中国の習近平政権は三年目の正念場を迎えた。反腐敗の戦いは多くの国民の喝采を浴びているが、強権的な統治は国内外からの懸念も招いている。民心が真に安らぐような国づくりを進めてほしい。
中国の国会に当たる全国人民代表大会(全人代)が五日、開幕した。会場となった人民大会堂に近い北京の繁華街・王府井の書店に足を運ぶと、最高指導者である習氏についての専用コーナーが入り口正面につくられていた。
日本語や英語にも翻訳された「習近平 談治国理政(国政運営を語る)」などの本がズラリと並べられ、訪れた人たちが次々に手にしていた。
国家主席として三度目の全人代を迎え、習氏は建国の父・毛沢東や改革開放の総設計師・〓小平にも近いような、カリスマ的な指導者になった印象がある。
「トラもハエもたたく」と発動した反腐敗闘争が習氏の名声を高めたのは間違いない。党最高指導部の元政治局常務委員や聖域とされた軍の汚職にも切り込んだ。
だが、「一強多弱」のような指導部では、公正中立な腐敗摘発システムを築かなければ、反腐敗は権力闘争の手段になりかねない。
全人代の政府活動報告で李克強首相は習氏の新スローガン「四つの全面」を持ち上げ、「法による国家統治の全面的推進は新たな道についた」と述べた。
「法治」に異論はないが、最近の中国では共産党指導下の法治という面が色濃いのが気がかりだ。
言論統制が強まり、ネット規制も目立っている。習氏の権力掌握に伴い、民が息苦しさを感じる社会になりつつあるのではないか。
中国は二〇一五年の国内総生産(GDP)の成長目標を7%前後に引き下げた。投資依存の高度成長路線を質重視の経済構造に転換させるのは時宜にかなっている。
「中華民族の夢」を唱えて国威発揚を図ったことは習政権の基盤を固めるのに役立ったが、対外的に摩擦も生んだ。内政を重視し安定成長の中で民生の保障を着実に進めることが肝要であろう。
「四つの全面」には「小康社会(ややゆとりのある社会)の全面的完成への取り組み」もある。
昨年の中国富豪百人のうち全人代代表が十五人、国政助言機関の全国政治協商会議代表が二十一人を占めたとの報道もあった。格差や不平等を解消せねば、国民にとって真の「小康社会」が実現したとはいえないだろう。
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