「南シナ海は日本の生命線ではない?」 軍事ライターの文谷数重氏が、「波乱起きれば却って中国の弱点に!! 中国海軍が制圧!海上交通途絶! 南シナ海は果たして日本の生命線か?」と題した興味深い論文を「軍事研究」3月号に寄稿している。その冒頭で文谷氏は次のように述べている。 「南シナ海での海上交通途絶は、国家存亡に関わる深刻な問題とする主張がある。湾岸からのエネルギー輸入や、スエズ運河を経由した日本と欧州との海上輸送ができなくなると致命的な影響が出るとするものだ。特に中国による南シナ海への勢力伸張と絡める形で言及されることが多い。 だが、海上輸送での影響は死活的ではない。南シナ海が不通となっても、日本は迂回で対応できる。その場合でも、輸送距離はそれほど伸びず、海上輸送コスト増加は無視できる範囲であり、航路上での問題はむしろ解決する。具体的には距離延長は一割程度、輸送コスト上昇は0.5%内外にとどまり、マラッカ海峡・シンガポール海峡での渋滞や海賊の問題は解決する。いずれにせよ、湾岸・欧州とのアクセスは確保される。致命的な問題とはならない。 (中略) 仮に南シナ海が使えなくなった場合、海上輸送でも一番困るのは、中国である。南シナ海は世界の海上輸送の半分が経由すると言われるが、その多くは中国を出入地としている。 特に香港、深セン、広州といった華南諸港は、迂回路はなく、南シナ海を経由しなければ、どこにも行けない。南シナ海での海上輸送は、日本にとっての弱点よりも、むしろ中国の弱点である。 日本はむしろこの弱点を利用できる。取るに足らない日本向け輸送への不安に駆られるべきではない。それよりも、中国に恨まれない程度に、積極的に中国の海上輸送についての不安を煽るべきである。それにより、日本は安全保障でのゲームにおける不利を返上し、優位に立ち回れるのである」。 その上で文谷氏は、迂回ルートを使っても輸送コストは大して上昇しないことを詳述している。即ち、マラッカ海峡を通らず、ロンボク海峡、サペ海峡、オンバイ海峡を通り、マッカサル海峡あるいはモルッカ海峡を抜けてフィリピンの東側を通って日本に向かうルート(またはその逆)でも輸送コスト上昇は無視できると指摘している。原油輸送の場合、南シナ海が使えなくなり、迂回して輸送距離が伸びても、輸送コストは5%が5.1%に上昇する程度であるとしている。 しかも、マラッカ・シンガポール海峡の通行量は天井に行き当たっている上に、海賊に襲われる危険性も高いから、迂回ルートを使えば、むしろ航路環境は改善すると述べている。 ゆえに、「南シナ海で海上交通が途絶しても、日本は海上輸送で死活的な問題には直面しない」と、結論付けている。 一方、中共にとっては、「南シナ海での海上輸送が弱点となる」と述べている。南シナ海が使えなくなると、「輸出志向の強い華南経済は窒息的影響を受ける」ためだ。 「実際に華南経済はコスト的にタダ同然のコンテナ輸送に依存している。そこで紛争等により南シナ海全域が使えなくなる事態が起きれば、その影響は大きい。 華南経済は中国三大経済圏の一つで、中国経済最大の成長エンジンである。実際、華南の珠江デルタ諸港、香港、深セン、広州でのコンテナ輸送実績は、華東の長江デルタにある上海、寧波、舟山港の合計よりも大きい。その華南経済の麻痺は、中国全体にとっての経済混乱となる。この点、南シナ海での海上輸送は中国の弱点である。 当然だが、海上輸送を陸上輸送で代替することはできない。 (中略) 中国鉄道輸送では、コンテナ船一隻分を追加するのが限界である。 (中略) 日量コンテナ八万個超をさばく華南の海運需要は処理できない。 (後略)」。 以上を踏まえた上で文谷氏は、「南シナ海での海上輸送は、日本はむしろ利用すべき要素である」と指摘し、次のように述べている。 「日本にとって、南シナ海はどうなろうと構わない航路である。日本にとっては、近道ではあるが、それ以上の価値はない。 日本は自身の航路利用に悩むよりも、より深刻な中国側の不安を煽るべきである。具体的には、海上輸送を邪魔できる態勢を示すだけでよい。それで中国は不安を掻き立てられ、太平洋方面に投入する資源を南シナ海で消費する。 副次的効果として、日本が警戒する中国による海上輸送妨害を思いとどまらせる効果もある。仮に中国が海上輸送を妨害すれば、日本も中国向け航路を妨害し、状況が泥沼化する。そう中国が考えるためだ。 日本は南シナ海で海軍力を誇示するだけでよい。継続的に艦隊戦力を送り込めば、中国は日本海軍力を意識せざるを得なくなる。中国は早期警戒網や対潜戦能力に欠ける。特に哨戒機や潜水艦を送り込めばよい。もし戦時となった場合には対処不能であることを想像し、勝手に不安を感じるだろう。 哨戒機や潜水艦を投入する名分は、大量破壊兵器拡散防止行動であるPSIや潜水艦救難訓練を装えばよい。実際に海自は海外活動を行う上で、これらを利用している。それを対中対峙に応用すれば、日本国内の政治問題は表面上、解決できる。華南の地先で日本哨戒機と共同した水上艦が商船を臨検し、救難とはいえ潜水艦行動を見せれば、中国は戦時の南シナ海での海上利用、特に海上輸送に不安を抱くのである。 既に中国は小国に翻弄されている。軍事力で一強の状況を作り出し内海化する勢いと言われていたが、14年の海底石油資源採掘では海軍小国のベトナムに翻弄された。中国はなまじ力を持ったため、国内事情から強硬策に出ざるを得ない。その結果、周辺国の反発を受けたため、南シナ海支配はむしろ危うくなっている。 そこで日本が哨戒機と潜水艦を見せつければ、中国優位はさらに不安定化する。中国にとって南シナ海は尖閣どころではない核心的利益である。尖閣や東シナ海、太平洋への中国の進出を遅らせる効果が見込める。 いずれにせよ、南シナ海の不安定化は日本の利益である」。 南シナ海に日本の海軍力を展開するのは大賛成だ。文谷氏の見解は、対中戦略を考える上で、一考に値すると思う。 |
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