8868億9800万元。日本円にすると、17兆円近い。日本の防衛予算のゆうに3倍を超える規模である。

 中国がきのう始まった全国人民代表大会で、ことしの国防予算案を報告した。昨年よりさらに巨額になったうえ、中身も相変わらず不透明なままだ。

 90年代以降、中国は毎年、国防費を10%前後、時にそれ以上の伸びで増やしてきた。周辺国が脅威に思うのは当然だ。

 英国・国際戦略研究所が先月発表した「ミリタリー・バランス」によれば、その国防費は昨年時点でアジアの38%を占め、突出している。

 これに対し中国政府は「人口1人当たりでは低水準」と釈明している。自らの身体の大きさをまるで自覚していない言いようであり、説得力はない。

 国民を守るために一定の国防力は必要だろう。しかし、すでに空母が就役し、核ミサイルを着々と増やし、宇宙空間での攻撃能力テストまで実施した。垣間見える中国軍の実態は明らかに防御目的を超えている。

 なかでも気にかかるのは南シナ海での強硬な動きである。スプラトリー(南沙)諸島で岩礁を埋め立て工事で拡張、滑走路を建設し、領有権を争うフィリピン、ベトナムの強い反発を招いている。

 この海域について中国に主張があるなら話し合いを重ねるべきであり、力任せに既成事実を先行させることは許されない。

 どの周辺海域であれ、安全な航行の確保のためには各国で安定を保つ協力関係を築くことこそが重要であり、緊張をもたらす行動は慎まねばならない。

 古い装備を新しいものに替えていくにはお金がかかる。兵士の待遇を改善する必要がある。中国政府は断片的にそんな言い方をしているようだが、それ以上の詳しい内訳の説明がない。

 しかも外国からの武器調達などが他の予算項目に紛れ込んでいるとみられている。このまま不透明さを放置するなら、責任ある大国としてふさわしい態度ではない。

 防衛費に限らず、中国政府はこれまで国の予算の中身を自国民に必ずしもきちんと説明してこなかった。最近ようやく、あしき伝統を脱し、一部の中央政府機関や地方で予算の公開が積極化し始めたところだ。もっと努力を広げ、国防予算でも公開を進めるべきである。

 そうした改善がなければ、日本を含む周辺国との信頼関係づくりに大きな支障となろう。世界を脅かすような無謀な軍事大国化の道を歩むべきではない。