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SIMI LAB×岡崎藝術座 今の日本で表現することのジレンマ
インタビュー:佐々木鋼平 テキスト:杉原環樹 撮影:豊島望(2015/03/05)
超個性派ヒップホップ集団と現代演劇の雄。ジャンルを越境した異例の対談が実現した。政治や社会情勢への態度を積極的に作品に反映させながら、わかりあえない他者との共生をテーマとした作品を発表、『岸田國士戯曲賞』ノミネートでも注目を集める岡崎藝術座の神里雄大(作家・演出家)。一方、衝撃的な2011年のアルバムデビュー以降、ヒップホップの枠を超えて日本の音楽シーンに大きな影響を与え、引き続き今後の動向が注目されるSIMI LAB唯一の女性MC・MARIA。
両者は神奈川県という東京周辺の地域を中心に活動を行なう以外にも、日本人でありながら、ルーツが日本ではない(神里はペルー共和国、MARIAは米軍基地出身。SIMI LAB他メンバーにもハーフやクオーターが多い)といった共通点があり、自身のアイデンティティーが表現のモチベーションになることも多かったようだ。
集団社会での同調を求められることが多い日本で、はからずもマイノリティーについて考えざるを得なくなった二人。神里が主宰する劇団・岡崎藝術座の新作『+51 アビアシオン, サンボルハ』は、わかりあえない他者との共生や、沖縄からペルーへの移民となった祖父母の足取りなど、まさに神里自身のアイデンティティーに迫る内容になっており、それはMARIAやSIMI LABのメンバーの境遇とも重なる部分もあるのかもしれない。
以前からSIMI LABをよく聴いていたという神里の要望から始まった今回の対談。当初お互いに面識がまったくなく、活動するフィールドも違っていたが、やはりどこか共鳴するものがあるのだろうか。初対面後、舞台の上で自然と始まった対談取材は非常にリラックスした雰囲気で行なわれた。
神里雄大(かみさと ゆうだい)
作家・演出家。1982年、ペルー共和国リマ市生まれ。神奈川県川崎市で育つ。2003年に岡崎藝術座を結成。日常と劇的な世界を自由自在に行き来し、俳優の存在を強調するような身体性を探求するアプローチが演劇シーンにおいて高く評価される。2006年『しっぽをつかまれた欲望』で『利賀演出家コンクール最優秀演出家賞』を最年少受賞。『ヘアカットさん』(2009年)、『(飲めない⼈のための)ブラックコーヒー』(2013年)が『岸⽥國士戯曲賞』候補にノミネート。また『亡命球児』(『新潮』2013年6月号)で、小説家としてもデビュー。
+51アビアシオン, サンボルハ on Strikingly
岡崎藝術座 | Okazaki Art Theatre web
MARIA(まりあ)
SIMI LABのメンバー。2011年のSIMI LABの1stアルバムを発表以降、OMSBやDyyPRIDEなど、メンバーのソロ作品への参加のみならず、DJ PMX『HIPHOP HOLIC』や、BLACK SMOKER RECORDS初のコンピレーションアルバム『LA NINA』、JUKEとHIPHOPのコラボ作品『160 or 80』や粗悪ビーツの作品など、様々な作品にもゲストMCとして招かれている。2013年、初となるソロアルバム『Detox』を発表した。
SIMI LAB - SUMMIT
神里さんが川崎育ちって聞いた時点で「地元が近い!」って、めちゃくちゃ親近感を持ってましたよ!(MARIA)
―先日、MARIAさんは岡崎藝術座の新作公演『+51 アビアシオン, サンボルハ』をご覧になられたそうですが、いかがでしたか?
MARIA:私、舞台って「アミノ式」のCMに出ていた「中国雑技王」しか観たことなかったんですよ(笑)。だから本当に新鮮な空気感で、すごく楽しかった。
神里:じつはMARIAさんが観に来てくれた横浜公演の初日は、お客さんを入れるのが初めてだったので、完成度が高いとは言えないものだったんですよ。だから今日の対談もよく来てくれたなって。
MARIA:いや、私は神里さんが川崎育ちって聞いた時点で「地元が近い!」って、めちゃくちゃ親近感を持ってましたよ! ただ、内容的には不思議な部分もあって……。「メキシコ演劇の父」という登場人物が出てきますよね、あれは実在の人?
神里:戦前の日本で演劇と左翼活動をしていた佐野碩(さの せき)という人をモデルにしています。僕の理解ですが、彼はブルジョワ階級出身にもかかわらず、労働者のためのプロレタリア演劇を作っていました。でも、その活動が理由で警察に捕まったのでロシアに行き、紆余曲折を経て、最終的にメキシコに渡り、そこで演劇を作って「メキシコ演劇の父」とまで呼ばれるようになったんです。
MARIA:警察が動くって、そんなに影響力のあるアーティストだったんですか?
神里:まだテレビもなく、映画も黎明期だったので、演劇には人を集める、いわば「集会」的な機能があったんです。上演中に警察が乗り込んできたという話や、事前に警察に提出した脚本が真っ黒に修正されて返ってきたという話もあるほどで。
MARIA:すごい時代……!
神里:佐野がやっていたような運動って、東日本大震災の後、ふたたび日本でも頻発するようになったデモに近いのかなと思ったんです。でも、その状況を見ながら、今演劇は全く機能していないんだとすごく感じました。だから去年はとくにモチベーションが下がっていて、今32歳なんですけど、いい歳して何をやっているんだろう? と考えてしまった。そのことを書いたのが今回の『+51 アビアシオン, サンボルハ』で。
MARIA:でもそこで佐野に着目したのはどうしてですか? 彼に近いものを感じたから?
神里:親近感とは違うかもしれません。彼は日本で労働者のための演劇をやってたんですけど、亡命先のメキシコでは、同じマイノリティーである日系人たちと交流を持つことができなかったんです。それは、もし日系人たちが日本政府とつながっていたら、いつ裏切られてもおかしくない状態だったから。
MARIA:そうなんだ……。
神里:でも日系人って、働き口を求めて日本の外に出ざるを得なかった人たちでもあって、ある意味、東京で佐野が代弁していた困窮する労働者たちと似た境遇の人々ですよね。そんな彼らと距離をとらざるを得ず、メキシコ人のインテリ層に向けて作品を作っていたのが、彼の悲しい矛盾だったと思う。だから反面教師というか、その生き方にヒントがあると感じて作品に取り入れたんです。