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【中高生のための国民の憲法講座 第84講】
憲法89条と私学助成の合憲性 百地章先生
その結果、人事、予算等に直接のコントロール権は及ばなくても、これらの法律によって業務・会計報告を求めたり、予算の変更を勧告するといった程度の監督が行われていれば「公の支配」に当たると解されるようになりました。
◆緊急案件から改憲を
つまり、89条を厳格に解釈すれば私学助成は憲法違反の疑いがあります。そこで、先の集団的自衛権の限定容認と同様に、政府によって憲法解釈の大幅な変更がなされました。学説の多くもこれを支持し、私学助成を合憲としてきました。
ちなみに、憲法89条が「公の支配」に属しない教育事業への公金支出を禁止した理由についても、さまざまな解釈があります。その代表が「公費濫用(らんよう)防止説」です。つまり、財政民主主義の立場から、教育等の私的事業に対して公金を支出する場合には「公費の濫用」が生じないよう、国や自治体がそれらの事業をしっかり監督すべきだとする説です。
なぜなら、これらの事業については、慈善、教育、博愛といった「美名」のもとに公費が濫用される恐れが多いからです。判例の多くもこの「公費濫用防止説」を採用しています。
これまで憲法改正問題が浮上するたびに、真っ先に取り上げられたテーマの一つが89条でした。それゆえ、いずれ改正する必要はありますが、9条のように急を要するとは思われません。