かみ砕いてぼろぼろになった鉛筆。
もう、頭狂ってきたからもう無理!
東日本大震災の発生から4年。
今、子どもたちの心に異変が起きています。
復興が思うように進まず今も多くの人が、避難生活を余儀なくされている被災地。
夜、眠れない。
ささいなことでイライラする。
精神的に不安定になっている子どもが相次いでいます。
見えてきたのは長引く避難生活のストレス。
そして将来の見通しを持てずに苦しむ親への気遣い。
これまでなんとか我慢してきた心が限界に達しているのです。
震災発生から4年被災地に生きる子どもたちの心を見つめます。
こんばんは。
「クローズアップ現代」です。
東日本大震災の被災地は今もとても不安定な状況です。
住まいや仕事などが失われ生活基盤の再建も遅れ先行きが不透明な中日々を生きるのが精いっぱいという被災者はどれだけいらっしゃるのでしょうか。
安定した生活基盤が奪われたままの状況は子どもたちの心にも落ち着かない状態をもたらしています。
気持ちの浮き沈みが激しい。
暴力的な言動が目立つ。
集中力を失っているなど大震災の発生から4年がたとうとする今学校の現場でこうした子どもたちの異変を指摘する声が少なくありません。
震災直後心的外傷後ストレス障害・PTSDを発症し頭痛や吐き気ささいなことでおびえるなどといった症状を訴える子どもたちが相次ぎましたがそうした症状は時間がたつにつれ回復する傾向にあると見られています。
その一方で、表れ始めている新たな心の異変。
専門家の間では不安定な生活環境によるストレスが、じわじわと子どもたちの心にたまり今、限界に達しているのではないかと危惧されています。
安心して過ごせる環境がなかなか作れない中でどうしたら子どもたちの心の不安に寄り添い和らげることができるのか。
揺れ動く子どもたちの心のうちを取材しました。
今もおよそ1万3000人が仮設住宅で暮らす宮城県石巻市。
子どもたちに遊び場を提供しているNPOです。
長期にわたる避難生活に子どもたちはストレスをため込んでいるといいます。
NPOが気にかけている一人小学3年生の達也君です。
達也君は自宅を津波で流され3年余りにわたって仮設住宅で暮らしてきました。
もともと誰とでもすぐに仲よくなる穏やかな性格だったという達也君。
変化が見え始めたのは去年のことでした。
自分の手をかみ傷つけるようになったのです。
怒りっぽくなり鉛筆もぼろぼろになるまでかんでしまいます。
体育でもいいしさ。
もう頭狂ってきたからもう無理、それ。
もうやだ。
寝る。
おやすみ。
母親は避難生活が長引く中で達也君が孤独感を募らせていると感じています。
達也君は、仮設住宅から車で30分ほどの学校に通っています。
震災前にもともと住んでいた地区の学校です。
すぐに地元に戻れると思っていたからです。
しかし、災害公営住宅の建設が思うように進まず戻れる見通しは立っていません。
達也君は、学校から帰ってくると一緒に遊ぶ友達はほとんどいません。
仮設住宅には、さまざまな地域の住民が入居しているため子どもたちが通う小学校もばらばらです。
仲のよい友達もいましたが家が再建されて引っ越していきました。
親への気遣いから我慢を続けてストレスをため込む子どももいます。
小学4年生の徹君と母親の美香さんです。
原発事故の影響で福島県双葉町から避難し3年前から、いわき市の仮設住宅に暮らしています。
震災前に離婚していた美香さん。
郵便局で働きながら徹君を育ててきました。
震災で仕事と住まいを一度に失いました。
預金を取り崩しながらの生活。
仕事を探していますが見つからず焦りと不安が募ります。
これは2箱目ですよ。
母親の悩みを徹君は敏感に感じ取っています。
最近では、学校であった嫌な出来事も母親には話さないといいます。
悩みを吐き出せずにいる徹君。
夜中に目が覚めて眠れなくなることもあり生活が不規則になりました。
この半年余りで体重は10キロ増えました。
お願いします。
お願いします。
徹君は週に2回NPOが開いている学習教室に通っています。
しかし、睡眠不足から、勉強にも集中できなくなっています。
今夜のゲストは、宮城県子ども総合センター所長で、精神科医でいらっしゃいます、本間博彰さんです。
児童精神科医でもいらっしゃるんですけども、同時に、ずっと4年間、被災地の子どもたちの心のケアに向き合ってこられて、今のVTRと子どもたちを見ていると、本当に痛々しい思いがしてくるんですけれども、全体として子どもたちの心の状況、どのように見てらっしゃいますか?
時間とともに、改善していく子どもがいる一方で、時間とともに悪化していく、複雑になっていく、そういう子どもたちが、目に付くようになったのがこの4年目だったですね。
改善するお子さんと、深刻化するお子さん、この差が出てきている、改善する理由と、深刻化する理由というのは、どういうところが両者を分けてるんですか?
子ども自身の問題は抜きにして、子どもの環境から見ると、例えばご家族が、生活が大変苦しかったり、余裕がなくなっちゃったり、あるいは中には、家族が壊れていく、そういう子どもを育てていく機能が低下していく、そういうところの子どもさんというのは、非常にリスクが高くなっていきます。
その一方で、家族が頑張ってくれる、家族がいろんな力を使って、あるいは、うまく周りの援助を得ていく家族のところの子どもは、着実に改善していく。
そういうことがいえると思います。
2011年の3月11日に、本当に、すさまじい経験をした子どもたち、そのもとの、そのときの心の傷というものが癒えていないのか、それとも癒えたあとに、親たちの環境が、あるいは生活環境が悪くなって、新たに深刻な状況になっているのか、どのように捉えたらいいんでしょうか?
そこはなかなか難しいんですが、今現在、いろんな問題を出す子どもたちは、恐らくですよ、2011年3月、あの震災で、たぶん傷ついてるんですよね。
その傷を周りに気付かれないままに、時間がたち、そしてまたそこに、環境の問題、親の問題とか、周囲の荒れた環境とか、それが付け加わってきて、そして今の状態が作られている、そういうふうに考えられます。
攻撃的になるケースもありますし、自分を傷つけたりするケースもありますけれども、どうして、心の持っている、その不安が、自分を傷つけるといったような行動に出るんですか?
たぶん自傷、傷つけたり、いろんなことがあるんですね、かんだり、あるいは髪の毛を抜いたりする子どもたちがいるんです。
リストカットをする子どもたちもいます。
その子どもたちは、心の中、もやもやなんですね。
自分が本当に苦しくて苦しくて、そのときに傷つけると、瞬間的に楽になるんですね。
かい離という、意識が分断される状態になって、少し楽になるんですね。
そのために傷つける、傷つけ続けるということが起こります。
そうした心の傷が深まっている子どもたちに向き合っていらっしゃるわけですけれども、どのように接して、どのようにしたら、そうした子どもたちの心を和らげていらっしゃるんですか?
実はですね、子どものそばにいる人たち、一番大事なのは親なんですね。
その次に学校の先生、保育士さん。
その先生方が、子どもと穏やかに接して、なおかつ子どものいろんなサインに、うまく応答してくれる。
そうすると、子どもは安心感というものを持ちます。
ですから、われわれもまた子どもと接するときには、できるだけ子どもが安心、リラックスして、安心できるような、そういう関係作りに、かなり力を入れます。
具体的には、どのようなことばをかけられるんですか?
例えば、子どもは人と相談する、自分の心のことを語ることって、経験ないですよね。
人に相談することもないですね。
ですから、子どもは常に緊張してきますので、子どもが安心するように、答えられやすい、答えるのが楽な質問をします。
きょうは朝、何時に起きてここに来たの?ここまで来るのに電車で来たの?お母さんと車で来たの?そしてお母さんの運転はどうだった?君は、前の席に乗ってたの?後ろの席に乗ってたの?そういうことで聞いていきますと、子どもは答えられますよね。
そうすると答えるってことができるようになってきますね。
それからいろいろ、子どもたちから、子どもの心の中のことを、少しずつ、聞いていきますよね。
どれぐらいの時間がかかるんですか?
私が見ている重い子が1人いるんですね、お父さんを亡くした子。
その子の場合は、そうですね、今現在、4年近くつきあってるんですが、彼と本当に、そのお父さんの亡くなったことについて、触れられたのは、2年ぐらいしてから、そのお父さんの亡くなったことについて、触れることができました。
それは彼のほうからしゃべってきました。
例えば、自分のお父さんの好きだったおかずはこれだったとか。
そんなことからお父さんのことを語るようになって、そうすると、あっ、しめたもんだ。
ここから彼の心のケアができるなと思ったんですね。
なるほど。
さあ、その子どもたちの心の異変をいち早く見つけ、そして支援につなげようという被災地の取り組みをご覧ください。
仙台市に住む母親と2人の息子の家族です。
母親は、職場が被災して失業。
その後、職を得ましたが収入は以前の半分ほどに減りました。
体調を崩しがちになった母親に代わり、兄弟2人で家事をすることが増えました。
家族全員余裕を失っていきました。
その厳しい状況に変化が訪れます。
兄が通っていたNPOの学習教室がきっかけでした。
事情を知ったスタッフが生活を支援する別のNPOを紹介してくれたのです。
今、家族のもとにはNPOから毎月8000円分ほどの食料が届けられています。
支援を受けるようになって精神的にも支えられているという安心感が生まれたといいます。
家族で食卓を囲みゆっくり過ごす時間も増えました。
食料支援を行っているNPOです。
NPOどうしの連携で支援につながったケースはこれまでに100世帯余り。
子どもたちを支えていくにはさまざまな機関の連携が欠かせないといいます。
学校での子どもの様子から異変にいち早く気付き支援につなげる仕組み作りも進められています。
宮城県は、教育や福祉の知識を持ったスクールソーシャルワーカーを増やしました。
復興予算を活用し、震災前の3倍に増員しています。
スクールソーシャルワーカーは依頼を受けた学校を訪問し子どもたちの異変を聞き取ります。
学校からの報告を受けたスクールソーシャルワーカーは保護者と面談。
家庭が抱えている問題を把握し病院や児童相談所など地域の専門機関と連携して必要な支援を行います。
去年、不登校になった気仙沼市の小学4年生の女の子です。
私がやればやる?一緒にやろうか。
じゃあ、三角折りにしましょう。
スクールソーシャルワーカーの勧めで不登校の子どもを支援する教室に通っています。
勉強してたの?じゃあ運動は?
やってた。
女の子の両親は共に震災で仕事を失いました。
母親は、将来への不安から娘を叱ることが増えたといいます。
こんにちは。
久しぶりです。
お邪魔します。
女の子の母親です。
スクールソーシャルワーカーとの話し合いの中で自分を客観的に見ることができるようになったといいます。
母親に、気持ちを打ち明けるようになった女の子。
学校にも少しずつ通い始めました。
気をつけてね。
かぜひかないでね。
お母さんも。
はい。
被災地でニーズが高まるスクールソーシャルワーカー。
しかし、震災発生から時間がたつ中で復興予算に支えられているこの取り組みがいつまで続けられるのか見通しは立っていません。
震災から時間がたつ中で、子どもの心の中の問題が行動として表れてきている。
それを十分把握できているのかなという思いもあるんですけれども、今見ましたように、親へのアプローチも必要なのかなと思ったりするんですけども、今、全体の状況を改善していくうえで、子どもたちの心の状況を改善していくうえで、何が一番大事な対応だと思われますか?
親のアプローチというのはとても大事なことなんですが、親も含めて学校の先生も、大人がまず精神的に動揺しない、大人がまず揺れ動かないということが、子どもにとって、最も大事なことだと思います。
でも、なかなか、復興も進まず、改善しない中で、子どもたちの心を安心した状況に変えていく、改善していく、何が鍵になりますか?
私は学校が鍵だと思う。
学校が、被災地はどこの被災地も社会的な資源が乏しいところです。
学校が最も社会的な資源があって、学校が心のケアの最前線であり、基地だと思います。
その学校にできるだけの応援をするということです。
応援といいますと、具体的には?
例えば学校はかなり疲弊しています。
先生が少なくて、ですから、例えば養護教員が複数いるとか、あるいは、もうちょっと外からいろんなスクールカウンセラーも、スクールソーシャルワーカーも、応援をする。
そして、できれば学校を応援するような、きちんとしたセンターみたいなものが、後ろにあると、学校はもっと、力を発揮できると思います。
先生方が、一番、本間さんに相談されることってなんですか?
いろんな相談が来るんですが、先生方の中で、勉強したいことの中の一つに、子どもたちに自尊心とか有用感をどういうふうに育てたらいいのかという、そういう勉強の依頼が来ます。
それは、ある意味では、今の被災地の中で、子どもたちが有用感を持ちにくい表れではないかと思うんですけれども、どうやって子どもたちに向き合うべきなのか、そうした不安を解きほぐしていくのか、どんなアドバイスをされますか?
私は、先生方が少しでも、落ち着いた気持ちで、子どもの話をよく聞いてほしいと。
子どもっていうのは、自分の話を聞いてもらったときに、すごく安定します。
小さな子どもであれば、不安なときにだっこしてもらう、触れてもらうということが、子どもにとって安心します。
大きな子どもだと、やっぱり聞いてもらう、最後まで聞いてもらうというところが子どもに安心感、そして有用感につながってきます。
誰かきちっと、自分を気にかけてくれる人がいると、安心でしょうねぇ。
気にかけてくれる大人がそばにいると、そのことだけで、子どもは安心して、自分の力を発揮していきます。
それがこれからやらなければならないことだと思っています。
2015/03/06(金) 00:10〜00:36
NHK総合1・神戸
クローズアップ現代「子どもの心が“折れて”いく〜震災4年 被災地からの報告」[字][再]
震災から4年、被災地の子どもたちに異変が現れている。周囲を心配させたくないと頑張ってきた子どもたちの心が限界に達し、精神状態が不安定になるケースも。どう支えるか
詳細情報
番組内容
【ゲスト】宮城県こども総合センター所長 児童精神科医…本間博彰,【キャスター】国谷裕子
出演者
【ゲスト】宮城県こども総合センター所長 児童精神科医…本間博彰,【キャスター】国谷裕子
ジャンル :
ニュース/報道 – 特集・ドキュメント
ドキュメンタリー/教養 – 社会・時事
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