デザインの梅干 第3回「なじむデザイン」 2015.03.05


グラフィックデザイナーの佐藤卓です。
今日もデザインを学びに来ました清水富美加です。
佐藤さんの助手を務めますアンガールズ田中です。
(一同)よろしくお願いしま〜す。
今回で「デザインの梅干」3回目。
3回目ですかもう。
どうなんですか?成長してるんですかね?僕は人間として。
背が身長が…。
身長はもういらないです。
何かデザインっていうとね何度も申し上げるけどかっこいいものとかね何かそういうものっていうイメージがあるじゃないですか。
だから今までのデザインのイメージって比較的刷り込まれてるところがあるんだけど一回それがね壊れちゃっていいような気がするんですね。
この番組で。
だいぶ壊れてきてますよ。
私「デザインの梅干」って最初もうちょっと何か…ここはこういう色との組み合わせがいいからみたいないわゆるデザインの話かと思ってたんですけど何かそういうものよりも感性とか想像力とかがちょっと高まってきてる感じがすごくあります。
これは…
講師を務めるのはグラフィックデザイナーの佐藤卓さん。
Eテレで放送中の子ども向けデザイン番組「デザインあ」では企画と総合指導を担当。
日常に潜むデザインの面白さを伝えています
全然違う!
前回はおにぎりを入り口にお米にまつわる仕組みのデザインを見ていきました。
ふだん何気なく食べているお米。
そのお米が日本の文化や社会にどう関わってきたのかを考えました
自然と寄り添いながら暮らしてきたっていう。
その中にデザインがあるっていうのはこれねとてもね日本のすばらしいとこでもある訳ですよね。
では今日も梅干のように五感を刺激するデザインマインドのエクササイズを始めます
3つのステップを通してデザインで考える力を活性化していきましょう
佐藤さん今日考えるデザインのテーマは何でしょうか?
今日は「なじむデザイン」です。
(2人)なじむ?決めゼリフみたいな!なじむデザインって何?すいません。
ちょっとピンと来ない。
でも和風の街には和風の建物を建てなきゃいけないみたいな。
そんな感じですか?いやそれもね街に溶け込むっていう意味ではねそれもまあ一つかもしれない。
まあその「なじむ」っていう事がどういう事なのかっていうのを今日はねちょっと探っていきたいと思います。
今日のデザインの入り口はTシャツです。
Tシャツね!あ〜!Tシャツ着た事ない人見た事ないですよね。
持ってます。
一枚どころじゃないですからね。
何十枚とそれぞれ…。
そんなには持ってない。
え?あれよ真っ白なやつもよ。
肌着用のやつよ。
そっか。
Tシャツの定義って何だ?
Tシャツは19世紀の終わり頃ヨーロッパで生まれたといわれています
誕生のきっかけは産業革命による飛躍的な技術の進歩です。
薄くて伸縮性のある生地を大量生産できるようになったおかげでそれまでにないフィット感を持つ肌着Tシャツが生まれたのです
動きやすく機能的なTシャツはまず兵士や労働者スポーツ選手などの間に広まりました
そして次第に一般の人たちにも広まっていきます
今日は私たちの体にピタッとフィットするTシャツを入り口になじむデザインについて考えていきます。
デザインマインドのエクササイズ。
最初は…
まずはTシャツの見た目を比べます
スタジオに集まってもらったのはさまざまなジャンルで活躍する20代の若者たち。
今日は皆さんのお気に入りのTシャツを持ってきてもらいました
やっぱりいろいろありますよ。
それそれそれそれそれ!まあ例えばこういう…。
これ何だ?これは誰の?あっ僕ですね。
鈴木さん?誰ですか?この…。
これ妹ですね。
あ〜妹!これは友達がこっそりプリントアウトして僕にくれたプレゼントです。
自分で着てんの?これ。
これはパジャマで着てます。
パジャマで。
あっこれも何かでかい。
面白〜い!でかいですね。
面白い!これね俺ね…あっ絶対そうだと思った。
桑山さんだと思った。
昨年末にオカンからあんたに似てるって言って芋と一緒に送られてきた。
似てる似てる!似てるね。
こんな感じで。
話しかける時どっち見ていいか分かんなくないですか?
…とここで佐藤さん巻物を取り出しました
これはTシャツのデザインの要素を佐藤さんが独自の視点で書き出したもの。
全部で37項目あります
デザインの解剖っていうのは外側からね中に向かって解剖していく。
そういう視点を是非身につけて頂けるといいんじゃないかと思うんですけどもね。
まず名前。
名前って何?TシャツはTシャツでしょう。
何ですか?名称って。
何で名称から入っていくかっていうと名前っていうのは物を見る前から言葉で人に伝わりますよね。
だから一番最初に届く情報っていうのは名前だったりする可能性高い。
あっ新しいあれって面白いよねって言われた時にはまだそのもの見てなかったりする。
だからまず名前がね一番外側にある情報っていうふうに考えて形色柄大きさ重さ袖の形袖の長さ袖の幅首まわりの形首まわりの合わせ目。
ず〜っと入っていくと例えばね匂いっていう。
まああんまりTシャツ匂いで選ぶというのはないかもしれない。
でも匂いがない訳じゃないでしょ。
ある。
古着屋さんで売ってるやつは既に何かお香の匂いがついてたりする。
何かね。
Tシャツの要素37項目。
その一つ一つを解剖していく事で知られざる工夫が見えてきます。
この中で佐藤さんが注目したのは伸縮性です
Tシャツってねこうやって大体伸び縮みするものが多いですよね。
これ伸び縮みしないTシャツ普通に着たい?着たくない。
着る時もこういうのやったって伸びないんだからもうこう…。
伸び縮みしないのなんて嫌だよ。
伸び縮みするというTシャツの性質。
そもそもどうして伸びるのか考えた事ありますか?
ニットっていうね。
ニットって聞いた事がありますよね。
あります。
ニット。
でもTシャツも実は細かい糸のニットの網によって伸び縮みするっていう。
だから生地の種類によっても伸び方って当然ほら違ってくるじゃないですか。
私の超伸びると思う。
これ伸びると思う?これすごいですよ。
ちょっとこっち持ってて下さい。
ほら。
うわっ大丈夫?これ。
着れなくなるよ。
すごい伸びるんですよこれ。
これ伸ばしても戻る?ちゃんと。
何かテロテロになったよ。
大丈夫?伸びた方が着やすくなるんで…。
Tシャツがよく伸びる理由にはニットの構造が大きく関わっています
佐藤さんまた何か取り出してきました
血管みたい。
何これ?
これはニットの生地を拡大した模型です。
これを見ると糸がどうやって編まれているかが分かります
例えば赤い方の糸だけを目でたどってってみて下さい。
グル〜ッと。
一筆書きだから。
あ〜一本ですね。
ずっとたどってってみて下さい。
こうやって見て頂くと分かるんだけどねこの糸と糸の間に結局ね空間があるじゃないですか。
編んでその間に遊びを作ってる訳ですね。
動いた時に動くスペースを作ってる。
あ〜!はい。
だからこう行ってこういうふうに伸びた時にこの空間があるから…。
ギッチギチにここ一個一個締めていってたらそうはいかなくなると。
そういう事ですね。
一般的にTシャツは伸縮性のあるニット。
つまり編物で作られています。
それに対してワイシャツは伸縮性の少ない織物です
織物はまっすぐな縦糸とまっすぐな横糸が交差して出来ているため糸に遊びがありません。
そのため引っ張ってもあまり伸びないのです。
一方編物は糸が輪のようになっているため糸に遊びがあります
だからこそTシャツはよく伸びるんです
でもなじむ理由はそれだけではありません。
袖口の糸の縫い付け方にも工夫があります
袖口がこうやって例えば脱いだり着たりする時に広がったり縮んだりするじゃないですか。
袖口というのはでも折り返して縫ってありますこういうふうに。
ず〜っと縫ってありますよね。
こうやって縫ってあるんだから普通だったら縫ってあるから伸びないよね。
だって糸が縫っちゃってるから。
何で縫ってあんのに伸びると思う?えっ何でだろう!
秘密は袖口の裏側にあります
この縫い方が単純に縫ってるんじゃないんですよね。
外側からは見えないんだけど内側をひっくり返すとこんな複雑な縫い方してる訳。
何かバネみたいな感じですかね。
これによって実は縫ってるんだけども伸び縮みするようになってる。
へえ〜!こうしとかないと脱ぎ着した時に縫い目がブチブチブチブチって切れちゃう訳ですよね。
だから生地の伸び縮みと共に縫い方も実はすごくこれ工夫された縫い方されてる。
えっありがたい!
ほかにもなじむ秘密があります。
こちらは綿の繊維を拡大した写真。
繊維の真ん中に隙間があります。
この隙間が汗を吸い取ったり空気をため込んで保温性を高める役割をしています。
繊維の奥の一本一本にまで体になじむ秘密が潜んでいます
そういう何か当たり前のほとんどもう無意識にやってるものの中にすごい技術と人の知恵とが折り重なってる訳だよね。
そういう事にちょっと気が付くとまた見えるデザインの裏側に隠れているデザインが見えてくるっていう事ですね。
なじむデザイン。
そこには人の創意工夫が凝らされています
続いては生徒のフィールドワークを基にデザインマインドをエクササイズしていきましょう
生徒の皆さんに自分の体になじむものを持ってきてもらいました。
これを使ってなじむデザインについて考えます
こちらの手触りのよさそうなポーチは誰のものでしょうか?
はい。
あらっ男子!意外と桑山さん?そうなんですよ。
財布?そうですね。
財布を無くしてしまいまして大学時代に。
ほかに入れ物が全くなくてそしたら母が。
とりあえずこれでなんとか…。
しのぎなさいっていう事で。
これをこうこういうふうに提げて歩く。
上着の中にこれをつけるんですね。
もう肌身離さず常にこれがここにあって。
悲しい時にはこいつをなでて。
なじむのそこか。
ここすごくなじむんですよね。
母の愛を感じながら?そうですね。
母の愛を感じながら。
お母さん大好きなんだね。
そうですね。
いやいいよ。
意外とそのきっかけは自分が選んで使ってるんじゃなくてある意味では偶然手元に来たものですよね。
偶然来たものです。
でもそれが自然となじむものになってってるという。
じゃあこれ箸。
はい。
あっ長谷川君。
安い箸じゃないですねちょっとね。
これはちょっと高級品?高級かもしれないよ。
そうですね。
箸一応これ京都で買ったものなんですけど何か箸僕だけかもしれない。
買い替える事ってあんまりない。
まあそうはないですね。
でも確かに長く使います。
僕はこの箸がすごく気に入ってて。
だいぶ渋いね。
お父さんとかが使ってそうな。
僕はあんまり太い箸が好きじゃ…。
何か太い角い箸とかあるじゃないですか。
僕は細い箸が好きなので。
持ってみたい。
私やだ!嫌い?その箸。
私は全然なじまない。
例えばどういうところが?私は割り箸がすごい好きで…。
あ〜カクカクの?うん。
何かねこれはねちょっと私的にはツルッとし過ぎかなっていう感じが。
自分のなじむ箸を否定された気持ちは?全然なじまないよって言われたら?だってねでも箸っていうのは嗜好品である意味で自分のための箸が。
自分一人のための箸があってもいい訳だからね。
ほかの人には合わないって事は当然ねある訳ですよね。
箸ってまあかなり種類多いですもんね。
あ〜いっぱい売ってます。
箸屋さん行っても。
箸屋さんがあるもんね。
そのぐらい自分になじみそうだなというものが選べる状態になってるって事はありますよね。
続いてのなじむものは調理用具です
私のです。
これはそうですねハンバーグの時デミグラスソース煮詰めたりとかオムライスこうやって混ぜたりとか。
どうなじみます?いや何か…何て言うんですかねあんま持ってるって感じがしなくて。
意識せず何か使えるっていうのがなじんでるなあって思って。
うっそ!持ってるって感じがしないって。
持ってんのに?だからデミグラスソースを混ぜようとした時に混ぜる方向に意識が行ってここで持ってる道具っていうのはもうほとんど無意識の中に入ってっちゃうぐらいの。
無意識のうちになじんでしまった調理用具。
実はここにデザインの工夫があります
取っ手の柄の部分がね薄めの板状になってるじゃないですか。
例えば真ん丸だとね先のヘラの部分がどっちを向いてるかっていうのが手で分かんなくなる訳ですよ。
あ〜なるほどね。
分かる?単純に板だからここで板っていうものが認識できるので先の角度が常にどういうふうに向いてるかって実は分かってると思いませんか?あ〜確かに。
なるほど。
すごい無意識ですけどいつも。
だからそういう無意識の中に実はさりげな〜く人との関係の中にねデザインがある訳ですよね。
握った時の形で自然と角度が分かるデザイン。
道具を意識させない工夫があるからこそ体になじむのかもしれません
今日は自分になじんでるものっていうものをいろいろ皆さんに持ってきてもらいましたけど自分が本当に好きで自分だけなじむっていうものと不特定多数の人になじむっていう意図的にそういうものが設計されて作られてるっていうものが見受けられますよね。
デザインっていうのは嗜好に訴えかける事も必要だけども不特定多数に普遍的に心地よくとか滑らかにとかいう事もとても大切だっていう事が見えてくると思いますね。
という事で次は多くの人になじむデザインを一緒に探してみましょう
佐藤さんが考えたちょっと変わったワークショップを行います
ある目的のためにどういう大きさのものがなじむかっていう事を皆さんと一緒に考えてみたいと思います。
この上に大きな石から小さな石まで順番に並んでいるんですけれどももしこの石を箸置きとして使おうとした時に自分はどの大きさだろう。
それを考えて決めてほしいんです。
どの大きさの石が箸置きとしてなじむのかを考えてみます
思いっきり田中さんかぶりついてますね。
自分がなじむと思う石に投票してもらいました
長谷川さん10?何で10がそんなんなるの!俺7なのよ。
あ〜。
でも大体…。
いや大体じゃない。
俺10が2票おかしい!こんなでっかいのさテーブルにあったら嫌だよ!幅とか考えるとあれですけど長さ的にはこれぐらいの箸置きが見たっていうか使ってる覚えが。
本当ですか?じゃあ箸置いてみますよ。
(桑山長谷川)あっやっぱり。
しっくり。
あれ?意外としっくり来てんな。
いやでもこんなでっかくないと思うけどな。
いやでもしっくり…。
まあそれはだからね田中さんの箸置きに対する概念がそういうものなのね。
10番よりちょっと小さい9番を選んだのは鈴木君です
10番ちょっとでかすぎるなと思って。
でも9だと何か箸置きあるなぐらいのサイズ。
箸置きってあんま気にしないっていうかふだんそんな感じなんですけどこのサイズだったらあっすごい箸置きあるなっていう…。
うわ〜!見た事あるサイズ感だ確かに。
10よりいいねやっぱ!10をすごい否定する!俺10は許せないから。
そしたら次。
谷口さんと富美加ちゃん。
8です。
いやこれでしょう。
だってお箸って先端ちっちゃいですから。
まず箸置きってどんなんだっけっていうよりも箸の事をまず考えて箸の細さを考えて9と8で迷って私8にしたんです。
私も私も!あっ本当ですか?でもちょっとちっちゃかったかな。
私もなの!これ9だな!9だなって。
ちょっと9だとこの箸に対してはみ出過ぎて脳内では違和感があったんですけど置いてみるともうちょっとはみ出ててもおかしくないんだなって思って。
なるほどなるほど。
全ての石に箸を置いてみました。
皆さんはどれがなじむと思いますか?
今までの箸置きの概念とかそれからいつも使ってる箸置きのイメージとかもあるから多少ブレがあると。
ブレがあるけどここに収まりましたよね。
この枠の中にね。
もし物として箸置きを作った時には大きさとかのねボリューム感とかのヒントが実はこの辺りにあるって事がね見えてきますよね。
だからそこに多くの人が共通項として持ってるイメージっていうのが隠れてる訳ですね。
そういうものをやっぱり無視して考えちゃうと誰も使わない箸置きが生まれちゃう訳だから。
不特定多数の人になじむ共通項を探す。
この考え方からある物のデザインが生まれました
佐藤さんが選ぶグッドデザインを紹介します。
今回佐藤さんが選んだのは…
ICカードの読み取り装置。
実はこれある実験を基に導き出されたデザインなんです
その実験はプロダクトデザイナーの山中俊治さんを中心に数年にわたって行われました
ICカードを読み取らせるにはほんの一瞬カードを装置の上に静止させる必要があります
改札を通る人が読み取り機の上に自然とカードを止めてくれる。
そんなデザインが求められたのです
実験ではさまざまな形の読み取り装置が試され人の動きが観察されました。
その結果選ばれたのが少し手前に傾いた形状。
このちょっとした傾斜によって多くの人が読み取り部分できちんとカードを止めるようになったのです
必要な動きを自然と引き出すIC自動改札機。
これが今日の梅干なデザインでした
今日はTシャツを入り口にさまざまな人になじむ物を見てきました。
ここからはちょっと視点を変えて…物になじむ人について考えます。
金づち。
このデザインを観察すると物になじむ人の姿が見えてきます。
それでは実際に大工さんが使ってる様子を観察してみましょう
釘打ちは毎日?毎日やってます。
やってますか?手打ちもやります。
ちょっとね打ってもらうんですけども使ってるとこを見てこういうとこがなじむデザインがあるんじゃないかというのを発見してほしいんですよ皆さんに。
金づちの持ち方に注目しながら見て下さい
分かりました?分かりました。
分かった?富美加ちゃん何ですか?あれですよ。
多分…この辺で打つ所より近い所でやるよりもここでこうした方がストロークもたせた方が勢いがあって釘がガンって入るんですよ。
だから一番ちょうどいい所というのがあって多分いい感じの所でいい感じに打ってます。
もう一度見てみましょう
最初は柄を短く持って小さく釘を打ち込みました
そして強く打ち込む時に長く持ち替えました
日本の金づちっていうのは柄が基本的にまっすぐですよね。
いろんな握り方が可能になってくるっていうか。
だからここに実はデザインのポイントがあっていろんな事ができるのにやってないんですよね。
時々ここに樹脂がついててそこを握りなさいっていう感じの売ってますよね。
ホームセンター行ったらありますね。
ありますよね!あれとだからこういう棒状の金づちでは基本的にデザインの構造とかそれから人との関係が全然変わっちゃう訳ですね。
やらない事によって人間の方のソフトを引き出してるっていう。
だからこそ思うとおりになじむっていうかね。
優れたデザインだと思う。
そうですね。
思った事なかったです。
初めて言われて何か気付かせて頂いたような気がします。
使い方を決めつけないデザイン。
まっすぐに伸びたシンプルな棒だからこそ人が無限の可能性を見つけ出す事ができます
それでは最後のエクササイズ…
未来のデザインのヒントをくれる梅干な人にお話を伺います
今回の梅干な人は生態心理学者の佐々木正人先生です。
(2人)よろしくお願いしま〜す。
(拍手)よろしくお願いします。
(一同)よろしくお願いします。
どうも今日はよろしくお願い致します。
生態心理学って何ですか?セイタイっていうとこういう感じなんですけども。
そっちの整体!?
日本の生態心理学の第一人者佐々木正人教授
佐藤さんはこの分野の研究がデザインにも応用できると注目しています
佐々木さんはアフォーダンスっていう一般の方はあまり聞き慣れない言葉だと思うんですけどねアフォーダンスっていう事をとても研究されてらっしゃる方なんですね。
アフォーダンスっていうのは英語の動詞にaffordっていうのがあってこれは与えるとか備えるとかっていう。
環境が動物に与える物とか備える物とか。
例えば水というのは喉の渇きを癒やすそういう性質を持ってるし…。
「与える」という意味の英語affordから作られた造語です
例えば水。
私たちは水のさまざまな性質を見つけ出しそれを行動に結び付けています
ある時は飲めるという性質を見つけ出し喉の渇きを潤したり…。
ある時は流れるという性質を見つけ出し手の汚れを落としたり…。
またある時は物が浮かぶという性質を見つけ出し移動に使ったり…。
私たちは水が備えている性質に合わせて行動をしているのです
我々って普通生活してると自分勝手にやりたい事をやってると思い込んでる訳ですよね。
ですけども我々を取り巻いてる環境に実は動かされているっていうところと共にあるっていうか。
自分の意識と周りが導いてくれる物との関係で成り立ってるっていう事でしょうかね。
そうですね。
分かりやすい例がありますので見て頂きたいと思うんですけども。
是非是非。
うわ〜カブトムシだ!これメスのカブトムシでねカブミちゃんっていう。
名前付けてる!名前があるんですね。
移動していくでしょ。
傾斜がある所に来ると頭上げるでしょ。
起き上がろうとしてる訳一生懸命。
でねもうすぐ出ますからこの上から。
後ろ足見ててくれる?後ろ足。
あ〜すごい。
あ!出たでしょう?足がすごい必死に…。
蹴ってる蹴ってる!うわっ何だあれ?何あれ?動きが変わります。
あっ動きが変わ…。
(一同)お〜!何だあれ?カブトムシひっくり返すとねもう本当に必死にね姿勢を変えようとする。
こう…「まあいいや」みたいなねそういうやつはいないんですよ。
大体動物腹を見せてるというのはね最悪。
生命の危機なのね。
それでとにかく姿勢を変えようとするんだけどその時に大体ね今乗っかってる所から出るとね乗っかってた所と出た所の間にへりがあるのね。
そのへりにこう…。
えっ狙ってやってるんですか?ええとね恐らくこういうふうに移動してる時に見えてると思う。
ああ!見えてると思うし感じてると思う触覚的にも。
感じてる!ガタンってなったとか?そうですそうです。
ガタンが重要ですよね。
じゃあ今度は赤ちゃん見てみましょうか。
かわいい!かわいい。
赤ちゃんねあおむけで寝かされてます。
ベビー布団の上です。
(佐藤清水)お?お!足見てくれる?後ろ足。
最初の寝返り見てるとねああいうベビー布団のエッジ使う。
カブトムシと赤ちゃんの映像を比べてみましょう。
カブトムシは姿勢を起こすために新聞紙のへりを使いました。
そして赤ちゃんも寝返りを打つために布団のへりを使いました
カブトムシも赤ちゃんも僅かな段差に足を引っ掛かける事ができる性質を見つけ出しうまく利用していたのです。
このように動物は周りの環境の中に潜む意味アフォーダンスを見つけ出しながら成長し生きるための感覚を身につけているのです。
この感覚を訓練によりとことんまで研ぎ澄ましている人たちがいます。
アスリートです
棒高跳びの澤野さんっていう人がね世界で8位とかなった人だけどもね8本ぐらい棒持って競技されてる訳。
それでねほんの少しずつ硬さが違うんです。
棒高跳びの日本記録保持者でリオデジャネイロ・オリンピックでも活躍が期待される澤野大地選手。
澤野選手はその日の天候体調などに合わせてグラスファイバーのポールを使い分けます。
でもそれぞれの棒の硬さの違いはほんの僅かだそうです
それでどれぐらい違うかって聞いたらね一番硬いのはコーティングした雑誌の表紙ぐらいの硬さで一番軟らかい棒は雑誌の中の軟らかいページみたい。
それぐらいの違いのやつを8本に分けて持ってて調子いい日はコーティングの表紙を使うんだって。
調子悪い日は中のページの軟らかさの棒を使うんだって。
それぐらい微妙な棒の硬さを使い分けてる訳。
感覚が繊細なんですね。
その日の体調でこれでいけるっていうのを棒に発見できるなら使うっていう。
アスリートの人はみんなそんな感じ。
やっぱりかなり究めてるから追い込んでいくと…。
すごい見えてくる。
微細な事がやっぱちゃんと感じるようになっちゃうんでしょうね。
一流アスリートは道具の微妙な差を感じ取って自分になじむ最適なものを選び出す事ができます。
でもこれってちょうどいい箸置きを選ぶのと似ていませんか?実は私たちも周りの環境の微妙な差を感じながら生活しているのではないでしょうか
ファミレスに行ってコーヒーを飲むのが好きなんですけどファミレスで。
コップあるじゃないですかティーカップ。
輪っかがあるじゃないですか。
取っ手取っ手。
それって誰に教えられた訳じゃないけど持ちやすいからそこの穴に手入れて飲むじゃないですか。
その物が無意識に訴えかけてそうさせられててその中でうまく毎日物使ったり道歩いたりして生きてるんですね。
そう思いますよ。
今のコーヒーカップのねこういう取っ手とっても優しいよね。
あれつけた人はね。
あれが一個あると熱い時はあれで飲む。
少し冷めてくると持ってちょうどいいあんばいになってくると手を温めながら飲むっていう。
いろんな持ち方できますよね。
それを楽しみながらコーヒーを味わうっていう事。
だからあれをつけた事でちょっとまたコーヒーっていうものの意味が変わってデザインの人っていうのはそういうアプローチのしかたっていうかな物との関係の作り方を少〜し調節してくれる事で物の意味を深めるっていうのかな。
本当のデザインっていうのは…本当のデザインっていうかいいデザインっていうのはみんなが言葉にできない形で知ってて使ってるようなもの。
それを発見して誰もが使える形で人のそばに持ってくるっていうそれ一つだと思いますよね。
デザインって実は自力ではなくてね他力なんじゃないかって思っているんですよね。
自分の何かじゃなくて周りにあるものから見つけて引き出してつないであげるっていうかそんなような気が何かしてるんですけどね。
他力っていうのはアフォーダンス。
あ〜。
最初からそう言えばよかったかな。
他力の方が気楽です。
アハハそれもいいですね。
という事で今日の梅干な人は佐々木正人先生でした。
ありがとうございました。
ありがとうございました。
さあ今日もやってまいりましたけども。
いかがですか?濱田さん今日一日。
デザインっていかに日々…何て言うか意識してないのかなっていうのが正直なところでもうちょっと何かいろんな身の回りの物に対して感覚というか…っていうのを敏感に感じ取ってあげるとあれ?これいつも使ってたけど実は使いづらかったなとか何かちょっと違ったものが見えてくるなと。
なのでもっとふだんから感覚を開いてというか…いうふうに今日からちょっとやってみたいなと思います。
なるほど。
デザインは美術っていう印象があると思うんですけどもそういう美術と生態心理学って一見別物なんですけども考え方とか観点を変えるとデザインのプロセスにつながっていくんだなっていう事を気付きましてもっとほかの学問の分野でも人の使いやすいデザインのヒントになるものがたくさんあるんじゃないかなと思いました。
最初にお話ししましたけどもありとあらゆる所にデザインっていうものが実はあってほとんど無意識の中にいろんなデザインが潜んでいるのでそれを入り口にね世界の窓として世界の入り口として入っていく事ができるっていうか。
そうやって見ていくといろんな事象が見えてくるっていうね。
それはとても豊かな事なんじゃないかって思うんですね。
豊かっていうとちょっとお堅い感じするじゃないですか。
とっつきにくくて。
いかにもNHKって感じするじゃないですか。
豊かって…。
でもやっぱ豊かさってそういう事ですよね。
よりよくしていこうっていう人の気持ち。
気持ち。
だから何か私は…こういう発見がありましたっていうのもそうなんですけど「梅干のデザイン」じゃなくて「デザインの梅干」。
どっちかっていうと人間的に高まっていくところみたいのめっちゃあります。
本当にそうだといいね。
本当にこの番組をスタートしたかいがあるというものですね。
今日の授業はこれで終わりにしたいと思います。
また次回を楽しみにして下さい。
どうもありがとうございました。
(2人)ありがとうございました。
2015/03/05(木) 23:00〜23:45
NHKEテレ1大阪
デザインの梅干 第3回「なじむデザイン」[字]

「デザインで考える力」をエクササイズする番組。Tシャツを入り口に、からだになじむ秘密を探る。「なじむ」感覚とは?モノとヒトの関係性を、デザインの視点から考える。

詳細情報
番組内容
▽デザインの解剖:着用したときのフィット感など、からだになじむ秘密はどこにあるのか?「Tシャツ」の構造に着目して解剖する▽デザインの体感:参加者それぞれが持ち寄った「自分にとってなじむもの」。なじむ感覚を分析していくと、ヒトとモノの関係性があぶりだされてくる。▽梅干な人:生態心理学者の佐々木正人教授が「アフォーダンス」という考え方を紹介。環境が動物に与える意味や価値からデザインについて考える。
出演者
【ゲスト】東京大学大学院教授…佐々木正人,【講師】グラフィックデザイナー…佐藤卓,【出演】田中卓志,清水富美加,【語り】BIKKE

ジャンル :
趣味/教育 – 音楽・美術・工芸
ドキュメンタリー/教養 – カルチャー・伝統文化
情報/ワイドショー – 暮らし・住まい

映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
サンプリングレート : 48kHz

OriginalNetworkID:32721(0x7FD1)
TransportStreamID:32721(0x7FD1)
ServiceID:2056(0x0808)
EventID:16277(0x3F95)

カテゴリー: 未分類 | 投稿日: | 投稿者: