コラム:ドル130円は望み薄、2015年後半は円高へ=亀岡裕次氏
亀岡裕次 大和証券 チーフ為替アナリスト
[東京 25日] - 2015年前半は円安基調になると予想する。世界的に景気が回復傾向を示し、市場がリスクオン志向になると考えられるからだ。
2014年後半は、米国景気が市場予想を上回る好調ぶりを示す一方で、ユーロ圏、日本、中国などは逆に予想を下回る状況が続いた。そのため、供給過剰懸念のある原油を中心に商品相場が下落を続け、ドルは他通貨に対して全面高の状況が続いた。いわば、米国とドルの一人勝ちだ。
ただし、そうした状況は変わろうとしている。米国以外の国(地域)の経済指標も次第に改善しており、2015年前半には市場予想を上回る可能性が高まっている。原油安も過度に進行しなければ、非資源国の経済にプラスに働くはずである。
全世界的な景気回復への期待が高まることで、株高などリスクオンに傾きやすくなる。商品相場の下落に歯止めがかかり、資源・新興国通貨売りとドル買い圧力は後退するだろう。そして、低金利通貨の円は幅広い通貨に対して下落し、円全面安の相場になると予想される。
<ドル円の高値更新は2015年前半の可能性大>
円安がいつまで続くかの最大のポイントは、リスクオンの持続性にあるだろう。米国の経済成長率や潜在成長率が2008年のリーマンショック以前よりも低下している一方で、米国株(S&P500など)の予想株価収益率(PER)はすでに2007年のピークを超えている。
ただし、だからと言って米国株の上昇は続きにくいと考えるのは早計だろう。長期金利を考慮した株価水準(米国債利回り-米株式益回り)は、期待成長率が2007年当時よりも低下したことを鑑みても、当時ほどの割高感はないからだ。米国景気が回復基調にある限りは、同水準が2013年ピーク、もしくは2009年ピーク並みにまで上昇する余地は残されているだろう。
もっとも、「国債利回り-株式益回り」の上昇は、金利上昇や株価上昇によりもたらされる。金利上昇が大きければ株価上昇の余地は小さくなり、金利上昇が小さければ株価上昇の余地は大きくなる。これまでの原油安・ドル高を受けて米国の期待インフレ率は大幅に低下しており、米連邦準備理事会(FRB)はこうした状況が続く限りは低金利政策維持の姿勢を示している。多少なりとも期待インフレ率が上昇しても、すぐに利上げ期待が高まるような状況にはない。
米国金利はリスクオン効果で上昇する面はあっても、利上げ期待の高まりにより上昇する面は小さく、当面の金利上昇は限定的となりやすい。そして、低金利政策維持への期待が株高や円安を招く状況が続きやすいだろう。2015年前半、米金利上昇によるドル高効果は小さいだろうが、それでもリスクオンの円安効果によりドル円は今次局面の最高値を更新するものと予想する。
ちなみに、リスクオンの円安にならないとすれば、原油安が続いてエネルギー・セクターや産油国経済への不安が増大し、市場がリスクオフ志向になる場合だろう。だが、原油安を引き起こしてきた米シェールオイルの生産に暗雲が立ちこめている。
米国ではシェールガスの増産により天然ガス価格が下落したためにシェールオイルの増産にシフトしてきた経緯があるが、原油価格の下落を受けて採算が悪化し、10月にシェールオイルの新規掘削は鈍化し始めた。
稼動率が低下し始める可能性もある。米政府・議会がこうした状況で原油増産と原油安を促す効果のある「米原油輸出禁止措置の解禁」を行うとは考えにくい。米シェールオイルの増産が抑制されて供給過剰が解消するとの期待が生まれ、原油安に歯止めがかかる時期は遠くないだろう。原油安がさらに進行してリスクオフの株安や円高を招く可能性は小さいとみる。
<ドル円のピークは125円程度か>
ただし、「米10年国債利回り-S&P500株式益回り」が2013年ピークのマイナス3.4%から2009年ピークのマイナス2.9%まで上昇すると、米株価がピークアウトし、リスクオフの円高に転じると予想する。
米10年国債利回りは現在2.2%台だが、先行きの景況感改善や期待インフレ率上昇の可能性を鑑みると、今後は2.5%以上に上昇する可能性が高い。
米金利が2.5%で、S&P500株式の予想1株当たり利益(EPS)が5%増加するとすれば、S&P500は2250―2400まで上昇する可能性が高く、それらの金利と株価の水準に対応するドル円の水準は過去の回帰分析による推計から114―120円となる。
12月初めにはドル円の実績値が推計値から12円程度上方乖離(かいり)していたが、すでに乖離は10円に縮小している。乖離が次第に縮小していく可能性を加味すると、ドル円の上限は125円程度になるのではないか。
一部には、日米金融政策の相違を背景にドル高・円安が130円以上まで進むという見方もあるが、そうならない可能性が比較的高いだろう。
FRBが量的緩和を停止する一方で日銀が量的緩和を続けるので、相対的にドルよりも円の供給量が増えるという意味では、ドル高・円安になりやすい。だが、ドル円相場は常に通貨供給量比率に沿って動いているわけではない。2013年4月にかけて日銀の量的緩和を織り込んで円安が急伸した後に鈍化したように、2014年10月の追加緩和で急伸した円安が鈍化する可能性はある。
ドル円は2007年6月に124円台まで上昇したが、日米マネタリーベース比率は2015年末時点で2007年の水準を大きく下回る見込みだ。2002―03年のように相対的に円供給が増えても米国株安で円高が進むケースもあり、通貨供給だけで為替は決まらない。
<2015年後半は円高基調に転換へ>
日米購買力平価からは、ドル円の上限をどう考えるべきか。1985年のプラザ合意以降、ドル円は1973年を基準とする企業(生産者)物価ベースの日米購買力平価の近辺で円安から円高に反転するケースが多く、それを超えた2007年は経済協力開発機構(OECD)算出の(物価の直接比較による絶対)購買力平価の近辺で反転した。
ところが、今回はそのいずれをも超える円安が進行した。異次元の日銀量的・質的緩和が異例の円安を招いたと言える。そこで参考になるのが、強い米国を標榜したレーガノミクスの下での米国の高金利・ドル高だ。
1982年10月にかけて277円台までドル高・円安が進み、1973年基準生産者物価ベースの購買力平価からの上方乖離は変動相場制下で最大の30%弱に達した。今回、その乖離が30%に達する水準は129円である。
また、1973年基準の消費者物価ベースの購買力平価はそれとほぼ同等の128円である。円安によって日本の輸出競争力が向上し、相対的に輸入が減る効果がある限り、130円を超える可能性は低いだろう。
海外生産拡大で円安感応度が低下し、従前よりも実質的に円安にならないと日本の貿易や経済への効果が現れにくく、円高に反転しにくいが、今回の円安効果はすでに顕在化し始めている。
日本の貿易赤字は2014年1月にピークアウトし、10月には実質ベースでの収支改善が明確化した。日米の貿易収支比率を比較しても、4月以降は相対的に日本が改善、米国が悪化の方向へと転換している。
過去は、貿易収支の基調転換から1年前後、遅くとも1年半以内に為替が基調転換している。この点からすると2015年4―9月に円高方向に転換しやすいことになるが、これは利上げを視野に入れた米金利上昇がリスクオフの円高を招きやすい時期に重なる。
2015年の為替相場は、前半にドル円で125円程度まで円安が進んだ後、後半は円高基調に転換すると予想している。
*亀岡裕次氏は、大和証券の金融市場調査部部長・チーフ為替アナリスト。東京工業大学大学院修士課程修了後、大和証券に入社し、大和総研や大和証券キャピタル・マーケッツを経て、2012年4月より現職。
*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here)
*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。
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