記事詳細
【中高生のための国民の憲法講座】
第83講 長尾一紘先生 世界最古の君主制としての歴史
第2に、天皇は、世界唯一のエンペラーです。
江戸中期に来日した、ドイツ人医師のケンペルが書いた『日本誌』において、天皇は「聖職的皇帝」であると記述されています。
現在のヨーロッパにおいても、「天皇」の訳語として、それぞれの国の「皇帝」に当たる語が用いられています。たとえば、英語の「エンペラー」が用いられているのです。
19世紀には、ドイツのカイザー、ロシアのツァーリ、清の皇帝、トルコのスルタン、エチオピアの皇帝など、多くのエンペラーがいましたが、今ではすべて消滅してしまいました。天皇は、現在では世界唯一の「皇帝」です。
天皇制の歴史を知る
「天皇」という称号がとなえられるようになったのは、天武天皇の当時のことと思われます。それまで、天皇の父祖たちは、たんに「おおきみ」などとよばれていました。大和の大王が「天皇」と号するようになった理由として、東アジアをめぐる国際情勢の変化を挙げることができます。
当時の東アジアにおいて、「皇帝」の語は、秦漢帝国の後継者のみに許された称号でした。周辺国の君主は、「王」と称されていました。王たちは、中華帝国の皇帝に従属する臣下の立場にありました。「天皇」の号は、国際的には「皇帝」を意味します。東アジアには、このときから、2人の皇帝、2つの帝国が並存するようになったのです。