在日韓国人の知人もいる。
韓国の人に会ったことがない訳ではない。
だけれども、「韓国で、韓国の人に会う。」このことに緊張をしていたのは間違いなかった。
緊張をさせていたのは、テレビや雑誌などマスコミから受けた先入観に他ならない。
韓国の人は、僕と会い、僕が日本人であることが分かった時、「どんな顔をするんだろう?」「どんな気持ちになるんだろう?」「どんなことを話すだろう?」「いや、話してくれなくなったりするのではないか?」と思ったり、少しでも自分の気持ちが伝わるように「韓国語をやっておくべきだった。」「韓国のこともっと勉強してから来るべきだった。」そんなことを思いながら飛行機はどんどん韓国へ近づいていった。
その緊張は、一瞬にして破られることになった。
韓国の人は、みんな笑顔で迎えてくれ、食事に誘ってくれた。
「なにを食べたいか」尋ねてくれ、「それならあそこがいい、ここがいい」と考えてくれた。
テーブルにつけば、「韓国のお酒はこう飲むんだ!」と笑いながら教えてくれた。
日本人である僕に、こんなに好意を示してくれ、本当に嬉しく、楽しく、韓国に対する心配があっという間になくなり、これだけで韓国に来てよかったと思えた。
今回の韓国ツアーの行程は、「戦争と女性の人権博物館」「西大門刑務所歴史館」の博物館を見学すること。BFPのワークショップを実施すること。が大きな目的だった。
ここは、もう一つ緊張するところでもあった。
日本人である僕が、韓国の人に、第2次世界大戦の話題を持ち出すこと、そのことへの緊張は変わらず残っていた。
戦争と女性の人権博物館は、印象的な博物館だった。
第2次大戦中の日本軍の慰安所の見取り図、その時使用されたコンドーム、慰安所の設置の日本軍の資料、日本兵の日記など従軍慰安婦の事実を構成する資料の展示に加え、とくに印象的だったのが、従軍慰安婦の方々の証言のビデオ、今の思いを一言で書かれたメッセージ、従軍慰安婦の方を主人公とした戦時中のアニメなど、従軍慰安婦とされた方の当時や今の心境に触れたり、想像させる展示だった。
第2次大戦中の日本軍の慰安所や従軍慰安婦に関して、祖父から話を聞いたり、ある程度知識と関心を持っているつもりだった。展示をみて、知っているとはいえなかったと強く感じた。慰安所があった、そこに慰安婦がいたということは知っていても知っていたとはとても言い難かった。従軍慰安婦とされた方がどんな気持ちでいたか、今どんな気持ちでいるかに触れ、想像し、考えさせられたことで、無知な自分に気づきとそのことを感じさせてくれたことに有難く思った。
一方で、この博物館を見学して、自分とその展示を通して、日本人が韓国人に嫌悪感を持たれる訳を感じざる得なかった。そんななかBFPのビデオを使ったワークショップの実施にさらに緊張を高めていくことになった。
BFPのワークショップは2回実施することが出来た。
1回は、昨年BFPが韓国の会議に参加させてもらったときにであった大学の先生が主催する会での実施。もう1回は、その先生のNGOで活動する学生や若手の社会人に対して。後者は、韓国滞在中、僕たちをいろいろと案内をしてくれたりする中で、一緒に食事をしていたときに、そのビデオをみたいといってくれたことがきっかけになって急遽実施することになったものだった。そのワークショップはとても印象的なものになった。
ワークショップは日本で開催するのと同じように、ビデオをみてもらい、そのあと自由に感想を共有し話をしていくこととした。ワークショップのイントロでは、僕が感じている緊張感や博物館を見学した感想などを話し、きっかけとした。
ビデオを見た各人の感想は、日本での開催した時のものとは大きく異なった。
・「日本の戦争の責任や賠償についてどう考えているのか」と個人的な意見を聞かれた。
・兵役を受けた。ビデオで「しかたなかった」と話す人が印象的だった。自分も兵役のときに「しかたなかった」ことがたくさんあった。
・加害体験の話ははじめて聞いた。とても印象的だった。
・韓国人は、日本に行ったことがないのに「嫌い」という人が70%を超える。もっと交流があったらいい。
そんな感想だった。
僕の緊張に対しては、「日本人に対して、嫌悪感をあらわにする人は年配の人にはいるが、やさしい人も多い。実際自分たちは嫌な印象を持っている人は多くないと思う。」と応えてくれた。
「戦争と言えば何戦争か」という僕の問いに「朝鮮戦争。休戦中だけど、今も戦争中。」という返答に、韓国の今の現状を改めて認識する機会となった。
ワークショップを実施して、また一つ大きく緊張がほぐれた。それは僕の緊張ももちろん、僕と韓国の人の緊張もほぐれたように感じた。
ワークショップが終わると「よし!」とみんなでサムギョプサルを食べに行き、韓国流のお酒の飲み方を教えてもらったり、平和についての話をしたりした。
日本から韓国へは2時間半。近かった。
行って、会って、話してみないと分からないことがたくさんあった。
いろいろなことを率直に話せる友達ができたということが何よりも今回の成果だった。
鈴木佑輔