言語道断の事態である。

 腹腔(ふくくう)鏡による肝臓手術で8人が相次ぎ死亡していた問題で、群馬大病院が全員の診療で「過失があった」とする調査報告書を公表した。

 驚かずにはいられない。

 要するに、腹腔鏡での肝臓切除では経験の乏しい医師が、十分な事前検査も検討もなしに、むやみに新しい手技に挑み、術中・術後にも不適切な処置があったというのである。

 報告書を読むと、医師の行動には患者を大事にする思いがまるで感じられない。「医師の適格性に問題がある」(病院長)として、すべての診療行為から外されたのは当然のことだ。

 だが、より大きな疑問は、最も組織的に高度な医療を提供するはずの大学病院で、こんなでたらめがなぜ許されてきたのか、ということである。

 群馬大病院は、報告書を受けて組織の見直しも併せて公表した。だが、従来の組織運営のどこに問題があったかは、必ずしも明確になっていない。

 他の大病院も参考にできるよう、詳細に公表すべきである。

 報告書によると、第2外科の40代医師は、死亡した8人を含め58人に保険適用外の腹腔鏡による肝臓切除を実施していた。

 本来、臨床試験として、安全性や倫理性を病院の審査委員会で慎重に検討したうえで実施すべきなのに、申請しなかった。

 本人や家族への説明も、手術に耐えられる状態かどうかの事前検査も、不十分だった。

 そんな状況を第2外科は放置・黙認していた。

 科内での症例検討会で医師の診療方針に異議は出なかった。病理解剖はされず、死亡後の検討もほとんどなかったようだ。

 最も重要な反省材料である死亡例の検証がこれほどおろそかになっていた事実は、組織全体の問題である。第2外科教授のみならず、病院全体の体質が背景にあるのではないか。

 この病院では05年に第1外科の生体肝移植で臓器提供者が下半身まひになる事故が起きた。技術が未熟な医師による執刀、二つの外科が同じような治療を別々にしていることによるマンパワーの分散など、今回と共通する要因が指摘された。

 当時の再発防止の決意は、どうなったのか。患者を守るはずの病院の取り組みは、なぜ十分に働かなかったのか。病院はさらに徹底解明すべきだ。

 高度な医療を提供する「特定機能病院」は、地域医療の中核も担う。これを機に、各地の大病院は、同様の問題が潜んでいないか点検してもらいたい。