仙台駅から車で30分。
人口4,000人余りの山あいの町に奇跡と呼ばれるスーパーがある。
開店15分前から長蛇の列。
客の目当ては安値の大売り出しではない。
一見どこにでも売っているような惣菜だ。
一番人気は…多い日は実に250万円を売り上げる。
驚異のヒット商品だ。
店を切り盛りするのはよわい80になる老夫婦。
妻は毎日深夜2時から煮物を仕込む。
保存料や添加物を一切使わない究極のおふくろの味。
二人三脚で小売りをきわめるスーパー夫婦。
その秘密を学びに全国から視察が絶えない。
夫婦円満秘けつはガチンコ勝負。
(主題歌)今や8兆円に膨らんだ惣菜市場。
佐藤夫婦はその発展の原動力となった。
借金を背負っての際限なき安売り競争。
身も心もボロボロになった。
売り上げがまさかの大幅ダウン。
そんな中妻が不調を訴えた。
妻のために何ができるか。
夫婦二人三脚で営む人情スーパー。
その舞台裏に密着。
夜のとばりに包まれた午前1時。
佐藤澄子が起きてきた。
澄子はしっかり者に見えて実はおっちょこちょい。
「メガネがない」とぼやきながら自宅の1階にあるスーパーの厨房へと向かった。
夫の啓二がメガネを見つけて届けに来た。
(澄子)私の部屋?澄子は惣菜部門35人を取りしきる責任者だ。
まずは看板メニューの煮物に取りかかった。
澄子のレシピはやたら手間がかかる。
具材をいっぺんに煮るのではなく素材に合わせてそれぞれ別々に火を通していく。
料亭でもないのにここまで時間をかけるスーパーはまれだという。
焦げる寸前まで煮しめ芯まで味をしみ込ませる。
これが冷めてもおいしい煮物の秘けつだという。
作るのは高級料理ではない。
家庭のおふくろの味。
だがだからこそ澄子は手を抜かないと決めている。
この日ふきの煮加減がうまくいったと澄子が若手を褒めていた。
(笑い声)そうだよねだってね…。
フフフ安心してね大沼君。
こうした商品をどう売るか。
ここからは夫啓二の出番だ。
朝5時おもむろに始めたのは掃き掃除。
店から100m離れたバス停まで掃き清めていく。
続いて商品の陳列を一人黙々と直し始めた。
そして最も大切にする仕事に取りかかった。
35年前から売り上げや客数を記録し続けている…ここから客足を予測する。
そうですね。
これから作る惣菜の仕込みを3割減らす事にした。
開店15分前。
店の前に行列が出来始めた。
惣菜目当てに地元だけでなく全国から客が押し寄せる。
啓二も率先して接客に奔走。
澄子は仮眠をとりに自宅に戻る。
二人あうんの呼吸だ。
地方の小規模スーパーの多くが不振にあえぐ中増収増益を続ける佐藤さんのお店。
そこには長年試行錯誤を重ねてきたこだわりが詰まっている。
例えば一番人気のおはぎ。
他とはちょっと味が違うらしい。
いくつでも食べられると言われる理由はその作り方にある。
実は佐藤さんの店は作りたてを味わってほしいと賞味期限はたったの1日。
日もちを考えないため保存料は一切使わない。
大量生産するおはぎは日もちをよくするため砂糖を多く使うものもあるがこの店では糖度は低く抑えられている。
だから小豆の自然な甘みが際立ち食べ飽きないのだ。
こんなに手間がかかっても採算がとれるのにはとある秘密が…。
厨房から売り場の状況をチェック。
売れ行きに応じて作りたてをタイミングよく補充していく。
そして夕方には全ての惣菜が半額に。
すると惣菜売り場はこのとおり空っぽになる。
客の流れを読み切り商品の無駄をなくせばもうけはちゃんと出る。
それが二人のやり方だ。
夕食は忙しい二人にとって唯一の夫婦水入らずの時間。
けれど話題は結局仕事の事ばかりになる。
これから一休みするとまた深夜からの仕込みが待っている。
去年暮れ。
間もなく80になる澄子は大きな決断を下そうとしていた。
自らが手がけてきた恒例のおせち作りを部下に委ねるという。
(笑い声)澄子にはゆくゆくは厨房を任せたいスタッフがいた。
惣菜部門のリーダー小野寺敏夫。
寡黙だが人一倍誠実できんぴらごぼうを作るのが誰よりうまい。
だが…。
小野寺はおとなしい性格。
自らの意見をはっきりとは言わない。
しかし4日後。
おせちの盛りつけ。
小野寺の手には迷いばかりが目立つ。
澄子は付きっきりで小野寺の気持ちを引き出していく。
惣菜作りに何より大切な事。
それを伝えたい。
自慢のきんぴらごぼうを入れたいと小野寺が言いだした。
客は何を喜んでくれるのか。
どうすれば客は笑顔になるのか。
啓二が出来栄えを見に来た。
はい分かりました。
この日岩手の農家たちが商品作りのヒントを求め研修にやって来た。
これまで大手スーパーやコンビニなど600社以上が訪れている。
田舎のスーパーが起こした小さな奇跡。
だがここに至る道のりは困難に次ぐ困難の連続だった。
二人が店を開いたのは35年前。
44歳の時だった。
それまで営んでいた配達業が倒産寸前。
7,000万円もの借金を背負っての瀬戸際の再出発だった。
その不安は的中する。
客が押しかけたのは開店直後だけ。
セールが終わると客は安いと評判の大手チェーン店に流れていった。
何とかして客を引きつけねばと原価割れの赤字覚悟で安売りセールに打って出た。
けれど家族経営の小さなスーパーが大手に安値競争でかなうはずもない。
客は戻ってこなかった。
みるみるうちに資金繰りは悪化。
しまいには子供までレジ打ちに駆り出した。
現金は底を突き生命保険は解約。
子供の学校の集金さえ滞った。
開店から5年最悪の事態が起こる。
澄子さんが心臓発作で倒れた。
一時は心停止になり生死の境をさまよった澄子さん。
それでも脇に寄り添う啓二さんにこう言った。
啓二さんは悔しくてならなかった。
「安心して俺に任せろ」と言えない自分。
この店を開く時二人で交わした約束がよみがえってきた。
啓二さんは翌日から見舞いにも行かず休まず店を開き続けた。
澄子さんも1週間安静を命じられていたにもかかわらず3日で退院してきた。
どうすれば客に来てもらえるのか。
二人はいよいよ追い詰められた。
ある日澄子さんはいつも売れ残るほうれんそうに目をつけた。
数少ない常連客から湯がいて食べるのが面倒だという不満を聞いたからだ。
澄子さんはほうれんそうのお浸しを小分けにして売ってみた。
するとその客は厨房にまで来て「ありがとう」と言ってくれた。
実は澄子さん結婚当時から料理が大の得意だった。
きんぴらおはぎそして煮物。
手当たりしだいに試してみた。
だが近所の主婦から容赦ない言葉を浴びせられた。
それでも澄子さんはめげなかった。
客から「しょっぱい」と言われれば塩を減らしどんな些細な味の注文にも応え続けた。
そんな妻の姿に啓二さんも「やるぞ」と思った。
緻密な売り上げ記録。
どうすれば商品のロスを減らせるのか考え抜いた。
「どんなことでもやる」。
それが二人の約束。
開店から35年。
二人の編み出した惣菜は500種類に上る。
それだけではない。
二人の手法に大手スーパーやコンビニまで注目。
惣菜市場は今や8兆円にまで膨らんだ。
今日も店頭には客の声に耳を傾け続ける二人がいる。
去年12月。
店は特別な日を迎えた。
この日から3日間毎年恒例の創業祭を執り行う。
だが啓二の表情はどこかさえない。
気温が冷え込んだせいもあるが売り上げが思った以上に伸びていないという。
現場からも深刻な声があがっていた。
高齢化が進む町。
客足を維持するだけでも至難の業だ。
そんな中夫婦にも心配事が生じていた。
澄子はおととし不整脈を患って以来胸にペースメーカーを入れているが体調がすぐれない。
無理は禁物と度々注意されてきたがついつい澄子は頑張ってしまう。
結婚から50年。
二人は大きな試練を迎えていた。
相変わらず澄子は休まず店に出続けていた。
この日は昼食を買いに売り場に寄っただけにもかかわらず陳列を直し始めた。
はい。
店の売り上げはいまだ低迷。
回復の糸口は見つからないままだ。
その日の夕方。
夫の啓二がひょんな事を言いだした。
懇意の業者からもらった珍しい洋梨があまりにもおいしいため澄子が店で売ってみたいという。
二人には果物に特別の思い入れがあった。
長年力を入れてカットフルーツを売ってきたが大手スーパーとの競合でいい品が仕入れられなくなり2年前やむなく撤退した。
だが果物があると売り場全体が華やぐ。
売り上げを支える商品にできないか。
試し売りするため切り始めた直後…。
品質に問題はないが皮の一部が黒ずんでいた。
皮ごと食べるとおいしい洋梨だがあえて皮をむいてパックに詰める事にした。
お互い一歩も引かない。
結局啓二が折れ皮をむいたものを店頭に並べる事にした。
(女性店員)どうぞ〜。
おはようございま〜す!客の反応はどうか?誰一人として関心を示さない。
昼過ぎ澄子が様子を見に来た。
夕方。
洋梨は半額になってなおほとんどが売れ残っていた。
3日後厨房で思わぬ出来事が起きた。
澄子が最も得意な卵焼きを危うく焦がしかけた。
疲れからか使い慣れた卵焼き器が重たいとさえ感じるようになっていた。
そのころ啓二は電話をかけていた。
相手は洋梨を送ってくれた東京の業者。
質のいい果物を仕入れて妻を喜ばせたい。
ひそかにそう考えていた。
東京に商談をしに行く事にした。
妻はできる事ならまたカットフルーツを売ってみたいと言う。
啓二は朝一番で業者のもとへ向かった。
(ノック)
(男性)おお!おはようございます!おはようございます。
何としても質のいいフルーツを仕入れたい。
啓二は意気込んでいた。
うちに帰ってきたのは夕方。
妻は疲れて休んでいた。
一緒に生きていくと決めてから50年。
どんな苦しい時も妻は共に道を歩んでくれた。
言えなかった思いがある。
二人で迎える50回目の新たな年。
翌日の初売り。
澄子はいつもどおり厨房に入った。
ふだんならありえないミス。
新年早々澄子に元気がない。
そんな中東京から荷物が届いた。
啓二が注文していたよりすぐりの果物だ。
それまでの様子が嘘のように手際よく盛りつけていく。
カットフルーツが惣菜コーナーに並べられた。
自らのために夫が奔走し手に入れた果物。
(澄子)う〜んすごくいいオレンジ。
澄子の顔はほころんでいた。
(主題歌)その日カットフルーツは売り切れとはいかなかった。
それでも啓二の表情は晴れやかだった。
自分の目的意識をきちっと決めましたらそれにまっしぐらに磨いて進む事がプロフェッショナルだと思いますよ。
お客さん一人一人に喜んでもらえる人。
それしかないよね。
それだけなんだよ。
そうだよね。
(女性店員)いらっしゃいませ〜どうぞ。
どうぞご覧下さい!どうもありがとうございました。
私が歌う時は私を出すんだ全部丸ごと!2015/03/06(金) 00:40〜01:30
NHK総合1・神戸
プロフェッショナル 仕事の流儀「食品スーパー経営者 佐藤啓二・澄子」[解][字][再]
みちのくの人情スーパーを営む80歳の老夫婦に密着▽1日平均5000個売れるおはぎ!深夜2時から仕込む煮物に大行列▽病気の妻にひそかなプレゼント。夫婦の愛の物語。
詳細情報
番組内容
みちのくの人情スーパー!80歳の名物社長夫婦に密着▽開店前から大行列!1日平均5000個売り上げるおはぎの秘密は糖度にあった?!▽看板のおそう菜は深夜2時から仕込み開始!煮物にきんぴら、五目煮、明日から使える料理の極意を一挙公開▽大手スーパーとの安値競争から借金地獄へ。心臓発作で倒れた妻と夫の復活劇▽結婚50年!そばにいてくれた妻へ、夫が贈る秘密のプレゼント。感動のフィナーレとは?夫婦の愛の物語。
出演者
【出演】食品スーパー経営者…佐藤哲二,佐藤澄子,【語り】橋本さとし,貫地谷しほり
ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – ドキュメンタリー全般
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日本語(解説)
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