特集記事
現場主義で乃木坂46というプロジェクトを育てる
乃木坂46 運営委員会委員長
今野義雄インタビュー
3月18日に新シングル「命は美しい」を発売する乃木坂46。グループの持つ気品ある雰囲気と、それを幾重にも引き立てる独特のクリエイティブを統括するのが、乃木坂46運営委員会委員長の今野義雄だ。クリエイターを生かしメンバーを輝かせるために何を念頭に置くのか。その思想の源を探るべく話を聞いた。
●取材 編集部 ●文 香月孝史 ●写真 川瀬一絵[ゆかい]
─― 乃木坂46の中で、今野さんはどのような役割の人と考えればいいんでしょうか?
例えばAKB48のスタッフでいうと、向こうには劇場支配人がいらっしゃいますよね。それからマネジメントがあって、レコード会社の制作担当、宣伝マン……という形だと思うんですけど。乃木坂は、変な言い方しちゃうとそれをほとんど僕が統括している。これ、伝わり方に語弊が出てしまうと叩かれそうで、怖いのですが……。ただ、自分としてはレコード会社として非常にシンプルなことをやっているにすぎないというか。自分で新人を見つけて育成してA&Rをやって……レコード会社というのはもともとそういうものなんですよね。今は制作を外部に委ねたりしてるところも多いんですけど、本来レコード会社の制作マンがやることを僕は乃木坂46でやっている。それをAKBグループに置き換えてみるとおそらく、劇場支配人みたいなこともやっているし、マネジメントも、レコード会社の制作も、A&Rもやっているということだと思います。
─― 秋元 康さんとの関係は?
秋元先生がこういうものがやりたいんだ、ということを、だったらこういうスタッフィングでこうやれば作れるんじゃないか、と考えるのが主な僕の役割だと思っています。
─― グループと秋元さんとの距離感はAKB48とは違いますか?
AKBと違って、秋元先生が乃木坂のメンバーと共に時間を過ごすということがない。AKBの場合、秋元先生がメンバーと直接ご飯を食べて話し合いますよね。先生がいないぶん、おそらく先生はこの方向に向かってるはずだと考えながら僕が判断し、彼女たちと接していく。先生からは、「トンマナ(トーン&マナー)を整えるのはお前の仕事だ」とよく言われます。クリエイティブ面もメンバーのしつけも含め、これらを整えていくのが僕の役割なんだろうなと思いますね。
─― 秋元さんとの関わりの中で、乃木坂46はどのように始まったのでしょう?
秋元先生がAKBのシャドーキャビネットみたいなものを作りたいというプランがあり、ソニーでプレゼンして企画を成立させようという話があって、プロジェクトリーダーを任されました。秋元先生からは、「候補者を50人見せてほしい」と言われました。僕の役割は秋元先生に、「50人の精鋭」を連れてくることだった。それが38,934人のオーディションになっていった。先生には結果的に最終の一個前の四次審査、100人残ってる段階から見ていただいて、33人の合格者を出したのが乃木坂の一期生ということです。
─― 38,934人から100人に絞るまでは今野さんの仕事だったんですね。
先生に「よくぞこの人材を集めたな」って言わせないと僕の負けだった。そこはもう、結構命がけでやりました。一回スタッフがチェックして落とした子たちのプロフィールが入ったダンボールももう一回見直しもした。動画で合格した子たちをチェックする時も、一緒に映る落ちた子も当然目に入るわけですよね。「ちょっと待て、巻き戻して。右から三番目の子、もう一回見ようよ」みたいなことをくりかえしやって集めた100人でした。
─― 今野さんの中で、選ぶ基準もはっきり固まっていた?
もちろん。まず、プロっぽい子はダメだなと。あとは単純に、そのパーソナルな人間性に惚れるかどうかですよね。この子に何かあるぞ、と感じるかどうか。それとビジュアル的なことで言うと、洋服が絶対似合うなっていう子にこだわりましたね。
─― 洋服が似合う、というと?
洋服を綺麗に着られる子です。だから実は、骨格なんですよ。うちの子たちが全員ズラッと並んだ時にある程度統一した美しさが出るのは、全員脚が綺麗だからです。
─― いわゆる「アイドルらしさ」のような基準ではないんですね。
この子がアイドルだったらちょっとびっくりするっていうのが基準だったりするんですよね。橋本奈々未とかは今でもそういう空気感がある。なんでこの子がアイドルをやってるんだろうって。そこが面白さなんですよね。
─― そうしたメンバーの個性が、個人PVという企画で発揮されています。
個人PVはメンバーが持ってるものを引き出す集大成だと思ってます。これも秋元先生が最初に、全員それぞれ、ちゃんとしたクリエイターを探してプロモーションビデオを作れたらいいんじゃないのって言われて。これは相当難易度が高いんですよね。まず制作費が絶対にもたない。それだけの人数のクリエイターをそろえるのも大変ですし、制作時間も限られていて。でもその時に思ったのは、すごく大変だけど絶対これが財産になると。グループ全体の撮影ではなく、一人で一日撮られてたらそれだけその子は磨かれてきますから。僕らが一年かけて育てようと思う部分が、たった一日、その作品を作るってだけでグッと引き出されたりする。
あとは、新しい優秀なクリエイターに出会いたかった。それが叶ったのが、伊藤万理華の個人PV『ナイフ』を監督した柳沢 翔。できあがった作品見た時に「うわ、これすごいなあ」と。伊藤万理華もすごいなと思いましたけど、クリエイターもすごい。そこで「シャキイズム」のMV、そして「ガールズルール」のMVを撮ってもらうことになった。他にも、湯浅(弘章)さんや山田(篤宏)さんなど、いろいろ素晴らしい監督に出会っています。有名な監督もとても素敵な作品を作っていただきますけど、乃木坂が最初だったよねっていうクリエイターがいっぱいいるのはとても誇らしい。
本記事は『MdN』2015年4月号(vol.252)の特集「乃木坂46 歌と魂を視覚化する物語」からの転載です。
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