自らの野心から命をつくり出した科学者ヴィクター・フランケンシュタイン。
しかしヴィクターに見捨てられ怪物は暴走します。
そこにはクローン技術など現代社会が直面するさまざまな問題が予見されているのです。
「100分de名著」「フランケンシュタイン」。
第3回はヴィクターの行動を通じて科学の功罪を問います。
(テーマ音楽)「100分de名著」司会の…さあ前回とうとう怪物は殺人を犯してしまって邪悪な怪物としてとうとう目覚めてしまったという所までご紹介したんですけど。
孤独が生んでしまったみたいな所。
しかも何か自分のせいじゃなくてみたいなのが何かちょっと感情移入してしまうというか。
先生はここに作者メアリ・シェリーの母親の影響というのをすごく見ていらっしゃるんですね。
母親のウルストンクラフトが「女性の虐待」という小説を書いてるんですね。
母親を亡くして継母に虐待されて誰からも愛されなかった女性が罪を犯すというそういう物語ですので。
社会から疎外された者が邪悪な存在となるストーリー。
それは「フランケンシュタイン」の怪物の物語と共通しているわけです。
しかし疎外された者が徹底的に拒絶されるという点で…さて前回は人間との絆を結ぶ事に失敗してしまった怪物が絶望の中で出会ったヴィクターの弟ウィリアムにも拒絶されて思わず殺してしまうという所までご紹介しました。
それからそのあとどうなったのかご覧頂きましょう。
召し使いのジャスティーヌは幼いウィリアムを殺したぬれぎぬを着せられ裁判での弁明もむなしく処刑されてしまいます。
犯人は怪物だと確信していたヴィクターにとっては耐え難い悲劇でした。
心を慰めるためにアルプスの大自然の中をさまようヴィクター。
そこへ大きな影が人間離れしたスピードで近づいてきました。
怪物が追ってきたのです。
これまでの不遇とヴィクターへの恨みを語りだした怪物はある提案をします。
願いをかなえてくれたら女の怪物と共に未開の地へ去り二度と姿を見せないと怪物は誓います。
報復を恐れたヴィクターはしぶしぶ承諾。
離れ小島にある隠れ家で女の怪物をつくり始めます。
ついに完成しようかという夜。
窓の外を見ると怪物がいました。
ぞっとしたヴィクターは衝動的に完成間近の女の怪物を壊してしまいました。
絶望した怪物はヴィクターに復讐を誓うのです。
あの…今までの「フランケンシュタイン」の怪物って絶対ああいうトーンではしゃべらないじゃないですか。
でもああやって原作どおりにきちんと朗読するとまた違う怖さですね。
怪物の悲しみも深かったですけどそこから来る怒りというのは最後にはものすごいものになってますね。
やっぱりこれ女性の伴侶を殺されたという恨みが特別のものがそこにあったと思うんですね。
本を読んで男女というのはカップルになるものだとそういう予備知識もありますので怪物にとってはこれは一種の失恋体験でもあったわけですよね。
前回ご紹介したようにこの怪物はものすごい読書家なんですね。
その中の一つ読んだ本の中にこちらの「失楽園」という本がありました。
最初の人間アダムが神からイヴを与えられて共に楽園を追放されるという内容が描かれていると。
怪物はこの「失楽園」を読んで自分にもイヴがいてほしいしいやいるべきなのだとそういう気持ちになっていって。
科学者側からしてみると「壊した」という感じですけど怪物側からしてみれば「殺された」そのものですよね。
この差とか何かちょっとやっぱりすごいなと思うんですよね。
ヴィクターは怪物の立場に立ってはあくまでも見ていないという全然ものの見方が違うという所がありますね。
怪物にとっての創造主ヴィクター・フランケンシュタイン。
一体どんな人物なのかちょっとこちらに履歴書風のプロフィールをご用意いたしました。
お生まれはジュネーヴの名家お坊ちゃまなんです。
そして学歴も大したものでドイツインゴルシュタット大学。
学友クラヴァル君がいたり妹養女なんですけども後に妻となるエリザベスとすばらしい子供時代を送るという。
しかも名前がですねこれ「ヴィクター」というのは勝利者という意味。
分かりやすいですね。
この人はエリートなんですねやっぱり。
第1回の時もご紹介したと思うんですけどもヴィクター自身が……と自分で言ってるんです。
そういう申し分ない環境に育ったのに悲劇的な人生を送る事になると。
そうするとこれ怪物とは全然違うわけですね。
ヴィクターは「怪物のせいだ」と怪物のせいで自分の人生がめちゃくちゃになったと言ってますけども怪物をつくったのも彼自身なのですからいわば…そういう人物だと言えると思います。
ヴィクターは自らの性格をこう語っています。
さあこちらは主な登場人物3人の性格をまとめたものでございます。
エリザベスやクラヴァルとの比較の上でヴィクターの性格を浮かび上がらせているという所があると思うんですよね。
クラヴァルは想像力豊かでエリザベスは穏やかと。
それに対してヴィクターは非常に感情が激しいまあ時々なんですがそういう性格があって英雄的な行為というのにのぼせ上がりやすいとかそういった彼が持ってた…今の短い朗読を…1分ぐらいのVTRを見ただけでもそこにすごい盛り込んでるなと思うんですよね。
何か人とのコミュニケーションに必要な言語の事とかそういう事全然興味ないという。
これってこの人の後の不幸につながる性格の事を言ってるよねという。
上手ですね。
そうですね。
…という事をメアリ・シェリーは考えていたはずだと思うんですね。
こういう点が特に小説では重要だと思うんです。
細かい点というのがね。
ちょっとここで第1回以来登場しておりません第一の語り手ウォルトンを思い出して。
いた!冒険してる人だよね。
「旅先でこんな変わった人に会ってさ変わった話聞いたんだよお姉さん」という。
ヴィクターは初めて北極の海で会ったこのウォルトンに随分と詳しくいろんな自分の周りの事を話したもんですね。
ヴィクターにとってはこのウォルトンは全く赤の他人というふうには思えなかったんじゃないかと思うんですね。
というのも…そういう気持ちになって熱意を持って話したんじゃないかと思いますね。
さあこのヴィクターがウォルトンに伝えたかったメッセージとは一体何なんでしょうか。
こちらをご覧下さい。
20世紀になるまで人類未踏の地だった北極。
そこに最初に到達しようとしていたのがウォルトンです。
野望に駆られ深く考えずに行動するウォルトンはヴィクターと似ています。
ウォルトンはヴィクターに熱っぽく語りました。
ウォルトンの言葉にかつての自分を重ねたヴィクターは教訓になればという思いから自らの失敗談を語ったのです。
ところが船が危険な状態となり船員たちがウォルトンに北極行きを諦めるよう詰め寄るとヴィクターはげきを飛ばすのです。
う〜ん…何かこれは面白いな。
人間って変われるんだけど変わらない部分があるというか。
反省してるんだけどその本質的な部分に関してはやっぱり変わらないみたいな。
ヴィクターがウォルトンに語り始めた時には自分の生き方は大失敗だとそういうふうに言っていたはずなんですけどもまるで名誉を求める英雄的な生き方を肯定しててそれを自分だけではなくて相手にも押しつけようとしているようにそういうふうにも聞こえてくるんですよね。
これまでの教訓話というのは一体何だったのだろうかと矛盾しているような感じも私はしたんですけども。
人間ってそういう形で矛盾するという意味でリアルかなという気もしますね。
自己矛盾を含んでるというとこも人間くさいという事で人間がよく描かれてる。
さてここで改めて「フランケンシュタイン」のサブタイトルをご紹介したいと思うんですけども。
…というふうに副題を付けているんですね。
プロメテウスというのは…この「火を盗んだ」という所が重要だと思うんですけども。
ヴィクターが発見したこの生命発生の秘密というのが一体何なのかという事ははっきりは書かれてないんですけども何か電流と関連するらしいという事は暗示はされているんですね。
ですからこの「現代のプロメテウス」というのは科学者の原形とも捉える事ができるのではないかと思います。
は〜…。
神の領域のエネルギーに手を出すという事でとてつもない過ちにもつながるみたいな。
やっぱり科学者なんですよね。
その上無責任。
責任感が欠如しているという。
そういう意味ではやっぱり危険な科学者だと思いますね。
でもそれは科学者の方からすると多分俺このヴィクターをかばうような気がするもっと。
僕が不細工に生まれる不幸をすごく分かる。
不細工に生まれるとこういう感じになるんだよという。
心を閉ざしたり必要以上に怒ったり悲しんだりするんだという所を多分科学者サイドは科学者サイドで彼の愚かさも悲しみも分かるような気がして。
両側の側面から読まなければ単なる教訓物語にそれこそなってしまいますよね。
それがすごい感動すらするんだよなそれに。
ヴィクターの身勝手さを当の怪物が指摘する部分があるんですね。
それがこちらでございます。
まあとても大人な事を言うし多分…。
正しいです。
この創造主であるおまえが被造物のおれをつくったと。
訴えといいますかね相当な皮肉も含まれてると思うんですね。
この「どうしてそんなに命をもてあそぶことができるのだ?」というのは科学が発達した現代にも通じる問いかけを含んでいる言葉だと思いますね。
ほんとにそうですね。
クローンなんか一番分かりやすい。
何年前に書いてるんだって話だけど。
今書いてるのかという感じですもんね。
クローンは分かりやすいし。
ただこのヴィクターというのも全く良心がない科学者というわけではなくて自分の過ちに目覚めて反省の色を示すような箇所もあるんですね。
あるんだ。
ヴィクターが科学者としての責任に気付いたのは女の怪物の製作中でした。
こういうくだりもあるんだ。
ねえ。
今度は再び同じ過ちを犯すまいと踏みとどまるという点では科学者の良心が見られる箇所ともとれるんですがただそれはあくまでも一方的な見方であって先ほど伊集院さんがおっしゃったように…ですから命に携わる仕事によって俗に言う…怪物にとってはとてもつらい事になったけどほんとにじゃあストップしなかった時にさっきその朗読にあった予測してたような事も起こりうるわけですよね。
よく例に挙げられるのは過去に遡りますけども原子爆弾が開発された時もアメリカの科学者はとにかく一心に成功させたいという事で猛烈なスピードで頑張ったわけですよね。
成功して初めてこれはもう大変な恐ろしいものを造ってしまったと。
でも気がついた時には遅かったと。
そういう事って繰り返されてるわけですよね。
ですからその科学者の心理とモラルに迫った小説というふうにも言えると思いますね。
う〜んすごいな。
でねこの「フランケンシュタイン」をメアリが書いたのが19世紀の初頭なんですがこれ主人公が科学者であるという事がやっぱり新しかったんですね?やっぱり死体から人造人間をつくるという着想は確かに怪奇趣味的でゴシック小説にぴったりなんですけども…そういう意味でサイエンス・フィクションSFとして読む事も可能だと思います。
大体SFが確立したのはもっと後で19世紀の後半から20世紀の前半ぐらいなんですけども…「フランケンシュタイン」は…そういう事も指摘されていますね。
SFの草分けという所に合点がいくのはすごく荒唐無稽だったりする部分も絶対あるんですけど当時の知識から言えば「おいおい科学ってこれぐらいの事できんじゃねえか」って思うリアリティーとかも含めてとてもよく出来たSFだったろうなという。
だからこの電流で生命がよみがえるかもしれないというような事はちょっとリアリティーもあるというそういうふうにもとられたとは思いますね。
そして何かいろんな所にもしかしてあの漫画もこの映画もこの「フランケンシュタイン」から来てたかもというようなのが思い当たるのがたくさんありますね。
「鉄腕アトム」とかそうですからね。
亡くなった自分の子供を再生したくて天馬博士がロボットをつくるんだけど天馬博士は成長しないじゃないかという事に悩んで捨てちゃうんだよね。
あれ最初捨てるんですか?この怪物と非常に似てますね。
すごく似てるので。
そういう似た話というか「フランケンシュタイン」上の系譜にある作品ですね。
そうやって新しい生命を生み出すというそういう話もたくさん続々と出てきてると思うんですけども生まれる側が負わされるものはまさに怪物が味わった苦悩であるわけで怪物というのは生まれる側の立場を予言的に代弁しているとそういうふうに言えるかと思います。
さて次回はいよいよ最終回でございます。
最後どうなるのか楽しみです。
そこも気になる所。
そしてもう一つ怪物というのは一体何だったのかという所を改めてじっくりと考えてみたいと思います。
廣野先生今回もどうもありがとうございました。
2015/02/25(水) 12:25〜12:50
NHKEテレ1大阪
100分de名著 フランケンシュタイン 第3回「科学者の“罪”と“罰”」[解][字]
怪物の逆襲という手痛いしっぺがえしを受ける科学者ヴィクターの悲劇。そこから、人類に幸福をもたらすはずの科学が暴走し破滅の危機をもたらす危険性への警告を読み取る。
詳細情報
番組内容
偉大な功績を残したいという野心に突き動かされた主人公ヴィクターは、怪物の逆襲という手痛いしっぺがえしを受ける。そこには、本来人類に幸福をもたらすはずの科学が暴走し、やがて人類を破滅の危機へと導いていくという、現代人が直面している問題が象徴的に描かれている。第三回は、科学者ヴィクターの行動を見つめることで、「科学の功罪」を問うていく。
出演者
【ゲスト】京都大学教授…廣野由美子,【司会】伊集院光,武内陶子,【朗読】柳楽優弥,水島裕,【語り】好本惠
ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – カルチャー・伝統文化
ドキュメンタリー/教養 – 文学・文芸
趣味/教育 – 生涯教育・資格
映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
日本語
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日本語(解説)
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