中国で全国人民代表大会(全人代、国会に相当)が開幕し、李克強首相は今年の実質経済成長率の目標を前年より0.5ポイント低い7%前後にすると表明した。
これは昨年の実績である7.4%よりも低い。景気の下振れ圧力は高まっているとみられ、現実的な目標を掲げたと評価できる。
2008年のリーマン・ショックのあと、共産党政権は強力な景気対策に踏み切った。結果として、投機的な不動産取引の拡大や金融システム不安の広がり、地方政府の債務の膨張、設備過剰、格差の拡大、環境汚染の悪化など、さまざまな副作用が生じた。
李首相が「短期的で強い景気刺激策はとらない」姿勢を保っているのは、過去の反省を踏まえるなら当然といえよう。雇用情勢はわりあい良好なので、やみくもな景気対策は賃金インフレを引き起こすおそれもあるとみられる。
ただ、緩やかな減速が景気の軟着陸につながるのか、いささか不安はある。成長率の低下は金融システムに潜むリスクと地方政府の債務問題を顕在化させ、景気の腰折れを招きかねない。
中央銀行にあたる人民銀行が今月はじめ政策金利を引き下げたのも、そんな心配からだろう。一方で、投機的な不動産取引が再燃すれば問題はかえって深刻になる。このジレンマに対する取り組みは万全とは言いがたい。
共産党政権の政策の重心をうかがう意味で注目したいのは、李首相が中長期的な成長のエンジンとして技術革新の重要性を繰り返し強調したことだ。不十分と批判されてきた知的財産の保護の強化を期待したいところだ。
今年の予算案では国防費に前年実績比10.1%増の8868億9800万元(約16兆8500億円)を計上した。5年連続の2ケタ増で規模は日本の3倍超だ。
日本はじめ周辺国は懸念を深めざるを得ない。国防費の細目の公開など、透明性を高め周辺国の不安を和らげる努力を、中国政府は強めるべきだ。
格差問題や環境問題、民族問題など中国社会の安定を揺るがしている深刻な課題への取り組みが具体策に乏しいことも、心配だ。
伝統的にイスラム教徒が多く暮らす新疆ウイグル自治区では流血事件が後を絶たない。共産党政権は力ずくで抑えつける姿勢に傾いているようにみえる。それで本当の安定につながるだろうか。