その第6話『西荻窪駅徒歩20分2LDK敷礼2ヶ月ペット不可』は、『青の6号』や『巌窟王』の監督などで映像表現に革新を与え続けてきた前田真宏氏が監督、そして原案とキャラクターデザインは『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』の総作画監督など数々の傑作に参加する本田雄氏が手がける。ふたりのトップクリエイターが本作で目指したものは何だったのか。
今回、監督を務めた前田真宏氏に、『西荻窪駅徒歩20分2LDK敷礼2ヶ月ペット不可』の企画や制作について伺った。さらに前田氏が考える「アニメ」「アニメの今後」についてもお話をいただいた。
[構成・執筆=数土直志]
日本アニメ(ーター)見本市
http://animatorexpo.com/
第6話 『西荻窪駅徒歩20分2LDK敷礼2ヶ月ペット不可』
監督: 前田真宏
原案・キャラクターデザイン: 本田雄
http://animatorexpo.com/nishiogikubo/
■ 女の子が“ゴキブリ”に!アイディアはどこから?
――前田監督の作品で自由に作れる短編企画となると、当初のイメージですとSFっぽいもの、あるいは『ジーニアス・パーティー』のようなファンタジックなものが出てくるかなと勝手に思っておりました。 それがタイトルは『西荻窪駅徒歩20分2LDK敷礼2ヶ月ペット不可』、ストーリーも日常的な視点が盛り込まれた作品で少し驚かされました。今回のテーマは以前から用意されていたのですか?
前田真宏監督(以下前田)
そうではないですね。題材の柔らかさは原案の本田(雄)君のものです。日本アニメ(ーター)見本市の企画が立ち上がり、何かやらないかと言われてからです。本田君が「80年代の少女マンガっぽいのがやりたい」と話して、そこからです。それが題材の柔らかさに直結しています。
――前田監督と本田雄さん、大物2人のチームですが、これはどのように決まったのですか。
前田
僕は常日頃から本田君にリスペクトがあって、「一緒に仕事しようよ」と言っていたのです。けれど、必ずタイミングが合わないんです。(笑)
僕の長編デビュー作『青の6号』で、作画監督をがっつりやってもらった時だけなんです。今回はたまたまいい機会が訪れました。本田君がどう思っていたかは分からないですけれど(笑)
本田雄氏の原画
――80年代の少女マンガと言われると絵のタッチがすごく理解できます。その少女マンガでなぜ女の子がゴキブリになってしまうのですか?
前田
すみません。(笑)
まず、企画を立てている時に、本田君が「ちゃんと巨人をやりたい」と言っていたんです。「何で?」と聞いたら、「『ヱヴァンゲリヲン新劇場版Q』で、『巨人がやり足りなかった』と。『Q』にはスペクタクルやアクションはたくさんあるんですけど、等身大の人間から見た大きなもののアクションや重量感とは異なりました。それで「巨人がやりたい。描いてみたい。」。それと少女マンガがごっちゃになって、何となくできていったんです。
――目覚めると突然虫になっているのは、カフカの『変身』を想起させますが、それはイメージされていたわけではなくてですか?
前田
それは念頭にないです。「ゴキブリにしたら面白かろう」というのは本田君との雑談で出てきました。登場人物が小さいファンタジーはよくあります。不思議の国の妖精さんがいて、それが何となく日常とコンタクトを持つ。そうした世界は戦前の洋館であったりで、雰囲気があったり。それはそれでいいんですけど・・・・
でも今回は普通の集合住宅に何でか知らないけど小人の末裔が住んでいる話にすると、そのずれ感がすごくいいんじゃないかという話になりました。
そこで現代の普通の住宅の一室で、限られた空間の中で、どんな話があり得るかと考えたんです。小さい女の子が小さな冒険をする、アクションものにする、「上ったり下りたり」とか、「見上げたときの巨大感」「部屋の中に猫がいるんじゃないか」「ハムスターを飼っているんじゃないか」「ロボット掃除機の逆襲!」とか。でも、結局あれもこれもは入らなくなって、削り落とした最後に「手頃なサイズでゴキブリかな。ゴキブリ怖くない?」と。
「いや、ゴキブリに襲われるとか、ゴキブリと友達になるというよりも、女の子イコールゴキブリにすると面白くない?」というのがそこでパッと出てきました。
――そのアイディアの面白さは具体的にどういったものですか。
前田
ここでやっとディスコミュニケーションという本作のテーマなんです。「一番近くにずっと一緒にいる2人なんだけど、近くにいるほど溝がはっきりしてくる、絶対ジャンプできない何かがある」。
これをコミカルに表現するために、「彼は私のことをゴキブリにしか見えてないらしい」、「私の声は彼に届かない」、しかも最後までこのずれが解消しない話が導き出されました。
前田真宏監督
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