失敗率99%のミドリムシ事業を成功させた男の"シンプルな法則"

株式会社 ユーグレナ 出雲充氏:Edu×tech Fes 2015講演レポート

 3月1日、Life is Tech ! の主催で教育とテクノロジーの祭典「edu×tech Fes 2015」 が開催された。4番目のプレゼンターとして登壇したのは、2005年に創業し、その年の12月に世界初のミドリムシの食用屋外大量培養に成功した株式会社ユーグレナ 代表取締役の出雲充氏だ。「ミドリムシが地球を救う」で活動を続ける出雲氏が、自身の経験とその経験から今、若者に共有すべきことを語った。

[公開日]

[講演者] 出雲 充、 [取材・構成] 中岡 晃也、 [編] BizZine編集部

[タグ] タレントマネジメント 教育IT 人材教育

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出雲 充(いずも みつる)

株式会社ユーグレナ 代表取締役社長
2005年8月に株式会社ユーグレナを創業し、代表取締役社長に就任。同年12月に、世界でも初となる微細藻類ユーグレナ(和名:ミドリムシ)の食用屋外大量培養に成功。

10億人にミドリムシ5粒を届ける

 出雲氏の原体験は、自身が高校時代に訪れたバングラデシュにある。バングラデシュは、世界で最も人口密度が高く、半分近い人は一日の所得が1ドルで生活する最も貧しいと言われる国の一つだ。

 それまで食糧問題は「飢え」からくるものだと思っていた出雲氏。1998年の8月、NGOグラミンバンクのインターンシップとしてバングラデシュに訪れたとき、考えを改めることになる。

どの村に行っても、「ダール」という豆カレーがあって、10円あれば食べきれないぐらい出てくる。

 バングラデシュの人たちは炭水化物をたくさん摂ることができる環境にいた。確かに食糧問題はあるのだが「飢え」ているわけではなかった。

 本当の原因は、炭水化物以外の果物、野菜、肉や魚を摂ることが難しいことだった。世界全体で10億人にのぼるといわれる食糧問題を抱える人の多くは“飢え”ではなく“栄養失調”だったのだ

 出雲氏は日本に戻ってきて、栄養分豊富で食糧問題を解決しうる食べ物を探し始める。そして、大学3年生のとき、ミドリムシに出会う。

ミドリムシには植物のように光合成する力があって、しかも動物のように動き回るこの両方の力がある。人間が生活するために必要な栄養素を全てミドリムシが作ってくれる。これで栄養問題解決できる。感動しましたよ。

 培養に最大の課題をもつミドリムシだったが、なんとか、2005年12月、世界初のミドリムシの大量安価培養に成功。ユーグレナの躍進が始まる。

 ちなみに、ミドリムシの栄養素は、ミドリムシ1匹に対して、“たった1g(錠剤5粒)”で、梅干し10個、牛レバー50g、イワシ1匹、鰻の蒲焼1枚、浅利50gと同等となる。

毎日たくさんの食材を栄養失調で困る10億人にお届けすることは不可能です。地球にはそれだけのものを生産する場所がないのです。でも、科学技術の力で、ミドリムシの栄養素を10億人分お作りして届け、地球から栄養失調を根絶することができる。これが私の会社の仕事です。

ミドリムシで“空を飛ぶ”

 ユーグレナは食糧問題根絶の他にバイオ燃料開発にも取り組んでいる。産業革命以降、地球のCO2濃度は上昇し、急激な気候変動の原因となっている。そして、2000年代から、バイオ燃料の活用が始まった。しかし、出雲氏は疑問を抱く。

去年1年間で膨大な量のトウモロコシが作られました。そのうち、4億人分のとうもろこしが「ご飯」ではなく「ガソリン」として消費されました。アメリカの農家は非常に儲かりました。ただ、一方で、南米の普段とうもろこしを食べている大勢の人はとうもろこしの高騰によって困っているんです。

 とうもろこし以外にも菜種、ひまわり、大豆、パームなどいろいろなものからバイオ燃料はつくられるが、出雲氏は、それらで作られるバイオ燃料を「第一世代の“古い”バイオ燃料だ」と総括する。そして、第二世代のミドリムシからつくられるバイオ燃料の重要性を語る。

ミドリムシのバイオ燃料に切り替えないといけません。それはなぜか。今、地球で最も貴重な資源は“農地”だからです。農地でバイオ燃料をつくったらダメなんです。農地は食べ物をつくる場所なんです。ミドリムシであれば、砂漠でも海でも増産でき、搾ると油が出てくる。これが第一世代と第二世代のバイオ燃料の一番の違いです。農地を使うか、使わないかなんです。

 農地では食べ物、農地じゃないところでバイオ燃料、という考え方に世界全体がシフトしつつある中、ユーグレナは、最も難しいとされる“ジェット燃料”の開発を進める。

2020年東京オリンピック・パラリンピックの年までに、ぜひ、みなさんに国産のバイオジェット燃料で飛ぶ飛行機に乗っていただきたい。わたしは必ず実現できると思っています。

 食糧問題の根絶。エネルギー問題の解決。人類が抱えるこの二つの課題に「ミドリムシ」のみで解決を目指すユーグレナ。出雲氏は、「たくさんのことをミドリムシは教えてくれた」と回想した。

この世に意味のないものなんてない

株式会社ユーグレナ 代表取締役社長 出雲 充 氏株式会社ユーグレナ  代表取締役社長
出雲 充 氏

 株式会社ユーグレナの躍進は決して「順調」と言えるものではなかった。

 2005年12月16日に培養に成功。2006年から営業を開始した。もちろん採用実績はない。出雲は100社営業して、1社という算段で事業計画書をつくり、丸々2年間で500社に営業を行った。結果、5社現れるはずだった採用企業数は「0」だった。

 破産を目前にしたユーグレナ。そのとき、雑誌で読んだと訪ねてきたのが501社目の伊藤忠商事だった。「このときのことは一生忘れない」と出雲氏は言う。

 伊藤忠の採用後、パートナーは増え続ける。ジェット燃料の開発には、日立製作所、日航、日石、清水建設、全日本空輸、いすゞ自動車などが参画している。

みんなが力を合わせると非常に大きな力を発揮します。ユーグレナは2012年12月20日に東京証券取引所マザーズに上場しました。会社をつくって7年目です。会社の仲間は全部で38人。平均年齢は31.0歳。武器はミドリムシのみ。2年後の2014年12月3日には、日本の大学発バイオベンチャー企業で初めて東証一部に上場。9年前にスタートした会社は1000万円の会社でした。今、ユーグレナの企業価値をわかりますか? 1600億円です。

 出雲氏の覇気に会場は静まりかえっている。

 「この世にくだらないものなんてないんです」と出雲氏は続ける。

「ミドリムシがすごいから出雲くんやってくれ」って言った人は一人もいない。

みなさんもね、これおもしろいなぁ、興味が持てるなぁ、心がワクワクするなぁ、そういうものは本当に大事にしてください。周りのどんな人に前例がないからダメだと言われても、途中で投げ出さないで続けてください。ベンチャーと科学者とスポーツ選手は一番でなければいけないんです。二番は存在していないと同じなんです。競争している限り一番でなくてはいけないんです。

最後に、一番になるために必要なことをシェアして終わりにしたいと思います。

一番になるために必要なこと

株式会社ユーグレナ 代表取締役社長 出雲 充 氏

 この社会で成功するために必要なものとして、経済的な豊かさや幼少期の特別な教育、そもそもの才能の必要性やコネクションなどが挙げられるだろう。出雲氏は「そんなものは一番になれるかどうかと何の相関もない」と喝破する。

 出雲氏は一番になるためのシンプルな理論を語る。

例えば、「1回目の挑戦での成功確率が1パーセント」という状況があったとします。つまり99%は失敗する状況です。ではその状況であきらめずに2回挑戦した時の確率はどうなるか。2回とも失敗する確率は99%×99%=98.01%です。つまり、成功確率は約2%(1.99%)となり、1%成功確率が上がります。3回、4回、5回と続ければ4.9%。100回やれば63%。そして、459回やれば、最初と数字が逆になります。「一度やってうまくいく可能性が1%の出来事は459回繰り返せば、失敗する可能性が1%」になるんです。

 スライドには「99」という数字が燦々と輝いている。

世の中、繰り返し実験をする人、繰り返し努力する人、繰り返し営業する人がいかに少ないか。わたしは、みなさまがどういうテーマで心踊るか存じ上げませんが、それがどんなテーマであったとしても、459回繰り返した時点であなたが第一人者です。

 加えて、出雲氏は「続けられることと意志とは何も関係ない」という。意志ではなく、「そのテーマが本当に自分にとってワクワクするものか」どうか。 

 そして、「そのことで自分以外の誰かが本当に喜んでくれるかどうか」だという。出雲氏にとって、それはバングラデシュの栄養失調の子供達だったそうだ。そんなテーマであれば、失敗したとしても「もう一回、もう一回だけやってみよう」と何度も繰り返せるかもしれない、と出雲氏はいう。

 出雲氏は、本気で栄養失調が根絶した社会、ミドリムシ製ジェット燃料の飛行機に皆が乗る社会をつくろうとしている。そして、最後に私たちに言葉を送った。

みなさんが一番になれない理由は一つも存在しません。自分の心がワクワクするテーマとすでに出会った幸運な人は、459回以上努力を繰り返すことによって、ぜひ、その夢を実現させてください。

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