戦略や地政学の視点から国際政治や社会の動きを分析中
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ISISを馬鹿にするイタリア人

今日の横浜北部は雨上がりの朝でしたが、天気はぐずついたままです。やはり朝晩はまだ寒いですね。

さて、先週の生放送(http://live.nicovideo.jp/gate/lv211610422)でも触れたトピックですが、NYタイムズのコラムニストで「レクスサスとオリーブの木」、また「フラット化する世界」などの著作でも有名なトーマス・フリードマンが、ISISに関する含蓄のある記事を書いておりましたのでその要約を。

大きくわけると内容が3つのトピックにわかれるため、一つのコラムとしてはややちぐはぐな印象を受けるかもしれませんが、それぞれがいいところを突いているかと。

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ローマへ向かうISIS
by トーマス・フリードマン

●イタリア人はうまいことやった。先週のことだが、ISISは残虐なビデオを発表した後に「われわれはアラーの許しを得たのでローマを征服することにした」と警告している。

●これに対してイタリア人たちは#We_Are_Coming_O_Romeというハッシュタグをつくり、このISISの警告に挑戦している。それを集めた記者によると、

●「ははは、高速の環状線には気をつけろよ。渋滞がひどくて抜け出せないぞ!」というものや、

●「ひとつだけ忠告してやるよ、列車で来るのはやめとけ。いつも遅延してるから!」

●「もう手遅れだよ。イタリアはすでに政府によって破壊されてるさ!」

●「いつでもおいでよ!コロッセウムの区画にいい土地が売出中だよ。クレジットカードも使えるし、超お買い得だよ!」というツィートがあったという。

●もちろんISISの残虐行為というのはジョークではないが、イタリア人によるISISを馬鹿にした行為というのはむしろ適切なものだ。

●われわれはISISとイスラム教との関係についての議論に苦悩している部分があるが、そのグループに引きつけられている多く人々についてのシンプルな真実を忘れている。

●それは逮捕されたツァルナエフ兄弟の叔父に当たる人物がCNNの番組の中で述べていた真実、つまり彼らは単なる「負け犬」だったのであり、自分より優れた人物たちを逆恨みし、その恨みをイデオロギーの衣に包んでごまかしていたという。

●「彼らの言う宗教的なこと、つまりイスラム教に関することはすべてウソですよ」とはその叔父の言葉だ。たしかにここにはかなりの真実が含まれる。

ISISは、おおまかに以下のような3つの勢力によって構成されている。そしてわれわれが再びイラクやシリアでの戦争にはまり込んでしまう前に、この3つについて理解しておく必要がある。

第一の勢力は、外国からの義勇兵である。その中の一部は本物の強固な聖戦主義者かもしれないが、その多くは単なる「負け犬」や、社会の不適合者、単なる冒険好きな人々、そして、権力や仕事、それに女性の手を握ったこともないような若者で、この3つを得るためにISISに参加したような人々だ。

●彼らの多くが真面目なイスラム教徒かどうかは疑わしいし、穏健的なイスラム教を教えたところで彼らが国でおとなしくできていたかどうかも怪しいと私は考えている。

●もしISISが負け始めて、彼らに仕事や権力、もしくはセックスを与えられなければ、このグループは縮小するだろう。

●ISISの背骨となっている第二の勢力は、スンニ派のバース党陸軍の士官たちや、ISISに消極的な支援をしているイラクの現地のスンニ派や部族たちである。

●イラクのスンニ派はイラクの全人口のたった3分の1しかいないのだが、それでもイラクを何世代にもわたって支配していたのであり、多数派のシーア派が支配しているという事実を受け入れることができない。

●また、ISISの支配下にある村のスンニ派の多くの人々は、今のほうが以前のシーア派主導のイラク政府から受けた残虐な仕打ちや差別よりもまだマシだと考えている。たとえば「イラク シーア派 民兵 パワードリル」でグーグルを検索すると、ISISがイラクで拷問を発明したわけではないことがよくわかる。

●アメリカは中東で同じ失敗を繰り返している。彼らは宗教のイデオロギーの影響力を過信し、統治の失敗のインパクトを過小評価しているのだ。

●アフガニスタンで長年働いた経験をもつ著者のこの本によれば、「あからさまな汚職と不正義ほど過激主義を促すものはない」ということであり、これはアメリカが親密な関係をもつ中東の同盟国たちにも当てはまるというのだ。

●ISISを構成する第三の勢力は、バグダディ率いる本物の教条主義者たちによって構成されている。彼らは独自のイスラム教観をもっているが、コンサルティング会社のマクロ・アドバイザリー・パートナーズ社の人物によれば、アラブ地域やパキスタンのように「宗教と政治がハイジャックされていなければ」問題はないはずだ。

●アラブ人というのはそのほとんどが過激主義者か反動主義者たちによって支配されており、「一般国民の不満に本当に向き合ってくれる」正統性のある政治が実施される見込みがなければ、穏健的なイスラム教を実施しようとしても成功する可能性は低いという。

●イスラム教には、どの宗派が正統的なものかを布告するバチカンのような存在がない。もちろん穏健的なイスラム教は存在しており、インドやインドネシア、そしてマレーシアのイスラム教のように妥当な政治的・社会的・経済的な背景の中で生き続けているものがあり、しかも社会の進化を邪魔しているわけでもない。

●さらには、より原理主義的で非多元主義的、反近代教育、反女性的なイスラム教が、部族化したアラブ世界やナイジェリア、そしてパキスタンから生まれてきているのだ。

●結果として、ISISというのはイスラム教の問題ではなく、その「根本的な原因」でもない。ISISというのは、アラブ世界やパキスタンにおける数十年間にわたる統治の失敗や、アラブのイスラム教の数百年間にわたる問題の蓄積による産物なのだ。

●それらは互いに問題を悪化させる要素であり、どちらか一方だけを根本的な原因であると指摘するのは完全な間違いだ。

●したがって、ISISを打倒して、同じような存在を登場させないようにするためには以下のようなことが必要になる。

●まず、リーダーシップを排除すること。パキスタンやサウジアラビアから出てくる大衆迎合的で過激なタイプのイスラム教をイスラム教徒自身に批判させてその信頼性を落とさせること。アラブ世界やパキスタンなどで頻発している不正、汚職、派閥主義、そして国家の失敗を排除すること

●そして、イラクのスンニ派に自治区を与え、クルド人がやっているように、原油生産からの富を与えるのだ。

●もちろんこれは不可能に思えるかもしれない。ところがこの問題は根深いものであり、しかもこれがアラブのイスラム教を穏健にして、居心地の悪い場所にいる若者たちを少なくするための唯一のやり方なのだ。

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最初のトピックは日本のネットユーザーたちが「クソコラグランプリ」で行ったような、ISISに対する反応をイタリア人が自虐的なジョークでやっているということですが、二番目と三番目のトピックはそれぞれISISの勢力分析と対処法になってますね。

最終的な結論としてはそもそも国の統治がなっていないという状況そのものに根本的な原因があると言っているわけですが、こうなると救いようがないというか、なんというか。

国際関係論では一般的に「アナーキーがデフォルト」だという認識ですが、地域によっては国家がほとんど存在せず、国内にさえ秩序がないアナーキーな場所があるわけですから困ったものです。

それに対処するために「世界を都会化せよ」と述べたのが、かのトマス・バーネットなんですが。

このような脅威から日本人が被害を受けないようにするにはどうすればいいかというと・・・国としてできるのは情報収集能力を高めることくらいでしょうか。

ところがこれも万能の解決策というわけじゃないのがジレンマです。





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by masa_the_man | 2015-03-07 14:00 | 日記 | Comments(0)
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