世界初の印刷物は約2億円 国際稀覯本フェア開幕
極めて希少価値の高い古本のみを集めた展示即売会「国際稀覯(きこう)本フェア2015」が5日、東京都内で開幕し、世界最古の印刷物ともされる中国・唐(618~907年)代の詩人・柳宗元の作品「唐柳先生文集」が1億9440万円で出品された。08年から始まり今年で4回目を迎える同フェアで史上最高額とみられる。売り手側は、7日の最終日までに買い手が現れることを期待している。(北野 新太)
ガラスのショーケース内に鎮座した書物には、約1000年前に印刷されたとは思えないほどクッキリと美しい漢字が並ぶ。値札に明記されていたのは「一九四、四〇〇、〇〇〇円」という9ケタの数字だった。
約2億円という高額の書物を出品したのは古書店街として知られる神保町で1909年に創業した老舗で、主に中国関係の古典書を取り扱っている山本書店。政治家としても活動した詩人・柳宗元(773~819)によるさまざまな形式の文章を、宋(960~1279年)の時代に印刷した作品「唐柳先生文集」で当時、お経などを蛇腹式の紙に手書きで文字を書いたものは存在したが「唐―」は、現代の本と同じく片側を綴じ込んだスタイル。手書きではなく「版本」という印刷技術が施されており、世界初の印刷物とする説もある。
山本書店の山本實店長(70)は約2億円の値を付けた理由を「これだけ古いものがこれほどいい保存状態で残っていることは貴重です」と説明。入手先は「どこからか分かりませんが、父の代からウチの店で持っていたものです。今回、日本古書籍商協会が50周年ということで出品することにしました」と話し、最終日の7日までに購入希望者が現れることに期待を寄せた。
2008年にスタートした「国際稀覯本フェア」は国内外の古書店が自慢の掘り出し物を出品するイベント。4回目となった今回は41書店がブースを出している。「唐柳先生文集」以外にも、森鴎外の代表作「舞姫」の自筆草稿(4644万円)や夏目漱石が正岡子規に宛てた書簡(450万円)、16世紀に著されたシェークスピアの戯曲全集(1836万円)などのお宝が展示販売されている。
特に専門家が注目するのは、平安時代後期に編纂(へんさん)され、一部が国宝にも指定されている「二十巻本類聚歌合」の新たな草稿(6500万円)。「歌合」は平安貴族らが二手に分かれて和歌を詠み合って優劣を競うゲームで、これまでは謎に包まれた要素が多かったが、最近発見された本商品により研究が進む可能性がある。鶴見大学の久保木秀夫准教授(和歌文学)は「重要文化財級の価値がある。夢が広がる発見だ」と話している。