最初の2巻分くらいはまだおもしろくなかったです。ですが3巻からやたら面白くなってきてすっかりハマってしまいました。今期アニメでは「蒼穹のファフナーEXODUS」がめっちゃ面白いと思っているのですが、その作品と並んで今かなりオススメしたい作品。
序盤 正体がわからない外敵、味方のはずだけど胡散臭い組織
最初は「真面目がとりえの普通の青年と、そもそも人間とは違う常識を持つゼノグラシアとのダブル主人公コンビ」みたいなところがウリなのかな、くらいに思ってました。3巻の中盤まで読んだ時に書いた感想ってこんなん。
あんまりおもしろくない読み方だとは思うけど、この作品の「街とネイバーの対立」は「若者とか地方」の閉じた世界と「大人・グローバル」の世界との対立関係のメタファーみたいに受け止めることができるよね。
今の「仕組みはわからないけどとりあえずボーダーによって守られて安心を感じていられた街」ってのは、まぁ言ってみりゃ若者たちの閉じた世界。それに対して、若者の立場からでは理解できないネイバーたちが理不尽に襲い掛かってくる、と。このネイバーというのは「企業社会」「資本主義社会」「グローバリズム」みたいなのに簡単に置き換えられるよね。このあたり、進撃の巨人よりもはるかに直接的。(逆に言えば、進撃の巨人はメタファーに還元しきれないものがあってやはりそれがとても魅力的)
このたとえだと、トリオンってのは「資本主義社会における戦闘力=金を産む力」よな。トリオンが高い人間が大人の世界に囲い込まれ、そうでない人間は魂を殺されてブラック企業で金だけを吸い取られ続ける、そんな感じかな。で、そう考えるとボーダーというのはどういう人達かというと「*****」ですわね。「大人」の社会のルール、特に「トリオン」のことをよく理解しており、その因子が強い人をスカウトする。「街を守るため」といって。 場合によってはネイバーと街との対立を演出をしたりとかもしてるんじゃないだろうか。
そんななか、ユーマは大人の社会で生きてきた若手企業人みたいな感じで、戦場のような社会を生き抜いてきてきた百戦錬磨だから非常に合理的な思考の持ち主。そういう人間が、極端に「何も知らないが志が高い若者」である三雲オサムと出会って、どのように彼を導いていくか、相互に影響をあたえあっていくか。そんな感じのメタファーをイメージしながら読んでいくと面白そう…かな?こんなかんじの読み方ができるくらいなので、現代の感覚に沿った非常に同時代性の強い作品だと思います。
この時は、まだネイバー陣営についてまったく情報がなかったので、目に見えている「ボーダー」という組織が怪しいな、位に思ってたわけですね。ようするに、まだ作品内で、読者としてどこを土台とすればよいかすらわからんかった。拠り所がよくわからんかった、と。仕方なく目に見えている主人公コンビのやりとりなんかを見るしかなかった。
それが、だんだん組織や敵について情報がわかってきて、「組織」および「組織戦」を描いていくようになっていっていく。組織内のパワーバランスを知り、その中での立ち回り方を知り、さらに組織としてどう敵と戦っていくか、そういう感じで、視野が徐々に広がっていくのがすごく面白いです。
始動 組織内での戦い
主人公は最初力がない末端構成員に過ぎなかったから、ただ組織の命令にしたがってあまり組織のことなど知らずに行動してるだけだった。それが、ユーマとの出会いをきっかけに組織の上部構造に近づいていく。
そうしてみると、その組織が一枚岩でなく、3つの派閥に分かれているということがわかってくる。さらにその派閥内でのパワーバランスによる駆け引きに自分たちが関わっていることを知る。組織の動きが他人ごとではなく、むしろその当事者になっていく。
3つの派閥があるんだよね。
1 ネイバーに恨みのある人間が多く集まった「ネイバーは絶対許さないぞ主義」
2 ネイバーに恨みはないけど街をまもるため戦う「街の平和が第一だよね主義」
3 「ネイバーにもいいやついるから仲良くしようぜ主義」今までは1が一番でかい派閥だから、3が何かやっても王者の余裕で見逃してもらえたけど。もしユーマと3が手を組んだらそのパワーバランスがひっくり返る
外敵がいれば組織はひとつにまとまる、みたいな話ではない。小学校のお題目にあるような「みんななかよくしよう」みたいな、理想論にすらならないようなつまらない話ではない。
人は、利害や信念などいろんなものを考慮してグループを作り、そのグループ内で駆け引きをするものだってことがちゃんと描かれている。
本来仲間である隊員たちが陣営に分かれて争ってる所の描写とかは私好みだな。お互いに「任務の違い・状況によって生じた対立」であることを理解していてサバサバしてるんだよね。そこで何か一つを正解だとして他を否定するようなやり方は、この作品では否定的に描かれる
オマエがネイバーを憎む理由は知っている。恨みを捨てろとか言う気はない。ただ、オマエとは違うやり方で戦う人間もいるってことだ。納得行かないなら迅にかわって、俺達が、気が済むまで相手になるぞ
私はこんな話、島耕作まで出会ったことなかったよ…。しかも島耕作と違って都合よく女の人が登場して劇的に解決したりとかはせず、きちんと戦いや交渉によって物事を少しずつ変えていく。もどかしいかもしれないけれど、とても現実的な解決法だと思う。
もちろん、まだ主人公である「三雲オサム」くんや「ユーマ」くんたちにはこういうやりとりは難しい。だから大人たちが話し合いで解決するのを見ているだけだ。 でもそんな大人たちを見ることで、自分たちが知っている以外の問題解決の仕方があるのだ、と学ぶことができる。これはすごいな、と。最終的には主人公たちがこういうやり方を使いこなせるようになっていくんじゃないかと期待できる。
この作品は、ちゃんと「大人」とか「自分より強い先輩方」がいて、その人達が組織を動かしており、主人公たちはその組織の一員なのだ、という描かれ方をしている。 先輩方はちゃんと自分の派閥の後輩を守り、育てようとするし、後輩たちもそれにこたえようと努力する。私は「ワンピース的な組織のあり方」が馴染まないので、こちらの作品の描き方が非常に好みです。
俺は別にあんたたちに勝ちたいわけじゃない。ボーダーの主導権闘いをするきもない。ただ後輩たちの「戦い」を、大人たちに邪魔されたくないだけだ。おれはあいつに「楽しい時間」を作ってやりたいんだ。おれは太刀川さんたちとバチバチやりあってた頃が最高に楽しかった。ボーダーにはいくらでも遊び相手がいる。きっとあいつも毎日が楽しくなる。あいつは昔の俺に似ているからな。
鍛えろよ若者たち。あっという間に本番が来るぞ
その中で主人公が工夫しながら少しずつ力をつけて行ったり、視野の広い考え方をできるようになっていくのがとても良い。
本番 敵との組織戦
ここまででもかなり面白いのだけれど、あくまで組織内での争いは前哨戦。本番はやはりネイバーたちとの戦いだ。ここについても、「一つ一つの戦いで勝つことももちろん大事だけれど、それ以上に組織戦で全体が勝利を収めることが重要だ」という考え方が見られる。
状況が悪くとも部隊の合流が先だ。戦力が劣った状態で敵には当てられない。うかつに動けば餌食になるだけだ。交戦中の舞台は戦力の意地を最優先しろ! 戦力をここで失えばその先が苦しくなる。
戦力を集中させて一箇所ずつ確実に敵を排除していく。その間、他の地区の被害はある程度覚悟していただく!
完全に戦略だけの話になると「銀河英雄伝説」みたいになっちゃって、指揮官クラスのすごく大きな視野だけの話になっちゃうのだけれど、この作品の場合、あくまで主人公は一兵卒にすぎない。だから戦闘でもちゃんと勝たなきゃいけない。そのために自分も強くならないといけないし、周りとも協力しなければいけない。 その上で全体としての動きを理解して、時には撤退したり、人の援護に回ったりと、柔軟に動きまわらないといけない。
単純に闘って相手に勝てばいいというものではないし、それだったら主人公はまだそれほど強くないから勝てない。戦局を一変させるような圧倒的な働きは出来ない。しかし戦場においては単純な戦闘力だけが全てではない。いろんな要素があり、そこにおいて、最強でない自分にもちゃんと役割がある。そういうことがしっかり描かれている。
自分より強い相手と戦うときは勝とうとしちゃダメだ。引いて守って時間をかせぐ。そうすれば他の仲間が楽になる。「弱いコマが強いコマの働きを止めてる」ってのが、すでに戦果としては十分なんだ。自分の力を見極めて自分にできる事をやるんだ。戦場で自分の力を見誤ると、死ぬぞ。
組織としての戦いも、個々のバトル描写も、そしてその戦いの中での主人公の動きも、丁寧に描こうとしていてすごく欲張りな作品だと思う。その上で、ちゃんとどれもわかるように描かれているので読んでる方としてはとても満足度が高いです。
中学生くらいの頃の自分が読んだ時の感想が知りたい作品
正直、これ自分が小学生とか中学生の時に読んでこういう面白さが理解できたかというと自信ないです。年齢関係なく、HUNTER☓HUNTERを経由してないとこの作品の面白さが私にはわからなかったかもしれない。そういう意味で、この年になってから読めてよかった、とおもう面もあります。
しかし、一方で、中学生くらいの頃の自分が、よくわからないなりに、この作品繰り返して読んでどういう風に理解していくか、みたいな取り組みができたら違った楽しみ方ができたんだと思う。
でも、この作品がちゃんと人気になってアニメ化までしてるってことは、今の中高生ってこういう話をちゃんと理解できて楽しめてるってことだよね。それってなんかすごいな。