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被災地からのメッセージ

放射線の影響、知らなさすぎた
福島県郡山市 星総合病院理事長 星北斗さん【震災4年】 

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 「いったん県外で医療活動に就いてしまったら原発事故が終息しても帰って来にくくなる。地域の医療が回復しないと住民の帰還も難しい」(福島県医師会常任理事の星北斗・星総合病院理事長、2012年6月22日付「プロメテウスの罠 病院、奮戦す⑯ つなぎとめる手は」)

 福島県郡山市の市街地にあった星総合病院は、東日本大震災によって建物に大きな被害がでた。福島第一原発の事故に伴い、福島県を離れる医療関係者がいる中、つなぎとめる策の先頭にたっていた。今は、県民健康調査検討委員会の座長を務める。星さんは、今をどう考え、福島の未来についてどう考えているのか、メッセージをいただきました。

アピタル編集部

■福島県 郡山市
 星総合病院理事長
 星北斗さんからのメッセージ

イラスト:ALTタグ

ほし・ほくと

星総合病院理事長。東邦大学医学部客員教授。東邦大学医学部卒業後、旧厚生省入省。秋田県、労働省出向を経て健康政策局勤務。1998年退職。同年3月から星総合病院。2000年4月から04年3月まで日本医師会常任理事。05年5月から福島県医師会常任理事。

 あの悪夢のような震災から4年が過ぎようとしている。振り返る余裕はまだないが、少なくともあの時以来の、せめて自分の失敗についてだけでも、書きとめたいとの思いに衝き動かされている。

 震災後、復興のための会議や放射線被害や健康管理に関わる多くの議論や打合せに参加し、県民や将来のためにと真剣に憂い、出来るだけたくさんのことを見て感じたことを自分なりに考え発言したが、その多くは虚しく議事録に刻まれただけだった。

 単にマスコミや行政の批判はしたくはない。何故なら、全ては私のような立場の人の思慮と発言力の不足にあると考えて、これを何とかしようとする方向に導かなければ、同じことが繰り返されるからだ。

 一番に反省すべきことは、原発の近くで生活する医療者として放射線の健康への影響や防護対策などを知らな過ぎたことだ。私を含む多くの医師たちは、放射線教育を全く受けずに医学部に進学し、ここでも軽視される科目の一つとして素通りしただけだ。私自身は、厚生省で医療放射線管理に関わった機会もあって、少しは学び、理解したつもりであったが、県民の多くに理解や安心を届けることは出来なかった。放射線に対する正しい理解なくして今後の生活は成立しないはずだが、むしろ多くの県内在住者は、意識下に放射線という怪物を押し込んでいるに過ぎないのだと思う。

 最も有名な日本の地名がフクシマになったと言われたが、海外で出会う大半の人たちはフクシマを憶えていない。沖縄の基地問題と重ね合わせてはいけないかも知れないが、それが福島から見れば、いや他の多くの都道府県在住者にとっても対岸の火事であるように、一部の例外を除けば、フクシマは国内でも時たま取り上げあられるショッキングな報道以外は、過ぎ去ってしまったものなのかも知れない。

 同じことは、県内で生活する私たちにも言えることだ。双葉郡をはじめとして現に多くの人が避難生活を余儀なくされているが、そうでない私たちは日常を取り戻しつつあり、時折流れるニュースや関係者からの連絡で我にかえる。未だ決着のつかない多くの課題がそこに存在していることさえ忘れてしまいそうになる。このような意識の分断こそが、記憶と記録の継続、すなわち経験を次世代に繋ぐという大切な機能を絶やす要因である。

 想定外という言葉が乱れ飛び、日本中あるいは世界が祈りを捧げたあの災禍も、今となっては関係者を含む多くの人々の記憶から消えようとしている。

 政治的な発言も控えたい。しかし、例えば甲状腺検査などのこれからいつまで続くかわからない大きな課題を実際に影響を受け続けている少数の当事者だけに委ねるのはあまりに酷だ。だからと言って、福島の復興だけが国民的課題なわけでもない。ただ言いたいことは、今こそ素直に振り返り、すべき反省と謝罪を恐れずに整理した上で、これを出来るだけ多くの関係者の手によって、将来に伝え残すという大切な役割を果たすべきだ、と言う事だ。

 歳月が事実や反省を風化させることがない事を心から願っている。

(寄稿)

2011年3月、地震で建物が損壊した星総合病院。原発事故も抱え、病院では職員の安否確認の意味も含めて毎日全体ミーティングを開いた(星北斗さん提供)


2011年3月27日、相馬医師会の仮設診療所を訪問(星北斗さん提供)


星北斗さんに関する記事は、ここをクリックしてください。過去の記事の一部を読むことができます。
http://apital.asahi.com/article/shinsai/2015022600001.html





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