クローズアップ現代「“埋没技術”を活用せよ〜市場創出への挑戦〜」 2015.03.02


ものづくりの革命ともいわれる3Dプリンター。
医療用の人工臓器から自動車の車体まで。
5年後の市場規模は世界で1兆円を超えるといわれています。
この夢の技術を世界中に広めたのはアメリカ人。
ですが皆さんこれを初めて開発したのは実は日本人だということを知っていましたか?スマートフォンやLEDなど私たちの暮らしそのものを変えてしまうような革新的な技術。
実は日本では世界に先駆けて技術を開発してもうまく事業化できないまま埋没しているケースが少なくありません。
取材を進めると開発した技術を事業化するまでの間にさまざまな問題が潜んでいることが分かりました。
埋もれた技術をどう生かすべきか。
埋没技術の新たな活用に動きだした現場の最前線に迫ります。
こんばんは。
「クローズアップ現代」です。
技術は日本企業の競争力の源泉といっても過言ではありません。
どの事業に経営資源を投入するのか経営環境が目まぐるしく変化する中で選択と集中を迫られてきた日本企業。
その過程でせっかく開発されながら利用されず、埋没する技術が少なくないのです。
研究開発という山を乗り越えたもののその先の事業化というもう一つの山を乗り越えられずいわゆる死の谷に陥るのです。
その場合背景には市場が不透明で思い切った投資ができない。
ほかの分野で利用できないか可能性が十分に探られない。
さらに他社に事業を取られないよう防衛目的で特許が取得され事業化がそもそも念頭に置かれていないなどさまざまです。
埋もれた技術の中にはその後、急成長をする商品のいわゆる鍵となる技術も含まれています。
例えば、こちらにあります電子書籍端末。
1980年代までは日本のメーカーが技術開発で世界をリードしていましたが2000年代にアメリカ企業が事業化に成功。
今や、ほとんどの端末にアメリカ企業のシステムが入っています。
3Dプリンターも日本で最初の技術開発がされましたが日の目を見ず、埋もれていました。
今、埋没している技術を中小企業が利用しやすくしたり新しい市場を開拓するために組織や分野を越えて利用するなど足元にある知的財産を積極的に掘り起こそうという動きが活発になっています。
革新的アイデアが詰まっている技術が埋没する実態と併せてご覧ください。
先月名古屋市内で開かれた講演会です。
メインゲストは青色発光ダイオードの開発でノーベル物理学賞を受賞した天野浩さん。
その横で、ひときわ注目を集めた男性がいました。
小玉秀男さん、65歳。
語ったのは35年前に3Dプリンターの技術を開発したものの日の目を見なかった失敗談でした。
小玉さんが3Dプリンターの技術を開発したのは30歳のとき。
当時は名古屋の工業研究所に勤める技術者でした。
小玉さんは、印刷技術と光を当てると固まる技術を組み合わせた装置を発明し家の立体模型を作成。
これが3Dプリンターの基礎技術の誕生でした。
そして1980年、特許を出願。
国内はもとより海外でも論文を発表しました。
ところが周囲の反応は冷ややかでした。
学会や展示会で技術の新しさを訴えても使いみちが見いだせないという声が多く事業化に関心を示す大手企業や投資家は現れませんでした。
失意の小玉さんは3Dプリンターの事業化を断念。
正式な特許の取得も諦め4年後に研究所を退職しました。
しかし、その後アメリカのメーカーがばく大な資金を投入し小玉さんの技術を応用した3Dプリンターを実用化。
瞬く間に市場は広がり世界を席けんしました。
その後、苦い経験を教訓に企業の特許取得をサポートする弁理士になった小玉さん。
日本企業の多くは技術開発は重視するもののどう事業化するかという戦略が乏しいためせっかくの技術を埋没させるリスクがあると指摘します。
事業化を阻み技術を埋没させる日本企業の壁とはなんなのか。
こちらですね。
川崎市にある大手電機メーカーの倉庫にも埋没技術が眠っています。
この会社が保有する特許の数は、およそ10万件。
権利を維持する費用は年間数十億円に上ります。
しかし、特許の半数近くが使われていないといいます。
こちらのキーボードには光を当てると雑菌やウイルスを分解するという世界初の新素材が使われています。
チタンアパタイトという光触媒で15年前に開発されました。
しかし事業化には新たな部門を立ち上げねばならず当時は、それに見合うだけの具体的な市場や収益が見込めないという判断でした。
埋没した技術をよみがえらせるにはどうしたらよいのか。
メーカーは最近、埋没技術を社外に公開することでさまざまな市場の可能性を探り始めました。
すると、予想以上の反応が返ってきました。
新素材、チタンアパタイトを使いたいという依頼が舞い込むようになったのです。
この日、訪ねた会社では8年前から銀行のATMなどのタッチパネルシートを製造しています。
抗菌市場の需要の高まりに合わせこのシートにチタンアパタイトの技術を導入したいと持ちかけられました。
そこでメーカーでは自社の技術を中小企業に提供。
その代わりに製品から得られた収益の一部をライセンス料として受け取ることになりました。
ようやく日の目を見ることになった革新的な技術。
埋没していた技術をよみがえらせる模索が続いています。
同じ企業の中でも技術の抱え込みが壁になることもあります。
大阪の大手電機メーカーでは今需要が急速に伸びる介護市場に最先端技術を集中して投入し始めています。
高齢者の動きをセンサーが感知しその人の筋力に応じて動作を繊細にアシストする自立支援型の介護ロボット。
実はこの中には社内の別の部門に埋没していた最先端の技術が生かされています。
それは、大型プラズマテレビの工場で働く人の作業の負担を軽減するために開発されたロボットアームの技術です。
2000年代、このメーカーはプラズマディスプレイの大型化を進めたものの海外メーカーに押され2年前に撤退。
プラズマ部門の撤退と同時にロボットアームの技術も使われなくなってしまったのです。
この技術をよみがえらせたのは去年、立ち上がったプロジェクトです。
その使命は、社内の垣根をなくし新しい事業を生み出すことです。
通常、各部門ごとに技術を開発し事業化を進めるためそれぞれの技術は、ほとんど共有されてきませんでした。
そのため、事業が撤退すると技術も埋没してしまう傾向がありました。
そこで、このプロジェクトでは部門を横断して連携。
技術と情報を共有し戦略を立てることで新たな市場を作るのがねらいです。
その結果眠っていたロボットアームの技術を生かした介護ロボットが完成。
この分野の市場は5年後には500億円に広がると見られています。
今夜は、知的財産がご専門で、企業の研究者として勤めてらっしゃった時代、ご自身も特許を取得した経験をお持ちの、東京大学政策ビジョン研究センター教授の渡部俊也さんをお迎えしています。
今、脚光を浴びてますこの3Dプリンター、実は最初に開発したのは日本人だった。
しかし、その事業化には誰も関心を持たなかった。
本当にもったいない。
もったいないと思いますね。
私も技術者だったですから、分かりますけど、これ、おもしろい作り方ができたと思って、使いみちを探したと思うんですけど、当時日本は、ものをともかく安く作る、高品質のものを同じように作りっていう、それにはちょっと合わないですよね、この3Dプリンターっていうのはね。
だけど一方で、アメリカでこれが注目されるようになったのは、これは結局、ものづくりのメーカーがものを作るんじゃなくて、ユーザーも作り、自分たちが作れるっていうんで、ものづくりの構造、作業構造を変える技術だというふうに見て、社会が変わるんだっていうことを、彼らは見いだした。
そういう見いだしたことに対して、いろんな人たちが着目をして、お金が集まってっていう、そういう流れが、この当時はやっぱりそういう発想はなかったっていうことだと思うんですね。
目利きなんでしょうけど、それをちゃんと先見性がなかったような気もするんですけれども、そういう例、埋没している技術の中で、ポテンシャルがある例っていうのは、ほかにもありますか?
すごくね、やっぱりそういうのがあって、私も自分が関わったもので、なんかやっぱり、うまくいかないなっていうのもありますし、それからこれは研究者と一緒に、埋没してる例っていうのを、いろんな企業に行って、調べたことがあるんですけど、いっぱい出てくるんですよね、うちもこういうのあります、ああいうのありますと、簡単な例でいうと、今、羽根なし扇風機っていうのが外国のメーカーでありますけど、あれもどうも、日本の一番最初に特許があったとかですね、それからぜんそくの吸入剤の技術、これもどうも日本の企業が最初にその技術をやった、そういうのは本当に枚挙にいとまがないっていうか、いろんな例が出てきますね。
日本の大企業で開発される技術が圧倒的に多い中で、しかし、大企業にとって見ると、事業化するかしないかの線というのは、ある程度の事業規模が確保できるかどうかになりますと、海のものか山のものかちょっと分からない事業化になりますと、多くのものが埋没していくその構造的な理由に、構造的な理由があるんじゃないかと思ってしまうんですけど。
例えば仮に100億の市場があって、必ずそれがもうかりますっていったら、これは当然もう、やってる事業ですから、新しい技術を事業化するっていうのは、リスクがありますから、最初はいきなり100億にならないかもしれない。
それをどうやって育てていくかっていう、そこがやっぱり重要なわけですよね。
今、例に出てきていた抗菌のケースなんていうのは、その技術はまだよく分からないけど、これもいろんな人に見てもらうと、中小企業が、このケースは中小企業だったですけれども、そうするとこう、新しい視点があって、こういうのにも使えるんだとか、こういう事業に使えるんだというのが分かってくるとか、あるいは同じ会社でもですね、別の部署で見ると、これはこっちに使えたという例が後半でありましたけど。
介護のほうですね。
組織の中でもそういう例があると。
やっぱりこれは組織の一部門で例えば10人しかいない部門で考えてたら、10人の会社とおんなじですから、大きな会社っていうのは、その組織を生かしていかないといけないわけだから、当然その横の連携っていうのは、やっていただかないと、うまく技術が生かせないっていうことになると思いますね。
どこになんの技術があるかって、大企業になればなるほど、必ずしも共有されてないですよね。
共有されていないんです。
だけど、それは言うほど簡単ではなくて、やっぱりやり方のポイントですとか、グループでディスカッション、いろんな人を集めてっていうこともやってましたけども、これもやっぱりやり方があって、うまくやることをまず勉強して、そこに取り組んでいくっていうことが、重要だと思いますね。
視点を変えれば、いろんなアイデアが出てくるわけですけれども、アメリカなどでは、大企業の技術っていうのは、どうやって育ててるんですか?
アメリカのケースですと、やっぱりリスクがあると、自分でまずこれを最初からやるっていうのは、難しいと考えると、よくスピンアウト、ベンチャーでやってもらうと、ライセンスするか、自分の…が外へ行って、ベンチャーを作るか、あるいはそこにも資本を入れて。
うまくいくと、今度買い戻したりしますね。
なるほど。
これ、実はですね、その元の会社の企業風土と違うところで技術が育ったりするので、元の会社が自分たちができないことができるというようなことを実践している会社、これは結構、欧米なんかには多いですね。
さあ、技術を持っているのは中小企業の中にもあります。
しかし、資金力が不足しているところが少なくありません。
今、支援しようと金融機関も新たな模索を始めています。
千葉市内にある銀行です。
この銀行では今年度から新たな融資制度を始めました。
不動産などの担保がないために融資を受けられない中小企業が多い中技術力の証しである知的財産に注目した制度です。
今、営業の山田崇さんが融資先として考えている会社があります。
こんにちは千葉銀行でございます。
山田さんが足しげく通っているのが社員17人のリサイクル工場です。
この会社では家庭やオフィスなどから廃棄されたケーブルを回収。
これらを細かく粉砕し銅だけを分別する画期的な技術を独自に開発し特許を取得しています。
経営者の中根昭さんは今自分が開発した技術を使ってアジア各国で新たな市場を作りたいと考えています。
ところが国ごとの特許を取るだけでも1000万円近くの資金がかかることが分かりその調達が壁となっていました。
このままではせっかくの技術が埋没してしまうかもしれない。
相談を受けた山田さんは新たな融資制度を持ちかけました。
今回の制度では調査会社に依頼し企業の技術力の証しである特許などの知的財産を客観的に評価。
企業の財務諸表には表れない知財や技術力を可視化してそれを判断材料に融資します。
評価の結果、中根さんの会社は高い技術力が証明され無担保での融資が決まりました。
海外市場を切り開く第一歩です。
技術力のある中小企業が世界に羽ばたいていける仕組みが回っていくといいですね。
本当に今の例にありましたけれども、やっぱり日本の企業って、技術力はあるんだと思うんですね。
今まで下請けでずっとやって来ましたから、それが外に逃げることがなかった。
もしかすると、自分たちもそれが強みを把握してなかったみたいなところもあって、だけどそこに注目すると、実はこういうところにも使えて、輸出もできるみたいなことが、だんだん分かってくるっていう事例が少しずつ出始めていると思いますし、一方で金融機関もですね、今までは金融の支援っていうのは、バランスシーと、キャッシュフロー見て、このままだと売り上げが下がっていくよということで、預金通帳だけの支援だったわけですけども、でもやっぱり、これ下請けではやっていけなくなりましたから、会社の数が少なくなってますから、これをなんとかしないといけないということを考えたときに、その技術に着目する。
これはいろんなことがまだ可能性があるし、それこそ第二の操業みたいなことにもつなげられる可能性があるということで、少しいろんな試みが出てきたということではないかなと思いますね。
融資先も先細りするということは、金融機関にとっても、痛手ですものね。
そういう中で、中小企業の中で本当になんでしょうか、大きくなっていくものが生まれてくると、日本の活力にもつながりますね。
やっぱり技術があって、これがこういう事業になるというようなことが分かったときに、やっぱお金が必要ですよね。
これ、大企業も同じなんですけど、お金があって、それを投資して、製造設備を作ったりということが必要です。
もともと発明と金融って、昔は一体だったと思うんですね。
この技術があるからお金貸してくれたと。
それはやっぱり、金融機関が実はそれを高度経済成長とかのときに、あまり見えなくなってた。
それがやっぱり、原点に戻って、技術や知財を評価して、そこにお金を回すということが大切だと思いますね。
埋没した技術、有力な技術がたくさんあるというふうに思いたいんですけれども、それ、どういう視点を持って、どういう視点を大切にしながら、生かしていけますか?
それはやっぱり、今まで技術を生かす、生かすって、技術だけ見てるとですね、やっぱりだめなんですよね。
それはやっぱり、どういう事業を作るか、事業の視点で見る。
あるいは3Dプリンターはアメリカにやったのはどういう社会を作るっていう、社会の変革の視点で見ていくと。
2015/03/02(月) 19:30〜19:56
NHK総合1・神戸
クローズアップ現代「“埋没技術”を活用せよ〜市場創出への挑戦〜」[字]

世界に先駆けて開発したにもかかわらず、事業化できないまま埋もれた「埋没技術」に悩む日本企業。背景にある問題を明らかにし、「埋没状態」を打開する方策を考える。

詳細情報
番組内容
【ゲスト】東京大学政策ビジョン研究センター教授・日本知財学会会長…渡部俊也,【キャスター】国谷裕子
出演者
【ゲスト】東京大学政策ビジョン研究センター教授・日本知財学会会長…渡部俊也,【キャスター】国谷裕子

ジャンル :
ニュース/報道 – 特集・ドキュメント
ドキュメンタリー/教養 – 社会・時事

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