。
でも…。
でも何だ?真相を放っておけません。
何だと?ファンがほんとに知りたいのは死の真相じゃないでしょうか。
それに応えるのが私たちの仕事だと思います。
締め切りは明日の夜だ。
それだけは守れ。
はい!じゃあ私は…。
うまかったよサザ。
あ送ります。
いいいい。
勝手知ったるだ。
勝手知ったるって…。
もともとこの部屋に住んでたのは一ノ瀬さんだったんです。
お元気そうで安心しました。
お前より長生きしてやる。
ハハハ言いますね相変わらず。
じゃあ失礼します。
おい。
はい。
あいつにもっと仕事を回してやれ。
いい部屋に住めるように。
わかりました。
寂しくはなるがな。
うわっ。
〜
(玄関チャイム)ほんとに鳳さんの居場所ご存じありませんか?お願いします!しつこいなあんたたちは。
いや鳳さんがルカさんを手にかけたとは思えないんですよ。
お願いします!警察!?のようですね。
しつこいぞ!とっとと帰れ!あ〜暴力反対暴力反対!このハイエナ週刊誌が!何すんだ!痛い痛い!あぁ〜愛一郎さん!二度と来るな!すごい力でしたよ。
(ドアが閉まる音)あ〜もう仕立てたばっかりなのにクチャクチャになっちゃ…。
何だ?これ。
あっ!あっ!ここですね。
愛一郎さん?はい。
行きますよ。
違いますよ。
「どこまでも逃げて下さい」か。
でもどうやってここの部屋番号わかったの?フロントで昨日からずっと泊まってるお客さんがいないか聞いたら教えてくれました。
こういうホテルで連泊してる人ってなかなかいないでしょ?おお詳しいんだね。
よく来るんですね。
違います。
映画で同じことやってるの観たんです。
ああそっか。
牧村さんは僕がルカを殺したと思い込んでる。
だから必要もないのにウソのアリバイ証言までしてこの部屋も用意してくれたんだ。
どうして牧村さんはそこまでしてくれるんですか?義理堅い人なんだよ彼は。
7年前ね彼はデザイナーとしてスランプに陥っていた。
そのとき魔が差して僕のデザインを盗んで発表してしまったんだ。
でも彼はすぐに後悔して僕に告白してきた。
業界から永遠に消える覚悟でね。
そうだったんですか。
どうぞ。
どうも。
彼の決意は固かったよ。
でも彼は一流の職人だ。
失うのはこの業界にとっても惜しい。
だからうちの工房で働かないかと誘ったんだ。
そんなことがあったなんて…。
鳳さんはルカさんを殺してはいないんですよね?もちろんだ。
じゃあどうして逃げたりなんかしたんですか?この手で真相をつかみたいんだ。
何がルカと美也子さんを死に追いやったのか。
心当たりあるんですか?美也子さんが必死に守ろうとしていたことがある。
粥谷東巨さんの秘密だ。
東巨先生の秘密?先生。
桜文出版からの依頼キャンセルしておきました。
そうか。
ありがとう。
いいんですか?これで5件目ですよ。
かまわん。
残ってる仕事も断ってくれ。
まさか引退されたりしないですよね?お茶いれてきます。
秘密っていったい?美也子さんは教えてくれなかった。
でも確かにルカがおかしなこと言ったんだ。
これが5,000万円か。
今度の写真集が売れたら私もこれくらいの作ってもらおっかなぁ。
いくらなんでも5,000万は無理だろ。
そうかしら?飛ぶように売れるのは間違いないわ。
すごい自信なんだな。
東巨先生に撮ってもらってほんとよかったわ。
あの人の秘密が武器になるのよ。
秘密?気になって美也子さんに聞いてみたんだ。
東巨さんの秘密は何なのかって。
でも美也子さん真っ青になって結局教えてくれなかった。
ルカさんはそのネタを利用しようとしたんですね。
ああ。
その秘密を話題づくりのために出版発表会見で公表するって。
じゃあ鳳さんがルカさんに電話したりマンションに行ったりしたのはルカさんを止めるため?うん…美也子さんを助けたかったんだ。
美也子さんルカにカネを渡してまで秘密守ろうと僕に借金申し込んできたんだ。
ありがとう。
美也子さんこのこと東巨さんは?余計な心配かけたくないの。
これからルカの部屋へ?じゃあそのあと美也子さんがルカさんを?いやそれは違う!美也子さんは誰に対しても心底優しい人だ。
僕も昔返しきれないほど世話になった。
美也子さんがそんなことするはず絶対ない。
あ西條。
刑事さんです。
え?ちょっと…。
はいもしもし。
茜先輩今どこですか?まさか粥谷東巨のところじゃないですよね?違うけどどうしたの?あ〜よかった。
実はルカのマネージャーの倉本さんがゆうべ襲われたんです。
えっ!?倉本さんが襲われた?たった今意識を取り戻して東巨に殺されかけたって言ってるんです。
ああそうわかった。
ありがとう。
そんな…どういうこと?先生に会いに行きましょう。
僕も行く!え?あ〜じゃあ私も!ルカが自分の秘密を知ったと気づいた東巨さんがルカを殺したってことか。
いいえ。
ルカさんが襲われた日の朝東巨さんは確かに一人で散歩されてました。
そうですよ。
東巨さんは犯人なんかじゃありません。
いやでも倉本は東巨さんに殺されかけた。
う〜ん。
またですか?どうした?モノクロ色変化。
モノクロ…色…変化…。
モノクロ色変化。
最近はモノクロの作品が多いのかね。
古いほうが色や光のコントラストが…。
プロのカメラマンだって途中で作風が変わるなんてこといくらだってあるでしょ?特別に思い入れのある作品で…。
私1人が付きっきりでアシスト…。
何か心境の変化でもあられたんですか?急ぎでチェックしていただきたい…。
人々から忘れられる恐怖…。
私にはそれが痛いほど伝わってきた。
失われる恐怖。
先生この文字に見覚えは?死んで償いますか。
間違いありません美也子さんの字です。
美也子さんの字ですあ!あ!何ですか?なな…何かわかりました!急ぎましょう!ね!急ぎましょ〜!あぁ…。
あぁ〜!危ない急ぎますから〜!永井君。
帰ったのか。
(物音)
(すすり泣く声)永井君。
それは…。
永井君!え?
(物音)庭から回りましょう。
よしなさい。
ナイフを下ろすんだ。
あっ!来ないでください下がって!永井君!動かないで!うわ!
(ガラスが割れる音)先生!詩織さんやめて!こっちに来ないで!詩織さん。
先生!やっぱり…。
あなただったんですね。
あなたがルカさんを殺し美也子さんに罪を着せて殺したあげく自殺に見せかけた。
そうですよね詩織さん。
あなたは知っていた。
先生の秘密を。
先生が視力を失いつつあることを。
えっ?そしてその秘密を守ろうとした。
いつ気づいたんだね?最初に気になったのは先生が写真のチェックをしようとしてルーペを覗かれたときです。
あの時先生は左目でルーペを覗かれました。
本当は右が利き目であるはずなのに。
普通カメラマンは利き目でしか仕事をしません。
それなのに先生が逆の目を使われたのには2つの理由があると考えられます。
1つがかなりの疲労が溜まっているとき。
そしてもう1つが利き目の視力が落ちているとき。
しかしそれだけではなかった。
先生は色覚も失いつつあった。
だから先生の作品がカラーからモノクロへと変化したと思ったんです。
キミの言うとおりだ。
私は進行性の目の病を患っている。
美也子さんはそのことをご存じでしたね?彼女にだけは包み隠さず伝えた。
ですが詩織さんもそのことを気づいてしまった。
ちょっと待ってください。
そのことに気づいていたからってどうして詩織さんが犯人だと?美也子さんが死ぬ前に書いたとされるあの遺書です。
色覚異常だとふじ色と青色とはどちらも似たグレーに見えて区別がつきにくい。
あの時実は先生には遺書がただの紙にしか見えなかった。
粥谷先生の目のことを知った詩織さんが…。
この色を使ったんです。
え?何のために?おそらくこうです。
美也子さんにいつも付きっきりで仕事をしていた詩織さんは太いマジックを使えば美也子さんの筆跡をある程度ごまかしながら似せることができると思った。
でも先生に見られたらそれが美也子さんの字ではないということがわかってしまう可能性があると考えたんです。
そもそも先生のことを愛していた美也子さんが遺書にあの色の組み合わせを使うはずがありません。
(すすり泣く声)永井君。
キミは…いつ私の目のことを知ったんだ?美也子から聞いたのか?違います。
ん?それは…。
先生の目あとどれくらいもつの?えっ?何のこと?先生私が渡したお茶落としちゃったのよ。
あ…ごめんごめん。
確かめたのよ。
こんなの拾っちゃったから。
ここ有名な眼科でしょ?先生の目前から何か変だと思ってたのよね。
ああ…ここね。
定期的に診てもらってるのよ。
大丈夫よ。
隠さなくたって。
まだ誰にも話してないから。
ハァハァ…ショックでした。
私は何も知らなかったから。
でもいつかは美也子さんが私にも教えてくれると信じて待ってたんです。
なのに…。
出版発表会見の前の日…。
美也子さん!何ですか?例のこと明日会見で話すから。
えっ?これが東巨先生の最後の作品ですって言ったら話題になるでしょ?売れるわよ。
ルカさんやめて。
お願い。
真実をしゃべって何が悪いの?落ちてくだけのカメラマンなんてさっさと引退したほうがいいのよ。
最後に注目集めてあげるんだから感謝してほしいくらいよその時思ったんです。
先生を守れるのは私しかいない。
私が先生を守るんだって。
だから会見の日の朝…。
(足音)そそれならどうして美也子さんまで手にかけたんですか!?ルカさんを殺した数日後に…。
やっぱり東巨の目のこと気づいたのね。
それで東巨を守ろうとしてあなたがルカさんを?えっ?見たのよ私。
あの日の朝あなたを。
ルカさんのマンションの前にある公園から慌てて逃げていく詩織ちゃんを。
詩織ちゃん?やっぱりあれは詩織ちゃんだったのね。
ごめんなさい!詩織ちゃん明日一緒に警察に行こう。
ねっ。
ダメです。
そんなことしたら東巨先生の目のことがみんなに知られちゃいます。
先生が…。
詩織ちゃん。
あなたの人生を踏み台にしてまで守るべきものはこの世にないわ。
そんなことありません!もういいのよ。
あなたはあなたのことだけを考えて。
東巨のことは私が守るから許せないと思いました。
あの人は何にもわかってない。
美也子さんは先生の仕事をいえ先生のすべてを奪おうとしてる。
あの人さえいなければ…そう思いました。
それで美也子さんも?美也子さんが仕事終わりに必ずハーブティーを飲むことを知っていました。
だからポットに睡眠薬を入れておいて美也子さんが眠ったのを確認してから…。
カミソリで…。
あぁなんてことだ。
なんて愚かなんだ私は。
あの書き置きを見たときあれは美也子が私に向けた拒絶に違いない。
そこまで私が美也子の重荷になっていたんだと思い込んだ。
あぁ…それだけじゃない。
警察の話を信じて鳳君との仲まで疑ってしまった。
美也子はいつだって私のことを思ってくれていたのに。
わ私だって美也子さんのように美也子さんに代わってずっと先生を支えたかったです。
もうやめろ!先生。
もうやめるんだ。
やめてくれ。
守りたかったんです先生を。
し詩織さん。
あなたが死のうとしたのはなぜですか?これを見たからじゃありませんか。
枠の外の真実を。
あの写真集?いいえ詩織さんが見たのは本当の枠の外の真実です。
こっち右側のは写真集に載ってなかったですよね?ええ。
本物はすべて2枚で1組の作品だったんです。
美也子さんへの感謝と愛を先生は作品に残されようとしました。
視力が失われる前に。
これこそが枠の外の真実です。
そして美也子さんは先生の目となって一緒に作品を作ってきました。
先生の作品はもはや美也子さん抜きでは成り立たないものになっていました。
あなたは先生からかけがえのないものを奪ってしまった。
先生を守ろうとしたからじゃない。
美也子さんへの嫉妬から。
それがどんなに愚かなことかちゃんと見つめるべきです。
死ぬことに逃げたりなんかしないで真実と正面から向き合ってください。
ごめんなさい先生。
ごめんなさい。
ごめんなさい先生。
(詩織の嗚咽)
(ノック)失礼します。
さあ。
先生にも話を聞かせてもらわなきゃなりません。
先生!小西君やったね。
美也子を脅していた倉本は美也子が殺されたあと今度は東巨をゆすろうとした。
そしてそれを察知した詩織に命を狙われるはめになったわけだ。
東巨先生これからも作品を撮っていくそうです。
あとどれくらい時間が残っているかわからないけれど精一杯撮っていくって。
人間過ぎた時間を取り戻すのは不可能だが未来をどう生きるかは自由だよ。
なぁ。
あれ?あの愛一郎さんは?旅だよ。
え?へぇ。
南米の何とか…とかいう国に行くとか言ってたな。
ではしばらく行ってまいります。
2015/03/06(金) 13:00〜15:00
テレビ大阪1
午後のサスペンス「カメラマン亜愛一郎の迷宮推理」[字][解]
人気モデルが殺害される。カメラマンの亜愛一郎は、ルカの密着取材をしていた記者・小西茜と一緒に事件の真相に迫る!
詳細情報
番組内容
人気モデルの柚木ルカが殺害される。追悼記事のため週刊誌記者の小西茜とフリーカメラマン亜愛一郎は、ルカの写真集を撮影した粥谷東巨を訪ねるが、プライベートな話になると口を閉ざしてしまう。一方、警察はジュエリーデザイナーの鳳陽司をマークするが、彼にはアリバイがあった。鳳に呼び出された愛一郎は、鳳が撮影したルカの写真を見てあることに気が付くが…。
出演者
亜愛一郎…市川猿之助
小西茜…佐藤江梨子
一ノ瀬純一…草刈正雄
黒瀬美也子…有森也実
粥谷東巨…竜雷太
高林勇作…平幹二朗
鳳陽司…東幹久
永井詩織…朝倉あき
中垣内徹夫…皆川猿時
西條啓太…少路勇介 ほか
原作脚本
【原作】泡坂妻夫
【脚本】真柴あずき
監督・演出
【監督】中前勇児
ジャンル :
ドラマ – 国内ドラマ
映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
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2/0モード(ステレオ)
解説放送あり
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