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「死ぬよ」「すぐそばで」爆薬まで作ろうとしていた32歳・元横浜国大“ストーカー”の心理

産経新聞 3月7日(土)19時49分配信

 交際を断られた女性に「死ぬよ」などと繰り返しメールしたとして2月、介護士の男が、ストーカー規制法違反容疑で警視庁に逮捕された。男の家からは大量の爆竹と、瓶に入った火薬とみられる灰色の粉末が見つかった。男は1月には女性宅に侵入し、住居侵入容疑で現行犯逮捕されていたが、その時も粉末を用意しており「これで死のうと思った」と供述。幸い女性にけががないうちに逮捕に至ったが、一歩間違えれば大惨事となっていた。横浜国立大を卒業した男は、なぜ「自爆」まで思い詰めたか。

■正月に忍び込み、1日半待ち伏せ

 「家に男がいます」

 1月2日午後5時5分、都内のアパートに住む20代の女性から110番通報があった。警察官が駆けつけると、小谷周平容疑者(32)がそこにいた。小谷容疑者は金づちやドライバーを所持。住居侵入容疑で現行犯逮捕され、23日、同罪で起訴された。

 供述などから小谷容疑者は、前日となる元日午前1〜2時ごろ、女性の部屋の窓を破って侵入したが当時、女性は留守だった。女性が帰宅したのは2日午後4時50分ごろ。この間の行動は定かではないが、小谷容疑者は約40時間も待ち続けたことになる。

 家に着いた女性が異変に気付き、感じた恐怖は相当なものだっただろう。部屋の中で鉢合わせになり、女性は金づちを持った小谷容疑者ともみ合った。しばらくして部屋の外に逃げ出し、110番通報し助けを求めた。

 さらに警視庁によると、女性の部屋の外の廊下には灰色の粉末が入った薬瓶が置いてあった。

 「(女性が)帰ってくるのを待っていた。これで死のうと思った」

 調べにこう話した小谷容疑者。世田谷区の自宅を家宅捜索したところ、部屋からジャムの瓶に入った同じような粉末が見つかった。さらに未開封の爆竹7箱1400本も発見。同庁は粉末が火薬かどうか鑑定し、火薬類取締法違反容疑も視野に捜査している。

■無視に絶えかね「死ぬ」

 2人が出会ったのは大学時代。小谷容疑者の方が年上だが、同じ趣味を持つグループぐるみの付き合いがあったという。卒業してもグループの関係は続いており、複数人で会う機会もあった。小谷容疑者はこの間に女性への思いを募らせていったとみられる。

 意を決した小谷容疑者は昨年2月、女性に交際を申し込んだ。しかし結果は「ノー」。それでも友人として連絡を取り続け、月に数回メールを送っていた。2人での食事に誘うこともあった。

 女性はこのメールもやめてほしいと感じていたようだ。

 「これで最後です」

 毎月そういった返事をしていたという。が、翌日にはまたメールが来ることが繰り返された。11月にはメールの頻度も上がり、耐えかねた女性は同月25日、警視庁に相談。警察官はきっぱりと断るよう女性に伝えた。

 「もうメールはしないでください」

 女性は拒絶のメールを送った。しかし小谷容疑者は、それから12月31日までの間、17回にわたりメールを送り続けた。

 「可能性を残してもらえませんか」「話を聞いてもらえませんか」。女性から返信は来なかったが、気持ちは収まらない。

 「死ぬよ」「すぐそばで」−。

 高ぶる感情をぶつけたが、それでも返事はない。そして元日に女性宅に侵入したのだった。

 警視庁は小谷容疑者と面会し「今後一切連絡をとらない」という誓約書を書かせている。捜査関係者によると、「警察からの注意を受ければ多くの事案は解決する」という。しかし小谷容疑者は例外だった。2月10日、繰り返しメールを送ったとしてストーカー規制法違反容疑で再逮捕された。

 小谷容疑者は調べに対し「連絡がほしかった。自分のつらい思いを聞いてほしかった」などと話しているという。

■執着心強く諦めない

 小谷容疑者はなぜストーカー行為に走ったのか。

 ストーカー規制法違反では行為を、つきまとい▽監視▽要求▽粗野・乱暴な言動▽無言電話や連続メール▽汚物などの送付▽名誉侵害▽性的羞恥心の侵害−の8つに分類している。

 捜査幹部によると、小谷容疑者の同法違反容疑は、話を聞いてほしいなどとするメールを複数送ったとして「要求」と「連続メール」に該当した。

 脅し文句や束縛などはなく、「女性に支配的な態度をとるタイプというよりは、執着心が強いといえる。普通なら諦めるところを諦めず、行動に出てしまった」と捜査幹部は分析する。

 臨床心理士の長谷川博一氏は、「ストーカー行為者は、幼児期に愛着形成に失敗した可能性がある。相手の女性に対して『この人は受け止めてくれそうだ』という雰囲気を勝手に読み取り、女性の好意的な言動をどんどん真剣に受け止めてしまう」と分析する。

 さらに「執着心が高い性格であれば、女性に突然距離を取られると、絶望感に襲われてストーカー行為に走ってしまうこともある。女性にとっては、誰に対しても同じ態度だった可能性が高いのだが…」と語る。

 また、新潟青陵大大学院の碓井真史教授(社会心理学)はこう指摘する。「家族や仕事など他に大切な絆があれば、最後の一線は超えない。うまくかない恋愛も、友人に相談していれば心が落ち着く。深刻なストーカー犯罪者は、そういう他人に頼るチャンスがなかったのかもしれない」

 横国大を出て介護の仕事に就いていた小谷容疑者は周囲に相談する相手もなく、一線を越えてしまったのだろうか。

最終更新:3月7日(土)20時39分

産経新聞